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一室
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手を引かれて泉は大和と駅を出た。そして大和は馴れているようにその道を歩いていく。よく見ればここは大和が住んでいる街だ。路上生活者が多く、至る所にビニールテントがある。そして缶を集めるような人が居たり、ふらふらしている男が大和にぶつかりそうになったりしていた。こんなところで泉が一人で歩けるわけがない。もし歩けば、すぐに路地に連れ込まれるだろう。それくらい泉は隙だらけだった。
「こっち。」
大通りからわき道にでる。そしてさらに舗装されていない道を通っていく。あまり整備されていないその木々をくぐって、足を進めた先にあったのは、海だった。
「海……。」
塩の匂いがした。ざぁ、ざぁと音を立てて波が立っている。
「今日は風がないな。ほら、月がすごい海に映ってる。」
鏡のように月が海を照らしていた。黒い海にそれだけが光をたたえている。
「どこの海でも繋がってるだろ?ここがお前の母親の墓標なんだよ。そう思って感謝しろよ。」
「……。」
すると泉は涙を浮かべて、その場に座り込んだ。厳しい顔しか見せなかった母親。だが小さい頃はちょっとしたことでも喜んでくれたのだ。
ある日、まだ小さかった泉が仕事へ行った母親の代わりにカレーを作った。帰ってきた母親は、とても喜んでくれて頭をなでてくれた。今考えると誉められたことではない。
小さい子供が火を使った。台所も片づけながら作っているわけではない。肝心のカレーだって火が通っていなかったり、逆に通り過ぎているものもあったのに、それでも手放しで母親は喜んでくれた。
「お母さん……。」
小さな子供のように泉はその場にうずくまって泣いていた。すると肩に大和が手を置いてくる。
「……泉。あいつの代わりで良いから、こっちに……。」
すると泉はそのまま大和の体に手を伸ばした。そしてそのままその胸の中で我慢していたものを吐き出すように泣く。その様子に大和もその頭をなでた。
「今日だけは我慢するなよ。泉。」
そう言って大和はその頭に唇を寄せた。
気がつくと、泉はベッドの上に横になっていたようだ。そして話し声がする。体を起こして、周りを見渡した。どこかで見たような部屋だと思う。
そうだ。ここは大和の部屋だ。そして話し声がした。見ると、大和は携帯電話で誰かと話をしているようだった。
「あぁ……急に意識を失ったみたいになってさ。悪いな。無理させたのかも。」
意識を失った?泉は驚いて大和の方をみる。すると大和もこちらをみた。
「いいよ。迎えに来いよ。そっち終わりそう?そうか……。それまで待たせておくよ。どっちにしても終電には間に合いそうにないし。」
そう言って大和は電話を切って、ベッドに近づいてきた。
「気分悪くないか?」
「いいえ。あの……私……。」
「海を見て、お前泣いたままちょっと過呼吸みたいになったんだよ。そのまま意識が無くなってさ。」
ベッドに座ると、頭をなでた。
「悪かったな。無理をさせたかも。」
「いいえ。あの……今日は日が悪かったというのもあって。」
「日が?」
「今日……母の命日だったから。」
やはりいろんなことが重なっていたのだ。それで過呼吸になったのも何となくわかる。
「こんなのは初めてか?」
「なったことはないんです。倫子はたまにそうなるけれど……。」
「そっか……。」
それだけ強烈なことだったのだ。だが大和に言わせると贅沢だと思っていた。
「俺さ……母親が生死不明なんだよ。父親はヤクザになって、抗争で死んだけどさ。」
「……。」
「死んでるってわかるだけ、お前はまだましなのかもな。」
「そうでしたね。」
「湿っぽくなったな。お前、何か飲むか?って言ってもノンアルコールは水くらいしかねぇけど。」
気分を変えるように大和はそう言うと、ベッドから立ち上がって冷蔵庫を開けて水を取り出す。
「ほら。」
開いていないペットボトルの水を泉に手渡す。するとそれを受け取った泉は、ふたを開けた。
「店長が迎えに来るって言ってた。まだあっちの仕事終わりそうにないんだってさ。」
「そんなにごたごたした店舗だったんですか?」
「ちょっとな。副店長を変えると思う。その人選に加わってるらしい。まぁ……川村店長は、あの店舗がなきゃ、本社で人事部に欲しいって部長が言ってたな。人を見る目だけは確かだ。それだけ頼りにされてんだろうし。」
「……礼二は、店が足かせになってませんか。」
「は?」
「店舗があるから動かせないって言ってたことを聞いたんです。それをずっと気にしているようでしたから。」
「あぁ。かもな。でもあいつ、人事部で机にかじり付くよりも、店舗で店をしてた方がしっくりくるって言ってたし。断ってんだよ。その話は。」
「ってことは前にもその話が?」
「あぁ。あったって聞いてる。「book cafe」は川村店長の為に作ったような店舗だからな。居なくなりゃ、あそこはなくすって社長自ら言っているよ。」
礼二が自ら望んだことなのだ。だったら仕方ないのかもしれない。
「だから人事部の話にも加わって欲しいってことなんだろう。部長は相当熱心だし、長くなるのは目に見えてたな。」
「それがわかってやったんですか?」
「あぁ。そうでもないとお前といちゃつけねぇじゃん。」
その言葉に泉はベッドから降りようとした。だが大和がそれを止める。
「駄目。居ろよ。」
「やです。帰りたい。」
「迎えに来るって言ってたんだよ。大人しくしろよ。」
そう言って大和は押しつけるように泉を寝かせる。そして大和はその上に覆い被さるように乗り上げた。
目が合い、泉はにらむように大和を見ていた。だが大和はその頬に手を置いた。そして体をゆっくりと泉の方に倒す。
「泉。名前呼んで。」
「……。」
それでも素直ではない。少し笑って、そのまま大和は唇を重ねた。軽く触れるだけのキスをされ、泉はその目をそらせる。
「名前呼べよ。」
「呼びたくない。」
「だったら呼ぶまでするか。」
そう言って大和はまた唇を重ねる。唇を割ると、泉が答えてきた。押さえつけなくても力が入らなくなり、手をそのまま握りあう。水の音をさせて、激しく重ね合った。
「こっち。」
大通りからわき道にでる。そしてさらに舗装されていない道を通っていく。あまり整備されていないその木々をくぐって、足を進めた先にあったのは、海だった。
「海……。」
塩の匂いがした。ざぁ、ざぁと音を立てて波が立っている。
「今日は風がないな。ほら、月がすごい海に映ってる。」
鏡のように月が海を照らしていた。黒い海にそれだけが光をたたえている。
「どこの海でも繋がってるだろ?ここがお前の母親の墓標なんだよ。そう思って感謝しろよ。」
「……。」
すると泉は涙を浮かべて、その場に座り込んだ。厳しい顔しか見せなかった母親。だが小さい頃はちょっとしたことでも喜んでくれたのだ。
ある日、まだ小さかった泉が仕事へ行った母親の代わりにカレーを作った。帰ってきた母親は、とても喜んでくれて頭をなでてくれた。今考えると誉められたことではない。
小さい子供が火を使った。台所も片づけながら作っているわけではない。肝心のカレーだって火が通っていなかったり、逆に通り過ぎているものもあったのに、それでも手放しで母親は喜んでくれた。
「お母さん……。」
小さな子供のように泉はその場にうずくまって泣いていた。すると肩に大和が手を置いてくる。
「……泉。あいつの代わりで良いから、こっちに……。」
すると泉はそのまま大和の体に手を伸ばした。そしてそのままその胸の中で我慢していたものを吐き出すように泣く。その様子に大和もその頭をなでた。
「今日だけは我慢するなよ。泉。」
そう言って大和はその頭に唇を寄せた。
気がつくと、泉はベッドの上に横になっていたようだ。そして話し声がする。体を起こして、周りを見渡した。どこかで見たような部屋だと思う。
そうだ。ここは大和の部屋だ。そして話し声がした。見ると、大和は携帯電話で誰かと話をしているようだった。
「あぁ……急に意識を失ったみたいになってさ。悪いな。無理させたのかも。」
意識を失った?泉は驚いて大和の方をみる。すると大和もこちらをみた。
「いいよ。迎えに来いよ。そっち終わりそう?そうか……。それまで待たせておくよ。どっちにしても終電には間に合いそうにないし。」
そう言って大和は電話を切って、ベッドに近づいてきた。
「気分悪くないか?」
「いいえ。あの……私……。」
「海を見て、お前泣いたままちょっと過呼吸みたいになったんだよ。そのまま意識が無くなってさ。」
ベッドに座ると、頭をなでた。
「悪かったな。無理をさせたかも。」
「いいえ。あの……今日は日が悪かったというのもあって。」
「日が?」
「今日……母の命日だったから。」
やはりいろんなことが重なっていたのだ。それで過呼吸になったのも何となくわかる。
「こんなのは初めてか?」
「なったことはないんです。倫子はたまにそうなるけれど……。」
「そっか……。」
それだけ強烈なことだったのだ。だが大和に言わせると贅沢だと思っていた。
「俺さ……母親が生死不明なんだよ。父親はヤクザになって、抗争で死んだけどさ。」
「……。」
「死んでるってわかるだけ、お前はまだましなのかもな。」
「そうでしたね。」
「湿っぽくなったな。お前、何か飲むか?って言ってもノンアルコールは水くらいしかねぇけど。」
気分を変えるように大和はそう言うと、ベッドから立ち上がって冷蔵庫を開けて水を取り出す。
「ほら。」
開いていないペットボトルの水を泉に手渡す。するとそれを受け取った泉は、ふたを開けた。
「店長が迎えに来るって言ってた。まだあっちの仕事終わりそうにないんだってさ。」
「そんなにごたごたした店舗だったんですか?」
「ちょっとな。副店長を変えると思う。その人選に加わってるらしい。まぁ……川村店長は、あの店舗がなきゃ、本社で人事部に欲しいって部長が言ってたな。人を見る目だけは確かだ。それだけ頼りにされてんだろうし。」
「……礼二は、店が足かせになってませんか。」
「は?」
「店舗があるから動かせないって言ってたことを聞いたんです。それをずっと気にしているようでしたから。」
「あぁ。かもな。でもあいつ、人事部で机にかじり付くよりも、店舗で店をしてた方がしっくりくるって言ってたし。断ってんだよ。その話は。」
「ってことは前にもその話が?」
「あぁ。あったって聞いてる。「book cafe」は川村店長の為に作ったような店舗だからな。居なくなりゃ、あそこはなくすって社長自ら言っているよ。」
礼二が自ら望んだことなのだ。だったら仕方ないのかもしれない。
「だから人事部の話にも加わって欲しいってことなんだろう。部長は相当熱心だし、長くなるのは目に見えてたな。」
「それがわかってやったんですか?」
「あぁ。そうでもないとお前といちゃつけねぇじゃん。」
その言葉に泉はベッドから降りようとした。だが大和がそれを止める。
「駄目。居ろよ。」
「やです。帰りたい。」
「迎えに来るって言ってたんだよ。大人しくしろよ。」
そう言って大和は押しつけるように泉を寝かせる。そして大和はその上に覆い被さるように乗り上げた。
目が合い、泉はにらむように大和を見ていた。だが大和はその頬に手を置いた。そして体をゆっくりと泉の方に倒す。
「泉。名前呼んで。」
「……。」
それでも素直ではない。少し笑って、そのまま大和は唇を重ねた。軽く触れるだけのキスをされ、泉はその目をそらせる。
「名前呼べよ。」
「呼びたくない。」
「だったら呼ぶまでするか。」
そう言って大和はまた唇を重ねる。唇を割ると、泉が答えてきた。押さえつけなくても力が入らなくなり、手をそのまま握りあう。水の音をさせて、激しく重ね合った。
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