3 / 4
*** 小鳥と触手 ***
1
しおりを挟む魔王さまが暮らす魔王城。
その周辺は常に、不気味な黒雲に覆われている。
なので俺が身を置かせてもらっている部屋の小窓からは、毎日代わり映えの無いどんよりとした景色しか見ることが出来ない。
いや、景色というか雲オンリー?
たまに伝書鳩ならぬ伝書係の魔物が空を飛ぶのを眺めるくらいだし。
だがごくまれに、迷い込んでしまった鳥が魔王城のそばに近寄って来ることもある。
最初にそれを見た時はちょっと嬉しかった。
異世界に来て初めてまともな、魔物以外の生き物を目にしたからね。
(あの鳥を部屋で飼えないかなぁ……魔王さま、許可してくれるかな?)
そう思った次の瞬間、鳥は消えていた。
正確に言うと鳥は『何か』にその姿が覆われた為、見えなくなったのだ。
ピーッ ピチューッ
悲鳴をあげ必死に羽根を動かす小鳥。
それを鷲掴むように捕らえていたのは、よく見ればドロドロとした触手だった。
しかもそれは……つぎはぎだらけな俺の身体(腹部)から飛び出し、窓ガラスを通り抜けて魔王城の外へと伸びている。
え?
と思う暇もなく触手は鳥を掴んだままシュルシュルと縮み、本体(俺)に戻ってきた。
その際、窓ガラスはやはり抵抗無く通り抜け。
一体どうなってんだ、これ。
いやそれよりも、
俺の意思で動いた訳ではない触手。
容赦の無い強い力で握り締められ、血を流す小さな鳥は……恐らくもう助からないだろう。
だけどバケモノとなった自分の身体が、腐った腹部の肉の塊に突如大きな穴を作りそこへ触手が捕まえた小鳥を放り込もうと、喰おうとしているのだと気付いた時――
「嫌、だ……殺さな、い……食べ、な」
「でしたら制御なさい」
「え……?」
俺しか居ない筈の部屋に、何者かの声が響いた。
振り向くことさえ容易には出来ない身体。
だけど触手は、簡単に小鳥を捕まえ腹の中に放り込んでしまう。
「あ……嘘……」
「意識を自分の中に向けなさい。『喰う』のではなく『捕らえる』ことを考えるんです。早く!」
何者かの声に従い、意識を集中させる。
目を閉じれば真っ暗な闇に、小さな光が消えようとしていた。とっさに手を伸ばし光を掴まえ、かき抱く。
と、そのまま吸い込まれるようにスーッと胸の中に入り込んだ、それ。
(チチュッ ピュイ ピピッ?)
俺の中で、小鳥の形をした光が不思議そうに鳴いた。そこにはもう痛みも苦しみも含まれてはいなかった。
「ああ、どうやら上手くいったようですね。ふむ、なるほど今回のオモチャは元人間にしては優秀なようです。これなら魔王さまも多少は楽しめるでしょう」
「……え、あ……の?」
ビチャッ ブシュウゥッ
直後、何かが潰れて飛び散るような音が聞こえたけれど。
それがさっき見た(俺の身体の一部である)触手の無惨な状況を物語っていたとは。
声の主が俺の視界に入り、粉々になった触手の残骸を見せてくれるまで、本人全く気が付きませんでした。
ちなみに、触手がいきなり襲ってきたので破壊したそうです。
うーん。
こんな時、痛覚が無い身体ってのは便利なんだか不便なのかよく分からないよね。
多分、自分が殺されたとしても気が付かないんじゃないかなぁ……なんて。
あ、一応笑うとこだから、ここ。
.
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
総受けなんか、なりたくない!!
はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。
イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…?
どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが
今ここに!!
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話
こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。
家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる