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第20話 ナガーチ

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「シオンさん、タマモさん、ジルから話は聞きやした。」

休憩の交代でナガーチがやってきた。

「ありがとうナガーチ。早速だが教えて欲しいんだ。ナガーチはどんな格闘技ができるんだ?」

ナガーチは胸をどんと力強く叩いて話し出した。

「自分は元の世界では最強の戦士をしていたんですぜ!武器より素手の戦いを得意としておりやした!なんで任せてくだせぇ!」

「それは頼もしいのじゃ。その割には妾の攻撃を簡単に喰らっておったの。」

「タマモさんの速さが見えなかったんでさ!あんなの元の世界でも見たことないですぜ!」

「まぁいいのじゃ。魔法なしでの戦いならナガーチの方が強いやもしれんのじゃ。」

「素の力での戦いならいい線行くと思いますぜ!シオンさん、ジルから聞きやした!なんでも冥界て最強を目指すんだとか。微力ながら自分も協力させてもらいやすぜ!」

「お前らは俺がやろうとしてることをバカにしたりしないのか?」

「バカにするなんてとんでもないでさぁ!誰も達成したことが無い神を引き継ぐ、神継をするんですぜ!胸が高鳴るってもんでやす!」

神継。それは神と戦い、勝利したものが次の神に成り代わること。その神の能力、役割を引き継ぐことを意味する。

「神継という言葉があるのか。俺がやろうとしてることはそういうことだ。協力してくれるならありがたいよ。よろしく頼むな。」

「任せてくだせぇ!早速外でやりやしょう。シオンさんはどの程度動けるのか見せてくだせぇ!」

3人は宿舎を出てクライム・キャニオンから少し離れた所へと向かう。

「俺ができるのはこんな感じだな。」

先程見せたシャドウボクシングをし、拳を繰り出す。

「な、なんでさぁ、その殴り方は⋯そんなの見たことないですぜ。それになんて洗練された動きなんだ⋯」

「師匠にも説明したが、これは俺のいた世界のボクシングという格闘技の殴り方なんだ。」

「今のは身体強化をしてやったんで?」

「いや、今は何もせずにやったぞ。身体強化をしながらやるとだな。」

シオンは魔力による身体強化をし、また拳を繰り出す。

徐々にスピードをあげて行く。音速を超える拳の動きに変化があった。

後方にある壁に打撃跡が出来る。破壊音がシオンが拳を繰り出す度に鳴っているのだ。

「待つのじゃシオン!1度止まるのじゃ!」

「なんだよ師匠。いい感じに動けてたと思うぞ?」

「あそこを見てみい。お主の拳速が早すぎて衝撃波が出ておったのじゃ。」

「ん?ドカドカ音が鳴ってたのは俺のせいなのか?」

「す、凄すぎますぜ!身体強化する前も動きが良かったんですが、してからはもうとんでもないでさぁ。あんなの目の前でされたら、俺なんてすぐやられちまいますぜ。」

「お主は格闘技をやった事がなかったと言うのは本当なのか怪しいのじゃ。」

「本当なんだよ。ただ俺のいた世界では色んな格闘技を見る機会も多くてな。それを俺もよく見ていたんだよ。」

「色んなじゃと?他には何があるのじゃ?」

「プロレス、柔道、空手、なんてものをたまに見てたな。柔道は少しだけ習ったことはあるが、学校でやるレベルだぞ。あんなの格闘技を習ったとは言わないからな。」

「それならその柔道とやらを見せてみるのじゃ。」

「本当に少しだぞ?柔道ってのは投げ技と関節技と絞め技に特化した格闘技なんだ。」

「なんじゃその格闘技は。そんなので相手を倒せるのか?」

「まぁ見てな。ナガーチ、少し協力してくれないか?1人では披露するのが難しいんだ。」

「わかりやした!自分はどうすればよろしいんで?」

「まずは投げ技、そこから関節技、絞め技を披露していくな。」

シオンとナガーチは向かい合う。

ナガーチは身長190もある。髪の毛は赤く短髪で逆立っている。筋骨隆々でいかにも肉弾戦が得意と言った風体だ。

「ではまずは投げ技だ、受け身を取らないと痛いかもしれないから気をつけてくれよな。」

「ははは、これでも元の世界じゃ最強と言われてたんでさ!受け身くらい大丈夫ですぜ!」

「それなら大丈夫だな。まずは一本背負いという投げ方だ。いくぞ!」

シオンはナガーチの右腕を左手で取る。

すかさず身体を捻りナガーチの懐に入る。

自分の右腕をナガーチの脇近くから通し腕を掴む。

膝を曲げながら移動したので膝のバネを利用し腰から背中を相手に密着させ、前のめりになりながら投げる。

ナガーチは一回転し地面に背中から叩きつけられる。

「ぐはぁ!」

「受け身を取らないとダメって言ったじゃないか。次は関節技だぞ。」

ナガーチの右手を掴んだままシオンは関節技に移る。

シオンも倒れ込み両足の間にナガーチの右腕を入れ、両足でナガーチの体が動かないように覆いかぶせ、腕関節を極めた。

「これが腕ひしぎ十時固めって言う関節技だ。このまま骨を折ることもできるな。」

「や、やめてくだせぇ!いてででででで!」

「情けない声をだすんじゃないのじゃ!シオン、へし折ってやるのじゃ!」

「いやいや、治療するのは俺なんだから折る必要もないだろ。最後は絞め技だな。絞め技は危険でな、相手の意識を落とす技なんだ。無理に技をかけ続けると、死ぬ技だから少しだけな。」

「そ、そんな危険な技を?や、やめてくだせぇ!」

「見てみたいから受けるのじゃ!やれシオン!」

「軽くやるから大丈夫だって。三角絞めって言われるやつをやるな。」

逃げようとするナガーチを引き込んで2人で倒れ込んだ。

ナガーチの右腕取り、右腕と顔を股間まで引き込む。

シオンの右足を首に回す。

右足の足首に左足のふくらはぎ辺りで引っ掛ける。

「この姿勢のまま力を入れると⋯」

ナガーチの顔が一瞬にして真っ青になる。

「あ、やばいな。」

すぐさま力を抜き解く。

「し、死ぬかと思いやした⋯」

「やりすぎたか⋯ヒール!」

顔面蒼白だったナガーチの顔色が良くなった。

「あ、ありがとうございやす。しかし危険な技でやすね。あれを本気でやられたら一瞬で死ねやすよ。」

「すまんすまん。俺もやるのは初めてでな。少し加減が分からなかったんだ。」

驚くナガーチとタマモ。

「初めてであんなふうに出来るもんなのじゃな⋯お主のいた世界はいったいどうなっておるのじゃ?」

「どうって言われてもなぁ。魔法の方が色々反則だぞ?俺のいた世界で身体強化なんてしてみろ。誰も敵わないからな。ただ俺のいた世界は、魔法がない代わりに兵器が進化して行ったんだよ。あの俺がつけたクレーターあるだろ?あんなのが比じゃない爆撃ができる兵器があるんだよ。使ったら都市ごと吹っ飛ぶような危険な兵器がな。」

想像できないナガーチとタマモ。2人で顔を見合わせ首を捻る。

「お主のいた世界はなんなのじゃ?魔法より危険な兵器なんぞ聞いたことがないのじゃ。」

「俺のいた世界は魔法じゃなくて科学って言う学問が発展していったんだよ。魔法がないから色んな学問が発展したんだ。魔法で飛ぶことも出来るかもしれないが、俺のいた世界は飛行機とかヘリコプターと言って、誰でも空を飛べる乗り物が存在したんだよ。」

「な、なんじゃそれは。そんなこと可能なのか?信じられないのじゃ。」

タマモもナガーチも驚いている。空を飛ぶということは魔法が主体の世界では難しいことになるのだ。

「それが科学という学問なんだよ。科学以外の学問もあるんだけどな。そうやって色んなこと研究して発展した世界なんだ。電気って言うものが便利でな。スイッチを押すだけで明かりがついたり、暖かくなったり涼しくなったり、お湯を沸かすことも出来るし、火も使えるんだ。魔法より便利と言えば便利な世界だったぞ。」

「聞けば聞くほど不思議な世界なのじゃ。妾もその世界に行ってみたいのじゃ!」

「自分も行ってみたいでやす!」

「機会があれば俺も戻りたいよ。天界も俺が覇権を取れば、どうにかなるならいいんだけどな。」

「そうなのじゃ。お主が全ての頂点に立てばやりたい放題なのじゃ!だから協力は惜しまないのじゃ!」

「自分も協力するんでさ!なんで自分もお供に加えてくだせぇ!」

目を輝かかせて迫ってくる2人。

「おいおい、今すぐは無理だろうからな。格闘技の修行を頼むよ。出来ないことの方が多いんだ。ナガーチの知ってることを教えてくれよな。」

「あんまり教えることもなさそうでやすが、自分のやってたことを教えていきやすぜ!」

「ナガーチ、お主をお供に加えるのはいいのじゃが、その強さでは足手まといなのじゃ。お主も強くなるんじゃぞ?なんせ相手は神々なのじゃ。生半可な強さじゃ瞬殺されるのが落ちなのじゃ。」

先程の絞め技を喰らった時のように顔を青ざめさせるナガーチ。

「や、やっぱりやめておくでありやす⋯自分は魔力が少ないんでさぁ。これ以上強くなるのは難しいんでありやす。」

「それはやってみないと分からないんじゃないか?ほら、俺の魔力を流してみたらタマモみたいに強くなるんじゃないか?ほら、これでどうだ?」

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