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栄華
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せめてものお土産にと、母親は芋を栄輝と倫子に手渡していた。こういう物くらいしか用意が出来ないのだろう。そして電車の時間があるからと栄輝は忍の運転する車で駅へ向かっていた。
「芋なんか食べるのか?」
忍はそう聞くと、栄輝は少し笑って言う。
「天ぷらにするとすごい美味いよね。」
「まぁな。」
案外料理はしているようだ。ほっとする。
「栄輝。」
信号で止まり、忍は煙草を取り出すとそれに火をつけた。
「何?」
「何のバイトをしてもかまわないが、病気だけはもらうなよ。」
「え……。」
忍は全て知っていたのだ。それで栄輝にそれを言ったのだろう。
「何で知っているの?」
「雪子がな。」
信号が青に変わって、また車を走らせる。
「俺には理解できないが、ゲイ向けの小説とか漫画が好きでな。サイトを見ていたら、お前に似ている人が居ると見せてきた。生殺しかと思った。」
「ごめん……。でも……。」
「今更やめれないんだろう。別に俺はそういうのには理解が出来ないが、お前がやりたいならそれで良い。」
すると栄輝は拳を膝の上で握って忍に言う。
「俺、ウリセンにいても別にまだ客を取ってるわけじゃなくて……そのデートをしたり飯を食べに言ったりする位なんだ。」
「それで金になるのか。」
「ならないことはないよ。あれは別に金の為じゃないし。」
「金の為じゃない?」
思い切っていってしまおう。もう「高杉組」はぼろぼろのはずだ。
「夜の店って、だいたいヤクザが絡んでる。パチンコ屋も風俗店は尚更だ。うちの店もヤクザが絡んでて。」
「……。」
「俺……姉さんがあの事件を起こしたときに居た人があの店を出入りしてるのをみたんだ。」
「倫子が乱交騒ぎを起こした相手がヤクザだったと?」
「かもしれない。だから真実が知りたいんだ。俺……姉さんとはあまり歳が離れていないから、姉さんの評判は知っている。姉さんはまたが緩いとか何とかずっと言われていたけれど、彼氏なんか作ることがなかった。遊んだって人も知らない。」
「……。」
「母さんたちが言うのが本当なのかわからない。」
「栄輝。お前が首を突っ込むことはない。」
少し怒っているようだ。煙草の灰を落とす手がせわしないからだった。
「でも……。」
「母さんたちが言うのが本当なんだ。倫子は……あぁいう形でしか男を捕まえきれないヤツなんだ。」
「だったら春樹さんもそうだって言うの?春樹さんはそんな目で見てたのかな。姉さんの言い分をずっと信じていたと思うけど。」
「人を好きになると良いところしか見えないものだ。」
忍もやけになっている。そうではないと栄輝がこの問題に首を突っ込み、倫子と同じ目に遭うことを恐れていたのだ。
「お前にその趣味がなければ、もう辞めろ。」
「……嫌だ。」
「栄輝。」
「姉さんはずっと一人で戦ってきたんだ。俺はその手助けをしたい。」
頑固なのは倫子によく似ているのだろうか。困ったように煙草を灰皿に捨てる。
そのころ、倫子と春樹は商店街の方に来ていた。観光客の大磯の通りには、八百屋や魚屋に並んで土産物屋もある。
「あぁ。チーズを買わないといけないわね。」
泉が牧場で手に入れたチーズを気に入っていたのだ。確かにそのチーズを散らしてグラタンなんかにすると、さらに濃厚になった気がする。
「泉さんは大丈夫かな。」
「え?」
「まだあの赤塚さんという人が来ているんだろう。」
泉をずっと狙っているであろう赤塚大和は、まだ「book cafe」の通勤があるらしい。その時は礼二が送迎しているようだが、それくらいであの男が諦めるだろうかと思っていたのだ。
「でも、礼二が出来ることはしてる。一緒に暮らし始めているし、それ以上は泉の意志になると思うわ。」
「泉さんは……心の底から赤塚さんを拒否できていないんだよ。」
「……。」
「何度か赤塚さんが接客をしているところへ行ったことがある。確かに手際も良いし、客あしらいも良い。商売人としては一流だ。泉さんが礼二さんに憧れを持ったように、赤塚さんも憧れの存在なのかもしれない。」
そう言われると倫子の心も痛い。伊織とネタのは同情からだったかもしれないが、政近とは違う。政近は尊敬ではなく、同じ仕事をする同士のような存在だったからだ。それが政近を拒否できない理由なのかもしれない。
「そうさせないように、礼二さんも自分を高めて欲しいね。」
「そうね。」
今日、礼二と泉は別の店舗にいる。礼二は例の問題であった店舗のヘルプへ行っているのだ。副店長を代えて、礼二はその指導へ向かわされた。
だからまた「book cafe」には泉と大和の二人が居るはずだった。何事もなければいいと心から願う。
そんな倫子の思いとは裏腹に、今日も「book cafe」の店内は腐女子が沢山いる。大和がカウンターにたち、泉が接客をしていた。軽いスキンシップがある旅にカメラを向けられる。その行動に泉はもううんざりしていたのだ。
「そうあらか様に不機嫌になるなよ。」
少し客が落ち着いて、カウンターに戻ってきた泉に大和は声をかける。久しぶりに会う泉は相変わらず小動物のように動き回って、それがとても可愛らしい。
「不機嫌にならない方がおかしいですって。私女なのに。」
「そうだな。それは俺も証明できるよ。」
嫌な言い方だな。寝たからそんなことを言うのだろうか。
その時一階から二人組の男がやってきた。女性ではないだけでhっとする。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか。」
「二人。」
「カウンター席とテーブル席ございます。」
「テーブルで。」
ラフな格好だが、恐らく仕事なのだろう。打ち合わせか何かでここにきたのだ。泉はそう思いながらおしぼりと水を用意する。
「落ち込むなよ。沢辺。」
「だって特ダネですよ。記事にすればどこだって扱ってないのに……。」
「それを記事にするなって言うのは、上からの達しだ。たぶん、どこもそれは記事に出来ないんだから。」
「何で……。」
ライターか何かだろうか。そう思いながら泉はテーブル席に水とおしぼりを置く。
「おきまりになりましたら……。」
「コーヒー二つ。」
「ブレンドで宜しいでしょうか。」
「はい。」
言葉の最中に遮られた。よっぽどウェイトレスが居るのが邪魔なのだろう。
「とりあえず次の特ダネは、役者の隠し子報道だ。だいたい小泉倫子ってのは、そこまでまだビックネームじゃない。ぽっと出たての作家だ。そんな女が学生の時に何をしたって言うのなんか、読者は興味ないだろう。」
倫子のことで争っていたのか。そう思いながらテーブルを片づける。
「中学生の時に乱交プレイをしていたなんて、別に珍しい話じゃないだろう。それにあの作家の作風を見ればそれくらいはしそうだ。想像通りって事だろう。」
その言葉に泉の手が震える。倫子をそんな風に言って欲しくなかった。そしてカウンターに戻ると、大和が泉の方を見て言う。
「泉。」
名前で呼ばれた。ここでは言って欲しくなかったのに。
「阿川です。」
「知ってるよ。お前、あまりバカなことを考えるなよ。」
「え?」
「客が何を話してようと俺らにゃ関係ねぇからな。」
そう言ってコーヒー豆を取り出して、それを挽く。
小泉倫子の特ダネを追おうとしているのだろう。だがそれが記事に出来ない。どう言うことなのかは大和も気になるところだった。なんせ、小泉倫子がいなければ今の自分だって無いのだから。
「芋なんか食べるのか?」
忍はそう聞くと、栄輝は少し笑って言う。
「天ぷらにするとすごい美味いよね。」
「まぁな。」
案外料理はしているようだ。ほっとする。
「栄輝。」
信号で止まり、忍は煙草を取り出すとそれに火をつけた。
「何?」
「何のバイトをしてもかまわないが、病気だけはもらうなよ。」
「え……。」
忍は全て知っていたのだ。それで栄輝にそれを言ったのだろう。
「何で知っているの?」
「雪子がな。」
信号が青に変わって、また車を走らせる。
「俺には理解できないが、ゲイ向けの小説とか漫画が好きでな。サイトを見ていたら、お前に似ている人が居ると見せてきた。生殺しかと思った。」
「ごめん……。でも……。」
「今更やめれないんだろう。別に俺はそういうのには理解が出来ないが、お前がやりたいならそれで良い。」
すると栄輝は拳を膝の上で握って忍に言う。
「俺、ウリセンにいても別にまだ客を取ってるわけじゃなくて……そのデートをしたり飯を食べに言ったりする位なんだ。」
「それで金になるのか。」
「ならないことはないよ。あれは別に金の為じゃないし。」
「金の為じゃない?」
思い切っていってしまおう。もう「高杉組」はぼろぼろのはずだ。
「夜の店って、だいたいヤクザが絡んでる。パチンコ屋も風俗店は尚更だ。うちの店もヤクザが絡んでて。」
「……。」
「俺……姉さんがあの事件を起こしたときに居た人があの店を出入りしてるのをみたんだ。」
「倫子が乱交騒ぎを起こした相手がヤクザだったと?」
「かもしれない。だから真実が知りたいんだ。俺……姉さんとはあまり歳が離れていないから、姉さんの評判は知っている。姉さんはまたが緩いとか何とかずっと言われていたけれど、彼氏なんか作ることがなかった。遊んだって人も知らない。」
「……。」
「母さんたちが言うのが本当なのかわからない。」
「栄輝。お前が首を突っ込むことはない。」
少し怒っているようだ。煙草の灰を落とす手がせわしないからだった。
「でも……。」
「母さんたちが言うのが本当なんだ。倫子は……あぁいう形でしか男を捕まえきれないヤツなんだ。」
「だったら春樹さんもそうだって言うの?春樹さんはそんな目で見てたのかな。姉さんの言い分をずっと信じていたと思うけど。」
「人を好きになると良いところしか見えないものだ。」
忍もやけになっている。そうではないと栄輝がこの問題に首を突っ込み、倫子と同じ目に遭うことを恐れていたのだ。
「お前にその趣味がなければ、もう辞めろ。」
「……嫌だ。」
「栄輝。」
「姉さんはずっと一人で戦ってきたんだ。俺はその手助けをしたい。」
頑固なのは倫子によく似ているのだろうか。困ったように煙草を灰皿に捨てる。
そのころ、倫子と春樹は商店街の方に来ていた。観光客の大磯の通りには、八百屋や魚屋に並んで土産物屋もある。
「あぁ。チーズを買わないといけないわね。」
泉が牧場で手に入れたチーズを気に入っていたのだ。確かにそのチーズを散らしてグラタンなんかにすると、さらに濃厚になった気がする。
「泉さんは大丈夫かな。」
「え?」
「まだあの赤塚さんという人が来ているんだろう。」
泉をずっと狙っているであろう赤塚大和は、まだ「book cafe」の通勤があるらしい。その時は礼二が送迎しているようだが、それくらいであの男が諦めるだろうかと思っていたのだ。
「でも、礼二が出来ることはしてる。一緒に暮らし始めているし、それ以上は泉の意志になると思うわ。」
「泉さんは……心の底から赤塚さんを拒否できていないんだよ。」
「……。」
「何度か赤塚さんが接客をしているところへ行ったことがある。確かに手際も良いし、客あしらいも良い。商売人としては一流だ。泉さんが礼二さんに憧れを持ったように、赤塚さんも憧れの存在なのかもしれない。」
そう言われると倫子の心も痛い。伊織とネタのは同情からだったかもしれないが、政近とは違う。政近は尊敬ではなく、同じ仕事をする同士のような存在だったからだ。それが政近を拒否できない理由なのかもしれない。
「そうさせないように、礼二さんも自分を高めて欲しいね。」
「そうね。」
今日、礼二と泉は別の店舗にいる。礼二は例の問題であった店舗のヘルプへ行っているのだ。副店長を代えて、礼二はその指導へ向かわされた。
だからまた「book cafe」には泉と大和の二人が居るはずだった。何事もなければいいと心から願う。
そんな倫子の思いとは裏腹に、今日も「book cafe」の店内は腐女子が沢山いる。大和がカウンターにたち、泉が接客をしていた。軽いスキンシップがある旅にカメラを向けられる。その行動に泉はもううんざりしていたのだ。
「そうあらか様に不機嫌になるなよ。」
少し客が落ち着いて、カウンターに戻ってきた泉に大和は声をかける。久しぶりに会う泉は相変わらず小動物のように動き回って、それがとても可愛らしい。
「不機嫌にならない方がおかしいですって。私女なのに。」
「そうだな。それは俺も証明できるよ。」
嫌な言い方だな。寝たからそんなことを言うのだろうか。
その時一階から二人組の男がやってきた。女性ではないだけでhっとする。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか。」
「二人。」
「カウンター席とテーブル席ございます。」
「テーブルで。」
ラフな格好だが、恐らく仕事なのだろう。打ち合わせか何かでここにきたのだ。泉はそう思いながらおしぼりと水を用意する。
「落ち込むなよ。沢辺。」
「だって特ダネですよ。記事にすればどこだって扱ってないのに……。」
「それを記事にするなって言うのは、上からの達しだ。たぶん、どこもそれは記事に出来ないんだから。」
「何で……。」
ライターか何かだろうか。そう思いながら泉はテーブル席に水とおしぼりを置く。
「おきまりになりましたら……。」
「コーヒー二つ。」
「ブレンドで宜しいでしょうか。」
「はい。」
言葉の最中に遮られた。よっぽどウェイトレスが居るのが邪魔なのだろう。
「とりあえず次の特ダネは、役者の隠し子報道だ。だいたい小泉倫子ってのは、そこまでまだビックネームじゃない。ぽっと出たての作家だ。そんな女が学生の時に何をしたって言うのなんか、読者は興味ないだろう。」
倫子のことで争っていたのか。そう思いながらテーブルを片づける。
「中学生の時に乱交プレイをしていたなんて、別に珍しい話じゃないだろう。それにあの作家の作風を見ればそれくらいはしそうだ。想像通りって事だろう。」
その言葉に泉の手が震える。倫子をそんな風に言って欲しくなかった。そしてカウンターに戻ると、大和が泉の方を見て言う。
「泉。」
名前で呼ばれた。ここでは言って欲しくなかったのに。
「阿川です。」
「知ってるよ。お前、あまりバカなことを考えるなよ。」
「え?」
「客が何を話してようと俺らにゃ関係ねぇからな。」
そう言ってコーヒー豆を取り出して、それを挽く。
小泉倫子の特ダネを追おうとしているのだろう。だがそれが記事に出来ない。どう言うことなのかは大和も気になるところだった。なんせ、小泉倫子がいなければ今の自分だって無いのだから。
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