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テーブルにあがっている漬け物を口に入れる。すると忍は少し表情をゆるめた。
「この高菜は美味しいな。」
「泉の実家からもらったの。この間のお正月に帰って、またもらってきたんだけれど持って帰る?」
「そうしてくれるか。」
倫子はそれを聞いて、席を立つ。すると政近もお茶を口に入れると、忍に言う。
「正月に倫子たちを帰らせなかったのって、奥さんが居なかったからか?」
「あぁ。こんな状態を二人に見せたくないと母が言ってな。」
「ずいぶん見栄を張るんだな。」
「見栄だろうか。世間体も悪いし。離婚したなどと言ったら、職場にも面目が立たない。」
離婚届を送られてきたが、サインをする気はない。
「それが見栄ってもんじゃねぇの?」
「君にはわからないだろうな。倫子がやったことで、俺たちがどれだけ肩身の狭い思いをしていたか。気を緩ませれば、あんな事件を起こした放火魔の妹がいると言われるんだ。」
世間的には中学生の倫子が男と乱交騒ぎをして、煙草の不始末で祖母の建物を焼いた。そうなっているのだ。
「だとしたら、昔のヤツは罪人だらけだな。」
「何だと?」
喧嘩でも始めそうだ。会ったときから政近俊信は相性が悪そうだと伊織は思っていた。ここで喧嘩など始めたら、また倫子と忍の関係は悪くなるだろう。
「お盆に死者を弔うためにやるだろ?盆踊りって。あんたの地元にはないの?」
「あるが……。」
「俺の地元では昔の盆踊りってのは夜中中踊るだけじゃない。そのあとの方が重要だった。」
「……。」
「妻が居ようと夫が居ようと関係なく、未婚のヤツも入り交じって乱交騒ぎだ。そこで子供が産まれても父親が誰だってこだわらない。村の子供だって、みんなで育てるんだ。」
「そんな昔のことを出されても……今の世の中に通用しない。」
「ふーん。昔はOKで今は駄目か。」
「倫理的に反するだろう。」
「乱交が良いとは思わない。だいたい、男のアレを見ながら突っ込みたくもないし。けど、認められていた歴史は確かにあった。それを認めないで、ただ淫乱だ、ヤリ○ンだなんて言われたら、やった本人はたまったもんじゃないな。」
「……。」
するとビニールに漬け物のパックを入れた倫子が居間に戻ってきた。だがその様子に、少し気後れする。忍はお茶を飲み干すと、倫子に言う。
「この男は失礼だな。倫子。」
「今更始まったことじゃないわ。これ。持って帰って。」
そういってビニール袋を手渡した。
「こんな男とつきあいがあるのはどうかと思うぞ。」
「仕事だからつきあいがあるだけよ。」
すると今度は政近がくってかかる。
「何言ってんだよ。それだけのつきあいだけで家まで転がり込むか。」
熱くなっている政近に対して倫子は冷めたように言う。
「何を言っているの?今度連載が始まる。そのためにつきあいがあるんでしょう。人気が出ればこのまま付き合うことは出来る。だけど打ち切られれば、それまでだった。そう言ったじゃない。」
「そうさせねぇから。」
「だからアイデアを出し合っているんでしょう。兄さん。そういう人なのよ。私の仕事だから、口を出さないで。」
「流行で売れているだけだ。倫子。お前も二、三年子にはどうなっているかわからない。こんなたいそうな家を買って、うちに借金を申し込まれても困るんだ。」
「そうならないわ。」
ぽつりと倫子はそういうと、持ってきた急須でお茶をまた入れる。
「そうさせない。金の無駄遣いをしたと言わせないように、それから、本が出版できるようにやるだけなんだから。」
その様子に忍はため息をつく。頑固なのは昔からだ。
やっと仕事のめどがついて、春樹はため息をつく。そして携帯電話を見た。明日から「月刊ミステリー」の方が忙しくなる。家に帰れない時間も増えるだろう。なのに今日休めなかったのは痛い。
「藤枝編集長。来週は休んでくださいね。」
加藤絵里子が気を使ってそういった。
「あぁ。でも日帰りかなぁ。」
「まぁ、そうなるでしょうけど……。」
来週は未来の四十九回忌だ。また実家に帰らないといけないのかと、少しため息をついた。
「浜田さんって結局どうなったんですか。」
「地方に転勤になった。南の方の支社が、ちょうど人材が欲しいと言ってきたらしい。浜田君も実家が近くなるし、ちょうどいいんじゃないのかな。」
ずいぶん気落ちして、このまま精神を病むと思った。あまり人のいやなことなどは言わない人だが、あれだけ高ぶっていたのだ。少し落ち着いた方が良いかもしれない。
「藤枝編集長。たまには飲みに行きませんか。」
絵里子の隣のデスクの男が、そういって声をかけてきた。なんだかんだと言って飲み会が好きな男だ。しばらく酒も断たないといけないし、悪くない話だった。
「そうだね。たまには行こうか。」
倫子たちにあわせて食事を家でとっていたが、泉も伊織もたまには飲み会だと言って居ないこともある。本来、後輩に飲みに行こうとかと言うよりも、春樹が誘わないといけないことだ。気を使わせてしまった。
「飲み行く人?」
そういって男が声をかける。その辺はあの男に任せればいいだろう。そう思って春樹は携帯電話で、メッセージを倫子に送る。今日の食事は必要なくなったと。
するとすぐにメッセージが帰ってきた。今日はおでんだったらしい。伊織が作ってくれていたのだ。明日までに残しておいて欲しいと送ると、倫子は善処するとだけ送られてきた。
「善処ね……。」
絵里子はその横顔を見て、少しほっとした。まだ未来が死んで一ヶ月ほどしかたっていない。クリスマスの日に告白をしたが、はっきり春樹は未来がまだ心にいることを口にしていた。
少しずつ、思い出になってくれればいいと思う。そして絵里子も携帯電話の画面を見る。
飲み会が終わったら二人で抜けよう。そう言ってくれる人も絵里子にはいるのだ。若くて、元気があって、何より楽しい人。こんな人が絵里子を引っ張って欲しいと思う。
職場の人達と外にでると、冷たい風が吹き抜けた。春樹はマフラーをあげると、倫子を思う。
肌の火傷のせいで神経が少しおかしくなっているらしい。倫子は、真冬でもあまり厚着をしないのはそのためだった。寒くないらしい。だが体は正直で、急に熱を出すこともあるのだと泉は言う。冬は倫子に気を配って欲しいと言われた。
冬だけではない。ずっと気を配りたい。ずっと見守っていたいと思う。
「この高菜は美味しいな。」
「泉の実家からもらったの。この間のお正月に帰って、またもらってきたんだけれど持って帰る?」
「そうしてくれるか。」
倫子はそれを聞いて、席を立つ。すると政近もお茶を口に入れると、忍に言う。
「正月に倫子たちを帰らせなかったのって、奥さんが居なかったからか?」
「あぁ。こんな状態を二人に見せたくないと母が言ってな。」
「ずいぶん見栄を張るんだな。」
「見栄だろうか。世間体も悪いし。離婚したなどと言ったら、職場にも面目が立たない。」
離婚届を送られてきたが、サインをする気はない。
「それが見栄ってもんじゃねぇの?」
「君にはわからないだろうな。倫子がやったことで、俺たちがどれだけ肩身の狭い思いをしていたか。気を緩ませれば、あんな事件を起こした放火魔の妹がいると言われるんだ。」
世間的には中学生の倫子が男と乱交騒ぎをして、煙草の不始末で祖母の建物を焼いた。そうなっているのだ。
「だとしたら、昔のヤツは罪人だらけだな。」
「何だと?」
喧嘩でも始めそうだ。会ったときから政近俊信は相性が悪そうだと伊織は思っていた。ここで喧嘩など始めたら、また倫子と忍の関係は悪くなるだろう。
「お盆に死者を弔うためにやるだろ?盆踊りって。あんたの地元にはないの?」
「あるが……。」
「俺の地元では昔の盆踊りってのは夜中中踊るだけじゃない。そのあとの方が重要だった。」
「……。」
「妻が居ようと夫が居ようと関係なく、未婚のヤツも入り交じって乱交騒ぎだ。そこで子供が産まれても父親が誰だってこだわらない。村の子供だって、みんなで育てるんだ。」
「そんな昔のことを出されても……今の世の中に通用しない。」
「ふーん。昔はOKで今は駄目か。」
「倫理的に反するだろう。」
「乱交が良いとは思わない。だいたい、男のアレを見ながら突っ込みたくもないし。けど、認められていた歴史は確かにあった。それを認めないで、ただ淫乱だ、ヤリ○ンだなんて言われたら、やった本人はたまったもんじゃないな。」
「……。」
するとビニールに漬け物のパックを入れた倫子が居間に戻ってきた。だがその様子に、少し気後れする。忍はお茶を飲み干すと、倫子に言う。
「この男は失礼だな。倫子。」
「今更始まったことじゃないわ。これ。持って帰って。」
そういってビニール袋を手渡した。
「こんな男とつきあいがあるのはどうかと思うぞ。」
「仕事だからつきあいがあるだけよ。」
すると今度は政近がくってかかる。
「何言ってんだよ。それだけのつきあいだけで家まで転がり込むか。」
熱くなっている政近に対して倫子は冷めたように言う。
「何を言っているの?今度連載が始まる。そのためにつきあいがあるんでしょう。人気が出ればこのまま付き合うことは出来る。だけど打ち切られれば、それまでだった。そう言ったじゃない。」
「そうさせねぇから。」
「だからアイデアを出し合っているんでしょう。兄さん。そういう人なのよ。私の仕事だから、口を出さないで。」
「流行で売れているだけだ。倫子。お前も二、三年子にはどうなっているかわからない。こんなたいそうな家を買って、うちに借金を申し込まれても困るんだ。」
「そうならないわ。」
ぽつりと倫子はそういうと、持ってきた急須でお茶をまた入れる。
「そうさせない。金の無駄遣いをしたと言わせないように、それから、本が出版できるようにやるだけなんだから。」
その様子に忍はため息をつく。頑固なのは昔からだ。
やっと仕事のめどがついて、春樹はため息をつく。そして携帯電話を見た。明日から「月刊ミステリー」の方が忙しくなる。家に帰れない時間も増えるだろう。なのに今日休めなかったのは痛い。
「藤枝編集長。来週は休んでくださいね。」
加藤絵里子が気を使ってそういった。
「あぁ。でも日帰りかなぁ。」
「まぁ、そうなるでしょうけど……。」
来週は未来の四十九回忌だ。また実家に帰らないといけないのかと、少しため息をついた。
「浜田さんって結局どうなったんですか。」
「地方に転勤になった。南の方の支社が、ちょうど人材が欲しいと言ってきたらしい。浜田君も実家が近くなるし、ちょうどいいんじゃないのかな。」
ずいぶん気落ちして、このまま精神を病むと思った。あまり人のいやなことなどは言わない人だが、あれだけ高ぶっていたのだ。少し落ち着いた方が良いかもしれない。
「藤枝編集長。たまには飲みに行きませんか。」
絵里子の隣のデスクの男が、そういって声をかけてきた。なんだかんだと言って飲み会が好きな男だ。しばらく酒も断たないといけないし、悪くない話だった。
「そうだね。たまには行こうか。」
倫子たちにあわせて食事を家でとっていたが、泉も伊織もたまには飲み会だと言って居ないこともある。本来、後輩に飲みに行こうとかと言うよりも、春樹が誘わないといけないことだ。気を使わせてしまった。
「飲み行く人?」
そういって男が声をかける。その辺はあの男に任せればいいだろう。そう思って春樹は携帯電話で、メッセージを倫子に送る。今日の食事は必要なくなったと。
するとすぐにメッセージが帰ってきた。今日はおでんだったらしい。伊織が作ってくれていたのだ。明日までに残しておいて欲しいと送ると、倫子は善処するとだけ送られてきた。
「善処ね……。」
絵里子はその横顔を見て、少しほっとした。まだ未来が死んで一ヶ月ほどしかたっていない。クリスマスの日に告白をしたが、はっきり春樹は未来がまだ心にいることを口にしていた。
少しずつ、思い出になってくれればいいと思う。そして絵里子も携帯電話の画面を見る。
飲み会が終わったら二人で抜けよう。そう言ってくれる人も絵里子にはいるのだ。若くて、元気があって、何より楽しい人。こんな人が絵里子を引っ張って欲しいと思う。
職場の人達と外にでると、冷たい風が吹き抜けた。春樹はマフラーをあげると、倫子を思う。
肌の火傷のせいで神経が少しおかしくなっているらしい。倫子は、真冬でもあまり厚着をしないのはそのためだった。寒くないらしい。だが体は正直で、急に熱を出すこともあるのだと泉は言う。冬は倫子に気を配って欲しいと言われた。
冬だけではない。ずっと気を配りたい。ずっと見守っていたいと思う。
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