守るべきモノ

神崎

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海岸

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 息を切らせて泉が横たわっている横で、大和は自分の性器に付いていたコンドームをとる。そしてわざとこちらをみないようにしている泉に声をかけた。
「なぁ、見て。」
 わずかに顔を大和の方に向ける。すると大和は意地悪くその使用済みのコンドームを見せた。薄いゴムの先には、白いモノが溜まっている。
「すげぇ出た。」
「バカじゃないの。」
 嫌がってまた大和に背中を向ける。すると大和はその根本をくくると、ティッシュにくるんでゴミ箱に入れる。そして泉が横になっている尻のあたりを見た。シーツがヒドく濡れている。それは泉自身の体液だろう。
「すげぇ濡れやすいんだな。」
「知らないです。」
「あいつとするときもこんなに濡れるのか?」
 そんなことわからない。礼二しか経験がなかったから。初めてキスをしたのは伊織だったが、セックスだけは礼二としかしたことがない。
「潮、噴いたことある?」
「知らないです。」
「まぁ、潮を噴いたからって気持ちいいとは限らないけど。」
 そういって大和はベッドを降りるとそのままバスルームへ向かった。そしてまたベッドにあがってくる。
「風呂、入ろうぜ。」
「……一緒にですか?」
「今更?」
 泉はのろのろと体を起こして、大和を見る。その目には少し涙が溜まっていた。
「恋人の気分だったんですか?」
「今日一日はな。」
「明日からどんな顔をして礼二に会えばいいかわからない。礼二だってこっちに来たいって言ってたんです。なのに来れなかった。いろんな事情があると思う。なのに……私は……。」
 頬に涙がこぼれた。それを大和は拭うと、また泉の唇にキスをする。
「あいつのことを考えてみろよ。あいつ単体で行くんなら、別に今日じゃなくても良かった。なのに今日いきなり実家に帰るって言い出したんだ。」
 その言葉に泉は不思議そうに大和を見る。だがその目からはまだ涙がこぼれていた。
「何で……。」
「後ろ暗いところがあるから。」
「後ろ暗い?」
 何も知らない。まさかまた礼二の元の奥さんが何か言い出したのだろうか。いや、奥さんには接近禁止命令がでている。不用意なことで近づけない。だとしたら何なのだろう。
「知らないのか?あいつ、お前には直接言うって言ってたのに。割とヘタレなんだな。」
「……え?」
「いつかあの優男がうちの店に来ただろ?女を連れてさ。」
 優男というのは伊織のことだろう。最近伊織が店にきたのは、芦刈真矢と仕事の打ち合わせに来たときだった。
「伊織は仕事で来たと言ってました。」
「あの女と店長、不自然だと思わなかったか?」
 そういえばトイレの場所を聞いたとき、普段の礼二ならカウンターをでてトイレまで案内するはずだ。なのに礼二はカウンターから指さして、トイレの場所を告げるだけだった。それが特段おかしいとは思わなかったが、今考えれば礼二らしくない。
「何でですか?」
「やったことがあるんだろ?あの女と。」
 驚いて大和を見る。そして泉はうつむいた。そして自分の体がヒドく貧相に見える。地味な格好で、あまり自分を磨かない、身なりをきちんとしていない女性でも、胸が大きいのはわかる。それを大和が言っていたのを覚えていたからだ。
 何もかもが違いすぎる。本来あんな女性が好きなのだと言われているようで、自信がなくなる。
「……俺にはお前の方が良い女に見えるけどな。」
「私……。」
「昔の話だと思うけど。あいつ、やっぱ浮気癖があるんだろう。じゃないと……奥さんに何があっても他の女に手を出そうなんて思わないだろうし。」
「……。」
「それでもあいつがいいのか?」
 すると泉はうなづいた。その返事に大和はため息を付く。
「そんなことはずっと覚悟していたから。礼二は、倫子とも寝ているし、きっと私の知らない人とも寝てる。でもそれで嫉妬して、別れるようなものじゃないと思うんです。」
 自分に言い聞かせているようだ。だから我慢するのだと。その姿に大和はため息を付いた。
「お前、うちの母親に似てんな。」
「え?」
「俺の父親さ、AVの男優もしている監督らしいんだよ。」
 半分ヤクザだった。母親は愛人だったらしい。本妻は余所にいる。母親もまた女優だったのだ。
「メーカー立ち上げて、でも失敗して、愛人のところに金をせびりに来てたらしい。当然母親にも来た。殴られて、蹴られて、金を取られて、それでも離れられないって言ってた。」
 悪夢のような光景を、まだ三歳の大和はじっと見ていたのだ。それがどんなトラウマになっているのかわからないまま。
「……似ているんですか?」
「あぁ。バカな女だよ。それで、またAV出て、金渡して、ハードなプレイさせられて……。俺さ、小さい頃母親があえいでいる声を聞きながら、隣でAV男優の下っ端のヤツと遊んでたんだよ。姿は見えなくても声でわかるのに。」
 それから母親は、大和を残して失踪した。残された大和は施設にはいることになる。
「……そんなバカなヤツと一緒にさせたくない。泉。俺のモノになれよ。」
 すると泉は首を横に振る。バカなのだろうか。それは泉にもわからない。それでも礼二と離れたくないと思っていた。
「何で?」
「好きだから。」
 その言葉に大和はため息を付く。それでも離れられないのは母親も一緒だった。だがこのままでは泉が馬鹿を見る。それに指をくわえてのんきに見ている自分が、どれだけ惨めなのか泉にはわからないだろう。
「泉。」
「好きなんです。ずっとそばにいてくれて……これからも居てくれると思うから。」
 その言葉にため息を付く。そして座り込んでいる泉を抱き抱えた。
「風呂、入ろう。せめて今日くらいは好きにさせてくれ。」
「赤塚さん……。」
「大和って言えよ。今日くらいは。」
「……大和……。」
 すると大和はその額に唇を寄せた。そして風呂場へ行くと、意地悪そうに笑う。
「お前が店長を好きでも何でもさ。」
「え?」
「しばらくは店長と出来ないからな。」
「何でですか?」
 すると大和はその泉の胸元に指をはわせる。そしてぴたっと止めた。
「ここ。付いてるから。」
 その言葉に泉は口をとがらせた。
「なんて事をしてくれたんですか。」
「お前も付けて良いよ。」
「やです。」
「何ならもう少し付けるか。背中とか。」
 気の利いた入浴剤なんかもないし、シャンプーもボディソープも市販のモノ。それでも大和の跡が残らないようにしたかった。礼二に言いたくないことがあるように、泉にもいえないことが増えてしまったのだ。
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