【第2章完結】追放勇者はどこへ行く

音無響一

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第1章 迷いの森

018 元勇者と誤解

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ふぅ、寝る直前になかなかのイレギュラーが起こったが⋯

眠るには最高のララバイだった。

アホか。

むしろ起きちゃうよ、意志を持ってるようで持ってないタートルヘッドが。

セシリアを学生と認知してなかったらやばかったかもな。

直前の会話がなければ亀様はまた、喜び勇んで出陣していただろう。

あれ?やっぱり意思は持ってるのか?

亀様の話は置いておこう。

それにしても危なかった、本当に。

でも眠れたんじゃなかろうか。

起こされる前に起きたしな。

もちろん亀様の話では無い。

さて、女達のところへ行くか。



「おはようみんな。よく寝れたよ。全員揃ってる所を見ると、大丈夫なようだ⋯な?」

何やら雰囲気が暗いが、どうした?

俺が寝ている間に何かあったのか?

返事もないし、揉めたのか?

「何かあったのか?これからの旅に支障が出るかもしれない。解決出来ることはしていきたいんだ。話せることだけでもいい、話してくれないか?」

仲良くやってくれないもんか。

解決出来ないことだったらどうしようか。



「はい⋯では私の方から⋯」

なぜ私が話さなければならないんだろうか。

まとめ役をやっているからなのだろうか。

「事の発端は⋯セシリアです。セシリアが⋯」



「セシリアが?どうしたんだ?」

すんごい溜めるな。

そんなに大きな出来事なのか?

「アーク様、なぜ我々にも名前をお教え下さらなかったのですか?なぜ、なぜセシリアにだけ教えて⋯」

え?それ?

ケイトにも教えたんだけど⋯

チラッとケイトを見ると、ケイトはなぜか膨れっ面だ。

うん、かわいい。

いやそうじゃない、なんでケイトまで怒ってるんだ?



「アーク様は仰いました、まだ誰にも教えていなかったから、私に教えると。」

最初に私に教えることを選んでくれた。

その言葉のせいか分からない。

でもなぜかそれが嬉しかった。



セシリアよ、なんかちょっとだけ違くないか?

確かにセシリアに教えたが、その言い方だと、セシリアにだけ特別だよってなるな。

これはどう弁解すればいいんだ⋯

たかが俺の名前如きで、しかも偽名なのに、本当にどうしよう。

リーシャを見る。

薄く微笑んでいるが、目が笑ってないな⋯

ハーリルはとても悲しそうだ。

セシリアは⋯なぜ勝ち誇っているんだ⋯

みんなより2歩ほど後ろにいるエルフの女は⋯まて、なぜマントの裾を持ち上げ⋯

え?見える見える、ダメだろ!

ああ、また不毛地帯が⋯

⋯み、見えない、あと少しなのに、なんでだ!

なんでエルフは今もそんな挑発的な目で俺を見てるんだ。

くっ、遊ばれてる、これもエルフの秘術なのか!

さすがにこの状況で暴れ馬が暴走することは無いが、無いのだが、くそっ!



「アーク様、今まで名前は教えられない事情があるのかと思っておりました。そうではなかったのですか?それとも、セシリア様が特別⋯そういうことなのでしょうか?」

悲しい、そして悔しい、私は特別ではなかったのですか?

あの口付けはなんだったのでしょうか。

あの熱い抱擁はなんだったのでしょうか。

私だけではなかったのですか?

他の4人の女性とも⋯そういう⋯



「待ってくれみんな。確かにセシリアには教えたが、みんなに教えないわけじゃなかったんだ。」

やばい、今度はセシリアの雰囲気が悪く⋯

くそ、こういう時にエルフの秘術を伝授してもらいたいのに⋯

なんでそこのエルフの女は今度はボタンを下だけ外して開こうとしているのか⋯

見える、見えちゃう、あと少し、あと少しなのに!

くっそ、遊ばれてる、やるなエルフ!

「その、なんというか、本当に忘れていたんだ。済まなかった。」

ここは謝ろう。素直に。

俺は腰を折り頭を下げた。

「誰が特別とかそういうのじゃないんだ。誤解させて済まない。」

チラリと女達を見る。

エルフの女以外は納得していない顔をしているな。

謝ってもダメなのか⋯なんて厳しい戦いなんだ⋯

これは勇者パーティにいた時より危険な状況だ。

勇者パーティよりもしんどいぞ⋯

力技が通用する勇者パーティは実は楽だったのか?

このメンバーに力技をするのはダメだ。

魔物と何も変わらなくなる。

どうしたらいいんだ⋯



「まぁまぁ、みんな知りたいアークの名前を知れたからいいじゃない。」

小娘達がそんなことで言い争ってるいるが、私は余裕だ。

そんなことよりもアークのモノを私は⋯

早くまた味わいたい。

私のことを見るアークの目が⋯

あの目を見るだけでゾクゾクしてしまう。

「そんなことより早く移動しましょう。みんな帰る理由があるから付いてきてるのでしょう?」



「そうだな、早く移動してしまおう。ずっとここにいる訳にはいかないからな。みんな本当に済まなかった。許してくれ。」

俺は逃げるように先を急がした。

エルフの女が横に来る。

「貸しよ。今日の夜は⋯期待しているわ。」

小声でなんてことを⋯

そしてキャラが変わってないか?



今日も北へと向かう。

まだまだ獣道しか存在しないが、それでもここがどこかも分からないので、北へと向かう。

西でも東でも南でもいいのだが、俺が北に行く予定だったのでとにかく北に向かう。

しばらく歩くとケイトがやってきた。

「アーク様⋯なんで私には教えてたのに、まだ誰にも教えてないなんて嘘をついたのですか⋯私の存在がなかったかのように感じて⋯」

な、そ、そういう風に受け取られてしまったのか⋯

これは弁解しなければ⋯

「あれはセシリアの誤解だ。俺はそんな風には言ってないんだ。だから嘘はついていない。ケイトのことをなかったなんて思うわけないじゃないか。ケイトが居なかったらみんなの靴もできなかったし、それにみんなの髪の毛を結ぶ紐だってケイトが作ってくれているだろう?ケイトが居なければこの旅はもっと過酷になってたはずだ。だからそんなことは一切思ってない。信じてくれ。」

何を捲し立てているんだ俺は⋯

「は、はいっ!分かりました。アーク様のこと、信じてましゅ!」

何故そこで噛むんだケイトよ⋯



そろそろ魔物が弱くなってきているか?

森の出口は近いとみていいのだろうか。

終わりの気配は見えないが、ここらで休憩だ。

木に寄りかかって休憩していると、エルフの女がやってきた。

「アーク、この森はおかしいわ。」

どういうことだ?

「何がおかしいって言うんだ?」

「これだけ歩いているのに一向に森を抜けられないのはおかしいと思うわ。」

確かにそれは俺も感じていたことだ。

「ここは迷いの森かもしれないわ。」

「そんな森があるのか?」

聞いたこともない森だな。



「エルフしか知らない話かもしれないわ。」

この世界のどこかに存在すると言われている森の話。

その森は神獣の支配する場所。

神獣を見つけないと森からは出ることが出来ない。

神獣は森の湖の畔に住んでいる。

神獣の信頼を得て、神獣に認められることが森を出る条件と言われている。



「それじゃあ俺たちは進んでるうちにその森に迷い込んだと言うのか?」

「その可能性があるわ。だからどっちの方向に向かうとかじゃなくて、湖を探す方がいいかもしれないわ。」

迷いの森か⋯そんな場所があるなんて。

これは⋯出れるのか?




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