伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

城塞内のガーゴイル

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「距離を取って散開しろ!」



 アルベールが叫ぶ。二体のガーゴイルはハルバードを小枝の様に振り回しながら突進してきている。二百の兵はこれにやられたのだろうか。魔術を扱えない兵士では、いくら優秀と言えども太刀打ちできないように思えた。



「うおおぉっ。」



 アルベールは横なぎの攻撃をすんでの所でかわす。先の一撃では五人の冒険者が斃れている。ガーゴイルの攻撃は喰らう訳には行かない。



「いってえぇぇー!」



 もう一体のガーゴイルの攻撃をかわして反撃に出た者がいた。ジルベルタだ。しかし彼女の攻撃方法は素手での格闘。ガーゴイルの動きに合わせてジルベルタがどれほど動けようとも、流石に岩をも砕くと言う訳には行かなかった。



「アルベール様、彼の石像はガーゴイル。剣戟や素手での攻撃が通用する相手ではありません。機を見て魔術による攻撃をした方が良ろしいかと。」



 後方でマリオンがアルベールに助言をする。魔法の道具の件と言い、マリオンは魔術は使えないがこうした知識については深い造詣を持っている様だった。



 後方に散った冒険者達が思い思いに弓を引き絞ったり魔術を放ったりする。しかし矢は弾かれ、呪文を使った魔術はそのことごとくがかき消されてしまった。呪文を唱えての魔術では一定の威力の魔術しか行使することが出来ない。これでは弱すぎるのだ。

 無詠唱でその威力を高める事は勿論できる。しかしベテランのBランク冒険者と言えども魔術を多用した戦闘を数多くこなしている訳では無い。簡単な魔術や生活で使う魔術は多用するが、こうした戦闘で使う力を込めた魔術となると使用頻度が高くない。

 なので例えばファイアボールで相手を焼き尽くす様な圧倒的な高火力をイメージできないのだ。



 言ってしまえばこの世界は、この王国は平和に過ぎた。しかしこの世界の外から敵がやってくるなどと一体誰に想像が出来ただろうか。



 冒険者達は今はただ、攻撃を喰らって平然としているガーゴイルにただ恐怖した。



「一体は私とジルベルタで足止めします。アルベール様はもう一体の方を。」



 そう言ってジェラールは駆け出す。伝搬した恐怖が渦を巻けばこの戦いは終わりだ。アルベール達はそんな事になりはしないが、周りの冒険者達の戦意は瓦解する。そうなればどうなるか分かったものでは無い。恐怖に委縮した体は想像以上に動かない。不意の一撃に逡巡する事があれば、次の瞬間物言わぬ骸になり果てているだろう。



 だからこそ、戦う者の姿を見せる必要があるとジェラールは思った。



 強き者に立ち向かい、不利であろうとも勝負を捨てず、決して諦めない。彼の想う理想の騎士の姿だ。そしてそれが騎士道だ。しかしそれは決して守らなければならない騎士の規範ではない。騎士道とは、騎士が体現する騎士そのものの姿なのだ。



「振り払われる武器の威力は確かに恐ろしい、しかし。」



 ガーゴイルのなぎ払いをギリギリ一杯の所でジェラールは避ける。そしてなぎ払いの後の隙をついて、彼はガーゴイルに肉薄したのだ。

 長柄の武器を振り払って使う場合、恐ろしいのは先端のトップスピードだ。重量に加速が乗り、凄まじい威力となって対象を襲う。



 しかしそれが難しい所であるのだが、何とかかわして肉薄すれば、長柄の武器の最大の長所である射程を殺すことが出来る。本来はそのまま持ち手を攻撃して武器を手放させたいのだが、流石にガーゴイルは痛みを感じないだろう。



 ジェラールはそのまま盾を押し付け自由にハルバードを振れないようにする。ジルベルタは後ろから足元を取って転ばせてやろうとしているのかチョロチョロと動き回っている。



「インパクト!」



 アルベールの使った衝撃の魔術は一瞬ガーゴイルをよろめかせたものの、さしたる効果は見られない。

 重いのだ、ガーゴイルは。

 ジェラール達があの様な状況になってしまった以上魔術による支援は出来ない。魔術を放てば間違いなくジェラールを巻き込むからだ。今はジェラールの言葉通り、一体のガーゴイルを確実に倒さなければならない。



 ジェラールがジルベルタと二人で肉薄し足止めに成功したことで、周囲の冒険達から恐怖はともかく動揺は消えた。一振りで五人を屠るガーゴイルへの恐怖は消えないが、それに正面から肉薄し相手取るジェラールの武勇に感嘆したのだ。



「ウインドカッター!」



 アルベールの体がある程度離れるたびにミリアムやセリエは魔術による攻撃を試みる。しかしある程度の力位ではやはりガーゴイルには効かないのだった。

 動く石像とは言えしかし、欠けるくらいはあってもいいはず。もしかするとこのガーゴイルには魔法に対する何らかの措置が取られている可能性もあった。



「うーん、硬いし速いし力はあるし、か。」



 ジョンはガーゴイルの周りを距離を取りつつまわっている。散発的に色々な魔術を放ってはいるが、そのどれもが当然ながらガーゴイルには効いていなかった。

 初めの内はこの魔術による攻撃を鬱陶しそうにしていたガーゴイルだったが、何発か貰って効かないと分かるや否や相手にもしなくなった。



 ガーゴイルは目下アルベールへと攻撃を集中させている。アルベールも距離が近すぎるためにサンダーボルトやライトニングボルトは使えない。サンダーボルトならば当たった瞬間の衝撃波等で少なくないダメージを与える事が出来そうだが、この距離では自爆戦法だ。とてもじゃないが行えない。

 そしてその事はアルベールのパーティメンバーは誰もが思っていた事だ。しかし距離を取ろうにもガーゴイルは素早い。とてもじゃないが安全に高火力の魔術が放てるような状況を作らせては貰えないだろう。



「インパクト!」



 アルベールは衝撃の魔術によって度々ガーゴイルをよろめかせる。そう、ガーゴイルにはこの衝撃が効くのだとアルベールも気付いてはいる。しかしこの衝撃の魔術、目には見えないのだ。なので力を込めるのが非常に難しい。先ほどから何回も試してはいるのだが中々上手く行かない。

 ぶっつけ本番でやろうと言うのが土台間違っているのだが、今はそんな事を言っていられる場合ではない。試せることは試さないと死んでしまうのだ。



「これがダメだったら掘りに落とそう。」



 ジョンが何かを思いつき、移動の魔術でセリエの隣へと現れた。口の端は持ち上がっている。勝算ありと踏んだのだろう。
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