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第1章 迷いの森

021 元勇者と亀と兎とリスとレッパン

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「ここが神獣のいる湖なのか?」

俺達は湖の畔にまで歩いてきた。

「とっても綺麗な湖ですね!それにとても大きい⋯」

本当に大きいな。

ケイトよ、言ったばかりなのにはしゃがないでくれ。

先程のこんにちはの破壊力は、星々が砕けるほどの威力を秘めていたような気がする。

いや、そっちの話では無い。

今はケイトのビッグバンを見てる場合ではないんだ。

湖だ。

底が見えるほど澄んだ水をしている。

森の中の安らぎの場所になっているようだ。

魔物はおらず、動植物が湖の周りに見える。

穏やかな時間がそこには流れていた。



「アーク様、亀です!」

ハーリル?

か、亀だと?今の俺の亀様はご出陣されてない。

今は下着という甲羅に引きこもってるはずだ。

そんな風に注意を引く声を出したら、みんなが俺の亀様を見てしまうじゃないか。

待つんだみんな、誤解だ、俺の亀様は⋯

ん?みんなはどこを見てるんだ?



みんなの視線の先を見てみる。

おっと、本当にあそこに亀がいたな。

俺の亀様は⋯無事だ、こちらも穏やかだ。

岸に上がってきたな。

なかなかの大きさの亀だ。

まさかあの亀が神獣なのか?

あの亀の頭のフォルム⋯確実に仲良くなれるだろう。

もし本当に神獣ならば、毎晩可愛がれそうだ。

ただ⋯朝は虚しいんだろうな⋯



「今度はうさぎちゃんです。可愛い⋯」

リーシャは可愛い動物がすきなのか。

動物が好きな子は⋯心が綺麗なんだろうな。

なんだ?森からたくさんの兎が亀に近づいてきたぞ?

「え、なんでうさぎちゃんが亀さんを?ひどい⋯」

まて、なぜこんな穏やかな雰囲気の場所で動物同士が争いを?

しかも一方的に兎が亀を攻撃しているように見えるぞ。

いじめにしか見えないな、これは助けた方がいいのか?

神獣ならば助けない訳にはいかない。

しかし、もし兎の方が神獣ならばどうする?

気に入られない可能性がある。

そうしたらこの森から一生出れないではないか。

悩む、これは悩むぞ⋯

「アーク様、どうしたらいいのでしょうか⋯」

どうって⋯どちらも魔物ではないんだ。

野生動物の営みに俺が手を出すのもな⋯

しかし一方的過ぎるのもおかしな話だ。

亀を助けよう。

亀の頭はお友達だからな!



「ほらほら、兎達は森に帰れ。」

俺はしっしっと手を振りながら近づいて行く。

人を見た兎は、驚いたのか一目散に森に帰って行った。

「大丈夫か亀さん。怪我はないか?」

回復魔法でもかけてやるか⋯ヒーリング。

これで怪我があったとしても大丈夫だな。

回復魔法を受けた亀はそのまま湖へと帰って行った。

それを見送る俺達。

しばらくそれを見ていた。

何か起きると信じて俺はそれを見送っていた。



ん?もしかして本当になんにもないの?

え?なにこれ?ただの兎と亀の湖の日常の一幕なの?

みんなも亀が去っていった湖を見てポカーンとしている。

「わははははは、お前らこんなところで何をしているのだ!」

不意に後ろから声を掛けられた。

なんだと?気配すら感じなかった⋯

「あの亀は湖の主なんだぞ!お前らが助けんでも兎なんぞ一捻りだな!」

俺達は一斉に振り向く。

俺は恐怖を感じた。

今まで俺の警戒網をくぐり抜けた存在なんて居なかったからだ。

あれ?誰も⋯いない?んー?

「どこを見ておる!ここだ!下を見ろ!」

下?確かに声は下から聞こえるような。

「ほれ!ここだ!よく見ろ!」



リ⋯ス?

「きゃあ!リスさん!可愛いです!」

リーシャが飛びつくかの勢いでリスに近づこうとする。

俺は警戒している為、リーシャの腰に腕を搦めその動きを止めた。

腰に腕を回し後ろから抱きしめるような体勢に⋯

「まぁ、アーク様、皆様が見てらっしゃいます⋯そういうのは2人きりの時に⋯」

両頬に手を添えて恥じらうんじゃない。

ああ、正面からその仕草と顔を見たかった⋯

「気をつけろ、言葉を話すリスなんて普通では無い。このリスこそ神獣なのかもしれない。」

俺はリーシャの耳元で声を低くし囁いた。

「あ、はぅ、そんな耳元⋯で⋯はぁ。」

なんで艶めかしい声を出すんだ。

そういうのこそ2人きりの時にしなさい。

「お前ら人間だな!この湖に何をしに来た!お気をつけください!僕の後ろへ!」



なんだ?新手か?

「レッサーパンダ!きゃわいいい!」

落ち着けリーシャ。

暴れるんじゃない、暴れたらその柔らかいおしりが俺の亀様を刺激するんだ。

「アーク様、レッサーパンダとリスです、可愛いのです。もっと近くで見たいのです!」

いつものリーシャはどこへ行ったんだ、落ち着いてくれ。

そうか、耳だ。

みんなもレッサーパンダとリスを見ているな。

俺はリーシャの耳たぶを優しく啄むように唇で何度も挟む。

「あ、は⋯うあ⋯」

耳の輪郭に沿って舌を這わす。

「アーク⋯さ、まぁ⋯」

耳の中央まで舌を這わし、そのまま耳の穴に舌先をねじ込む。



な、なぜ、アーク様、もう目の前の動物などどうでもよくなってしまいます⋯

おやめ下さい。

だめ、耳の中になど⋯

なんですかこの聞いた事のない水音は⋯

鼓膜に直接響き、脳内が溶けてきそうに⋯

「あふ、は、ふぅ、だ⋯だめぇ⋯」

舌が動く度に私の脳は溶けだして来そうです⋯

「ああ、はっはう、うぁ⋯」

な、んで速く動かすのですか⋯もうおやめください⋯

「うぅっ⋯はぁはぁ、ああっ、ふぁ⋯」

水音がどんどん激しく⋯ああ、頭が⋯

なんなのですかこの浮遊感は⋯

力が抜け⋯る⋯



よし、落ち着いたな、みんなに気づかれる前におしまいにせねば。

「お前ら、何をしているのだ!怪しすぎる!」

レッサーパンダは仁王立ちになり、両手を上げ、威嚇するように鳴いた。

その威嚇する顔とポーズは⋯

か、かわ、かわいいいいいい!

「僕の威嚇のポージングに恐れをなし、声も出せないか!下等な人間どもめ!即刻ここから立ち去れ!さもなくば⋯神獣様に仕える僕が相手をしてやろう!」

よし、この可愛いすぎるのにリーシャは反応していない⋯

むしろ倒れて⋯すまん、やりすぎた。

神獣に仕えると言ったな。

ではあのリスが神獣なのか?

イメージはもっと雄々しいのをしてたのだが⋯

リス?

見た目は関係ない。

エルフの伝承通りなら、どうにかして友好的な関係を築かねばならない。

どうする?



威嚇するレッサーパンダの前に行き、跪くミュア。

「神獣様、そして神獣のお共様。私はエルフの民です。古き盟約を果たしに来ました。」

ミュア?どういうことだ?

古き盟約だと?

聞いてないぞそんな話は⋯

「古の盟友の神獣様、ご希望通りに人間の活きのいいオスを連れて参りました。」

本当にどういうこと?



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