上 下
106 / 124
第3章 魔大陸

106 勇者とブレスで壊せない物

しおりを挟む
「ギルド長、過去の勇者に何かされたのか?」

ギルド長は頭を下げたままだった。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

揉み手をしてないギルド長。

してないとなんだか不安だな⋯

「過去の勇者は傍若無人なやつが居てもおかしくないからな。俺はそんなことはしないと誓おう。」

揉み手なしギルド長はしばらく黙っていた。

俺も黙ってギルド長の言葉を待った。



「レイ様の前の勇者だと思います⋯」

ギルド長は過去の話を滔々と話してくれた。

「4年前のことです。当時の勇者パーティがこの街を訪れました。」

魔族絡みでこの国を調べるとのことで、強制捜査を開始したらしい。

その事で商業ギルドがかなり金を払うことになったらしい。

目をつけられたということだ。

捜査費用だったり、諸経費だったり、無理難題を押し付けられたりしてそうだ。

捜査の実態は酷いもので、まともに捜査しているかも怪しかったようだ。

平民に被害は出なかったようだが、王都にまで捜査の手は及んでいたようで、そちらの費用も揉み手ギルド長が商業ギルドから支払っていたようだ。



「ギルド長、俺は絶対にそんなことはしない。ティリズム教国の教皇の前で誓ってきた。俺はこの大陸の平和を守ると。」

ギルド長は顔を上げた。

しっかりとギルド長の顔を見て言う。

「決して誰かを犠牲にしたり、費用を捻出させるようなやり方はしない。大陸の平和を守るのは俺の責務だ。その為に必要だからと何かをさせるようなことはしないと誓おう。」

ギルド長は涙を流していた。

「情報を貰うことはあるだろう。だが魔族に関して嘘や隠し事をしないでもらえること。それが必要になる。それだけはお願いしたい。」

再び頭を下げるギルド長。

「も、申し訳ございませんでした。少しでも疑った自分が情けないです。歴代最強と言われる今代の勇者様のお話は私も伺っております。レイ様のお力になれるようご協力させてもらいます!」

いや、そんなに畏まらなくていいんだが⋯



「それと以前の対応で構わないからな。俺は金は持っているんだ。」

金貨が山ほど入った袋をドンと目の前のテーブルに出してみる。

目を大きく見開くギルド長。

そしてさらに2つ、3つ、4つと同じものを出していく。

「この中に金貨がぎっしりだ。まだまだあるが、もっと出して証明したほうがいいか?」

凄い勢いで首を横に振るギルド長。

「先代の勇者が何をしたのか分からない。勇者として恥ずかしい行為をしたのだろう。その代わりと言ってはなんだが、この金貨の袋を受け取って欲しい。これで補填になるかはわからないがな。」

さらに首を横に振るギルド長。

揉み手じゃなくて首振りギルド長になってるじゃないか。

もげるぞ?

「滅相もございません、そんなお金は受け取れません!レイ様は何も関わっていないじゃないですか!それに4年も前のことです。もうみんな忘れていますよ!」

そうは言ってもなぁ⋯



俺はリーシャにも見せた、国宝級以上の宝石を見せる。

「さらにこれも付けよう。これは売るとかギルドへの補填なんじゃなくて、迷惑をかけたギルド長への慰謝料として受け取ってくれ。何かあった時に使うといい。」

ギルド長は首を振るのを止めた。

見たこともない大きさの宝石に視線が釘付けだ。

「こ、これは⋯」

「これは迷宮の最下層に行けばゴロゴロ出てくる。まだまだ持っているから気にせず受け取ってくれ。ただ、これを市場に流すのは危険だろうから出してないだけなんだ。」

「こんなどこの国の王族でも持っていないような宝石なんて市場に流せませんよ⋯」

「そうだろうな。だからギルド長が受け取ってくれ。」

なかなか首を縦に振らないギルド長。

「金を受け取るのも、宝石を受け取るのも難しいのだろう?それは分かっている。だがこれだけ払っても俺は痛くも痒くもないほど、まだまだ持っている。これで俺が先代の勇者とは違うと信じて欲しい。」

「受け取れません!しかしレイ様のことは信用するに値すると感じました。本当に疑って申し訳ございませんでした!」

ふぅ、やっと信じて貰えたか。



「それじゃあ今回も馬車と馬の用意をお願いしたい。ランクはボロすぎなければ大丈夫だ。幌馬車と馬2頭をよろしく頼む。すぐが無理ならしばらく滞在は可能だ。この街で情報収集できるかもしれないしな。」

ギルド長は笑顔で頷いた。

「かしこまりました!商業ギルドが責任をもって、勇者様に相応しい馬車をご用意致します!」

ん?内密って言葉を忘れてないか?

「ギルド長⋯勇者とバレたくないから、そこのところ、よろしくな?」

「任せてください!分からないように色々と工夫させて頂きます!」

⋯よく分からないが、揉み手が復活してるから大丈夫だろう。

俺達はその日には出来ないと言われたので、宿に泊まることにした。

ギルド長に高級ホテルに案内され、そこに泊まることに。

出来上がり次第報告するとのことだ。



「さっきの宝石は何?あんなのがダンジョンでは手に入るの?」

俺達は宿で一息ついている。

みんなで俺の泊まる部屋に集まっていた。

「ミュアは宝石が好きなのか?」

「そんなんじゃないわよ。相変わらずデタラメなのね。お金といい宝石といいおかしいわよ。ダンジョンの最下層に行ったことある人なんてあなた以外いるのかしら?」

師匠と遊び感覚でよく行ってたんだが⋯

「師匠からは弱いと言われて育てられていたからな。みんな行けるのかと思っていたよ。」

ハーリルとミュアは呆れた顔をしていた。



「なんなのだそのダンジョンと言うのは!」

神竜はそんな事など知る必要ないもんな。

今度遊びに行くか?

「我もそんなの聞いたことないですね!」

リヴァちゃんは精霊だし海にいるから知らんだろ。

「ああ、ダンジョンならブレスを吐いても壊れないから、最下層に行ってみんなで遊ぶか?この街にはダンジョンがあるだろ。」

ヨウとリヴァちゃんがソファから勢いよく立ち上がった。

「ブレスを吐いても壊れぬだと?」

「我のブレスで壊せない物などありません!」

「妾のブレスだってそうなのだ!そんなものかあるなど信じられぬ!今すぐ壊しに行くぞリヴァ!」

「かしこまりましたヨウ様!行きましょう!」

走って出ていきおったぞ。



「レイ様、あれはどうしたら⋯」

「放っておけ。ダンジョンの場所も分かってないんだ。すぐに戻っくる。」

俺は美味しいお茶をすすりながら言った。

「あの2人なら最下層に行けるかもね。」

それは余裕だと思うぞ。

それにリヴァちゃんは精霊だから死なないしな。

「ダンジョンですか⋯私も何度か潜ったことはありますが、なかなか先に進めなかった記憶しかありません。」

ダンジョンは普通だと厳しいだろう。

物資の確保も大変だろうしな。

各階層に行ける魔法陣は用意されている。

しかし下層に行けば行くほど、1つのフロアが広くなってしまうので、一日での攻略が難しい。

大人数で行くのもいいが、それだと動きにくい上にさらに物資が増える。

マジックポーチが開発されてからはそれらは解決できたが、下に進むほど今度は魔物が強くなる。

そこそこ進める冒険者はいるが、まだまだ力を持つ奴らが居ないのが現状だ。



「レイ!ダンジョンはどこだ!」

ほら帰ってきた。

それじゃあ久しぶりにダンジョン探索でもしてみるか。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

処理中です...