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異変は急に
新しき剣を持ちて
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「何と言う至福、この栄光の瞬間を私は生涯忘れない。」
ジェラールは涙ながらにそう語った。
報告も終わり皆が一息ついた頃、アルベールはフィリップにジェラールを引き合わせた。アルベールの屋敷でである。フィリップは身分を隠し、ジェラールに騎士とはどういうものなのかを聞いたのだ。
ジェラールは騎士について熱く語った。自分の世界にいた素晴らしい王と、彼に仕える素晴らしい騎士達の事を。そして、この世界に騎士がいないというのならば、自分が最初の騎士となり素晴らしい騎士達を育てたいとも。
騎士、つまりナイトである。これは「主従関係」を語源とした言葉だが、フィリップは騎兵に考えが及んだ。この場合の騎兵とは「キャバルリィ」を指し、馬を語源としている。どちらでも構わないだろうが、ジェラールが目指しているのはナイトなのだ。つまり、王との主従だ。
異界の者にいきなり臣下の礼を取られても少し戸惑う所だろうが、フィリップとしてはこれはまたとない好機に思えた。
エンゾから聞いた危機の可能性。これはいつどこで起こるか分からない上に、ともすると未曽有足り得る。となれば今までの歩兵戦力ではいざという時に間に合わない可能性が出てくる。
しかし、騎乗戦力ならばどうか。
最初は数も少ないだろうが、少しづつでも増やしていけばかなり頼りになる戦力になるだろう事は想像に難くない。人の何倍も速く走れる馬ならば、火急の時に一早く目的地まで行けるはずだ。そうすれば何かあったとしても、被害をかなり小さいものに出来るはずだと。
それにジェラール自身の武勇もフィリップには眩しく映った。
アルベールに聞いた話では、炎と冷気の魔術が互いにぶつかっている最中に飛び込んでいき、そのまま敵の魔術師を一太刀の元に仕留めたという。その勇気と冷静さに思わず感嘆の声を漏らしたほどだった。
そんな男を召し抱える事が出来るのだ。逃す手は無い。
また彼等騎士には騎士道なる規範があるとも聞いた。これも好材料だった。少しロマンに過ぎる面が無くは無かったものの、それでもジェラールを騎士に任じれば騎兵団を作る際にもキチンとした規律を持った集団になるということだ。飽くまで見込みだが、フィリップには旨味しかなかった。
かくして、ジェラールはフィリップ国王陛下の元、晴れて騎士として叙勲される事となった。
そしてこれは前例でもある。育った騎兵の中で優秀な者がいれば、その者を騎士として叙勲するという事だ。騎士が増えれば、やがてジェラールの望み通りに騎士団を創設することも出来るかもしれない。
騎士は貴族とまではいかずとも、それなりには高待遇の位にする事をフィリップは予定していた。つまり王国の兵士達に新しい出世の道が用意されたという事にもなる。
ジェラールはフィリップから下賜された剣に馬、屋敷は新しい街に作られるとの事で今は無いが住む所を得た。勿論騎士の位も。
ただ、国王陛下直属となって禄も国から出るものの、今は騎兵になる人員の選出も、馬も数を揃えるのに時間がかかるという事で目下アルベールと行動を共にするようにお達しが出た。
フィリップにとっては少しもどかしい所もあるが、ジェラールにとっては仕える君主から遍歴の旅を続けその武勇を磨けと言われたようなもの。目を輝かせて了承したのであった。
その日の夕方、ジェラールはアルベール邸にてアルベールに感謝の言葉を捧げていた。そして語ったのである。
屋敷が出来るまでの間、ジェラールはアルベールの屋敷に滞在する運びとなった。最初はこれを辞したジェラールであったのだが、エンゾの予想する危機や今後しばらくアルベールと行動を共にするという点を加味し、護衛という名目でフィリップはこれを押し通した。
因みにジェラールがアルベール邸に滞在するので必然的にマリオンもそうなった。
「しかし、騎兵団の創設となると時間がかかりますね。暫くは殿下とご一緒出来そうです、私の武勇をとくとご覧ください。」
「私も殿下と共に参りますので、ジェラール共々宜しくお願い致します。」
国王陛下と主従を結んだからには、その王子であるアルベールを殿下と呼ぶのは何もおかしくは無い。しかしアルベールはすぐに呼び方を改めさせた。ジェラールはこれに対し不敬であるからと食い下がったが、屋敷の中ならいざ知らず外で殿下と呼ばれるとなると流石にことだった。
外では自分は一回の冒険者であるからと、冒険者の事を今一つ良く分かっていないであろう二人に良く説明しつつ納得してもらったのだ。
「まぁとにかく、心強い仲間が出来た。これからもよろしく頼む、ジェラール、マリオン。」
二人は笑顔で返事をする。
ジェラールはこの世界で初の騎士となった。ゆくゆくは騎兵を伴う騎兵隊隊長だ。若輩の自分には身に余る光栄と思いながらも、異界に来ての大きな出世で喜びに打ち震えていた。
彼は騎兵隊、或いは騎馬隊と言えばいいだろうか、の設立について特に疑念は無かった。しかし、この物語を覗く我々には少し疑念が残るだろう。
彼は最初に言った。我らの王はアーサーだと。その時代を生きた人間であったのなら、アーサー王が実在の人物であったとしても六世紀頃の人間という事になる。ならば、彼の装着していた全身鎧は?騎士の概念とは?
騎士という概念がブリテンに入って来たのは十一世紀以降なのだ。
そしてジルベルタ、彼女の存在も気にかかる。ライカンスロープ、獣人と言うのはまぁさておき彼女には謎しかない。ある程度出自を自ら述べていたジェラール達と違って、彼女は全く未知の者なのだから。
もっとも、アルベール達にとって頼もしい仲間である事に間違いは無いが。
ジェラールは涙ながらにそう語った。
報告も終わり皆が一息ついた頃、アルベールはフィリップにジェラールを引き合わせた。アルベールの屋敷でである。フィリップは身分を隠し、ジェラールに騎士とはどういうものなのかを聞いたのだ。
ジェラールは騎士について熱く語った。自分の世界にいた素晴らしい王と、彼に仕える素晴らしい騎士達の事を。そして、この世界に騎士がいないというのならば、自分が最初の騎士となり素晴らしい騎士達を育てたいとも。
騎士、つまりナイトである。これは「主従関係」を語源とした言葉だが、フィリップは騎兵に考えが及んだ。この場合の騎兵とは「キャバルリィ」を指し、馬を語源としている。どちらでも構わないだろうが、ジェラールが目指しているのはナイトなのだ。つまり、王との主従だ。
異界の者にいきなり臣下の礼を取られても少し戸惑う所だろうが、フィリップとしてはこれはまたとない好機に思えた。
エンゾから聞いた危機の可能性。これはいつどこで起こるか分からない上に、ともすると未曽有足り得る。となれば今までの歩兵戦力ではいざという時に間に合わない可能性が出てくる。
しかし、騎乗戦力ならばどうか。
最初は数も少ないだろうが、少しづつでも増やしていけばかなり頼りになる戦力になるだろう事は想像に難くない。人の何倍も速く走れる馬ならば、火急の時に一早く目的地まで行けるはずだ。そうすれば何かあったとしても、被害をかなり小さいものに出来るはずだと。
それにジェラール自身の武勇もフィリップには眩しく映った。
アルベールに聞いた話では、炎と冷気の魔術が互いにぶつかっている最中に飛び込んでいき、そのまま敵の魔術師を一太刀の元に仕留めたという。その勇気と冷静さに思わず感嘆の声を漏らしたほどだった。
そんな男を召し抱える事が出来るのだ。逃す手は無い。
また彼等騎士には騎士道なる規範があるとも聞いた。これも好材料だった。少しロマンに過ぎる面が無くは無かったものの、それでもジェラールを騎士に任じれば騎兵団を作る際にもキチンとした規律を持った集団になるということだ。飽くまで見込みだが、フィリップには旨味しかなかった。
かくして、ジェラールはフィリップ国王陛下の元、晴れて騎士として叙勲される事となった。
そしてこれは前例でもある。育った騎兵の中で優秀な者がいれば、その者を騎士として叙勲するという事だ。騎士が増えれば、やがてジェラールの望み通りに騎士団を創設することも出来るかもしれない。
騎士は貴族とまではいかずとも、それなりには高待遇の位にする事をフィリップは予定していた。つまり王国の兵士達に新しい出世の道が用意されたという事にもなる。
ジェラールはフィリップから下賜された剣に馬、屋敷は新しい街に作られるとの事で今は無いが住む所を得た。勿論騎士の位も。
ただ、国王陛下直属となって禄も国から出るものの、今は騎兵になる人員の選出も、馬も数を揃えるのに時間がかかるという事で目下アルベールと行動を共にするようにお達しが出た。
フィリップにとっては少しもどかしい所もあるが、ジェラールにとっては仕える君主から遍歴の旅を続けその武勇を磨けと言われたようなもの。目を輝かせて了承したのであった。
その日の夕方、ジェラールはアルベール邸にてアルベールに感謝の言葉を捧げていた。そして語ったのである。
屋敷が出来るまでの間、ジェラールはアルベールの屋敷に滞在する運びとなった。最初はこれを辞したジェラールであったのだが、エンゾの予想する危機や今後しばらくアルベールと行動を共にするという点を加味し、護衛という名目でフィリップはこれを押し通した。
因みにジェラールがアルベール邸に滞在するので必然的にマリオンもそうなった。
「しかし、騎兵団の創設となると時間がかかりますね。暫くは殿下とご一緒出来そうです、私の武勇をとくとご覧ください。」
「私も殿下と共に参りますので、ジェラール共々宜しくお願い致します。」
国王陛下と主従を結んだからには、その王子であるアルベールを殿下と呼ぶのは何もおかしくは無い。しかしアルベールはすぐに呼び方を改めさせた。ジェラールはこれに対し不敬であるからと食い下がったが、屋敷の中ならいざ知らず外で殿下と呼ばれるとなると流石にことだった。
外では自分は一回の冒険者であるからと、冒険者の事を今一つ良く分かっていないであろう二人に良く説明しつつ納得してもらったのだ。
「まぁとにかく、心強い仲間が出来た。これからもよろしく頼む、ジェラール、マリオン。」
二人は笑顔で返事をする。
ジェラールはこの世界で初の騎士となった。ゆくゆくは騎兵を伴う騎兵隊隊長だ。若輩の自分には身に余る光栄と思いながらも、異界に来ての大きな出世で喜びに打ち震えていた。
彼は騎兵隊、或いは騎馬隊と言えばいいだろうか、の設立について特に疑念は無かった。しかし、この物語を覗く我々には少し疑念が残るだろう。
彼は最初に言った。我らの王はアーサーだと。その時代を生きた人間であったのなら、アーサー王が実在の人物であったとしても六世紀頃の人間という事になる。ならば、彼の装着していた全身鎧は?騎士の概念とは?
騎士という概念がブリテンに入って来たのは十一世紀以降なのだ。
そしてジルベルタ、彼女の存在も気にかかる。ライカンスロープ、獣人と言うのはまぁさておき彼女には謎しかない。ある程度出自を自ら述べていたジェラール達と違って、彼女は全く未知の者なのだから。
もっとも、アルベール達にとって頼もしい仲間である事に間違いは無いが。
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