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栄華
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駅で栄輝と待ち合わせをして、倫子は春樹とともに実家へ向かう電車に乗っていた。この電車を降りると乗り換えの電車に乗る。休日のこの日は、あまり電車に人が乗っていない。座っている倫子の手が少し震えていた。
「喪服、着てきたんだね。」
春樹はそう栄輝に声をかける。
「きつくなればあっちに服もあるし、別に良いかなって。姉さんは置いてないの?」
「置いてないわ。自分のものは家を買ったときに全部持って行ったから。」
一晩泊まる予定だ。実家ではなく温泉宿を予約している。母に春樹のことを連絡をしたとき、母は「こんな日に連れて帰るなんて」とまたグチグチ文句を言われた。
「それにしても藤枝さん。よく法事の日について来ようと思いましたね。」
「こんな日じゃないとたぶん、いつまでたっても紹介してもらえないと思ってね。」
「気が早くないですか?付き合ってどれくらいでしたっけ。」
付き合うと考えると相当期間は短いだろう。それに妻が生きていたときも含まれるのだから、常識がないと言われても仕方がない。
「時間じゃないよ。君も月子さんを呼べば良かったのに。」
「俺、まだ大学生だし、大学院に行こうと思ってたし。」
「え?そうなの?」
「うん。そっちの方が製薬会社とかに行きやすくなるから。」
「製薬会社に行きたいんだ。」
「えぇ。研究室に籠もっていたい。」
思えばあまり活発ではなかったのだ。その辺が倫子と似ていると、母親が呆れたように栄輝を見ていたのを覚えている。
「春樹には時間がないのよ。」
「え?」
「歳を気にしてるのよ。早いうちに身を固めたいんですって。」
「あぁ。そうだっけ。」
栄輝とは十異常も歳が違うのだ。しかも管理職だし、そういうことを考えると仕事なのだろう。
駅について、電車を乗り換える。そして今度は四人掛けの電車に乗った。ここからは少し時間がかかる。ふと栄輝は壁に貼られているポスターに目を留めた。それは倫子が原作の映画で犯人役をした女性が、温泉のPRをしているポスターで映画とは違うさわやかな笑顔を浮かべていた。
「あの女優、綺麗だね。」
「あぁ。少し前の号で、表紙になってもらった。映画も評判が良くてソフト化したんだっけ。」
「えぇ。「白夜」ね。濡れ場もあれば、血塗れになるけれど、あの女優さんのイメージをがらっと変えたんでしょう。」
子役の頃から活躍している女優だった。だが子役からとなると、どうしても大人のイメージがつきにくい。大抵は脱いだりするものだが、それは一歩間違えればグラビアでヌードの仕事や売れなければAVに行くこともあるのだ。それでも最初の話題だけで、跡は泣かずとバズで消えていく女優がほとんどなのだろう。
この女優は成功した方だ。
「ドラマが春からあるみたいでさ。荒田先生が原作のヤツ。キーパーソンになるみたいだね。姉さんは会ったことがあるの?」
「無いわ。」
すると春樹が驚いたように言った。
「何を言っているの?会ったことがあるよ。」
「あったかしら。」
首を傾げて思い出していた。
「可愛いだけでは生き残れないって、そんなことを言っていたよ。冷や冷やした。」
毒舌にそんなことを言ったのだろう。この女優はその言葉に必死になって役を演じていた。プライドもあったのだろう。倫子がいい起爆剤になったと監督から春樹にお礼の連絡があった。
駅について、周りを見渡す。温泉と観光で成り立っている街らしい。少し離れたところに牧場があって、乗馬体験やソーセージの加工体験なども出来るらしい。休日とあって駅には多くの人が居る。少し離れたところには無料の足湯があった。
「兄さんが来ているっていっていたけど。」
栄輝は周りを見渡す。すると喪服を着ている忍を見つけて栄輝は駆け寄った。
「兄さん。待ってた?」
「あぁ。少しな。」
少し向こうからやってくるのは倫子。それからその隣には見覚えのある人が居た。それは夏頃に一度食事をしたことのある人だ。
「藤枝さん……。」
「お久しぶりです。」
驚いて声がでなかった。春樹と倫子を代わる代わる見る。倫子は気まずそうに、忍を見ていた。
「兄さん。あの……。」
「藤枝さん。奥様が居るっていっていたんですけど、別れて倫子と一緒になろうと思っているんですか。」
すると春樹は表情を変えずにいう。
「妻は亡くなったんです。年末のことでした。」
その言葉に忍は驚いたように春樹を見上げる。
「それで結婚しようと?少し早くないですか。」
「こう言うのは期間じゃないんで。」
そうだ。この男の弁は立つ。忍の一枚も二枚も上手だった。忍は心の中で舌打ちをする。そして倫子の方を見た。倫子の顔色が悪い。それはおそらく今から会うであろう両親の、特に母親の言葉を恐れているのだ。
「兄さん。雪子さんは?」
「別れたんだ。知らなかったのか。」
「え?子供も居たよね?」
「お父さんもお母さんもどうしてお前にはそんなことを言わないのか。倫子は知っていたか?」
「えぇ。家に来て聞いたわ。」
すると栄輝は口をとがらせていった。
「俺だけ何でいつも事後報告なんだろう。」
「まだ子供だからだろう。」
「俺、もう成人してるんだけど。」
「親のすねをかじっているんだから、まだ子供だろう。さっさと行くぞ。駐車料がかかる。」
観光客向けに設定されたこの駅の駐車場は、思った以上に高い。それを危惧したのだろう。
「相変わらずね。」
倫子はぼそっとそういうと、その忍の背中を見ていた。
「今日って実家に泊まるの?」
春樹はそう聞くと、倫子は首を横に振った。
「うちは狭いの。宿を取っている。同級生の家が旅館をしているから、そこに泊まりましょう。あぁ。そういえば連絡をしておかないと。栄輝。」
すると先を行く栄輝が振り向いた。
「何?」
「あなた今夜帰るの?」
「明日朝からバイトが入ってて。」
栄輝がウリセンでバイトをしているなど、言えるわけがない。それがわかって倫子はそれ以上何も聞かなかった。
「喪服、着てきたんだね。」
春樹はそう栄輝に声をかける。
「きつくなればあっちに服もあるし、別に良いかなって。姉さんは置いてないの?」
「置いてないわ。自分のものは家を買ったときに全部持って行ったから。」
一晩泊まる予定だ。実家ではなく温泉宿を予約している。母に春樹のことを連絡をしたとき、母は「こんな日に連れて帰るなんて」とまたグチグチ文句を言われた。
「それにしても藤枝さん。よく法事の日について来ようと思いましたね。」
「こんな日じゃないとたぶん、いつまでたっても紹介してもらえないと思ってね。」
「気が早くないですか?付き合ってどれくらいでしたっけ。」
付き合うと考えると相当期間は短いだろう。それに妻が生きていたときも含まれるのだから、常識がないと言われても仕方がない。
「時間じゃないよ。君も月子さんを呼べば良かったのに。」
「俺、まだ大学生だし、大学院に行こうと思ってたし。」
「え?そうなの?」
「うん。そっちの方が製薬会社とかに行きやすくなるから。」
「製薬会社に行きたいんだ。」
「えぇ。研究室に籠もっていたい。」
思えばあまり活発ではなかったのだ。その辺が倫子と似ていると、母親が呆れたように栄輝を見ていたのを覚えている。
「春樹には時間がないのよ。」
「え?」
「歳を気にしてるのよ。早いうちに身を固めたいんですって。」
「あぁ。そうだっけ。」
栄輝とは十異常も歳が違うのだ。しかも管理職だし、そういうことを考えると仕事なのだろう。
駅について、電車を乗り換える。そして今度は四人掛けの電車に乗った。ここからは少し時間がかかる。ふと栄輝は壁に貼られているポスターに目を留めた。それは倫子が原作の映画で犯人役をした女性が、温泉のPRをしているポスターで映画とは違うさわやかな笑顔を浮かべていた。
「あの女優、綺麗だね。」
「あぁ。少し前の号で、表紙になってもらった。映画も評判が良くてソフト化したんだっけ。」
「えぇ。「白夜」ね。濡れ場もあれば、血塗れになるけれど、あの女優さんのイメージをがらっと変えたんでしょう。」
子役の頃から活躍している女優だった。だが子役からとなると、どうしても大人のイメージがつきにくい。大抵は脱いだりするものだが、それは一歩間違えればグラビアでヌードの仕事や売れなければAVに行くこともあるのだ。それでも最初の話題だけで、跡は泣かずとバズで消えていく女優がほとんどなのだろう。
この女優は成功した方だ。
「ドラマが春からあるみたいでさ。荒田先生が原作のヤツ。キーパーソンになるみたいだね。姉さんは会ったことがあるの?」
「無いわ。」
すると春樹が驚いたように言った。
「何を言っているの?会ったことがあるよ。」
「あったかしら。」
首を傾げて思い出していた。
「可愛いだけでは生き残れないって、そんなことを言っていたよ。冷や冷やした。」
毒舌にそんなことを言ったのだろう。この女優はその言葉に必死になって役を演じていた。プライドもあったのだろう。倫子がいい起爆剤になったと監督から春樹にお礼の連絡があった。
駅について、周りを見渡す。温泉と観光で成り立っている街らしい。少し離れたところに牧場があって、乗馬体験やソーセージの加工体験なども出来るらしい。休日とあって駅には多くの人が居る。少し離れたところには無料の足湯があった。
「兄さんが来ているっていっていたけど。」
栄輝は周りを見渡す。すると喪服を着ている忍を見つけて栄輝は駆け寄った。
「兄さん。待ってた?」
「あぁ。少しな。」
少し向こうからやってくるのは倫子。それからその隣には見覚えのある人が居た。それは夏頃に一度食事をしたことのある人だ。
「藤枝さん……。」
「お久しぶりです。」
驚いて声がでなかった。春樹と倫子を代わる代わる見る。倫子は気まずそうに、忍を見ていた。
「兄さん。あの……。」
「藤枝さん。奥様が居るっていっていたんですけど、別れて倫子と一緒になろうと思っているんですか。」
すると春樹は表情を変えずにいう。
「妻は亡くなったんです。年末のことでした。」
その言葉に忍は驚いたように春樹を見上げる。
「それで結婚しようと?少し早くないですか。」
「こう言うのは期間じゃないんで。」
そうだ。この男の弁は立つ。忍の一枚も二枚も上手だった。忍は心の中で舌打ちをする。そして倫子の方を見た。倫子の顔色が悪い。それはおそらく今から会うであろう両親の、特に母親の言葉を恐れているのだ。
「兄さん。雪子さんは?」
「別れたんだ。知らなかったのか。」
「え?子供も居たよね?」
「お父さんもお母さんもどうしてお前にはそんなことを言わないのか。倫子は知っていたか?」
「えぇ。家に来て聞いたわ。」
すると栄輝は口をとがらせていった。
「俺だけ何でいつも事後報告なんだろう。」
「まだ子供だからだろう。」
「俺、もう成人してるんだけど。」
「親のすねをかじっているんだから、まだ子供だろう。さっさと行くぞ。駐車料がかかる。」
観光客向けに設定されたこの駅の駐車場は、思った以上に高い。それを危惧したのだろう。
「相変わらずね。」
倫子はぼそっとそういうと、その忍の背中を見ていた。
「今日って実家に泊まるの?」
春樹はそう聞くと、倫子は首を横に振った。
「うちは狭いの。宿を取っている。同級生の家が旅館をしているから、そこに泊まりましょう。あぁ。そういえば連絡をしておかないと。栄輝。」
すると先を行く栄輝が振り向いた。
「何?」
「あなた今夜帰るの?」
「明日朝からバイトが入ってて。」
栄輝がウリセンでバイトをしているなど、言えるわけがない。それがわかって倫子はそれ以上何も聞かなかった。
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