伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

黒き者共はかく語りき

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「で、フルカス君は置いてきましたと。」



 暗い暗い何処かで男の声がする。黒い服に身を包む彼には、何と顔が無い。



「うん、狼少女は始末しそこなっちゃったけどね。でもこの世界での存在の定着にもう一つ可能性が出て来たのは目に見える成果じゃないかな?向こうの幻想をばら撒かなくても、この世界の人間が僕たちの存在を観測して認識すればいい訳だし。」



 同じく黒い服に身を包む男が答える。彼はアスワド。先だってジルベルタの殺害に失敗し、一泡吹かせられた男だが特段悔しさが顔に出ている訳では無い。



「まぁでも、人間ごときに僕らのスケールは計り知れない訳だし、あんまり期待は出来ないけどね。それどころか、下手に想像されてその存在が確定しちゃうと格段に弱くなっちゃう危険もある。実際、アスワドは件の狼少女の一撃を貰ってよろめいちゃった訳だし?」



 向こうの世界での彼らであれば、人間など歯牙にもかけない存在だった。それくらい強大であり、例え実在する幻想として昇華された存在とは言え、ライカンスロープ如きの攻撃でよろめくなどとは考えられない。そう、本来ならば。



「僕らは向こうの世界からやって来て日が浅い。それだけにまだその存在が確定していない。すこしは表立って動かなきゃならないけど、あんまり動きすぎるのも良くない気がするね。」



 向こうの世界の魔術によってその存在を幻想に堕とされた彼らは、その存在を、在り方を人間の想像力に一任する形になってしまった。夢の世界に逃れる事でその影響を小さくすることには成功したものの、少なからずその存在は改変されている。



「現実世界で行動すると、どうしたって人間の幻想に対する想像の影響は受けてしまう。とはいえ、動かなきゃ何時まで経っても存在が確定しない。難しいもんだねこれは。」



 諸手を上げてお道化た声を出すが、彼らは彼らなりに困窮してはいた。何せ自分達を幻想に堕とした魔術の影響は甚大だった。夢に世界では自由にその存在を書き換えられたが、現実世界に出ると途端に弱体化してしまうのだから。

 何せ人間の想像力は恐ろしかった。時代が下っていくと物語に閉じ込められた彼らを尚改変する者達が現れたのだから。



「それに僕らは窮極の門を勝手にこじ開けて使っちゃってる。今はまだばれてないけど、奴に気付かれたらまず間違いなく僕らに激おこのはずさ。」



 それはあらゆる時間、空間、世界に隣接する存在の持つ門だ。その門を勝手に使う事で、彼らは向こうの世界の幻想の存在を此方の世界に送り込んできた。しかし、門の持ち主に知られればそれもどうなる事やらだ。



「もう大概の幻想は向こうから連れ出してきたし、それはどうだっていいんだけどね。問題があるとしたら奴が改変の影響を受けていた場合、こちらの世界の人間の味方をしだす可能性があるってことだね。いやぁ、割かしピンチだねぇ僕等。」



 笑いながら顔の無い男は言う。



「とは言え、僕等だって止まる訳には行かないんだよね。本当の自分を確定させて、外なる神の使者としての使命を果たすのさ。幸い本当の意味で僕らの邪魔が出来る存在はいない。今の内にやりたい放題やっておかなきゃね。」



 フフンと鼻を鳴らし顔の無い男は言う。鼻が何処にあるのかは分からないが。

 彼らは向こうの世界で歪められた自分たちを本来の姿に戻したいのだ。しかし、それは同時にこの世界の人間達、いや全ての生きとし生ける者たちにとって不幸と同義なのである。

 何故なら彼らの使命は混沌。歪んだ邪悪を世界に振りまき外なる神を顕現させる事こそが彼らの使命なのだから。

 それは即ちこの世界の崩壊をも意味する。向こうの世界で外なる神が顕現した時、ある惑星が粉々に粉砕された。その名残が、火星と木星の間にある小惑星帯であると言う。

 星をも砕くその神が顕現すれば、それこそ人間など太刀打ち出来ようはずがない。アルベール等の住む星もまたその惑星と同じ最期を遂げるだろう。



「お次はニーグルムの番って訳ね。彼は確か風車の騎士を殺すんだったよね?面白く無いから。」



「そうそう。彼もさぁ、なんちゃって騎士のままでそこらをうろついて、精々笑える冒険譚を提供してくれれば良かったのにさ。何を間違えたのか立派な鎧兜付きで向こうに行っちゃって、それに妖精の魔術師?あれはまぁ滑稽で笑えるけど、正直もういいよね。」



 アスワドと顔の無い男はジェラールについて何をか話している。ジルベルタの例から鑑みるに、彼等も向こうの世界では違う存在だったというのだろうか。

 風車の騎士と言う彼らの呼び方からある程度の推察は出来るかもしれないが、確かな事は分からない。



「何にせよさぁ、もう賽は投げられちゃってるんだよね。僕らはもう失うものなんて無いし、精々勝手に暴れてやればいいのさ。味方がいない訳で無し、彼らと協力して世界を滅ぼそう。外なる神、アザトース様の顕現によってね。」



 顔の無い男たちはほくそ笑む。見るのが嫌なくらい上等な笑顔で。そして彼らは動くのだ。海底に潜み死肉を喰らう気味の悪い生き物の様に。そして振りまくのだ。世界に混沌を、恐怖を、混乱を。

 彼等には目的だけがある。過程は酷ければ酷い程良い。過程でどれだけ勝とうが負けようが、それは彼等にはどうでもいいのだ。グチャグチャの泥仕合になって、敵は勿論味方さえも疲弊しつくし、そしてその果てに外なる神が顕現すれば彼らの悲願は成就するのだから。



 顔の無い男。彼は這い寄る混沌。千の貌を持つ無貌の神。そして世界に邪悪な混沌を振りまくトリックスター。



 彼の名前はニャルラトテップ。
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