上 下
58 / 125
第2章 新しい道

058 元勇者と聖棍と聖痕

しおりを挟む
街に辿り着けなかったので野営できそうな場所で止まることにした。

「今日はここで休むことにしよう。馬達に無理はさせられないからな。まだまだ世話になるから大事にしたい。」

「こんな可愛いお馬さん達に無理はさせられません。」

リーシャは本当に動物が好きだな。

世話をしても⋯王女には無理か。

でもセシリアとケイトが楽しそうに世話をしているのを羨ましそうに見ているんだよな。

立場の違いとは難しいものだ。

みんな歳も近いし仲良く出来そうな感じもするんだがな。

ミュアも見た目はみんなとそう変わらないが⋯

あのエルフは別物だな。



数日ぶりに俺が食事を振舞ったが、やはり宿の食事は美味しくなかったようだ。

みんな喜んで食べていてくれる。

「馬車内で寝れるくらい中は広いだろうし、みんな馬車で休んでてくれ。俺は外で見張りをするからな。」

さすがにこの環境ではミュアも何も出来まい。

だからリーシャとも何も出来ない。

少し⋯いや、かなり寂しいがここは我慢だ。

1人で世が明けるまで見張りをしないとな。

ミュアを含め、全員がなにやら言いたそうにしていたが、馬車で休んでもらう。

なんだかんだ言って、ただ馬車での移動でも疲れるからな。

まだまだこの馬車の旅は続くだろうから寝れる時に寝といてもらわないとだ。





そろそろみんな寝た頃かな。

何事もなく夜が更けてくれて良かった。

ミュアが仕掛けてきやしないかヒヤヒヤしてたが杞憂だったようだ。

ん?馬車から誰か出てきたな。

「アーク様、お1人での見張り役ありがとうございます。」

綺麗なカーテシーを披露してくれたのはキュートちゃんだ。

朝から気になってたが⋯

そのワンピースは昨日と違うな。

誰が君に何着も買っていいと言った?

レッサーパンダがフリフリのワンピース⋯

ナシだ。

君の性別をそろそろハッキリさせたいとこだ。

これでオスなら俺は怒ってしまうかもしれん。



「キュートちゃんは寝なくていいのか?」

「私は睡眠は取らなくてもいいのです。眠ることは出来ますが、必ずしも必要という訳では無いのです。」

リーシャが居ないのに口調もしっかりしているな。

これが教育の賜物なんだろう。

⋯コワイ。

「どうしてこっちに来たんだ?」

「リーシャ様からアーク様がお一人でいらっしゃるので、お相手をと。」

なるほどな。

1人より誰かいた方が気は紛れるが⋯

フリフリのワンピースを着たレッサーパンダが居たら、余計気が散るような。

「気が利くな⋯ありがとうキュートちゃん。」

「いえいえ、我が主からの命令ですのでお気にならさないでください。」



やはり気になるな。

もう主って言ってるじゃないか。

君の主は神獣ではなかったのか?

いいのかそれで⋯

「キュートちゃんの主はルンだろ?」

「⋯何を仰るのでしょうか。ルン様にお仕えしていたエリーは死んだのです。」

何を言ってるんだこのレッパンは。

「キュートちゃんはそれでいいのか?」

震えてるじゃないか。

忸怩たる思いでもあるのだろうか。



「私は⋯私は本当の自分に目覚めたのです!」

「本当の?」

「左様でございます。私は間違っていたのです!」

「何を間違ってたんだ?」

「リーシャ様のおかげで間違いに気づいたのです!」

「何に気付いたんだ?」

「本当の自分にです!」



ダメだこれは。

前から思ったが、説明が下手くそ過ぎる。

もしかして⋯おバカなのか?

会話になっているようで、最早会話になっていないなこいつは。

いや、決めつけるのは良くない。

俺の質問の仕方が悪いのかもしれない。

時間もあるし、興味はあるようでないが、一応聞いてみるか。

「キュートちゃんはルンに仕えてる時の自分が偽りだったと言いたいのか?」

また震えてるじゃないか。

ルンの名前を出すとこうなるのか?



「ルン様⋯いえ、あのリスに仕えていたことが恥ずかしい!なぜ私はあんなエロリスに!」

え?そっち?

そっちに気付いたの?

その過去を思い出して震えてたの?

出会った当初の君はそのエロリスに心酔してるかのような仕えっぷりだったぞ?

あの勇敢で可愛らしい威嚇のポーズはまだ記憶に新しいんだが⋯

「リーシャ様の教えで気付いたのです!淑女とはなんなのかを!」

淑女とはなんなんだ?

見事なカーテシーを披露することか?



「ルンは淑女とはかけ離れた存在だからな。淑女に目覚めたキュートちゃんはエロリスなルンを許せなくなったのか?」

また震えてるじゃないか。

そんなにルンに仕えてたのを誤りだったと思っているのか?

「私は恥ずかしいのです!だからリーシャ様に感謝しております。」

なんなんだろう。

イラッとするんだが⋯

答えてるようで答えてない返答にイライラしてしまう。

見た目が可愛いせいで余計⋯

いや、気のせいだ。

キュートちゃんは悪くない。



「俺はルンの為にオーマンレイクに行くこともあるんだが、その際は力を貸してくれるんだよな?」

「いやですが、そのくらいはさせてもらいます。」

そんなにいやなのか。

でも連れていってくれるならそれでいい。



「ところでキュートちゃんは雌なのか?」

「何を仰るのでしょうか。私は淑女です。」

それは雌と捉えていいのだろうか。

俺は生物としての性別を聞いたんだが⋯

それは気持ちの問題だろう。

やっぱり答えになっていない。

このイライラはどうしてくれようか。



魔物でも現れてくれないものか。

久しぶりに鉄の棒でお仕置してやりたい。

あの棒はなんて言っても聖女に差し込んだからな。

どことは言わないが。

聖女から引き抜いた棒だから、あれは聖棒だ。

思い出したら消毒したくなってきたな。



俺は収納から鉄の棒、もとい聖棒を取り出す。

1度ではなく、2度3度とクリーンの魔法を強めにかけていく。

うむ、なんだか輝いて見えるな。

さすが聖なる棒だ。

せっかくなら俺のお気に入りの剣や刀も差し込んで抜いておけば良かった⋯

いや、消毒が面倒くさいからやめておこう。



「アーク様、その棒⋯棍ですかね、それはなんなのですか?聖なる気を発しております。」

キュートちゃんがなにやらおかしなことを言い始めたな。

聖なる気だと?そんなバカな。

これはただの鉄の棒だ。

棍なんて大それたものではない。

「これはどこかのダンジョンで手に入れたただの鉄の棒だな。丈夫だから戦闘で重宝してるんだ。手入れをする必要が無いからな。楽でいい。」

「ただの棒?そんなはずはありません。私にはうっすらと聖なる光が漏れ出し輝いて見えます。」

神獣に仕えてただけあるのか、そういうのを見ることができるのかもしれないな。



確かにキュートちゃんが言うように、これは聖なる棒だ。

でもそれは俺の単なる冗談なんだが⋯

まさか本当に聖女に差したことで聖なる気を纏うようになったのか?

だとしたらやっぱり俺の剣も⋯いや、やめておこう。

「アーク様が丁寧に魔法をかけることで更に光が増しているようでした。アーク様の魔法に何か秘密があるのですか?」

俺の魔法に?

俺の棒を聖女に何度も差し込んでいるから、もはや俺が聖人になってるのか?

え、ちょっと嫌なんだが⋯

変態の仲間みたいじゃないか。



「キュートちゃんの言うことが間違いではないなら、これは聖棒⋯聖棍と言ってもいいかもな。」

「少し見せて貰ってもよろしいでしょうか?」

俺はただの鉄の棒から聖棍へと名前を変えた愛棒を渡す。

愛棒⋯相棒で愛棒が聖棒から聖棍になったのか。

なんだか感慨深いな。

でもちょっと嫌なのはなんでなんだろうか。



「すごいです。内包する魔力量が信じられないくらい多いです。こんな武器は見たことありません⋯」

いつも使ってるから分からなかったが、そんなにすごいのか?

言われてみると⋯確かに魔力量が凄いな。

輝いて見えてたのは幻覚じゃなかったのか。

俺の魔力を吸い込んで貯めておく性質でもあるのだろうか。

ことある事にクリーンで消毒してたのが良かったのかもな。

「キュートちゃん、この聖棍は魔族に効くか?」

「はい、とてつもない効果を発揮すると思われます。見るだけで嫌がる可能性もあります。」

そんなに凄いのか。

ホーリーセイバーより聖棍の方を今度から使ってみよう。

どちらにせよ使わなくてもなんとかなるがな。

チョンザム王国で魔族がいたら試してみるのもいいかもしれん。



「この聖棍で叩かれたら、魔族に聖痕が刻まれるでしょう。精魂尽き果てるほどの威力になるかと思われます。」

ダジャレじゃないか。

精魂までぶっ込んできたら、狙ってるとしか思えないぞ。

ちょっとドヤ顔しながらチラチラこっちを見てるじゃないか。

だが俺はシカトしよう。



「この棒がただの棒じゃなくなってたのが分かって良かったよ。今後も愛用していくさ。」

シカトしたからか悲しそうな顔をしているじゃないか。

しかし俺はシカトしよう。



キュートちゃんのおかげか、その日の夜は何事もなく過ぎていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...