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第2章 新しい道

066 元勇者と5人のまま

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チョンザム王国で何かが起ころうとしているのか。

それともたまたまケイトは攫われ、ケイトの祖父は魔物に殺されたのか?

1日2日の情報収集で分かることなのだろうか。

それにどこを調べればいい?

俺が勇者の威光を使えない今では対応が遅くなるかもしれない。

俺が追放されることが伝わっていないなら、勇者と名乗るべきなのか⋯

それは最終手段としておかないとな。

もしそれで俺が犯罪者として表沙汰になった場合、この5人の⋯

ミュアは大丈夫か。

4人の安否にも関係してくる。



「アーク、何を悩んでるの?」

泣き崩れているケイトを馬車に乗せ、商業区から離れている。

御者席には俺とミュアで座っていた。

「そんなに難しい顔をして何か気づいたことでもあった?」

「いや、分からなくて考えていたんだ。魔族が本当に絡んでいて、その陰謀でケイトが巻き込まれたのか考えててな。もし魔族が関与していたとしたら、この国は危険かもしれない。」

「魔族ねぇ。ニバダルの商業ギルドで聞いたけど、本当かしら。言ったら悪いけど、立地も良くないあの店を手に入れたとしていい事あるのかしら。」

それはそうなんだ。

ケイトの店は奥すぎはしないが、大通りからは離れている。

立地は良いとは言えない。

隠れ家的な要素もない。

そんな店を裏で画策して手に入れる必要はなさそうだ。

「それにもし魔族が何かしてるとしたら、私達が対応する必要ある?それこそ国と勇者の仕事じゃない。私達は安全に別の国に行く方がいいじゃない。」

その勇者が俺なんだ⋯

なんてもどかしいのだろう。

もしかしたら魔族によって国が蝕まれているかもしれないのに何も出来ない。

それもどうにかするためにティリズム教国かナレンギル王国へ急がないとだな。

この国のことも心配だが、まずはみんなの安全と俺の処遇だ。

勇者の称号が戻ってこないのなら、自分の力だけで何とかしようじゃないか。

例え俺1人でも⋯



「ところでこれからどうするの?まさか本当にチョンザム王国の魔族をどうにかするつもり?」

「いや、ここにいたら危険が及ぶかもしれない。何とかケイトを説得して一緒についてきてもらおう。そしてみんなでティリズム教国へ急ぐ。」

「それがいいわね。ここで一泊するより出発する?」

疲れはみんなあるだろうが、ここはあと少し頑張ってもらって、ティリズム教国へ行こう。

「そのまま向かおう。その前にケイトを説得しないとな。」



方向性を決めたので、ケイトと話をする為に適当な場所に馬車を停めた。

幌馬車内に入る。

まだケイトは泣いていた。

その背中をセシリアが優しく撫でていた。

「ケイト、話があるんだ。辛いだろうが聞いてくれ。」

ケイトは俺の声に反応し顔を上げた。

その顔を涙で腫らした顔をしている。

涙が頬を伝い落ちていた。



俺はケイトの前に膝まずいた。

そして優しく頭を撫でる。

「辛かったな。もう少し早かったら⋯本当に済まない。最初の選択でケイトにしていたら⋯それでも間に合ってなかったかもしれないが、本当に申し訳ないことをした。」

俺が悪いわけではない。

だが謝るしか無かった。

全員で決めた判断だった。

仕方なかった。

しかし平民の、肉親が一人しかいない老人の行動を読めなかった俺がいけないのだ。

「それを言うなら私が⋯私が最初に帰りたいと言ったから⋯ケイトさん、私も謝ります。申し訳ございません。」

リーシャまで謝ることはないんだ⋯

だがリーシャも少なからず罪悪感を感じているのだろう。



ケイトは泣き腫らした顔で俺とリーシャを見ている。

「謝らないでください⋯発見されたのが1週間前と言っていました。多分最初に帰っていても間に合っていなかったと思います⋯」

そこまで計算していたのか。

ギリギリ間に合ったかもしれないが⋯発見が1週間前だ。

その何日前に森に行って亡くなったかまでは分からない。

「だから謝らないでください⋯私はひとりぼっちになりました。家もないです。これからどうしたら⋯」

セシリアがケイトを抱きしめた。

「私の家に来て、それで私の家で働けばいいのよ!それなら安心だわ。ケイトと離れるのは嫌だもの!」

だからなんでそんなに仲良しなんだ?

今はその事は置いておこう。

「そのことに関してなんだ。この国でケイトを1人で置いていくのは不安なんだ。まだ俺達と行動し、安全に暮らせるようになるまで面倒を見させてくれないか?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ケイトはセシリアに抱かれたまま黙っている。

思うところもたくさんあるんだろう。

「すぐに答えが欲しいわけじゃ⋯」

「行きます。皆さんと一緒に。私にはもう何も無いのです。1人で生きていくのは不可能なんです。どうかお願いします。」

1人で生きていくと言ったならそれ相応の金は渡すつもりだったが⋯

それはそれで危険だからな。

一緒に来ることを決断してくれて助かった。



「辛い決断をさせて申し訳なかったな。これからも一緒によろしく頼む。次の行先はティリズム教国だ。すぐに発ちたいんだが大丈夫か?」

「私は大丈夫です。アーク様の判断に従います。」

「私もアーク様がそう決めたなら大丈夫よ。」

「はい、ケイトさんが心配ですが⋯」

ハーリルとセシリアとリーシャは了承してくれたな。

「私は⋯私は大丈夫です⋯アーク様、ティリズム教国へ行きましょう。おじいちゃんも両親もいないこの国には未練はありません。おそらく家財道具は全て処分されているはずですし⋯」

形見の品もないのか⋯

なんて不憫なんだ。

俺はみんなが見ているがケイトを抱きしめた。

「大丈夫だ。ケイトにはみんなが、そして俺がいる。寂しくなんかない。みんなを頼ってくれ。」

「⋯は、はい⋯」

俺の腕の中でまた泣いている。

しばらく抱きしめたままでいた。



「ごめんなさい⋯もう、大丈夫、です⋯」

「無理しなくてもいいからな。」

「いえ、大丈夫です!行きましょう!」

無理にでも大声を出し、平気なことをアピールしてきた。

その健気な姿を見て、再度抱きしめた。

「わかった。何かあったらすぐに言うんだぞ。」

「はい、ありがとうございます!」

泣きながら無理やり笑顔を作ろうとし、くしゃくしゃの顔になっている。

俺はケイトの頭を撫で、御者席へと戻った。



「説得は済んだかしら?」

「なんとかな。これからが大変だろう。ちゃんとケアしてやらないとな。」

「セシリアと仲が良いみたいだし、大丈夫よ。女は強いのよ。」

それは女じゃなくて、エルフの女じゃなかろうか⋯

むしろミュアだけ?

俺の勝てない存在は今のところミュアだけなんだが⋯

ホーリーセイバーも聖棍も通用しないだろ。

俺のホーリーセイバーでは勝てたのか?

いや、タートルセイバーか。

タートルセイバーでは判定は引き分けか?

審判がいないな。

キートゥなら公平な審判をしてくれそうだ。

俺のタートルセイバーと、キートゥのタートルヘッドの共演か。

オーマンレイク以来の夢の共演再び⋯

いや、アホなことを今考えてちゃだめだ。

ルンの所へ遊びに行った時にしてもらえるか一応聞いておこう。

俺とルンがしているところは見ているしな。

そうだ、キートゥに見られてたのに俺はなんであんなに激しくルンと⋯

ああ、今になって恥ずかしくなってきた⋯

おっと、また思考が逸れたな。

どうもキートゥのことを思い出すと脱線してしまうな。

それだけキートゥのことを好いているのだろう。



「アーク、道はここで合ってるの?あなたこの街知らないでしょ。」

しまった!

アホなことを考えすぎて適当に走っていたじゃないか!

「そ、そうだな。ボーッと考え事をしてたら⋯済まない。」

ここは誤魔化すより謝ろう。

アホなことを考えていたなんて知られたら恥ずかしい。

「また変なこと考えてたんじゃないでしょうね?」

「ははは、そんなわけないだろ。今後の事だ今後の。」

よし、俺は嘘はついてない。

ルンのこともキートゥへの依頼も今後の事で間違いない。



俺は途中で道を聞き、間違ってない道を進んでいたようだった。

そしてティリズム教国への街道を走る。

何日かかるか分からないが、急いで向かおう。


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