平凡な３６５日

回想８

２

――ぎゅううううッ



「もう辛抱たまりませんー！　女吸血鬼さんマジ良い匂い、すんげー美肌。清純な愛らしさと魔性のエロさが同居してるとか何これ、いまだかつて有り得ないとんでもねー破壊力。
よく分からないけど、もう震えたり怖がらなくても大丈夫。俺が海より深く愛してあげちゃうからねー！」

「はあ？　うわっ馬鹿やめろ放せテメ！」


ち、ちょっと待て、どうしたんだこの変態眼鏡。
いきなり腰に腕を回され力一杯抱きしめられているんだが。異常に鼻息は荒いし顔真っ赤だし言ってること意味不明だし。
変な病気の発作か？

俺がやっと台詞を言い終えて離れようとしたのに。
もしや「よくも気持ち悪い思いをさせてくれたな、お前にも仕返しだ！」ってことか、これ。
くっ、まさか報復されるとは……だけどこいつの首に腕を回したのは台詞の書かれた紙を客席にバレないように見るためで。
読み終わる寸前、こっちだって気色悪さを我慢出来ずに体が震えだしたくらいだぞ。痛み分けってことで勘弁しろよ。
そもそも女装しているとはいえ男に密着され、あげく顔に口をつけられたんだ。普通は一刻も早く離れて消毒したくなるんじゃねーのかよ。
ついでに「海より深い愛」って何のこっちゃ。
とにかく離れろ、この変態めーがーねー！
（※焦りから、同性愛が蔓延する学園の特色等をド忘れ中）


「ひっ！？」


おい、どこ撫でてやがる。
勝手に俺に触るな、つか揉むな。
くそっ痛えよ鷲掴むんじゃねー。

げ、しかも大丈夫かよこいつ興奮し過ぎだろ。
止めろ何勝手に人の体へゴリゴリ押し付けてんだ。死ね変態！



――キイイィインッ



「うわっ！？」
「う、うるさっ」
「耳痛てぇ、な、何だぁ？」


突然鳴り響く機械的な雑音。
確か、ハウリングって言うんだっけ。
よく拡声器とかに起きやすい発振現象……だったかな。その神経に障る不快な高音が会場中に響き渡り、耳を押さえて顔を歪める客が続出する。

俺に抱きつく変態もさすがに手を緩め「え、何？」とつぶやき周囲を見ようとした、次の瞬間。


「よし確保！」
「は、何す――んぐうっ？」
「後の司会進行は任せたぞ」
「了解です」

.