伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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異変は急に

戦い終わって

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「ジェラール殿、何という無茶を。」



 内側から押される感覚が無くなった瞬間にフロストストームの術を解除したアルベールは、そのまま周囲の仲間達と共にジェラールに駆け寄っていった。

 水浸しになり凍り付き、更に焼け付いたのだ。成程ヒートウェイブの熱を緩和するために凍り付いたのは分かる。しかしフロストストームもヒートウェイブも無傷で素通りできる訳では無いのだ。



「ヒーリング」



 皆が一斉に回復の魔術をかけた。即死は流石に無かったろうが、もしヒートウェイブで肺を焼かれていてれば事だ。そこまでは考えつかなかったとしても、鉄の鎧であの熱量の中に飛び込めば如何に凍っていたとしても危ない。



 ジェラールは悠々と立っていたが、それでも心配なのは当然だろう。



「すまない、無謀な策とも思ったのだがこれしか思いつかなかったのだ。」



 そう言ってジェラールは頭を下げる。状況を思えば一気呵成に攻める必要はあった。リッチとアルベールの魔術による耐久戦。均衡が取れて千日手になってしまった以上、何らかの形で横やりを入れる必要はあった。



「ジェラールの策は一見危険で無謀ではありましたが、確かにあの手段しか無かったように思えます。」



 マリオンが言う。じっくり考えれば何かしら他の手段も考えついたかもしれないが、状況が状況だったのは確かだ。そのままリッチを倒してしまうとは思わなかったが、そう思えば結果的には最善だったのかも知れない。



「しかし、膨大な熱と冷気が吹き荒ぶ魔術の中に突っ込んでいくとは、凄い勇気だ。」



 アルベールは感嘆の声を漏らす。兜に隠れてジェラールの顔は見えないが、マリオンは誇らしげだ。



「何事にも負けない武勇こそが騎士の誉れなのですよ、アルベール殿。それにマリオンの見ている前で不甲斐ない自分を見せる訳には行きませんから。」



 そう言ってジェラールは兜のヴァイザーを上げてにっこりと笑う。ジェラールの騎士としての誇りというものは相当なものであるのだなとアルベールは思った。



「ジェラールもどうやら大丈夫みたいだな。飛び込んでった時は肝が冷えたが、騎士ってのは凄いもんだ。とても俺には真似できねぇわ。ところでよ。」



 ジョンもジェラールを褒め称える。そしてちらりと向こうを見やった。



「どうする、あの死体の山。行方不明の村人も混じってるだろうけど、首が・・・」



 見やった先には先ほどまで動いていた死体の山があった。皆首を落とされて倒れこんでいる。殆どは野盗のものなのだが、中にはおそらく村人が混じっているだろう。仕方のない事であったのはここにいる全員が承知しているが、もし村人にこれを見せたら何と言うだろうか。

 生憎死体が動くなどという怪異には皆これまで遭遇したことが無かった。肉体と魂の融合が生命を取り成しているのだから、そのどちらかがかけた状態で生きていられる訳は無いのだ。無論死体が勝手に動く訳も無かった。これまでの常識では。



 アルベール達は知っている。動いているのを見たのだから。しかし村人は?動く死体など見たことも聞いた事も無いだろう。三十人からの死体が襲い掛かって来たので首を落としたんですと言って信じて貰える自信は無かった。



 何より、その様な怪物が生まれた事を知って恐慌状態にでもなられたら・・・。



 あの魔術師は魔物の類では無い。根元から断った以上、これ以上動く死体は生まれないはずだ。しかし噂が風となって駆け抜ける。いたずらに怯える人を増やすのも上策とは言えないだろう。



「仕方ない。死体は取り合えずここに穴を掘って入れて魔術で焼こう。可哀想だが運ぶ事も難しいし、ここに村人を連れて来てこの状態を見せるのもな・・・」



 結局死体は見せず、狂乱した魔術師に殺されて酷い状態だったのでそのまま埋葬したという事にした。大筋では間違っていないし、それが落としどころとしては妥当かとも思われた。



 魔術で穴を作り、フロストストームで再度凍らせて穴に運んでいく。そして火柱の魔術を使い一気に燃やしてしまう。その中にはリッチの骨も含まれた。



「見事に割れてしまっているが、この首飾りはエンゾに渡そう。何かしら分かる事も有るかも知れない。」



 アルベールはリッチの首飾りを回収して言う。魔法の道具とはマリオンの言だが、それがどのように作用してどういった効果を発動するのかは分からない。なので分かりそうな者に調べて貰うのが一番だろうと思ったのだ。



「さて、後はあの魔術師のねぐらを押さえておこうか。」



 アルベールがそう言うと、ミリアムが嫌な顔をする。



「えぇ、行くの?魔術師は倒したんだしもういいんじゃ・・・」



 嫌な顔をするという事は、大体察しがついているという事でもある。魔術師のねぐらには当然研究中の魔術に関するものがあるはずだ。



「戦利品と言う訳にも行かないのが辛い所よね・・・」



 セリエもがっくりとして言う。これが通常の魔術師との戦闘という事であったならば、それもまた無い話では無かったかもしれない。しかし今回戦った魔術師は死を弄ぶ異形の者だ。禁忌を犯した者のねぐらに立ち入りたいとは思わないし、そんな狂人の残した研究資料を欲しいとも思わない。ひょんな事から事情を知らない何者かに回収されて、ましてや使われたりしないようにしたいのだ。



「奴のねぐらはここを真っ直ぐ抜けた山の中腹あたりだ。すぐに行ってすぐに帰ろう。」



 そう言ってアルベール達は歩き出した。そして魔術師のねぐらから諸々の研究資料と思しき物品を回収すると、そのままラハールの街を経由して王都へと戻った。







「こんなものが至高の魔術?はっ、笑わせる。」



 研究資料を王都に持ち帰って数日。資料を読み解いたエンゾは憤慨していた。



「不老不死などというテーマも陳腐だが、それ以上に陳腐なのはその方法だな。第一質量を魔力に変換した時点でそれは既に別の力だ。生命力を生み出すには魔力を再変換するか第一質量そのものを変換するしかない。」



「だが魔力の再変換では結局回復や癒しの魔術と変わらない。傷ついた体を治すならいざ知らず、恒久的に体を保持し続けるなら体の構成そのものを不滅にしなければならない。しかしそれは不可能だ。何故なら私たちは生まれた時から人間なんだからな。」



 研究資料には魔術の範囲で如何に人間の肉体を不滅に出来るか、その方法を探った様子が書かれていた。しかし先ほどエンゾが言った通り、魔力を使った魔術の行使では限界がある。不老不死は言わずもがな、若返りとてそれは難しい。



「不老不死になりたかったら妖精にでもなる研究をすればいいんだ。」



 妖精種はその肉体が精神世界と繋がっている為、実質不老不死とも言えた。倒されたゴブリンは即座に第一質量に還元されるが、また再生するのだから。同一個体かどうかはさておき。



「こんな物を欲しがる愚かな魔術師なんていないだろうが、一応宝物庫に封印しておくか。問題はこの首飾りだな。魔法というのが良く分からんが、まぁ魔術の一形態だろう。ともかく、この首飾りを作ったのはおそらく件の魔術師では無いな。資料が無いし、何より研究内容から逸脱しすぎている。」



 魔術ではなく、魔法。異界の技術なのだろうが、魔力の流れや彫り込まれている呪文から大体の予想はできた。

 それは言うならば力の保管庫だ。骸骨の魔術師は自分の魂を閉じ込めて自らの骸を操る為に使ったそうだが、本質はそこでは無かった。



「本来ならばこの首飾りは魔力を封じ込めて使う物だろうな。魔力を発する媒体として魂の保存までもが可能だっただけで。」



 この首飾りは本来ならば魔術などを封じ込めて使うものだとエンゾは結論づけた。この首飾りに例えば回復の魔術を、首飾りが保持し得る限界の魔力で封じ込める。そうすればこの首飾りを掛けた者は傷ついても自動的に回復の魔術がその身にかかり、傷をいやすことが出来るのだ。首飾りの中の魔術が尽きるまで。



 それを最も邪悪な使い方をしたのが今回の魔術師だったのだ。しかし、当人が使ったのはともかく作ったかどうかについては疑問が残った。



「しかし、辺境に引きこもって研究している魔術師に一体誰が?」



 そこまではエンゾには分からない。しかし他にこの首飾りを作った者がいたのは事実で、更に言えば魔術師に渡した人物がそれと同じかという問題もあった。



「問題なのはこれを渡したと思しき人物だな。積極的に使い方を間違えているとしか思えん。」



 この道具は本来ならば益のある道具のはずだ。死を冒涜する為にある筈は無いだろう。ならば魂を閉じ込めて骸の体を動かすために使わせた者は邪悪の権化だとエンゾは思った。そして、この様な魔法の道具がまた現れるのかも知れないとも。



 何れにしてもこれ以上は何も分からなかった。しかし暗躍する者の影をエンゾは垣間見た気がした。明らかにこの世界に敵意を振りまく、或いは混乱や恐怖を蔓延させようとする者の影を。

 それはフィリップから聞いた黒い男なのかも知れない、確証は無いがエンゾにはどうもそんな気がしてならないのだ。だとすれば、これからこういった事件が増えるのかも知れない。今回アルベールは危機を脱したが、他の者であればどうであったか。あの時点で止める事が叶わなかったらいずれこの国が大混乱に陥っていたかもしれないのだ。



「先ずはフィリップに報告だな、それとアルベールにも教えてやらなければ。」



 エンゾは部屋をでる。明らかな脅威を感じて。背中に感じる混沌の影、それはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている様でもあった。
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