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携帯電話のウェブ機能を使って、伊織は泉の言うとおり倫子と政近が作った漫画の作品を検索する。するとそこには犯人を予想する声が溢れているが、そのほとんどが「身内から聞いた話」として犯人は語り部である会社員の男だという声だった。
「そうだとしたら読み返したくなるな。どんな行動にでているのか、見方のような顔をどうやってしているのか。」
すると泉は慌てたように言う。
「イヤよ。正解を見てミステリーを読むなんて、そんなの楽しさ半減だわ。どの人が犯人なのかって予想しながら読むのが醍醐味じゃない。」
隣にいた礼二は、少し笑って言う。
「そうかな。俺はミステリーは最後を読んでから本編を読む派だから、犯人が分かっていた方が良いな。」
「でもさ。」
泉が反論しようとした。だが伊織は少し笑って言う。
「本をどんな読み方をしても本人次第だろう。別に決まりはないんだから。」
確かにそうだ。どんな読み方をしても、どんな捉え方をしても読み手の自由だと思う。
「でもストーリーを変えるのかな。」
「どうかな。日数的には余裕がなさそうだし、前編がもう公開されているから後編をいじるってなると違和感が出るわ。」
「発売日は来月の中旬か。難しいだろうね。」
礼二も雑誌を手にして、その発売日を見る。
「泉。そのさ……浜田って人は倫子と仲が良かった訳じゃないんだろう?」
伊織がそう聞く戸泉は首を横に振る。
「どちらかというとイヤだって言ってた。ほら、漫画って部数がえげつないでしょう?倫子とか荒田夕先生のものって文芸誌としては売れているけれど、漫画の部数にしたらそうでもない。だから小説は漫画よりも下って思っていたみたい。なのに倫子に原作を買いて欲しいって、大学の時に声をかけてあらか様に不機嫌になってたもの。」
「泉自身は何か言われた?」
「そうね……断ったって聞いて、すぐに私に説得するようにしてくれって言われたわ。現役の小説家が原作を書いたら同人誌でも売れるからって。」
「そういうことを言うかなぁ。あらかさまだね。」
「それで、イヤだって言ったら今度は「本ばかり読んでる暗い人。」って陰口をたたいて、倫子は「誰でもさせるビッチだ」って言ってたわ。」
つまり逆恨みをしていたのだ。なのにのうのうとまた原作をお願いするというのには、とても厚顔無恥だと思う。
「……っと、倫子さんから連絡が来たな。」
政近のところで修正の原稿を手伝っていたのだという。浜田によって規制をかけていたところや、不自然ではない程度にストーリーを変えたのだ。
自分が関わっていたのだからと、倫子はすぐに手伝いに行った。漫画のアシスタントなどはしたことはないと思うが、どうやら出来ていたらしい。
遅くなるのを見通して、礼二が迎えにいこうかと言っていたのだ。
「藤枝さんが迎えに行ったみたいだね。」
「春樹さんが?」
車など持っていなかったのだろうに、どうして迎えに行けたのだろう。春樹のことだからなんだかんだと言って会社から借りたのかもしれないのだ。
「向こうの方に担当している作家が居るらしい。そのうち合わせついでに迎えに行ったって言ってる。」
だったら大丈夫だろう。礼二はお茶を飲み干すと、コップを台所に持って行く。
「帰るの?」
帰ってきた居間で、泉が聞く。
「近くだしね。明日も仕事だし……それに明日も泉が居ないんだろう?」
「いない?」
驚いたように伊織が聞くと、礼二は少し笑って言う。
「書店が忙しくて、午前中だけ書店に帰ってるんだ。それに終わったら本社に明日は行かないといけないんだろうし。」
一人出店を回すのは広い店ではないが疲れる。どれだけ泉におんぶに抱っこだったのか、今更知らされた。もちろん、二人のうち一人が休みだったら、一時間くらいは一人で回すこともあるが、それは時間を見てやっていることだ。午前中がっつりいないというのは疲れる。
「売る側も大変なんだね。」
大学の時は接客のバイトをしていた。だからその辛さは何となくわかる。
ジャンパーを着てバッグを持った礼二に、泉が見送るように出て行く。きっともっと一緒にいたいと思っているのだろうに、泉はここを出て行かなかった。まだ早いからと言っていたみたいだが、その根底はわからない。
「また明日だね。」
「うん……。」
靴を履いて、一段下に下がる。すると目線が一緒になった。礼二は泉を抱き寄せると、その唇に軽くキスをする。
「お休み。」
「おやすみなさい。」
玄関を出て、駐車場へ向かう。すると白い車が礼二の車の横に止めようとバックしてきた。良く見ると「戸崎出版」の文字が車の横に書かれている。これが社用車なのだろう。
車が停まり、中から倫子と春樹が出てくる。そして二人は礼二を見ると、倫子は少し微笑んだ。
「礼二。待たせて悪かったわね。」
「政近さんの住んでいる地域を聞いて、物騒だなって思っただけだ。あんなところに住むなんて、本当に住んでるところに拘らないんだな。」
「みたいね。行ったのが昼間だからそこまでは思わなかったけど。」
すると倫子はバッグから、ビニールの袋を取り出して礼二に手渡す。
「これ。あげるわ。」
「何だよ。気持ち悪いな。」
そういいながらその袋の中身をチェックする。そこには卵が数個入っていた。
「卵?」
「政近のところからもらったのよ。知り合いのところから送られてきたって。」
「西川さんのところの卵だね。」
春樹もバッグと封筒を持って二人に近づいてきた。
「西川?」
「西川辰雄さんとも知り合いなんだな。あの人は。」
「あぁ……ホストだった人?」
「知っているの?」
「あ……うん。昔ね。」
夜の町で遊んでいたこともあるのだ。それでホストのことを知ったのだが、それを正直に言えるわけがない。
「その卵、この辺では一つが百円だよ。」
「え?」
四つ入っている。そんな卵をもらっていいのだろうか。
「いいの?」
「政近から卵かけご飯にすると良いって言われたけれど、伊織が卵かけご飯が苦手みたいなのよね。卵を生で食べる習慣がなかったからかしら。」
「だったらもらっておくよ。ありがとう。」
みんな違う状況で生まれて育ったのだ。それでも四人が寄り添って生きている。そんな風に見えた。
この家の中にいる泉に「出て、一緒に暮らそう」とは礼二は言い辛かった。
「そうだとしたら読み返したくなるな。どんな行動にでているのか、見方のような顔をどうやってしているのか。」
すると泉は慌てたように言う。
「イヤよ。正解を見てミステリーを読むなんて、そんなの楽しさ半減だわ。どの人が犯人なのかって予想しながら読むのが醍醐味じゃない。」
隣にいた礼二は、少し笑って言う。
「そうかな。俺はミステリーは最後を読んでから本編を読む派だから、犯人が分かっていた方が良いな。」
「でもさ。」
泉が反論しようとした。だが伊織は少し笑って言う。
「本をどんな読み方をしても本人次第だろう。別に決まりはないんだから。」
確かにそうだ。どんな読み方をしても、どんな捉え方をしても読み手の自由だと思う。
「でもストーリーを変えるのかな。」
「どうかな。日数的には余裕がなさそうだし、前編がもう公開されているから後編をいじるってなると違和感が出るわ。」
「発売日は来月の中旬か。難しいだろうね。」
礼二も雑誌を手にして、その発売日を見る。
「泉。そのさ……浜田って人は倫子と仲が良かった訳じゃないんだろう?」
伊織がそう聞く戸泉は首を横に振る。
「どちらかというとイヤだって言ってた。ほら、漫画って部数がえげつないでしょう?倫子とか荒田夕先生のものって文芸誌としては売れているけれど、漫画の部数にしたらそうでもない。だから小説は漫画よりも下って思っていたみたい。なのに倫子に原作を買いて欲しいって、大学の時に声をかけてあらか様に不機嫌になってたもの。」
「泉自身は何か言われた?」
「そうね……断ったって聞いて、すぐに私に説得するようにしてくれって言われたわ。現役の小説家が原作を書いたら同人誌でも売れるからって。」
「そういうことを言うかなぁ。あらかさまだね。」
「それで、イヤだって言ったら今度は「本ばかり読んでる暗い人。」って陰口をたたいて、倫子は「誰でもさせるビッチだ」って言ってたわ。」
つまり逆恨みをしていたのだ。なのにのうのうとまた原作をお願いするというのには、とても厚顔無恥だと思う。
「……っと、倫子さんから連絡が来たな。」
政近のところで修正の原稿を手伝っていたのだという。浜田によって規制をかけていたところや、不自然ではない程度にストーリーを変えたのだ。
自分が関わっていたのだからと、倫子はすぐに手伝いに行った。漫画のアシスタントなどはしたことはないと思うが、どうやら出来ていたらしい。
遅くなるのを見通して、礼二が迎えにいこうかと言っていたのだ。
「藤枝さんが迎えに行ったみたいだね。」
「春樹さんが?」
車など持っていなかったのだろうに、どうして迎えに行けたのだろう。春樹のことだからなんだかんだと言って会社から借りたのかもしれないのだ。
「向こうの方に担当している作家が居るらしい。そのうち合わせついでに迎えに行ったって言ってる。」
だったら大丈夫だろう。礼二はお茶を飲み干すと、コップを台所に持って行く。
「帰るの?」
帰ってきた居間で、泉が聞く。
「近くだしね。明日も仕事だし……それに明日も泉が居ないんだろう?」
「いない?」
驚いたように伊織が聞くと、礼二は少し笑って言う。
「書店が忙しくて、午前中だけ書店に帰ってるんだ。それに終わったら本社に明日は行かないといけないんだろうし。」
一人出店を回すのは広い店ではないが疲れる。どれだけ泉におんぶに抱っこだったのか、今更知らされた。もちろん、二人のうち一人が休みだったら、一時間くらいは一人で回すこともあるが、それは時間を見てやっていることだ。午前中がっつりいないというのは疲れる。
「売る側も大変なんだね。」
大学の時は接客のバイトをしていた。だからその辛さは何となくわかる。
ジャンパーを着てバッグを持った礼二に、泉が見送るように出て行く。きっともっと一緒にいたいと思っているのだろうに、泉はここを出て行かなかった。まだ早いからと言っていたみたいだが、その根底はわからない。
「また明日だね。」
「うん……。」
靴を履いて、一段下に下がる。すると目線が一緒になった。礼二は泉を抱き寄せると、その唇に軽くキスをする。
「お休み。」
「おやすみなさい。」
玄関を出て、駐車場へ向かう。すると白い車が礼二の車の横に止めようとバックしてきた。良く見ると「戸崎出版」の文字が車の横に書かれている。これが社用車なのだろう。
車が停まり、中から倫子と春樹が出てくる。そして二人は礼二を見ると、倫子は少し微笑んだ。
「礼二。待たせて悪かったわね。」
「政近さんの住んでいる地域を聞いて、物騒だなって思っただけだ。あんなところに住むなんて、本当に住んでるところに拘らないんだな。」
「みたいね。行ったのが昼間だからそこまでは思わなかったけど。」
すると倫子はバッグから、ビニールの袋を取り出して礼二に手渡す。
「これ。あげるわ。」
「何だよ。気持ち悪いな。」
そういいながらその袋の中身をチェックする。そこには卵が数個入っていた。
「卵?」
「政近のところからもらったのよ。知り合いのところから送られてきたって。」
「西川さんのところの卵だね。」
春樹もバッグと封筒を持って二人に近づいてきた。
「西川?」
「西川辰雄さんとも知り合いなんだな。あの人は。」
「あぁ……ホストだった人?」
「知っているの?」
「あ……うん。昔ね。」
夜の町で遊んでいたこともあるのだ。それでホストのことを知ったのだが、それを正直に言えるわけがない。
「その卵、この辺では一つが百円だよ。」
「え?」
四つ入っている。そんな卵をもらっていいのだろうか。
「いいの?」
「政近から卵かけご飯にすると良いって言われたけれど、伊織が卵かけご飯が苦手みたいなのよね。卵を生で食べる習慣がなかったからかしら。」
「だったらもらっておくよ。ありがとう。」
みんな違う状況で生まれて育ったのだ。それでも四人が寄り添って生きている。そんな風に見えた。
この家の中にいる泉に「出て、一緒に暮らそう」とは礼二は言い辛かった。
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