伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

新しき力をその胸に

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「あっははは。この魔術楽しいねぇー。」



 そう言ってヒュンヒュンと辺りを高速で移動しているのはミリアムだ。

 ここはアルベールの屋敷の中庭。暇を見つけてまた新たに魔術を教えてもらおうと三人で押しかけたのである。



「目で見える範囲なら移動できるから、慣れて詠唱なしで行使できるようになると格段に便利になるんだ。」



 今回教えた魔術の中には移動の魔術が含まれていた。これはスキップと呼ばれ、目的地までの間を文字通りスキップする。



「坊主、この魔術は空中にもいけるのか?」



 ジョンもこの魔術を気に入った様で、辺りを移動しまわっている。



「行く事は可能だ。しかし空中に行ってしまった場合は直ぐに次の場所に移動するかしないと、着地出来ないくらい高く上がってしまうと危険だ。」



 成程ねぇとジョンは試しに空中に移動する。この魔術では空中に移動すると到着した瞬間落下するので相当慣れが必要だが、ジョンは難なく次の場所を目視し移動を重ねる。



「おっ、いけるいける。この魔術、上手く使えばずっと空中にいられるぞ。面白ぇ。」



 ジェラールとマリオンは騎馬隊の創設などに関して王宮に出向いている。ジルベルタは何処へともなく散歩に行ってしまった。彼女は基本的に気ままだ。狼では無くて猫なのではなかろうか?



「移動の魔術もそうだけど、私はこの魔術が気に入ったわねぇ。」



 そう言ってセリエが行使しているのは爆発の呪文だ。

 この魔術は鉱床の試掘などを行う時に使う物だが、やはり危険なので扱いが難しい。

 しかしセリエはライトニングボルトにサンダーボルトも行使出来るようになっている。今回の爆発の呪文、エクスプロージョンも上手く使いこなせるだろうとアルベールは踏んだのだ。



 今セリエは小さな爆発を生み出している。しかしその規模を上げると途端に辺りを爆発の渦に巻き込む破壊の権化と化すのだ。この魔術は何より味方を巻き込まないように細心の注意を払う必要がある。



「気に入ったのは良いけどセリエ、味方ごと吹き飛ばすのは勘弁してくれよ?」



 アルベールもここ最近は仲間達に感化されたのか、それとも慣れただけなのか口調も砕けてきている。

 ミリアムとしても距離を縮めやすくなったと内心嬉しい思いで、他の仲間達からしてもそれは同じだった。気安いのが冒険者の良い所だ。



「私もエンゾから新しく習った魔術を早くものにしなければな。」



 そう言ってアルベールも魔術を行使する。魔術師が相手になる可能性が出て来た以上、今までの魔術では手に余る事もあるかも知れないとエンゾが授けてくれたのだ。



「とは言えこれは、なかなか難しいな。扱いもそうだが、使う局面が大分限られる魔術だ。」



 アルベールはそう言うと周囲に霧を発生させた。効果は分からないが、この霧が魔術によって生成されたのは明らかだ。

 アルベールは自分が想定した範囲に霧が出現したのを確認すると魔術を中断する。



「ジョン、ミリアム、剣での練習をしよう。魔術も大事だが近接戦闘も疎かにしてはいけないからな。」



「おう。」

「オッケー。」



 そう言って二人はアルベールの元に集まる。

 練習方法は二対一の方式で、アルベールに対してジョンとミリアムが打ちかかる。



 これはアルベールが提案したものだ。アルベールの剣技はチャンドス仕込みで確かに特筆するべきものがあるのは確かだが、これはどちらかと言えばジョンとミリアムのコンビネーションの練習の為だ。

 セリエは既に魔術を専門に扱っても良い位には攻撃魔術を覚えている。ジョンやミリアムもそれなりには使えるが、元々この二人は前衛と中衛だ。特にジョンは前に立つ機会が多くなる。



 先の魔術師戦の様にアルベールが魔術を行使してしまうと前衛が空いてしまう可能性がある。ジェラールがこのメンバーに入っているのは飽くまで屋敷が出来上がり騎馬隊創設の目途が立つまで。であるならばやはりジョンは前衛に立てなくてはならない。場合によってはミリアムもだ。



 互いに木製の武器を持って打ち合うものの、二対一でもアルベールが有利になった。



「お前さんは!本当にそつがねぇなぁ!」



「あんまり完璧すぎてももてないんだよアル!少しは欠点があった方が可愛いって!」



 そう言って二人は次々に打ちかかる。

 しかしアルベールは二人をいなしていく。

 チャンドス仕込みの剣技は確かに強いが、それだけが強みでは無かった。チャンドスも冒険者上がり。彼は剣技も教えたが、それ以上に盾でのいなしや蹴りでの牽制等もしっかりアルベールに教えていた。



 ジョンの打ち込みに対してアルベールは盾で以てそれを弾く。しかも一歩踏み込んだ状態で剣がトップスピードに乗る前に弾くのだ。そして背が低く射程の短いミリアムの短剣については、蹴りを放ってこれを牽制していた。

 ジョンを盾で弾けばミリアムは足と剣でいなされ。ジョンの剣がバックステップで避けられれば、ミリアムは距離を詰めてもどうしようもない状況に置かれるのだった。



「どうすれば相手が嫌がるかを考えて攻撃するんだ。相手の嫌がる事を進んでやるのがコツだ!」



 ここ数日この打ち合いの練習が続いていたが、結果はアルベールの勝利に終わっていた。二人の状態で押し切れなければ敗北と言って良い。



「ふいぃ~。全く坊主は、強ぇったらありゃしねぇ。だが、今日はちっとばっかり俺ちゃん達も頭使ってるんだぜぇ!」



「いっくよー!」



 アルベールは構え直す。できればその前口上も無くした方が良いとアルベールは思ったが、まぁ練習なので問題は無いだろうと思った。



 ジョンは剣を振りかぶるのでは無く、盾を前に構えて突っ込んできた。

 今まで二人は同時にアルベールに打ちかかっていた。そしてその度に迎撃されてきたのだ。これは不味いと二人して先日ギルドで頭を抱えていたのだが、その場にいたヴォルフガングがふと漏らしてくれた。



「お前ら二人同時で打ちかかって駄目なら、せめて一人は踏ん張って小僧の動きを止めればいいだろうが。正面から勝ちたい気持ちは分かるが、先ずは勝たなきゃ話にもならんのだからな。」



 アルベールはジョンの盾を同じく盾で受けた。点で弾ける剣と違い、この突進は避け切れなければ盾でしっかりと受けなければならない。ジョンはアルベールより背が高く、重いからだ。

 そうして動きが止まった一瞬を狙ってミリアムが動く。彼女はアルベールの左側面を滑る様に移動してアルベールの後ろを取ろうとする。



 ジョンが盾を持つ手に力を入れて踏ん張っているのでアルベールは足を出すことが出来ない。とは言え剣でも同じ事。ミリアムはジョンの後ろからアルベールが剣を持っていない左側から回り込んだのだから。

 結局動きを封じられてしまったアルベールはそのままミリアムに後ろを取られて短剣を突きつけられる。



 アルベールの負け。ジョンとミリアムの勝ちだ。



「ふぅ、先日までの調子ならもう少し粘れると思ったのだが、遂に負けてしまったな。」



 負けても爽やかなアルベール。これは別に二人がかりだからとかそういう訳では無い。

 彼はチャンドスとの稽古で負け慣れているのだ。悔しく無い訳でないが、彼は悔しがるより先に次また同じ方法を採られた時にどうするかを考えるのだ。



「それにしても、こういうやり方でもしなきゃ一本も取れないってのは悔しいな。もっとこう、なぁ?」



 魔術を使えば、とジョンは思ったがすぐに気づいた。魔術がありだとアルベールは即座にライトニングボルトを打つだろう。



「いや、これは二人で勝つのが目標だった。だから勝った以上は二人の勝ちだよ、ジョン。」



 工夫を凝らす事。これはチャンドスにも常々言われてきた事だ。だからこそアルベールは何も言わずに二人を相手にしていた。何らかの方法で二人が彼に勝つまで。



「アルみたいな敵が出てこない事を祈るよ、ほんと。」



 ミリアムが零す。二人がこういった状況になるには状況がかなりひっ迫している時だと思ったからだ。

 それはアルベールが前衛にいない時。つまり魔術を継続的に行使しなければならなくなった時で、さらに敵に強力な前衛がいる時だ。



「まぁ、ここまでの状況になる事なんてそうそう無いさ。出来るようになっておく事が重要という事だ。」



 必要になるかどうかはともかく、出来て損は無いのだ。



「まぁ、今なら私も十分戦力として活躍できると思うし?そうそうそんなひっ迫した状況にはならないと思うわよ?」



 セリエが近づいてきて言う。確かに更に魔術を行使できるようになったセリエがいれば、そんな状況は生まれにくいと言って良かった。



「さぁて、そんじゃぁ一休みしてギルドに行きますかねぇ。」



 屋敷でもいいが、和気あいあいと駄弁るならやっぱり冒険者ギルドだった。

 屋敷に誰もいないとなれば、ジルベルタも追っ付けギルドに来るだろう。ジェラールやマリオンもそうだ。あそこは冒険者のたまり場なのだから。



 そうして、彼らは歩き出した。
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