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第五章
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しおりを挟む部屋の中にはやはり埜吾がいた。だが姿があるのは一人だけ。一緒にいる筈のあいつはどこだ。
俺様を見て驚き、焦った顔の埜吾に問い質(ただ)す。
「……知らない。ここにいるのは俺だけ、他には誰もいない」
「じゃあ、お前が連れて来た奴をどこへやった。お前らがこっちに向かったのは、生徒会室の窓から俺様がしっかり見てたぞ。隠すつもりか?」
「隠してない。彼は途中で別れた。温室には入ってない。そもそもここは生徒会役員専用の温室――」
「相手は誰だ、そいつの名前を言え。何故お前が担いで走ることになった?」
「……知らない。たまたま俺が何となくそうしたい気分だったから、偶然見かけた名前も顔も知らない普通の生徒を捕まえて走っただけ」
んなわけあるか。
埜吾が嘘をついてるのはバレバレだ。こいつが嘘をつくときに必ずやる癖が出ちまってる。本人は気付いていないようだが。
それにどこからか音がする。水の音か?
よく分からねぇ。温室の中だしな、空調やあちこちで定期的に散水される音が聞こえてんのか。
いや、だがこの部屋の奥から聞こえてくる気もする。向こうには何があった? 見えるのは簡易キッチンや小型冷蔵庫、それと間仕切りのアコーディオンドア……。
「おい埜吾、あっちには何がある」
「特に何も無い。あるのはトイレくらいっだから、別に見ても面白くないっ」
「本当に何も無いなら、別に俺様が見ても構わねーだろ」
俺様の腕をつかもうとする埜吾の手を振り解く。
ふと、埜吾の足元にある何かが視界に入った。
「何だこれ」
「あ、待っ」
拾い上げてみると草や砂のついた学園の制服にシャツ、靴下、下着……。まさかこれ、あいつのじゃ。
「埜吾、これはどういうことだ。お前まさか無理やり脱がせてあいつを裸に」
「違っ、それ俺の!」
ひったくるように手の中のものを奪い取られたそのときだった。
「ねぇノア、俺の服……」
部屋の奥から現れたのは俺様が予想していた通りの相手。千賀郁人だ。
だが何故かジャージ姿で、よく見れば少しサイズが大きい。こいつもしかして埜吾のジャージを着てんじゃねーだろな。
それに、シャワーでも浴びたのかタオルの下の髪は濡れているようだ。ジャージの前を大きく開けているせいで中の白シャツからは肌色と、ピンクの突起部分も透け……。
「バ、か、会長?」
「お前……」
「来るな郁人っ」
埜吾の声に驚いたのか、びくりと肩を揺らす千賀郁人。そのはずみでタオルが床に落ちた。そして。濡れた髪からの滴(しずく)が奴の白い首筋、鎖骨、その下へと伝い流れ落ちていく。
ただそれだけで。
俺様は奴に目を奪われ我を忘れそうになる。だが、今は同時に激しい怒りを覚えていた。
「ここで何をしている千賀郁人。いや、埜吾と何をしていた」
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