【第2章完結】追放勇者はどこへ行く

音無響一

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第2章 新しい道

060 元勇者と成婚と精根

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馬車移動初日から特に問題なく進んでいる。

今も街道を進んでいる。

御者は俺がしていた。

もう3日目だ。

そろそろ街に着いてくれたら嬉しいな。



「すれ違う人も増えてきたし街が近いかもしれないわね。」

今日も当たり前のように隣にいるのはミュアだ。

「そうだと嬉しいな。みんなベッドで寝たいところだろ。」

「私も宿でゆっくり寝たいわ。」





しばらく走ると外壁が見えてきた。

「街が見えてきたな。宿が空いているといいが。とにかく行ってみよう。」

「馬車が豪華だけど、怪しまれないかしら?」

「確かにそれはありそうだが⋯チョンザム王国へ行く時も同じようなもんだからな。ここでどんな風になるか試しておくのもいいだろう。ダメなら街で休むのは諦めよう。」

街へ入る人達の列へと並んだ。

並んでる人達は少なく、すぐに俺たちの番になった。



「身分を証明するものはあるか?」

衛兵に冒険者証を見せ、女達は奴隷と説明する。

その際に全員マントを羽織らしている。

衛兵には冒険者証と共に金貨を握らしている。

ニヤッと笑った衛兵。

「問題あるか?」

「いや、何も無いな。」

相変わらず金の力は偉大だな。

楽でいい。

「ありがとう。じゃあ入っていいな。」

「いいぞ、ゆっくり楽しんでくれ。」



簡単に通れたな。

どいつもこいつも金が好きで何よりだ。

「みんな、もうマントを取ってもいいからな。」

この街はチョンザム王国の外れの街になるそうだ。

街名はマザッシュ。

チョンザム王国は国土も小さく、街がここと王都とあと3箇所しかないそうだ。

「このまま宿に向かうか。衛兵に場所は聞いておいたからな。馬車も停められるそうだ。」

俺はみんなに声をかけ宿へと向かう。

街自体は大きいので道もかなり広く作られている。

この街は一泊して通り過ぎるからな。

何かを買ったり、情報収集はしなくてもいいかもしれん。



ここが衛兵の言っていた宿だな。

とても綺麗な外観をしている。

石造りでしっかりとした建物だ。

宿の中に入ると受付に初老の男がいた。

「いらっしゃいませ。何人でお泊まりですか?」

「俺も含めて6人だ。馬車の世話も頼みたいんだがいいか?1泊だけ頼む。部屋は6部屋用意できると嬉しいな。」

「今は3部屋しか空いておりません。2人部屋が3部屋になります。よろしいでしょうか?」

そうなると俺と誰かで泊まらないといけないのか。

それは困るな⋯

「じゃあアークは私と相部屋ね。」

な、なぜミュアがここに?

外で待っていろと言ったはずだが⋯



「まて、それだと色々と問題があるだろ。それにみんな納得しない。俺だけ宿を別にしよう。」

「何言ってるのよ。みんなにバラしてもいいの?」

くっ、なんでだ、これじゃあミュアと同室になるしかないじゃないか。

「みんなになんて説明するんだ?ミュアがしてくれるのか?」

「うーん、分かったわ。アークだけ宿を変えましょ。」

簡単に引き下がったな⋯

何かよからぬことを考えているんじゃなかろうか。



みんなに事情を説明し、俺は別の宿に向かった。

数件回ったが、どこの宿もいっぱいで高級な宿しか空いていなかった。

「これは俺一人では広すぎないか?」

「あら、素敵な宿じゃない。私もここに泊まろうかしら。」

「うおっ、いつからいたんだ?」

「アークがこの宿に向かうのを見かけたからついてきたのよ。」

なんという追跡術なんだ。

たまたまとは思えない。

先を読む能力がなきゃ出来ないだろ。

鷹の目だけでは到底無理だ。

もはや魔眼の類を持っているのか?

それともこれも秘術なのか?

俺はミュアと戦って勝てるのだろうか。

勝てる未来が見えない⋯

例え聖棍を使っても勝てなそうだぞ。



「他のみんなはいい子に宿で休んでるみたいだし、今夜は2人っきりね。」

喉が鳴るほどの生唾を飲み込んでしまった。

スケスケの赤の下着⋯

早く見たい。

⋯はっ!

俺は何を考えているんだ!

ダメだダメだ!

惑わされるな。

思い出せ、明鏡止水の心を!

神よ!下着神よ!我を導き給え!



「アークアーク、こっち来て、お風呂も豪華よ!」

お風呂だと?お風呂で一緒に何をするつもりだ!

「すごい広いな。」

「これなら一緒に入れるわね。」

くぅ、入りたい。

ミュアと二人でこの広いバスタブで⋯

いかん!考えるな!

「ねぇ、見てこれ。このマット。お風呂になんでマットなんてあるのかしらね。」

こ、これは⋯魔物素材で出来た高級マット!

撥水性抜群の濡れても平気な貴族御用達のお風呂マット!

これは金貨数十枚はくだらない逸品だぞ⋯

さすが1泊金貨30枚なだけあるな。

というかこの宿は高すぎないか?



「さっき聞いてたけど、ご飯は勝手に運ばれてくるみたいだし、お風呂にする?お湯を貯めとくわね。」

「ああ、そうしてくれ。」

「お湯の温度はぬるめにしとくわね。すぐのぼせちゃつまんないでしょ?」

一体湯船で何をするつもりなんだ⋯

お風呂でもエルフの秘術がてんこ盛りなのか?

なんてことだ。

もう神は休まれてるようだ。

何も導いてくれない。

⋯はっ!そうか!

流れに身を任せろ。

そういうことですね。



「アーク、このソファもすごい座り心地よ。こっち来て座りましょ。」

いかんいかん、突っ立って思考の海で迷子になっていたな。

「本当にすごいな。フカフカだ。」

「やっと2人っきりね。」

太ももを撫でるのはやめてくれないだろうか。

「ミュア、そういうことは無しにしないか?」

「ふーん、そういうこと言うんだ。みんなアークが別の宿に行くって聞いて、どこに泊まるのか探ってたわよ。」

どういうことだ?

「みんなアークの泊まるとこに行こうとしてるってこと。」

そうなのか⋯教えなくてよかった。

「みんな見当違いの所に行くから残念ね。」

「ミュアはなんで分かったんだ?」

「それは⋯」

それは、なんなのか教えて欲しい。

「秘密よ。」

出た。出ました。秘術です。

先生、自分にも教えてください。

先生の秘術があれば⋯おそらく俺は無敵になれるでしょう。



「あら、ちょうど食事が来たみたいね。受け付けには2人で泊まるって言っておいてよかったわ。」

なんて根回しのいいエルフなんだ⋯

「さすが高級宿ね。とても美味しそうよ。」

確かに美味しそうだ。

「はい、アーク。あーん。」

「あーん。ぱくっ。もぐもぐ。」

「美味しい?」

「そうだな、美味しいが⋯やはり俺の作るやつの方が美味しいかもな。」

「アークの料理は味がしっかりついているものね。」



待ってくれ。

何だこの状況は。

あまりにも自然にあーんをしていたぞ。

怖すぎる。

普通に会話も進行している。

何が起きているんだ⋯

「私にはしてくれないの?」

「じゃあミュアにはこれを⋯あーん。」

「あーん。はむっ。んくんく。んー、そうね。アークの料理の方が美味しいわ。でも悪くないわね。」



本当に待ってくれ。

新婚か?新婚なのか?

聖棍のせいか?聖棍のせいで成婚したのか?

聖棍で聖痕で精魂を無視した結果、ミュアと成婚したのか?

そんでもって今夜は精根尽きるまでやるのか?

どんだけせいこんだらけなんだこの世界は⋯

え、怖すぎる。



「でもたくさん食べないとね。料理は精の付くものをってお願いしといたのよ。だから、はい。あーん。」

「あーん。ぱくっ。もぐもぐ。」

抗えない。

ミュアがフォークに刺しあーんと言ったら口を開けてしまう。

「はい、もう一口よ。あーん。」

「あーん。ぱくっ。もぐもぐ。」

これを食べたら精が付くのか。

「ふふふ、なんだか可愛いわね。はい、もう一度。あーん。」

なんだか美味しくなってきた。

「ミュアもどうぞ。あーん。」

もうよく分からないな。

とにかく2人で食べ尽くした。



「美味しかったわね。お風呂も沸いてるみたいよ。」

「そうか。じゃあ先に行ってきたらいい。」

ミュアが俺の手を取った。

「何言ってるの?一緒に行くに決まってるでしょ?洗ってあげるわ。」



洗ってあげるわ
洗ってあげるわ
洗ってあげるわ
洗って⋯
⋯⋯




「そうか。じゃあ行こうか。」

頭の中でその言葉がリフレインした結果、俺は立ち上がった。

もちろん亀様が。

いざ行かん!

決戦は風呂場だ!


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