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夏
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タンクトップと膝丈の緩いパンツを穿いていた律は、表情を変えずに私に声をかける。
「合コン、行けば良かったのに。」
「聞いてたの?」
「聞こえた。」
頭をバリバリとかき、彼は私に近づく。
「興味ないから。」
「光が言うのも一理ある。」
「…。」
「この中ばかりいて、お前は他の人間と関わらなくてもいいのか。」
その言葉に胸が痛くなる。でも彼には言わないといけないのかもしれない。
「関わりたくないわ。」
関わりたくない。それは本心からだった。
芸術大学にいたとき、私に「友達」として近づいてきた人たちがいる。でも彼らも「私の絵には価値がない」と切り捨てていた。そんな裏切り方を二度とされたくない。
「お風呂が沸いている。入ってくれば?」
それだけ言うと、私は自分の部屋に入ろうとした。そのときぐっと背中を押され、部屋の中でつまずきそうになる。
「何?」
そのあとぐっとお腹を抱き抱えられたので、こけるのは回避された。
「…律?」
「悪かった。こけるとは思っても見なかったから。」
右手で支えられたため、少し顔を動かすと彼の右腕がイヤでも目にとまる。そこには逆十時の入れ墨があった。
「どうしたの?変な音がしたけど。」
ドアの向こうで楓の声がする。それに答えようと私は律の腕を振りきってドアを開けようとした。しかし律はそれを許さなかった。
腕の力がゆるみ、彼自らそのドアを開ける。
「律?何でここに?」
楓の声が驚きを隠せない。律も楓の表情も私からは見えなかった。
「俺が周をちょっと脅かした。驚いてこけそうになったのを支えてやっただけだ。」
「…周は?」
「別にいるが…それくらいでこいつに会う必要あるか?別にけがもないようだが。」
つっけんどんとした言いぐさだ。
「律。前から気になっていたけど、周と恋人同士なのか。」
「…今は違う。」
「じゃあ、前はそうだったのか。」
「…それは言えない。」
言えないって何?私とあなたがそういう関係だったことなんかないのに。
「律。お前は周に関わりすぎだ。他のものから見ると、えこひいきをしているように見える。他の社員を入れたくても、これでは入られない。」
すると楓よりも背の低い律が見上げて言う。
「入れられるの?この職場。」
「…は?」
だめだ。これ以上言ってはいけない。
「律。」
私は律の手を手を引く。
「中にいて。」
「周。」
律の手を引いて、半ば無理矢理部屋の中に押し込んだ。そして私は廊下にでる。見上げれば笑顔だが明らかに不機嫌な楓がいた。
「楓。私の部屋に律がいたのは偶然。」
「…周。君を連れてきたのは律だ。昔からの知り合いということで君をこの会社に入れた。でもどんな関係だったのか、僕は社長でありながら何も知らない。いったいどんな関係だったんだ。聞かせてくれないか。」
私はそれをいうのをずっとためらっていた。それは律と私のプライベートな部分を晒すようで、どうしても楓や光には言いにくかったからだ。
だけどもうこうなってしまったら言わないわけにもいかないだろう。私は彼を見上げて言う。
「大学からのつきあい。とみんなには言っているけれど、実際はもっと前から。」
持っときたにある冬の厳しい町に私たちはいた。
「あの町のことは私たちは思い出したくないから。だから何も言わなかったの。」
「…僕にも言えないのか。」
「…ごめんなさい。ただ一つ言えるのは、私たちはずっと絵を描いていたの。」
色のない雪は黒と白しかなかった。その中でも絵を描いている。雪が冷たくて手がかじかんで、それでも私たちは絵を描いた。
「一つ確かめていい?」
「何?」
「君も、律も、前科があるわけじゃないのか。」
その言葉に私は思わず吹き出した。
「それはないわ。」
「そうか。」
彼はうなずき、そして私の頭に手を乗せる。
「でも僕は君が何者でもかまわないよ。君が言えるときに、君のタイミングでいつか言ってくれることを信じている。」
「ごめんなさいね。楓。」
「いいんだ。でも一つ、ワガママを言っていいだろうか。」
「何かしら。」
「律はすぐに君の部屋からだしてくれないか。…一応、男と女だから。」
頭から手をどけると、彼は自分の部屋に戻って行ってしまった。
ごめんなさい。楓。これは言えないの。
ドアを開けて自分の部屋に入ると、絵を見てぼんやりとしている律がいた。
「煙草吸いたい。」
「ここは禁煙よ。」
「キッチン行こう。」
楓の思い通り、律はそのまま私の部屋を出ていった。
そして私もテーブルの上にある煙草を手にして、外に出て行った。
「合コン、行けば良かったのに。」
「聞いてたの?」
「聞こえた。」
頭をバリバリとかき、彼は私に近づく。
「興味ないから。」
「光が言うのも一理ある。」
「…。」
「この中ばかりいて、お前は他の人間と関わらなくてもいいのか。」
その言葉に胸が痛くなる。でも彼には言わないといけないのかもしれない。
「関わりたくないわ。」
関わりたくない。それは本心からだった。
芸術大学にいたとき、私に「友達」として近づいてきた人たちがいる。でも彼らも「私の絵には価値がない」と切り捨てていた。そんな裏切り方を二度とされたくない。
「お風呂が沸いている。入ってくれば?」
それだけ言うと、私は自分の部屋に入ろうとした。そのときぐっと背中を押され、部屋の中でつまずきそうになる。
「何?」
そのあとぐっとお腹を抱き抱えられたので、こけるのは回避された。
「…律?」
「悪かった。こけるとは思っても見なかったから。」
右手で支えられたため、少し顔を動かすと彼の右腕がイヤでも目にとまる。そこには逆十時の入れ墨があった。
「どうしたの?変な音がしたけど。」
ドアの向こうで楓の声がする。それに答えようと私は律の腕を振りきってドアを開けようとした。しかし律はそれを許さなかった。
腕の力がゆるみ、彼自らそのドアを開ける。
「律?何でここに?」
楓の声が驚きを隠せない。律も楓の表情も私からは見えなかった。
「俺が周をちょっと脅かした。驚いてこけそうになったのを支えてやっただけだ。」
「…周は?」
「別にいるが…それくらいでこいつに会う必要あるか?別にけがもないようだが。」
つっけんどんとした言いぐさだ。
「律。前から気になっていたけど、周と恋人同士なのか。」
「…今は違う。」
「じゃあ、前はそうだったのか。」
「…それは言えない。」
言えないって何?私とあなたがそういう関係だったことなんかないのに。
「律。お前は周に関わりすぎだ。他のものから見ると、えこひいきをしているように見える。他の社員を入れたくても、これでは入られない。」
すると楓よりも背の低い律が見上げて言う。
「入れられるの?この職場。」
「…は?」
だめだ。これ以上言ってはいけない。
「律。」
私は律の手を手を引く。
「中にいて。」
「周。」
律の手を引いて、半ば無理矢理部屋の中に押し込んだ。そして私は廊下にでる。見上げれば笑顔だが明らかに不機嫌な楓がいた。
「楓。私の部屋に律がいたのは偶然。」
「…周。君を連れてきたのは律だ。昔からの知り合いということで君をこの会社に入れた。でもどんな関係だったのか、僕は社長でありながら何も知らない。いったいどんな関係だったんだ。聞かせてくれないか。」
私はそれをいうのをずっとためらっていた。それは律と私のプライベートな部分を晒すようで、どうしても楓や光には言いにくかったからだ。
だけどもうこうなってしまったら言わないわけにもいかないだろう。私は彼を見上げて言う。
「大学からのつきあい。とみんなには言っているけれど、実際はもっと前から。」
持っときたにある冬の厳しい町に私たちはいた。
「あの町のことは私たちは思い出したくないから。だから何も言わなかったの。」
「…僕にも言えないのか。」
「…ごめんなさい。ただ一つ言えるのは、私たちはずっと絵を描いていたの。」
色のない雪は黒と白しかなかった。その中でも絵を描いている。雪が冷たくて手がかじかんで、それでも私たちは絵を描いた。
「一つ確かめていい?」
「何?」
「君も、律も、前科があるわけじゃないのか。」
その言葉に私は思わず吹き出した。
「それはないわ。」
「そうか。」
彼はうなずき、そして私の頭に手を乗せる。
「でも僕は君が何者でもかまわないよ。君が言えるときに、君のタイミングでいつか言ってくれることを信じている。」
「ごめんなさいね。楓。」
「いいんだ。でも一つ、ワガママを言っていいだろうか。」
「何かしら。」
「律はすぐに君の部屋からだしてくれないか。…一応、男と女だから。」
頭から手をどけると、彼は自分の部屋に戻って行ってしまった。
ごめんなさい。楓。これは言えないの。
ドアを開けて自分の部屋に入ると、絵を見てぼんやりとしている律がいた。
「煙草吸いたい。」
「ここは禁煙よ。」
「キッチン行こう。」
楓の思い通り、律はそのまま私の部屋を出ていった。
そして私もテーブルの上にある煙草を手にして、外に出て行った。
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