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栄華
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風呂から上がると、待合いのロビーで春樹はコーヒー牛乳を買った。すると隣にやってきた栄輝もまたコーヒー牛乳を買う。
「こういうのって甘ったるいですよね。」
「まぁね。子供でも飲めるようにしているんだと思うけど。」
向こうで忍と父親が何か話しているようだ。温泉場でいったことを話し合っているのかもしれない。
「あのさ、春樹さん。」
「ん?」
「何でうちに借金があるって知ってたの。」
青田という親戚の男が言うように、小泉家には借金が沢山ある。祖父が亡くなったときに受け継いだ温泉の権利すら手放さないといけないくらい逼迫していたのだ。
「いいや。そうだろうなと思っていただけだよ。倫子は奨学金を借りて大学へ行ったと言っていた。恐らく君もそうだろう。その割には君はバイトを必死にしている。恐らく学費も生活費も実家からは当てにならないんだろう。と言うことは、大学へ行ったのもだいぶ無理をしたからだと思う。」
「探偵みたいですね。」
「そうでもないよ。こういう仕事をしていると、人間観察が趣味みたいになってしまうからね。」
忍と父の表情は深刻そうだ。その事実は表に出てはいけないことだったのに、春樹があの青柳の関係者だったとは計算外の事で、倫子のことも認めないといけなくなるだろう。
「君にも話があったんだ。」
春樹はそういってコーヒー牛乳の瓶を手にして、喫煙所へ栄輝を誘った。ここは家族連れが多いので、喫煙所は小さな個室になっている。今日はここにはあまり人が居ない方だ。少しほっとした。
「君のバイト先に「圭吾」という人が来るだろう。」
「……。」
その言葉に火をつける手が止まった。そして春樹を見上げる。
「どんな関係なの?」
春樹にそう聞くのが精一杯だった。
「大学の時の同期。」
「え?でもあの人……。」
「ヤクザだろう?主席で大学に行って、首席で卒業した。本当だったら一流の企業にも勤められるはずだ。だが家がヤクザだと言うだけで、あの男の人生は決まっていた。」
不運な男だ。自分のやりたいことも全て、家のために出来なかったらしい。
「それから「bell」の亜美さんの実家もその関係だろう。」
「系列らしいですね。」
「……圭吾さんはそっちの趣味は?」
「無いです。あの人は昔、相当こっぴどく振られたらしいんですけどそれから女を作っているという噂もないし、だから男が迫ったことがあるらしいけど玉を一つ潰されたらしいです。」
「へぇ……。」
「それくらい男の趣味はないって事ですね。」
火をつけて、春樹は煙を吐き出す。
「ここは違うところの傘下だな。」
「高杉組ですね。」
「恐らく、青柳はここの組と懇意にしていたはずだ。」
「……えぇ。でもこの組はもうがたがたですよ。」
「やはり。」
春樹は少し笑い、外を見る。
五人はそのまま旅館を出ると、池がある公園へやってきた。倫子が焼いたというその建物の跡地には、遊具がたてられている。ブランコやジャングルジムが置かれていた。
「図書館だったのにすごく活発なものが出来たんだね。」
「そうね。」
正直、ここに来ると足が震えてくる。倒れそうになっているのを倫子は必死で堪えていた。
「貴重な本もあったね。」
「祭壇に置かれてた本?」
「あぁ。少し見させてもらったよ。今は再発しているだろうけど、あの原書は貴重だ。」
春樹がそういうと母親が聞いてきた。
「本は売ってもかまわないの。貴重なものだったら高く値が付かないかしら。」
この母親はどんな気持ちで倫子が本を持ち出したのかわかっていないのだろう。だから金のことしか興味がない。その言葉が倫子の顔色を悪くした。
「コレクターという人も居ます。そういう人ならいくらでも金を払うとは思いますがね。」
「だったら春樹さんのつてで。」
「インターネットなんかで調べてみればいいですよ。それよりも……聞きたいことがあるんですよ。」
「何かしら。」
母親がそう聞くと、春樹は少し笑っていった。
「倫子さんがここで男と乱交騒ぎを起こした。そして煙草の不始末で、建物を燃やした。」
「内々にはね。ガス漏れと言うことにして置いたけれど……。本当にこの子は……。」
すると父親が母親を止める。もう春樹には全てがわかっているのだろう。むしろそのためにここにきたのだ。
「おかしいんですよね。」
「おかしい?」
「未成年が誘って乱交騒ぎをした。すると罪に問われるのは未成年の方ではないんですよね。誘われた男たちの方なんです。」
その言葉に栄輝はため息を付いていった。
「児童福祉法に触れるってことですよね。」
「よく知っているね。」
「まぁ……。」
ウリセンにいれば、歳をごまかして働こうとしている人も多い。だから免許なり、保険証のチェックは最近必須なのだ。それを言い出したのは圭吾だったが。そしてそんなことを両親の前で言えるわけがない。
「ここで相手をしていたという男は表に出ていない。悪いのは倫子だけになっているというのが不自然なんです。」
「探偵にでもなったつもり?春樹さん。そういうことに口を出すのは辞めて。全て倫子のせいにしておいた方が丸く収まるの。」
その言葉に倫子の方が母親をみる。せいにさせておいた方が良いというのは、どう言うことなのだろうか。
「え……。」
「止さないか。」
父親がたまらずに母親を止める。
「せいに?どう言うこと?」
倫子も気になって、父親に聞く。だが父親は何も言わない。そして母親は、気まずそうにその土地を見ていた。
「……もしかして……。」
忍が声を上げた。忍はあの事件の前後、父親と見たことのない男が一緒にいるところを見たことがあるのだ。それは楽しく談笑をしているとは思えないくらい、父親の顔は落ち込んでいたように思える。
そしてその会話を耳にした。
「小泉さんの娘ってわけじゃないんでしょう。相馬さんのところの子供だ。相馬さんだって元々ヤクザの女だった。それくらい目をつぶりますよ。あなた方が出て行くだけでいいんです。相馬さんにも話をしておきます。それであなた方の借金が少しは減るんですから、何の問題があるんですか。」
借金を減らす為に相馬さんの娘を誰かに預けると言うことだろうか。おかしい。相馬さんには娘は居ない。息子が二人のはずだ。確かに相馬さんの弟子と言って、無理矢理乗り込んできた女性が居たようだが、その人の話をしているのだろうか。いや、あの人は娘と言うには歳が近すぎる。
だったら誰だろう。忍は疑問を抱えたまま、その場をあとにした。
思えばそれが倫子のことだったのだろうか。勘違いをあの男がしていた。そしてあの男のことはわからない。見覚えがないと思っていた。
だが最近、その男が新聞に載っているのをみた。外交官と手を組んで、孤児の子供を外国に送っていた。そして売春宿で働かせていたのが問題になったのだ。
だがその男は捕まらない。直接関与したわけではないからだ。だがその企業のトップとして、頭を下げていたのを新聞で見た。その人の名は。
「青柳グループの……。」
忍はそうつぶやくと、父親が忍に詰め寄った。
「その名前を言うな。」
「え……。」
「もう会うことはない。あの人はもう表にでれないんだから、あとは借金だけを返せばいいんだ。」
父親は言い聞かせているように見えた。それが倫子にとって滑稽に見える。
「こういうのって甘ったるいですよね。」
「まぁね。子供でも飲めるようにしているんだと思うけど。」
向こうで忍と父親が何か話しているようだ。温泉場でいったことを話し合っているのかもしれない。
「あのさ、春樹さん。」
「ん?」
「何でうちに借金があるって知ってたの。」
青田という親戚の男が言うように、小泉家には借金が沢山ある。祖父が亡くなったときに受け継いだ温泉の権利すら手放さないといけないくらい逼迫していたのだ。
「いいや。そうだろうなと思っていただけだよ。倫子は奨学金を借りて大学へ行ったと言っていた。恐らく君もそうだろう。その割には君はバイトを必死にしている。恐らく学費も生活費も実家からは当てにならないんだろう。と言うことは、大学へ行ったのもだいぶ無理をしたからだと思う。」
「探偵みたいですね。」
「そうでもないよ。こういう仕事をしていると、人間観察が趣味みたいになってしまうからね。」
忍と父の表情は深刻そうだ。その事実は表に出てはいけないことだったのに、春樹があの青柳の関係者だったとは計算外の事で、倫子のことも認めないといけなくなるだろう。
「君にも話があったんだ。」
春樹はそういってコーヒー牛乳の瓶を手にして、喫煙所へ栄輝を誘った。ここは家族連れが多いので、喫煙所は小さな個室になっている。今日はここにはあまり人が居ない方だ。少しほっとした。
「君のバイト先に「圭吾」という人が来るだろう。」
「……。」
その言葉に火をつける手が止まった。そして春樹を見上げる。
「どんな関係なの?」
春樹にそう聞くのが精一杯だった。
「大学の時の同期。」
「え?でもあの人……。」
「ヤクザだろう?主席で大学に行って、首席で卒業した。本当だったら一流の企業にも勤められるはずだ。だが家がヤクザだと言うだけで、あの男の人生は決まっていた。」
不運な男だ。自分のやりたいことも全て、家のために出来なかったらしい。
「それから「bell」の亜美さんの実家もその関係だろう。」
「系列らしいですね。」
「……圭吾さんはそっちの趣味は?」
「無いです。あの人は昔、相当こっぴどく振られたらしいんですけどそれから女を作っているという噂もないし、だから男が迫ったことがあるらしいけど玉を一つ潰されたらしいです。」
「へぇ……。」
「それくらい男の趣味はないって事ですね。」
火をつけて、春樹は煙を吐き出す。
「ここは違うところの傘下だな。」
「高杉組ですね。」
「恐らく、青柳はここの組と懇意にしていたはずだ。」
「……えぇ。でもこの組はもうがたがたですよ。」
「やはり。」
春樹は少し笑い、外を見る。
五人はそのまま旅館を出ると、池がある公園へやってきた。倫子が焼いたというその建物の跡地には、遊具がたてられている。ブランコやジャングルジムが置かれていた。
「図書館だったのにすごく活発なものが出来たんだね。」
「そうね。」
正直、ここに来ると足が震えてくる。倒れそうになっているのを倫子は必死で堪えていた。
「貴重な本もあったね。」
「祭壇に置かれてた本?」
「あぁ。少し見させてもらったよ。今は再発しているだろうけど、あの原書は貴重だ。」
春樹がそういうと母親が聞いてきた。
「本は売ってもかまわないの。貴重なものだったら高く値が付かないかしら。」
この母親はどんな気持ちで倫子が本を持ち出したのかわかっていないのだろう。だから金のことしか興味がない。その言葉が倫子の顔色を悪くした。
「コレクターという人も居ます。そういう人ならいくらでも金を払うとは思いますがね。」
「だったら春樹さんのつてで。」
「インターネットなんかで調べてみればいいですよ。それよりも……聞きたいことがあるんですよ。」
「何かしら。」
母親がそう聞くと、春樹は少し笑っていった。
「倫子さんがここで男と乱交騒ぎを起こした。そして煙草の不始末で、建物を燃やした。」
「内々にはね。ガス漏れと言うことにして置いたけれど……。本当にこの子は……。」
すると父親が母親を止める。もう春樹には全てがわかっているのだろう。むしろそのためにここにきたのだ。
「おかしいんですよね。」
「おかしい?」
「未成年が誘って乱交騒ぎをした。すると罪に問われるのは未成年の方ではないんですよね。誘われた男たちの方なんです。」
その言葉に栄輝はため息を付いていった。
「児童福祉法に触れるってことですよね。」
「よく知っているね。」
「まぁ……。」
ウリセンにいれば、歳をごまかして働こうとしている人も多い。だから免許なり、保険証のチェックは最近必須なのだ。それを言い出したのは圭吾だったが。そしてそんなことを両親の前で言えるわけがない。
「ここで相手をしていたという男は表に出ていない。悪いのは倫子だけになっているというのが不自然なんです。」
「探偵にでもなったつもり?春樹さん。そういうことに口を出すのは辞めて。全て倫子のせいにしておいた方が丸く収まるの。」
その言葉に倫子の方が母親をみる。せいにさせておいた方が良いというのは、どう言うことなのだろうか。
「え……。」
「止さないか。」
父親がたまらずに母親を止める。
「せいに?どう言うこと?」
倫子も気になって、父親に聞く。だが父親は何も言わない。そして母親は、気まずそうにその土地を見ていた。
「……もしかして……。」
忍が声を上げた。忍はあの事件の前後、父親と見たことのない男が一緒にいるところを見たことがあるのだ。それは楽しく談笑をしているとは思えないくらい、父親の顔は落ち込んでいたように思える。
そしてその会話を耳にした。
「小泉さんの娘ってわけじゃないんでしょう。相馬さんのところの子供だ。相馬さんだって元々ヤクザの女だった。それくらい目をつぶりますよ。あなた方が出て行くだけでいいんです。相馬さんにも話をしておきます。それであなた方の借金が少しは減るんですから、何の問題があるんですか。」
借金を減らす為に相馬さんの娘を誰かに預けると言うことだろうか。おかしい。相馬さんには娘は居ない。息子が二人のはずだ。確かに相馬さんの弟子と言って、無理矢理乗り込んできた女性が居たようだが、その人の話をしているのだろうか。いや、あの人は娘と言うには歳が近すぎる。
だったら誰だろう。忍は疑問を抱えたまま、その場をあとにした。
思えばそれが倫子のことだったのだろうか。勘違いをあの男がしていた。そしてあの男のことはわからない。見覚えがないと思っていた。
だが最近、その男が新聞に載っているのをみた。外交官と手を組んで、孤児の子供を外国に送っていた。そして売春宿で働かせていたのが問題になったのだ。
だがその男は捕まらない。直接関与したわけではないからだ。だがその企業のトップとして、頭を下げていたのを新聞で見た。その人の名は。
「青柳グループの……。」
忍はそうつぶやくと、父親が忍に詰め寄った。
「その名前を言うな。」
「え……。」
「もう会うことはない。あの人はもう表にでれないんだから、あとは借金だけを返せばいいんだ。」
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