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第2章 新しい道

070 元勇者とフォース

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俺とバカドラ幼女は睨み合う。

俺は指を組んでいない左手を振り上げる。

バカドラ幼女は何かを察したのだろう。

握る手に更に力を込める。

「この左手を下ろしたらはじめって言うからな。」

「よかろう。早うしろ。」

もうこれ以上煽りもいらないだろう。

俺は左手を振り下ろした。

「はじめ!」



合図ともに俺の組んでいる指を引きちぎるかの如く力を入れるバカドラ。

俺もそれに応えるかのように魔力を込めて対抗する。

先手はバカドラだった。

勢いよく俺の親指の先端を狙ってきた。

なぜ俺が指相撲を選択したか、こいつはわかっていない。

指のリーチだ。

俺は少し親指を後ろに反らした。

それだけでバカドラの親指は空を切る。



そこへすかさず俺は親指を振り下ろした。

狙いはバカドラの親指の根元だ。

ここを押さえればそうそうは抜け出せない。

俺は魔力を更に使い、身体能力を跳ねあげる。

ここで決めてやる。

そう思い俺は親指をバカドラの親指の根元へと振り下ろす。



俺もバカドラも尋常じゃないスピードと膂力だ。

その力で俺はバカドラの親指の根元を押さえ込んだ。

勝ったな。

「1.2.3.4」

俺はカウントを進める。

どうした唯一無二のドラゴンよ。

このままでは負けてしまうぞ?

「5.6.7.」

ニヤリと笑うバカドラ。

次の瞬間だった。

俺の押さえ付けていた親指が跳ねた。

「なかなかやるではないか。妾に魔法を使わせるとはな。お前も使っているから反則ではあるまい。」



バカドラも身体能力を上げる魔法を使ってきた。

それにより俺より力を増してきたのだ。

「魔法を使っているからといって、素の妾の力より強いとは⋯勇者と名乗るだけはあるな。ナレンギルより強いではないか。しかしそれが全力であろう。魔法を使った妾には誰も勝てぬ。」

ほう⋯

それでは更に上がいると、ドラゴンが絶対強者では無いことを、俺が教えてやろう。

「それは俺に勝ってから言うんだな。」

この指相撲は俺のアドバンテージが大きい。

あとは俺も本気を出すだけだ。

「では勝ってみろ。妾の本気でお前の指を使い物にならなくしてやる。欠損部位を治せる回復魔法を使えるやつなど聖女だけであろうからな。剣も持てぬ指にしてやる。」

なんて怖いことを⋯

欠損を治せる回復魔法を使えることは黙っておこう。



お互い開始の位置に親指を戻す。

睨み合うこともなかった。

「瞬殺してくれる。」

その言葉通りだった。

親指の真ん中辺りを狙ってきた。

バカドラの言葉に気を取られた俺は対応が遅れる。

バカドラの親指が俺の親指に接触する。

俺の親指を押し潰すかの力で押さえ込んでくる。

へし折られそうだった。



すんでのところで更に身体能力を上げて押しつぶされないように対抗する。

バカドラもここで勝負を決めようとしている。

「1!2!3!4!5!」

大声でのカウントだ。

余程自信があるのだろう。

だがその程度で俺が負けるわけない。



俺は更に魔力を上げる。

そして先程やられたようにバカドラの指を跳ね上げる。

「俺が本気を出してるとでも思っていたのなら⋯浅はかだな。」

俺は余裕の表情で言ってやる。

「お前の力はこんなものか?この程度なら俺には勝てないぞ。本気を見せてみろ。」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

お互い開始位置の指を戻した。



俺は更に魔力を込め身体能力を上げていく。

バカドラも本気になったのだろう。

身体から漆黒のオーラが浮かび上がる。

「お前にドラゴンとはなんなのか教えてやろう。魔法ではない。ドラゴンにしか使えぬ力を見せてやる。」

漆黒のオーラが膜のようにバカドラを覆っていく。

薄い漆黒の膜にが全身を覆った。

そしてゆっくりと吸い込まれていく。

「これを使うのは私が誕生してから初めてだ。ここまで妾を脅かしたことを誇るがいい。」

そんな大層な力があるのか。

初めて使うのが指相撲でってのがまたおかしな話だな。



漆黒の膜が取り込まれると、バカドラの身体が発光した。

なんだ⋯眩しい⋯

まさか目眩しをして不意打ちか?

光が落ち着き、目を開けられるようになった。

俺はバカドラ幼女を見ようと目を開けた。

だがそこに幼女はいなかった。



「ふう、力が漲るな。この力は擬人化してないと使えないのだ。だがこの力を解放した妾はドラゴン形態の時よりも強いのだ。」

目の前にいたのは幼女ではなくなったバカドラがいた。

ハーリルよりも身長の高い女だった。

髪の毛は黒く輝いているほどに綺麗で太ももまで流れるように伸びている。

瞳も全てを飲み込んでしまうかのように黒い。

肌は白く、5人の女たちよりも透き通っている。

幼女の時の顔に似ているが、大人びており、大人の色気が漂う妖艶な美女になっていた。



「ドラゴニックフォース。初めて使ったが⋯もう負ける気はせんな。」

首をコキコキと鳴らしながら自分の身体の感触を確かめているようだ。

「立て人間。お前の指を粉々に粉砕してやろう。」

「⋯⋯⋯⋯」

俺は無言でバカドラ美女と指を組んだまま立ち上がる。

「では仕切り直しだ。お前もまだ余力を残しているなら、出し惜しみせず来ねば終わるぞ?」



俺は見ている。

バカドラ美女を。

幼女の時から気にはしていたんだ。

裸は反則じゃないか?

いや、幼女の時は何も感じはしない。

どこもかしこもツルツルのツルペタだ。

ピンクの小さい蕾が2つちょこんとついていただけだ。

不毛地帯も座っていたから目の前にあったが、ミュアのを知っている今、なんの効果もない。

だが今はどうだ?

胸も大きい。

腰もキュッとくびれ、お腹も引き締まっている。

そして存在感はあるが大きすぎないお尻から太ももにかけての綺麗なライン。

それを漆黒の髪の毛が白い肌のアクセントなり情欲を駆り立ててくる。

目元はキツイのかと思いきや、まさかのタレ目でおっとりとした雰囲気があり、妖艶な雰囲気を出している。

左目の下にある涙ボクロが良い味出している。



「1つ、1つだけ聞いていいか?」

「⋯⋯⋯なんだ?言ってみろ。」

俺は上から下までバカドラ美女を見る。

そして言った。

「そのまま⋯そのままでいいのか?」

「そのままとはなんだ?よくわからんがいいに決まっておろう。ドラゴニックフォースを使ったままでやるのだ。」



そうか。

それなら仕方ないか。

俺は艶めかしいバカドラ美女⋯

いやもう美女だ。

美女の裸体を、目でこれでもかと堪能する。

俺も漲るよ。

亀様の方が⋯

誰も見ていないし俺もフォースを解放する。

名付けて、タートルフォースだ。



「ありがとうバ⋯ドラゴン。俺もお前の知らないフォースを使わせてもらう。これで俺は誰にも負けない。」

俺は惜しげもなく見せつける。

服の上からでもわかる亀様を強調するように腰を突き出す。

「なんだそれは⋯お前もフォースを?くっ、人間にもフォースを使う技があったのか!」

やはり何か分からないようだな。

「このフォースを戦いで使ったのはお前が初めてだ。」

「なに?ではそれもお前の秘密の力とでも言うのか?」

勘違いしてるというか、知らないんだろうからそのまま勘違いしててもらうか。

「そうだ。俺も初めてだからな戦いで使うのは。どうなるかわからない。」



俺は腰を突き出したままバカドラと指を組んでいる。

ちょっと体勢的に辛いんだが⋯

「ええい、やってみねばわからぬ!行くぞ人間!」

「勝負だバ⋯ドラゴン!」

お互いが指を高速で動かしている。

傍から見たら指が消えて見えるほどだろう。

揉み手ギルド長の揉み手よりも速く動いているのは間違いない。

バカドラ幼女が美女になったことで指のリーチのアドバンテージは無くなった。

お互いが根元を押さえつけんと激しく親指を動かしている。

親指と親指が交錯する。

ぶつかる度に衝撃波が発生する。

押さえつける度に指を振り下ろすと、その衝撃で地面が陥没する。



俺は思った。

これは指相撲なのだろうか⋯




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