上 下
35 / 123
第2章 新しい道

035 元勇者と出発

しおりを挟む
「行先は決まったのだな!それじゃあみんなを送るのだ!」

みんなで今後のことを話していたら、どこからともなくルンが現れた。

もちろんキュートちゃんも一緒だ。

「皆様、おはようございます。」

おお、なんて見事なカーテシーなんだ⋯

ドレスを着てないのに完璧だぞキュートちゃん。



「決まったよ。ディゼスタ王国まで送ってもらいたい。」

ええい!朝から俺の亀様にぶら下がろうとするでない!

俺はルンをヒョイっと捕まえ肩に乗せる。

「わかったのだ!キュートちゃんも一緒に連れてっていいのだ!よろしく頼むのだ!」

「おほほ、嫌ですわルン様。ワタクシはエリーですわ。」

まだ名前は諦めてなかったのか。

もうキュートちゃんなんだ君は、早く認めて楽になりなさい。

でもその喋り方は気持ち悪いぞ。



「今からでも大丈夫なんだが、どうやって送り届けてくれるんだ?」

肩にいるルンに問い掛ける。

「その2本並んだ大きな木があるのだ!そこをまっすぐ進むと、ディゼスタ王国の近くの森の出口と繋げておいたのだ!」

そんなことができるのか。

普通にすごいぞ神獣。

「ルンは凄いな。ただ燃費が悪すぎる。」

ルンの小さい頭を指先で撫でてやる。

「ふはは、我は凄いのだ!燃費が悪いのはそれだけ大変ということなのだ!だからまた別荘で遊んでもらわないとなのだ!」

またあれをやるのか⋯

大運動会だな。

「今度は私も一緒にリスになりたいです!」

やめとけケイト。

俺とルンの大運動会に来たら卒倒するぞ。



「みんな、もうディゼスタ王国に行けるみたいだ。準備はいいか?」

俺はみんなを見渡した。

不安そうな顔をしているものは居なかった。

いや、1人だけおかしなのが⋯

なんでミュアはこんな時でも俺を挑発するんだろうか。

俺に逆らわないんじゃなかったのか?

その目と行為は別なのか?

今日は胸⋯見える!見えちゃうから!

くっ、やっぱり見えない⋯

おのれエルフ⋯

やっぱり最初に帰したかったよ⋯



「それじゃあ出発だ。行こう!」

「「「「「はいっ!」」」」」

全員いい返事だ。

「さぁ、キュートちゃん。淑女らしく参りましょう。」

「⋯⋯⋯⋯はいっ!」

なんだその間は。

しっかりしてくれないと講座で時間取られたらたまらんぞ。



俺たちとキュートちゃんはルンに別れを告げた。

「ルン、しばらく寂しいだろうが我慢してくれ。」

「大丈夫なのだ!昨日も我慢が得意と言ったのだ!次にくるのを楽しみにしてるのだ~!」

「じゃあまたな。」

ルンは肩から降り⋯る前に1度俺の亀様にぶら下がってから降りた。

好きだなこのエロリスは⋯



湖からはキートゥが顔を出していた。

キートゥ、また来るな。

俺たちに別れの挨拶はいらないさ。

男ってそんなもんだろ?知らんけど⋯



しばしの別れを済ませた俺たちは木の間をくぐり森を抜けた。

森を抜けた先にあったのは⋯



「ここは⋯?リーシャ、ここはどの辺かわかるか?王都には近いのか?」

俺達が目にしたのは大きな街道だった。

「あそこに見える山がおそらくディーズ山です。なのでここはディゼスタ王国で間違いありません。そしてこの街道を進めば王都に着くはずです。」

なるほど、ここは王都へ続く主要な街道と言うわけだ。

「ここからどのくらいかかるかわかるか?」

「徒歩で来たことはありませんので正確には分かりかねますが⋯馬車でも一日はかかると思います。」

途中で野営になるかもしれないが何とかなるだろう。

村や街があれば寄ればいい。

まずはこのマントの集団が怪しすぎるからな。

俺は自分のマントも出し羽織っておく。

「なんでアーク様もマントを?」

ケイト、いい質問だぞ。

「俺だけしてなかったら尚更怪しいだろ。あと少しでマント生活も終わりだからな。しばらく我慢してくれ。」

みな少しホッとした表情になる。

「ただし、まだマントなんだ。ここは森じゃない。くれぐれも慎重に行動してくれよ。」

特にケイト、本当に気をつけてくれ。

言わないが目で訴えておいた。

顔を赤くしているな。

恥じらってる所も可愛いぞ。



「山の方へ向かって歩けばいいのか?」

「はい、そちらが王都方面になります。」

「じゃあみんな行こう。何かあったら直ぐに知らせるんだぞ。」

全員頷いたので王都方面へ歩き始めた。

「キュートちゃんは⋯珍しい動物だが話さなければ問題ないだろう。人がいる所では話さないように気をつけてくれ。」

「かしこまりましたわ。」

しっかり躾がなされているが⋯やはり気持ち悪いな。



のどかな街道をマントの集団が歩いていく。

馬車が時折横切るが、怪しい集団だと思われてるのか声をかけられることなく通り過ぎていく。

歩いている者はあまりおらず、冒険者らしき複数人のグループをたまに見かける程度だった。



「リーシャ、この街道はいつもこんな感じなのか?」

「私はあまり城から出ないので⋯たまに視察に行く時に使いますが、その時はこのような感じだったと思います。」

そんなに往来が多いわけじゃないんだな。

もしかしたら街があるのかもしれない。

その街と王都への行き来が頻繁な可能性もあるな。

王都に行く前に服装を何とかできるのは嬉しいかもな。



「それより街か王都に入る際に検査があるだろう。身分を問われる可能性もあるが、格好が格好だ。全員奴隷ということにしてもいいか?俺は冒険者カードがあるが、みんなは何も無いからな。」

「その方が簡単に入れる可能性があるわね。」

ミュアが同意してくれた。

他のメンバーも同様に頷いていた。

「それに⋯私は既にあなたの奴隷よ。ご・主・人・様。」

こんなところでぶっ込んでくるんじゃない。

心臓に悪いエルフだ⋯

奴隷用の首輪でもつけてしまおうか。



「リーシャこの先に街があるかどうかは覚えてるか?」

「位置関係は把握できませんが、街はあります。ただこの先にあるのかどうかは定かでなくて⋯申し訳ございません。」

リーシャは自領なのに不確かな情報しか話せないことに落ち込んでしまった。

「仕方ないさ。王女がそこまで地理に詳しくてもおかしな話だ。最悪このまま王都に入るかもだが、その時はその時考えよう。」

俺達はなるべく目立たないように街道ん進んだ。



今日は野営になるか考え始めた時、遠くに街を囲む外壁が見えてきた。

「リーシャ、あれは王都ではなくて途中の街か?」

「はい、王都ではないです。あの外壁は王都に一番近い街になります。街の名はニバダルです。」

良かったな、これで王都に行く時は怪しまれずに済みそうだ。

「みんな、久しぶりにベットで寝れるぞ!あと少し頑張ろう!」

うん、みんな表情が明るくなったな。

「アーク様、私たちはお金が無いのですか⋯」

ハーリルが心配になったのか不安な顔に戻った。

「金なんか気にするな。俺が払うに決まっているだろ。こう見えても使い切れないほど持っているんだ。」

「しかし⋯全てを持ってもらうなんて⋯」

真面目だなハーリルは。

ここは身体で返せとか言うべき⋯やめとこう。

そんなことしたらエルフに何をされるかわからん。

下手したら俺がヤられる⋯

「じゃあ後で返してくれればいいさ。だから今は気にするな。わかったな?」

「は、はい、そうさせてもらいます!」

何とか納得してくれたか。



街まであと少しだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

刀鍛冶の俺、勇者ギルドを追放されたので好きなだけ剣を作ろうと思います。〜別に追放するのはいいですが伝説の剣を作ったのは俺ですよ?〜

ヒロアキ コウダイ
ファンタジー
『もっと良い刀鍛冶見つけたからお前いらねぇわ』 『え?』 伝説の剣を代々作り上げてきた刀鍛冶家系生まれの青年 テツノ・ツルギ。 ある日勇者ギルドからクビを言い渡される。 (つまり狭っ苦しい工房での毎日残業から抜け出せるって事!?) ウッキウキで勇者ギルドを抜けたツルギだったが、生活費がないので剣のお店を開いて世界をめぐる旅に出る事に! 勇者の剣が折れたって?知らんがな 俺は好きな剣を作って売って生きていきます。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...