伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

文字の大きさ
上 下
29 / 57
異変は急に

混沌を愛する者

しおりを挟む
「シルヴェストル君はあえなくやられちゃったか~。」



 何処か暗い場所、いや真っ暗な場所で男の声がする。



「彼があのまま行動してくれれば、この世界にアンデッドの概念が生まれてくれたのになぁ。残念。」



 軽い口調で男が言う。口調は軽いが話している内容は聞き捨てならないものだ。



「しっかしあの王子様、邪魔だなぁ。シルヴェストル君の事もだけど、また行く先々で邪魔されたらたまったもんじゃないよ。アイテムも壊されちゃったし、良い事無しだね。」



 この男は、シリヴェストリに魔法の道具を与えたニーグルムと名乗った男なのだろうか。アンデッドの概念を生み出すとどうなるかというのも気になる所だが、彼は一体何が目的でそんな事をしているというのだろうか。



「まぁまぁ。まだ彼にやられたのはたまたま近くにいたマルティコラスと、この世界の魔術師だろう?痛手と言うほどでないし、アンデッド位だったらいくらでも広める方法はあるじゃないか。」



 男の近くにまた一人男が現れる。最初の男に似ているが、どことなく雰囲気が違う。



「そうだけどさぁ、面白くは無いじゃない?お膳立てしたのに丸ごと潰されちゃってさ。この世界の魔術って奴も中々どうして侮れないよね。」



 両手を上げて最初の男は言う。参ったような感じを出してはいるものの飽くまで調子は軽い。



「だから次は頼むよニーグルム。次は結構団体さんなんだろ?取り合えず人間共には一泡吹いて貰おうじゃないか。その上でゆっくり振りまいて行こうよ、混沌をさ。」



 にやりと笑って男は言う。出鼻を挫かれた感は否めないが、どうせ被害と呼べるほどのものでも無い。失敗しようが成功しようがどんどんやってしまえばいいのだ。



「どうせ次のステージにも彼らが出てくるんだから、精一杯頑張って貰おうじゃないの。彼らが頑張れば頑張るほど、後できつくなるんだしさ。」



 彼等には異界から化け物を呼べる門がある。何を呼ぶ気なのかは知らないが、その気になればどんな強大な化け物でも呼べるのだろう。そんな余裕がある。



「ニーグルム、次はアスワドも連れて行きなよ。王子様御一行は別にいいんだけどさぁ、狼少女と勘違いした風車の騎士は目障りだしさ。彼等にはご退場願おうよ。」



 最初の男はニーグルムににやりと笑ってそう言った。いやらしさを隠そうともしない。



「彼らはアウトかい?まぁ、確かに彼らは思った様にならなかったからもういらないけど。」



 穏やかではない。内容から推察すればそれはジルベルタとジェラールの事だろう。彼らも異界の門を通ってこちらに来ている。とすればこの男らの思惑によって連れて来られたという事なのだろうが、その思惑とは予定が違ってしまったのだろう。しかし、もういらないとは言葉が過ぎる。



「まぁ、最後に彼等とは少し遊んであげるとしようか。お次の舞台は少々大がかりだし、楽しくなりそうだねぇ、これは。」



「何にせよ、この世界はもう僕たちの遊び場だ。精一杯遊ばせてもらって、この世界に大いなる混乱と恐怖と、そして混沌を振りまこう。そうすればやがて、僕らの王がおいでになる。」



 この男達には王がいると言う。とすれば、彼らはその王の命令でこんなことをしているのだろうか。異界の門からの来訪者はまだ目に見えている部分の方が少ない。目に見えない部分では、相当数が入り込んでいるはずだ。そして彼らの口ぶりでは、その多くが人間のみならずこの世界に対して敵対する者だという事だろう。



「僕らはもうあの世界じゃ滑稽な幻想に成り下がってしまった。一杯食わされたって訳だ。でもこの世界じゃそうはいかない。色んな幻想を定着させて、今度こそ目的を達成させるんだ。まだ水面下だけど、それも今の内だけさ。大きいパーティが開かれれば世界が気づく、そして大騒ぎさ。」



 この男たちは楽しそうに、本当に楽しそうに話す。この世界に災厄をもたらす謀を、とても無邪気に話すのだ。だからこそ恐ろしい。抽象的な言葉だけを選んで話しているが、その内容は世界の不幸を望むものだ。それをまるで楽しいお祭りの準備の様に。



「じゃ、アスワドも誘わなきゃいけないし、僕はもう行くよ。次の舞台の用意もしなきゃだしね。今回は少し派手だし、人間がいくらか死ねばいい塩梅なんだけどなぁ。」



 そう言うとニーグルムの姿がフッと消える。それを見送って男はまたニヤニヤと笑う。



「楽しみだなぁ、本当に。」



 ふと零した男の笑顔は邪悪に歪んでいる。人の形のしてはいるものの、この男たちは人間では無いだろう。しかし、では何者なのかと問われても確たる答えを誰も持ち合わせていないのだ。

 男は言った、あの世界では滑稽な幻想に成り下がったと。何者かに一杯食わされたのだと。という事は、この邪悪な男たちは元の世界で何者かと戦った挙句に負けたという事なのだろうか。



 しかし何処で誰に負けたのかは最早考えても仕方のない事だ。彼らはここにいて、この世界に災厄を振りまこうとしている。そしてこの世界の人間の大多数がまだこの事に気が付いてすらいないのだ。

 うっすらとその影に気が付いているのはごく少数。今や渦中にあるリッシュモン王国、そこに住むほんの数人だけなのだから。



 アルベール達は、また大きなお祭りに巻き込まれる事となる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...