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店の横で倫子は息を整える。少し呼吸が乱れていた。冷静になろう。落ち着いて。心の中でそう自分に言い聞かせる。
「……倫子。」
春樹の声がした。振り返ると倫子は少し笑った。
「そんな格好で外にでたら駄目よ。」
「顔色が悪いよ。少し座る?」
「大丈夫。」
「大丈夫に見えない。」
すると倫子はため息を付いていった。
「あなたはぜんぜん悪くないの。悪いのは自分。」
「……見たの?」
年末、春樹は家に帰ってこれなくて、本の部屋に泊まっていた。倫子はその間、掃除をしたり食事を運んでいたりしたのだ。そのとき、偶然手にした小さな冊子を手にした。それは未来と春樹の結婚式の写真だった。
白いウェディングドレスを着た未来と、ちょうどこのスーツの色と同じような色のタキシードを着た春樹が写っていた。幸せそうな未来とそれを優しく見守るような春樹の姿に、倫子はその写真をすぐにしまってみなかったことにしようと思ったのだ。
だがそんなことは出来ない。
やってきた春樹を見て、自分が動揺していた。あの姿で迎えに行くのは、自分ではなく未来のような気がしたからだ。
「ごめん。勝手に見るつもりはなかったんだけど。」
「見てしまったものは仕方ない。君にもいやな気分にさせたと思うし。」
「……動揺してた。私……。」
涙が出てきている。春樹はそれを拭うと、倫子の体を引き寄せた。
「駄目よ。こんなところで……。」
「かまわない。君をこんな気持ちにさせたのは悪かったと思うし、あれを取っておいた俺も悪かった。今度破棄しておくよ。」
「駄目。」
倫子はそういうと、春樹を見上げる。
「あなたは私のことを知って、なおかつ受け入れるっていってくれたのよ。私もそうしないとフェアじゃない。」
その言葉に春樹は驚いたようにいった。
「俺もくずだった時期はあるんだけど。それでも良いの?」
「えぇ。」
「奥さんと結婚したいきさつはくずだったと思わないか。」
「最低ね。でもそれもひっくるめないと……。良いところだけを見て、好きなんて言えないわ。」
その言葉に春樹は倫子を抱きしめた。そして倫子もその体に手を伸ばす。
その様子を純と政近はそっと見ていて、そして店に戻る。
「諦めなさいな。付け入る隙はないわ。」
すると政近は煙草を取り出そうとした。すると純はその煙草を取り上げる。
「なにすんだよ。」
「服屋で煙草なんか吸えるわけ無いでしょ?」
「……ったく……。」
渋々煙草を戻して、ため息を付いた。
「早く写真撮らせてくれないかなぁ。いちゃつくのなんか後ででも出来るだろうに。」
「あんたが諦めたらいいのよ。」
「あ?諦めねぇよ。」
「……あんた、そんなことをずっと前にも言ってたわね。人のものを取るのが好きなの、前からよね。」
「……。」
「真優の子供、会った?中学三年らしいよ。」
「会ったことねぇよ。俺の子じゃねぇし。」
「あの子の元旦那、ずっとあんたの子供だろうって言ってたけど。」
「旦那の子供じゃねぇかもしれないけど、俺の子供って確証もねぇ。真優はあの時期とっかえひっかえだったし。調べたければ勝手に調べろって言っといて。」
「あんたの子供じゃないんだ。」
純はそういって目を細める。
「何だよ。」
「でもしたんでしょ?」
「正確にはしてねぇ。オーラルだけ。」
そのとき入り口のドアが開いた。その音に二人はさっきまでの会話を終わらせた。
「どうしたの?急に出ていって。」
純はそう聞くと、倫子は言葉に詰まったように春樹を見上げた。すると春樹は少し笑っていう。
「その香水の匂いに当てられたみたいですね。」
「あら。そうだったの。さっきのお客様が派手に振っていたから、残ってたのかしらね。」
煙草も吸うし、匂いには慣れているはずだったがそう言うことにしておいた方が良かった。
少し残業をしていたから、待ち合わせの時間はちょうど良かった。伊織はそう思いながら、カフェでタブレットを見ていた。会社に帰ってポスターの修正をしたが、もう少し手を加えたかったのだ。
禁煙室でコーヒーを飲みながらタブレットを当たっていると、向かいに誰かが座ってきた。ふと見ると、底には栄輝の姿がある。
「今晩は。」
「あぁ。栄輝君だっけ。倫子の弟の。」
「えぇ。待ち合わせですか?」
「うん。倫子さんとか、他の人と食事にいこうと言われてね。」
「バレンタインデーですもんね。」
ウリセンにいるという栄輝にとっても、バレンタインデーは特別なイベントだった。
「そっちも待ち合わせじゃないの?」
「仕事上がりですよ。デートをしてて。」
「デート?」
「映画に行って、食事をして解散。」
「それも仕事なんだ。」
「別に体を使うだけが仕事じゃないですから。」
そう言って栄輝はコーヒーを口に入れる。
「あれ?それって高柳鈴音の……。」
「うん。春の限定スイーツのポスター。依頼されたんだ。」
「あぁ……うん。そうか。」
「どうしたの?」
「うーん。こんなことを言っていいのかって思うけど……高柳さんはうちの常連で。」
「え?」
本当にゲイだったと思ってなかった。驚いて、栄輝を見る。
「ストレスがたまるんでしょうね。俺には真正のゲイには、見えなかったけどなぁ。指名される人も、別に体はなくて飲みに行くくらいしかないんだけどって言ってた。」
「それって友達とかじゃ悪いのかな。」
「友達は話が漏れることがあるから、こういうところの方がいいんですよ。グチとか、悪口とか、言っても絶対本人にばれないから。」
「商売だからってこと?」
「そう言うことです。」
栄輝はそのはけ口に使われているのだろう。だから体を使わなくても良いのだ。
「それだったら女でも……例えばクラブとかの人とか。」
「キャバクラ嬢は、口が軽いですしね。あっという間に繁華街中の噂になるんですよ。うちなんかグレーゾーンじゃないですか。噂が広まったら、あそこから漏れたってすぐわかるし。」
「なるほどね。」
コーヒーを口にして、栄輝を見る。倫子にはあまり似ていないが美形だ。これはゲイの世界でももてるだろう。
「彼女がいるって言ってたっけ。」
「おかげさまでやっと大学へ行けるようになりました。でもまだ通院してますけど。」
「それは良かった。」
「やけになってた。あんなことをされたから、自分をを売り物にした仕事しか就けないって、悲観的だったし。」
「……。」
「今は目標が出来たみたいです。」
そのとき入り口から三人組の男女が入ってきた。そして伊織を見つけると、三人は近寄ってきた。
「あら。栄輝も来ていたの?」
倫子が声をかけると栄輝は少し笑って言う。
「うん。バイト終わり。」
「あなたも食事に行く?」
「食べてきたばかりなんだ。」
「だったら飲み行こうぜ。これをツマミに。」
そう言って政近は、携帯電話の画面を栄輝に見せようとした。するとそれを春樹が止める。
「やめてくださいよ。田島先生。」
その様子に倫子が笑う。朗らかに笑っているように見えるが、倫子もどこかぎこちないように見えたのは、気のせいではないと思いたい。
「……倫子。」
春樹の声がした。振り返ると倫子は少し笑った。
「そんな格好で外にでたら駄目よ。」
「顔色が悪いよ。少し座る?」
「大丈夫。」
「大丈夫に見えない。」
すると倫子はため息を付いていった。
「あなたはぜんぜん悪くないの。悪いのは自分。」
「……見たの?」
年末、春樹は家に帰ってこれなくて、本の部屋に泊まっていた。倫子はその間、掃除をしたり食事を運んでいたりしたのだ。そのとき、偶然手にした小さな冊子を手にした。それは未来と春樹の結婚式の写真だった。
白いウェディングドレスを着た未来と、ちょうどこのスーツの色と同じような色のタキシードを着た春樹が写っていた。幸せそうな未来とそれを優しく見守るような春樹の姿に、倫子はその写真をすぐにしまってみなかったことにしようと思ったのだ。
だがそんなことは出来ない。
やってきた春樹を見て、自分が動揺していた。あの姿で迎えに行くのは、自分ではなく未来のような気がしたからだ。
「ごめん。勝手に見るつもりはなかったんだけど。」
「見てしまったものは仕方ない。君にもいやな気分にさせたと思うし。」
「……動揺してた。私……。」
涙が出てきている。春樹はそれを拭うと、倫子の体を引き寄せた。
「駄目よ。こんなところで……。」
「かまわない。君をこんな気持ちにさせたのは悪かったと思うし、あれを取っておいた俺も悪かった。今度破棄しておくよ。」
「駄目。」
倫子はそういうと、春樹を見上げる。
「あなたは私のことを知って、なおかつ受け入れるっていってくれたのよ。私もそうしないとフェアじゃない。」
その言葉に春樹は驚いたようにいった。
「俺もくずだった時期はあるんだけど。それでも良いの?」
「えぇ。」
「奥さんと結婚したいきさつはくずだったと思わないか。」
「最低ね。でもそれもひっくるめないと……。良いところだけを見て、好きなんて言えないわ。」
その言葉に春樹は倫子を抱きしめた。そして倫子もその体に手を伸ばす。
その様子を純と政近はそっと見ていて、そして店に戻る。
「諦めなさいな。付け入る隙はないわ。」
すると政近は煙草を取り出そうとした。すると純はその煙草を取り上げる。
「なにすんだよ。」
「服屋で煙草なんか吸えるわけ無いでしょ?」
「……ったく……。」
渋々煙草を戻して、ため息を付いた。
「早く写真撮らせてくれないかなぁ。いちゃつくのなんか後ででも出来るだろうに。」
「あんたが諦めたらいいのよ。」
「あ?諦めねぇよ。」
「……あんた、そんなことをずっと前にも言ってたわね。人のものを取るのが好きなの、前からよね。」
「……。」
「真優の子供、会った?中学三年らしいよ。」
「会ったことねぇよ。俺の子じゃねぇし。」
「あの子の元旦那、ずっとあんたの子供だろうって言ってたけど。」
「旦那の子供じゃねぇかもしれないけど、俺の子供って確証もねぇ。真優はあの時期とっかえひっかえだったし。調べたければ勝手に調べろって言っといて。」
「あんたの子供じゃないんだ。」
純はそういって目を細める。
「何だよ。」
「でもしたんでしょ?」
「正確にはしてねぇ。オーラルだけ。」
そのとき入り口のドアが開いた。その音に二人はさっきまでの会話を終わらせた。
「どうしたの?急に出ていって。」
純はそう聞くと、倫子は言葉に詰まったように春樹を見上げた。すると春樹は少し笑っていう。
「その香水の匂いに当てられたみたいですね。」
「あら。そうだったの。さっきのお客様が派手に振っていたから、残ってたのかしらね。」
煙草も吸うし、匂いには慣れているはずだったがそう言うことにしておいた方が良かった。
少し残業をしていたから、待ち合わせの時間はちょうど良かった。伊織はそう思いながら、カフェでタブレットを見ていた。会社に帰ってポスターの修正をしたが、もう少し手を加えたかったのだ。
禁煙室でコーヒーを飲みながらタブレットを当たっていると、向かいに誰かが座ってきた。ふと見ると、底には栄輝の姿がある。
「今晩は。」
「あぁ。栄輝君だっけ。倫子の弟の。」
「えぇ。待ち合わせですか?」
「うん。倫子さんとか、他の人と食事にいこうと言われてね。」
「バレンタインデーですもんね。」
ウリセンにいるという栄輝にとっても、バレンタインデーは特別なイベントだった。
「そっちも待ち合わせじゃないの?」
「仕事上がりですよ。デートをしてて。」
「デート?」
「映画に行って、食事をして解散。」
「それも仕事なんだ。」
「別に体を使うだけが仕事じゃないですから。」
そう言って栄輝はコーヒーを口に入れる。
「あれ?それって高柳鈴音の……。」
「うん。春の限定スイーツのポスター。依頼されたんだ。」
「あぁ……うん。そうか。」
「どうしたの?」
「うーん。こんなことを言っていいのかって思うけど……高柳さんはうちの常連で。」
「え?」
本当にゲイだったと思ってなかった。驚いて、栄輝を見る。
「ストレスがたまるんでしょうね。俺には真正のゲイには、見えなかったけどなぁ。指名される人も、別に体はなくて飲みに行くくらいしかないんだけどって言ってた。」
「それって友達とかじゃ悪いのかな。」
「友達は話が漏れることがあるから、こういうところの方がいいんですよ。グチとか、悪口とか、言っても絶対本人にばれないから。」
「商売だからってこと?」
「そう言うことです。」
栄輝はそのはけ口に使われているのだろう。だから体を使わなくても良いのだ。
「それだったら女でも……例えばクラブとかの人とか。」
「キャバクラ嬢は、口が軽いですしね。あっという間に繁華街中の噂になるんですよ。うちなんかグレーゾーンじゃないですか。噂が広まったら、あそこから漏れたってすぐわかるし。」
「なるほどね。」
コーヒーを口にして、栄輝を見る。倫子にはあまり似ていないが美形だ。これはゲイの世界でももてるだろう。
「彼女がいるって言ってたっけ。」
「おかげさまでやっと大学へ行けるようになりました。でもまだ通院してますけど。」
「それは良かった。」
「やけになってた。あんなことをされたから、自分をを売り物にした仕事しか就けないって、悲観的だったし。」
「……。」
「今は目標が出来たみたいです。」
そのとき入り口から三人組の男女が入ってきた。そして伊織を見つけると、三人は近寄ってきた。
「あら。栄輝も来ていたの?」
倫子が声をかけると栄輝は少し笑って言う。
「うん。バイト終わり。」
「あなたも食事に行く?」
「食べてきたばかりなんだ。」
「だったら飲み行こうぜ。これをツマミに。」
そう言って政近は、携帯電話の画面を栄輝に見せようとした。するとそれを春樹が止める。
「やめてくださいよ。田島先生。」
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