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第2章 新しい道

093 閑話 名切蓮 異世界へ

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「レン!少し休憩しましょ!」

相棒のエイムが声を掛けてきた。

こいつはこの世界での俺のパートナーだ。

今はダンジョンで修行に明け暮れている。

ちょうどいい木陰があったのでそこで休憩だ。



ふう、この世界にもだいぶ慣れたな。

俺もなかなか強くなれたんじゃなかろうか。

この世界に来てもう3年が経つ。

いきなり海辺で目覚めた時にはびっくりしたがな。

東京湾しか知らなかった俺には驚きだ。

透き通るような海水、雲ひとつない澄み渡った青空、光の反射で眩しいくらいの綺麗な砂浜。

大都会東京では有り得ない光景だった。



高校の入学式の日、俺は悠々と家を出た。

駅まで歩いて5分だ。

家を出たら目の前に女性がいた。

見たこともない女性だった。

声を掛けられた。

『初めましてレン。私の名前はエイム。あなたのいる世界ではなく、別の世界からやってきました。あなたにどうしてもお願いしたいことがあり、こちらの世界にやって参りました。』

ギリシャ神話に出てくる女神のような格好をした美女がいた。

こんな朝から何かの撮影だろうか。

俺はキョロキョロして辺りを見渡すも誰もいない。

テレビ撮影や動画の撮影では無さそうだ。

ただのレイヤーさんか?

それともただ、頭がおかしいのだろうか。

通行人すら見当たらない。

出勤や登校する人が居てもおかしくない時間なのに誰もいなかった。



「すいません、どちら様か分かりませんが、入学式に行くので失礼します。」

なぜ俺の名前を知っているのだろうか。

別の世界とかよく分からんことを言っている。

関わらない方がいいと判断した俺は、美女の横を通り過ぎる。

『ま、ままま、待って、お願いだから待って!』

それでもシカトし俺は駅への道を進んだ。

新しい環境だからワクワクするが少し心配だな。

上手くやって行けるといいなぁ。

期待と不安を抱きながらも、俺は歩みを進めた。

しかしおかしい。

本当に誰もいない。

人が生活してるいるような雰囲気も、生活音すらも聞こえない。

どこかの家の朝食の匂いすらも漂ってこないのだ。



『お願い待って!どこに向かおうと、この世界の時間は止まっています!レン、あなたは選ばれたのです!』

まだ居たよこの女性。

美人なのに残念なんだな。

時間が止まる?

どこのファンタジーだ。

そんなエロ漫画あったなぁ。

時間止めてあんなことやこんなこと⋯

なに?今ならそれが可能なのか!

しかし童貞の俺にはそんなことす勇気なんてない。



「まだ居たんですね。僕には関係ないので失礼します。」

両手を広げて俺の行く手を阻みにくる美女。

その腕の下を潜り抜け進む俺。

『は、え?』

「では、急いでいるので失礼します。」

電車にはまだまだ余裕だ。

一応腕時計を見る。

ん?秒針が動いてないぞ⋯

俺の腕時計はアナログ式だ。

こういうアナログな腕時計が好きで買ってしまったやつだ。

渋いよなぁ。

この文字盤なんて最高だ。

合格祝いに買ったのに、もう壊れただと?

そんな馬鹿な⋯

帰りに時計屋に寄るしかなかろう。



「ふう、朝から変なのが湧いたな⋯時計も壊れるし災難続きなんじゃなかろうか。学校で何も起こらないでくれよ~」

誰もいないし独り言を言ってもいいだろう。

変なやつと思われることもあるまい。

俺より変なやつがいるしな⋯

『だ、誰が変なのですかああああ!』

3度俺の前に叫びながら現れる美女。

肩で息をするほどのことか?

「変なやつは⋯」

俺は美女を指をさす。

こんな変な女に失礼な度ないだろうと思いしっかりと指をさしてやる。



『はぁはぁはぁ、もうこうなったら強制連行です!レン!あなたは女神会議にて選ばれた勇者なのです!行きますよ!』

選ばれた勇者?

女神会議?

ファンタジーの見すぎじゃないのか?

どこかの漫画かアニメの話だろうそういうのは。

「強制連行なんて穏やかじゃないですね。警察に通報しますよ?」

『詳しくは向こうの世界でお話します!女神転移発動!』

何故か服を脱ぎ始める美女。

そして抱きしめられた。

突然の脱衣と抱擁で俺は固まってしまった。

慌てて引き剥がそうとした時には目の前がブラックアウトした。

そして気が付いたら浜辺だったんだ。



『目が覚めたのねレン。ようこそ別世界へ。あなたを歓迎するわ。この世界の名はエギストル。』

朝に見たコスプレ美女がいた。

宙に浮いている。

なんの演出なのだろうか。

そしてここはどこなんだろうか。

なぜ浜辺?

聞きたいことは山ほどあった。

なんで裸になったのだろうか。

なんで抱きしめられたのだろうか。

そしてもう服を着ている。

どうせなら脱いで話してほしい。

俺が黙っていると、その女性は淡々と話し始めた。



『あなたは地球では本来の力が発揮できないわ。このエギストルで本来の力を使い、世界を導いて欲しいの。』

説明によると

地球には様々な人間が生まれる。

その中で特異体質な人間が産まれることもあるそうだ。

その中で今回選ばれたのが俺だと。

俺の才能は魔法を使うことらしい。

その魔法の才でこの世界の発展をしてもらいたいそうだ。

この世界はまだまだ出来たばかりで法も何も定着しておらず、人が住める地域も限られているそうだ。

何を言っているのかさっぱりだった。

そんな世界を一介の高校生に何をしろと?

しかもなりたてほやほやのまだ15歳だ。



まだ女神の説明は続いている。

『レン、あなたは素晴らしい才能を持って生まれているわ。でもいきなりそんなこと言われても難しいと思う。だからまずは強くなってもらいたいの。まだこの世界は圧倒的なリーダーが存在しないの。あなたがなるのよ。』

また訳の分からんことを。

強くなれだと?

魔法なんてどうやって使うんだ。

時を止めてもいいのか?

それなら俺の好きに使える魔法であると嬉しいな。

試しにやってやろう。

あの宙に浮いてるコスプレ美女を浜辺に下ろしてやろう。



俺は念じた。

落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ!

『きゃっっっ!』

落ちた⋯

魔法と言うよりサイコキネシスか?

さらに念じた。

あの服よ消え去れ!

消え去れ消え去れ消え去れ消え去れ⋯

『な、なんでええええ!』

消えた⋯

巨乳が丸見えだぞ⋯そしてツルツル⋯



「これは魔法なんですか?落として服を消すように念じたらそうなったんですが。」

『す、凄いわレン!こんなことできる人はいないの!でも恥ずかしいからやめて貰えると⋯』

手で大事なところを隠しやがった。

これは魔法では無いだろ⋯

魔法と言えば、火を出したりか?

人差し指を立てる。

そして火を灯すように念じた。

火柱が空に向かって伸びた。

さすがの俺も尻餅だ。

コスプレ美女もびっくりして隠すのを忘れて見ている。

俺は火柱より、足を広げたコスプレ美女の秘密の場所に視線は釘付けだ。

『す、すごいわレン!』

裸のまま俺の肩に手を置き喜んでいる。

なんて綺麗な胸だろうか。

触っていいのかな⋯

「これが魔法なのか分からないですが、念じればなんでも出来ると考えていいのでしょうか?」

肩に手を起きながら頷くコスプレ美女。

『普通そんなことできないわ!それがあなたの魔法の才能なのよ!』

こんなこと出来てもなぁ。



「ところでエイム⋯さんですか。地球に帰ることはできるのですか?」

あからさまに表情を曇らせたエイムとやら。

『それは⋯無理なの。1度別世界に来てしまうと、次の転移には人間は身体が耐えられないの。本当にごめんなさい。』

誘拐か。

強制連行って言ってたもんな。

普通の高校生だと思っていたんだ。

なんだよ魔法って。

家族も友達もいない世界に無理やり連れてこられて、世界を導け?

バカバカしい。

しかも地球には戻れないだと?

ふざけるのもいい加減にしてほしい。

「それじゃあ俺は一生ここに居ないといけないのか⋯」

『ごめんなさいレン。でもこうするしかこの世界を導くことができないの。あなた一人に全てを背負わせてしまってごめんなさい⋯』

諦めたくは無いが、戻る方法がないんじゃどうすることも出来ないんだろう。



「はぁ、まだ心の整理も出来てないけど、とりあえず地球に帰れないのはわかりました。ここで強くなれって言いましたけど、具体的に何をすれば?」

エイムは説明してくれる。

各所にダンジョンがあり、そこで修行するのがいいとのこと。

基本的に何も無い世界で原始人のような生活をしているそうだ。

そこで魔物の脅威、魔族という外敵のようなものがいる世界になっているらしい。

その魔族が虎視眈々と人間の住む大陸を狙っている設定だそうだ。

なんだよ設定って。

地球もそうだが、惑星を作っては色んな設定の世界を作り、時の経過を観察するのが神々の仕事なんだそうだ。

今回はエイムが担当した世界がなかなか発展しない為に俺を呼んだそうだ。

俺以外にも何人かこの世界の各所に連れてこられているらしい。

地球の知識や技術を広めるのが役割なんだとか。

その中で俺は、この世界のリーダーになることを望まれているらしい。



なんてバカバカしいんだろうか。

こんな誘拐みたいなことをするなら、最初から作らなければいいと思うんだ。

宇宙の均衡を保つためにやっているらしい。

どんどん新しいものを作らないと、宇宙のエネルギーが飽和し、宇宙そのものが無くなるのだと。

バカバカしい。

信じられるかそんな話。



地球は外敵の設定のない世界らしい。

設定は惑星ごとに違うが、同じ設定の世界は作れないシステムにしてあるそうだ。

このエギストルという世界は、魔族の設定がある。

その細かい設定は教えられないらしい。

地球に似たような設定の惑星もあるが、地球のように発展しないで滅んでしまうところもあるとか。

女神達はこのエギストルを発展させると決めたらしく、エギストルで能力を発揮できる地球人に助けてもらおうてしたんだと。



そんなら女神がやればいいだろう。

だがそれは出来ないらしい。

直接干渉できないから、こうやって連れてくるそうた。

地球での俺の記録は一切残らないらしい。

もう俺はエギストルという世界の住人になっているそうだ。



どんな説明を聞いてもバカバカしすぎる。

しかしもう抗ってもどうにもならないんだろう。

この世界でやるべきことがあるならするしかない。

強くなることが必要ならやってやろう。

俺は仕方ないがこの世界で生きていくことにした。

『ありがとうレン!これからの事をたくさんサポートさせてもらうわ。何か必要なことがあったらいつでも呼んで。これが私とあなたを繋ぐアイテムよ!』

エイムがしている指輪と同じものをもらった。

『これをつけていれば私と連絡が取れるわ。』

「俺の前に現れることはもうないのですか?」

『私たち女神はこれ以上この世界に干渉できないの。アドバイスならできるから、いつでも呼んでね!』

なんなんだそれは⋯放ったらかしじゃないか。

うーん⋯

俺はエイムに魔法なのかサイコキネシスなのか分からないが念じてみる。

この世界に干渉できるようになれ、この世界の住人にお前もなれ、女神のまま俺と共に行動しろ

エイムの腕を掴み念じた。

「レン、何をしたの?身体が重さを感じている?」

「ああ、帰られても寂しいので、一緒に居れるように魔法を使いました。これでエイムさんも俺と共にこの世界の住人になれたと思いますよ!」

旅は道連れ世は情けと言うじゃないか。

これで俺も多少は寂しくないな。

「ええええええええええ!」

裸の元女神の叫び声が波に掻き消されていく。

「仕方ないじゃないですか、俺も誘拐された。女神だろうが誘拐するならされる覚悟もありましたよね?」

「ええええええええええ!」

うるさい元女神だ。

とりあえず服を着ろ。

ああ、俺が消したんだっけ。

とりあえず2人で頑張ろうぜ!



こうして俺の異世界エギストルでの生活が始まったとさ!
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