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第26話 プロメテウスの私怨

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「プロメテウス。お前の探してる人物は目の前にいるぞ。」

プロメテウスは眉をひそめてシオンを見つめる。

「どういう⋯ことだ?まさかシオンが?」

シオンは大きく頷いた。

「そうだ。俺は地球から冥界に転生した。ゼウスの元を経由せずな。これが答えだろ?」

プロメテウスは今にも爆発しそうな魔力を霧散させた。

「はは、そ、そうか!シオンが!早く言ってくれよ!危うく消滅させるとこだったじゃないか!」

プロメテウスは手を叩きながら喜んでいる。

「俺はいったい何をすればいいんだ?」

「なぁに、簡単なことだ。協力してくれればいい。まずは俺に魔力を流してくれ。」

プロメテウスは道連れで冥界に転生したものにあらゆるものを仕込んでいた。

「待つのじゃシオン!」

タマモは魔力を流そうとするシオンを寸前で止めた。

「なんだよ師匠、魔力くらいいいじゃないか。」

「いいから待つのじゃ。どこにこの元神の話に信用する所があるのじゃ?ゼウスは悪なのか分からぬのじゃ。こやつの勝手な私怨をこじつけているだけの可能性もあるのじゃ。」

タマモは騙されている可能性もあると指摘する。

「でも師匠、世界をより良くするって話しじゃないか。プロメテウスは知らないうちにゼウスに抑圧され、自由ではない自由を自由と感じて、神も人も生きているのが許せないんだろ?」

タマモはプロメテウスをきつく睨みつける。

「こやつはなんと言っていたか覚えておらぬのか?復讐すると言っておったのじゃ。その私怨について全く話しておらぬのじゃ。綺麗事だけを並べて騙そうとしているように思えてならぬのじゃ。」

タマモは続けて言った。

「いいかシオン、こやつはお主を利用するだけやもしれぬのじゃ。お主の命の保証はどこにあるのじゃ?こやつに協力すればお主の目的は達成できるのか?」

シオンは悩んでしまう。本当のことであったとしても、自分の目的と合致しているかと言えばそうでは無いのだ。

プロメテウスはまた魔力を膨れ上がらせタマモに言った。

「おいおい、そこのお前は俺が嘘をついていると言いたいのか?」

タマモは荒れ狂うプロメテウスの魔力に怯むことなく言い返した。

「魔力を垂れ流して脅しか?元神は脅すことしかできんのか?暴れるか力で従わすことしか出来ないのなら、お主の言うゼウスと何が違うのじゃ?」

更に煽るタマモ。

「真の発展?真の自由?お主の言うそれは、妾達の自由を奪った上でのことなのじゃな?目的のためなら妾達の自由を奪うと言うのじゃな?それはゼウスと何が違うと言うのじゃ。ゼウスは目的の為に全ての自由を分からぬように奪っているのじゃな?お主は目的の為に力で従わすだけなのならゼウスと何が違うのじゃ?ゼウスよりタチが悪いのじゃ。」

プロメテウスは溢れ出す魔力を抑えようとせずどんどん膨れ上がらせる。

「待てプロメテウス!師匠も落ち着いてくれ!」

慌てて止めに入るシオン。

「俺が道連れで転生したことは嘘じゃないとわかったろ?だから落ち着いてくれ。俺は本当のことを話したんだ。プロメテウスもちゃんと話してくれないか?私怨が混ざっていたとしても、プロメテウスの話が本当ならゼウスは討つ方がいい。だけどただの復讐だけなら俺達も手伝うのを躊躇うな。」

プロメテウスは自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。

「ふぅ、そう⋯だな。確かに私怨もあるのは事実だ。」

ゆっくりと話し始める。

「俺は⋯ティターン族なんだ。ティターン族とオリュンポスの神々との戦いで、俺は双方を助けるために尽力した。そしてオリュンポス側につくことを選択し、ゼウスの為に働いていたんだ。」

プロメテウス声を低くし続けた。

「ゼウスはティターン族を許すと言っていた。許すと言っていたから俺は知恵を貸した。それなのに結果はどうだ⋯ティターン族もそうだし巨人族もだ。ゼウスは自分以外をなんとも思ってないんだ。」

プロメテウスは声が震え始めた。

「ティターン族は⋯もう俺しか残っていないんだ。ゼウスは確かに言った。助けると⋯嘘だったんだ何もかも。綺麗事ばかり並べているのはゼウスの方だ。結局はゼウスは全て自分だけが良ければいいと思ってるんだ。」

今も冥界で永遠に苦しんでいるティターン族と巨人族。

「俺は彼らを解放したい。冥界に囚われている同胞を助けたいんだ。冥界のシステムを変えるにはハーデスを倒すだけではダメなんだ。ゼウスに成り代わり全てのシステムを改変する必要がある。」

シオンはプロメテウスに聞く。

「ティターン族と巨人族を復活させるのか?」

「復活できるかはわからない。俺は自分の復活の為に色々していたからできたが、何もしてなければ神々がどのような形で魂が変化しているのかわからないんだ。」

シオンも冥界で仕事をしているが、魂がどうなるかは全く分からない。

「そうか。浄化に関しては分からないことが多いんだもんな。それにタルタロス内のクライム・キャニオンのこと以外何も知らないから、他で何が行われているかは全く分からない。」

プロメテウスはシオンを見つめる。

「シオン、これが俺の語れる全てだ。お前はどうしたいんだ?」

シオンはプロメテウスをしっかりと見つめ返す。

「俺は、なんで道連れで転生したのか知りたいんだ。プロメテウスのおかげでようやく自分が誰かのせいで無理やり転生したことがわかった。その謎を解くためにハーデスを倒そうと思っていたんだ。」

ハーデスを倒す。ただの転生者が考える思考とは思えずプロメテウスは驚いている。

シオンはさらに続ける。

「俺はハーデスを倒しても冥界のルールが変えられないなら天界にも乗り込んでゼウスすら倒そうと考えていたんだ。その為に修行している。今のままじゃ絶対に勝てないからな。」

ゼウスすら倒そうという目標に更に驚くプロメテウス。

「俺はな、冥界に転生して、最初に出会ったのがケルさん⋯ケルベロスだ。」

ケルベロス。冥界も天界も含め全ての存在の頂点に立つもの。その名前を聞きプロメテウスの驚きは増すばかりだ。

「俺はな、自分がなんで転生したか知りたい、地球に戻れるなら戻りたい、そして⋯ケルさんをあの冥府の門から解放してあげたいんだ。その為に必要なら俺は冥界も天界も統べてやろうと決意した。」

シオンがやろうとしてることは目的は違えどプロメテウスと同じだった。

「シオン⋯お前はなんてやつなんだ。それだけの為にハーデスもゼウスも倒そうとしてるなんてな⋯凄いじゃないか。」

シオンはタマモに向き合い問う。

「師匠。俺はプロメテウスに協力したい。最終的な目標は違うが、共闘はできるはずなんだ。だから頼む。」

タマモは目を瞑り腕を組みながら考える。

「プロメテウス、俺が協力することによるデメリットはあるのか?俺が消滅するとか、俺の目標が達成出来ないような事が起こるか?」

「消滅するなんてことは起きない。それは断言出来る。冥界に転生したものと協力することで、脱出不可能な冥界の領域を脱することができるようにしてあるんだ。冥界に転生したものは絶対にダムネッド・ディストリクトのクライム・キャニオンに送られてくることはわかっていたからな。だからこの計画は成り立ったているんだ。」

絶対という言葉が引っかかるシオン。

「それはなんでなんだ?」

「冥界の住人が最初に送られるのが、クライム・キャニオンなんだ。そこから自分の力で這い上がったり、管理する神に気に入られなければクライム・キャニオンから出ることは出来ないからな。」

「もし俺が気に入られたりしていたらどうしたんだ?」

「そんな短時間で気に入られていてクライム・キャニオンに居なかったら俺の計画は破綻していたかもしれないが、神が冥界の住人を気に入るなんてことは起きないんだ。神だろうが冥界の住人だろうが他に興味が出ないからな。冥界に存在するもの達はほとんど何も考えなくなる。それは単にやることが単調すぎるからだ。何も無い世界ほど苦痛なものは無い。冥界は亡者にとっても住人にとっても地獄なんだよ。」

タマモは立ち上がった。そしてようやく口を開いた。

「分かったのじゃ。妾はもとよりシオンに協力するつもりじゃ。シオンが協力したいというのなら、妾もプロメテウスに協力するのじゃ。」

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