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銀色
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伊織の部屋と春樹の部屋はふすま一枚で仕切られただけだ。だから春樹がここにいてもどこに行ったとかはすぐにわかるし、何なら歯電話の話の内容も聞こえるほどだ。だがいつもは聞いて聞かないふりをする。
今日はその部屋に政近がいるのだ。そして政近はきっと春樹に寝たことを言っている。その分だけ春樹は政近を警戒していたのだろう。シーツを付け替えていたときの会話でわかる。
政近はおとなしく寝れるのだろうか。案の定、すっとドアが開く音がして、部屋の前からミシミシという音がした。この家は古いので、よく軋むのだ。
伊織は本を置くと、部屋を出ていく。暗い廊下を見渡すと、やはり政近が玄関の方へ向かっている。
「田島。」
声をかけると政近は急ぎ足で、なおかつ足音をたてずに伊織に近づいてきた。
「富岡。声なんかかけんじゃねぇよ。」
「趣味悪いな。覗く気か?」
すると政近は頭をかく。
「だってよぉ……。」
「倫子と春樹さんは想い合ってるんだ。何をしてようと俺らには関係ないだろう?」
「わかってるよ。でもさ……。」
「覗くのは昔だけにしておいたら?」
「やかましいわ。お前はわかんねぇんだろうな。本気で人を好きになったことなんか無いんだろう。」
そう言われて伊織は視線をそらせた。倫子のことは本気だ。だから毎夜、伊織がもやもやしているなんてことを知られたくない。
「……春樹さんと倫子は割と節操を持ってるよ。一緒に寝るなんてことはあるけど、盛ってるのを見たことはない。」
「今日は盛ってるかもしれないじゃん。」
「それを見てどうするんだ。お前も参加するの?」
「それは勘弁するよ。」
政近はそう言って頭をかく。
「とりあえず寝たら?もう遅いしさ。」
「こんなんで寝れるかよ。」
政近はそう言ってまた玄関の方に足を進める。今日はきっとしているはずだ。あれだけ春樹に喧嘩を売ったのだから。
「田島。」
「お前も気になるんなら来ればいいじゃん。」
あまり気にしていないのか。倫子がほかの男に抱かれているところを見て、気持ちがいいわけがないだろう。なのに伊織は止めようとしながらも、政近の後ろを歩いていく。
倫子の部屋は居間の隣。引き戸になっている。そのドアはガラス戸ではなく普通の戸であり、影なんかが映ることはない。
耳を澄ませる。すると何か音がした。水の音だ。そして肉がはじける音。それと混じって、女のうめくような声がする。その声を知っている。倫子の声だ。
「苦しそうだね。タオルどけようか?」
春樹は倫子の奥に入り込むと、タオルを避けようとした。とても顔が赤くて、失神しそうだったと思う。だが倫子は首を横に振った。
「やだ……。声を漏らしたくない。」
「押さえきれないだろう?それか塞ごうか?」
仰向けになっている倫子を抱き上げると、膝に載せた。そして唇を重ねながら腰を打ち付けていく。そのたびに太股が濡れる。
「あんっ……。んっ……。」
「もっと……しがみついて良いよ。倫子……好き。」
「私も……好きよ。春樹……あっ……イク。イッ……。」
すると春樹は声を塞ぐようにキスをする。すると声を少し漏らしながら、倫子はがくがくと体を震わせた。
姿は見えなくても、伊織はため息をついた。そして何を政近が思っているのかわからない。だが政近も首を横に振って振り返る。
わかってる。邪魔なのは自分で、倫子は春樹のモノだ。倫子だってそれを強制されたわけでもない。本心から春樹を求めている。
何も言わずに伊織は自分の部屋に帰ると、布団の上に体を横たえた。この布団の上で倫子が求めてきたのを忘れられなかったが、あんなに「好き」と言われると、複雑だった。自分の時には伊織を見ようとしなかった。目を閉じて、春樹を思い出そうとしていたのかもしれない。そうではないと泣き崩れてしまうかもしれないと思ったのだ。
伊織はそのまま体を起こして、電気を消す。そして半纏を脱ぐと布団をかぶった。
それでも倫子がこの布団で乱れていたのを忘れることは出来ない。
思わず自分のモノが大きくなっていたのに気がついた。あの声だけで反応してしまったのだろうか。
落ち着け。落ち着いて……目をつぶればいい。なのに手がそろそろとズボンの中にはいる。
「ん……。」
倫子が撫でてくれたことがある。そして伊織も倫子のモノをいじっていた。いじればいじるほど倫子のモノは濡れてきて、手の平を濡らすくらい濡れるのだ。
「はっ……。」
サディストに見えて、マゾヒストなのだ。あおると濡れてくる。それはおそらく綾子もそうだった。
綾子を抱いたとき、綾子の手首には自傷のあとがあった。恋人を亡くして、自分で傷を付けたのだ。そして今は自分を傷つけて、椿の墨がある。
あのころよりも髪が短くなった。あのころよりも大人びた。だが精神が不安定なのはいつも通りだった。よく自殺をしなかったと思う。綾子もまた何かを狙って、やくざに肩入れしているのだ。危険だと思っても、やらないわけにはいかないのだろう。
「んっ……。」
伊織は枕元においていたティッシュを手にすると、出てきたそれをティッシュで受け止める。
「はっ……。」
どうして倫子ではなく綾子が浮かんだのだろう。もう十年近く前の話なのに、今でも気になるというのだろうか。
ばかばかしい。そう思いながら、伊織はそのまま眠りについた。
目を覚ますと倫子が隣で眠っている。お互い裸のままだった。夕べ久しぶりに倫子を抱いた感じがして満足感がある。そしておそらく夕べは聞き耳を立てていたはずだ。
春樹は少し笑って倫子の額にキスをする。それくらいでは倫子は起きないのはわかっているが、したかったのだ。
どっちがのぞきに来たのだろう。政近なのか、伊織なのか。それともどちらともかもしれない。だとしたらきっと政近は朝から換気をしているかもしれない。臭いは気になるだろう。
倫子がふと寝返りを打った。こちらを向いたのだ。
白い肌に目立つ入れ墨と火傷のあと。こんなモノは恨みしかない。そして恨みは自分も不幸になる。春樹はそう思って、体を少し倫子に寄せた。そして胸のあたりに跡を付ける。痛みがあるはずだ。なのに倫子は起きない。
唇を離すと、首の下、ちょうど火傷の横に跡が残った。
それでも倫子は起きなかった。自分が幸せなうちに、跡が残るのはまた気がつけば幸せになると思う。
今日はその部屋に政近がいるのだ。そして政近はきっと春樹に寝たことを言っている。その分だけ春樹は政近を警戒していたのだろう。シーツを付け替えていたときの会話でわかる。
政近はおとなしく寝れるのだろうか。案の定、すっとドアが開く音がして、部屋の前からミシミシという音がした。この家は古いので、よく軋むのだ。
伊織は本を置くと、部屋を出ていく。暗い廊下を見渡すと、やはり政近が玄関の方へ向かっている。
「田島。」
声をかけると政近は急ぎ足で、なおかつ足音をたてずに伊織に近づいてきた。
「富岡。声なんかかけんじゃねぇよ。」
「趣味悪いな。覗く気か?」
すると政近は頭をかく。
「だってよぉ……。」
「倫子と春樹さんは想い合ってるんだ。何をしてようと俺らには関係ないだろう?」
「わかってるよ。でもさ……。」
「覗くのは昔だけにしておいたら?」
「やかましいわ。お前はわかんねぇんだろうな。本気で人を好きになったことなんか無いんだろう。」
そう言われて伊織は視線をそらせた。倫子のことは本気だ。だから毎夜、伊織がもやもやしているなんてことを知られたくない。
「……春樹さんと倫子は割と節操を持ってるよ。一緒に寝るなんてことはあるけど、盛ってるのを見たことはない。」
「今日は盛ってるかもしれないじゃん。」
「それを見てどうするんだ。お前も参加するの?」
「それは勘弁するよ。」
政近はそう言って頭をかく。
「とりあえず寝たら?もう遅いしさ。」
「こんなんで寝れるかよ。」
政近はそう言ってまた玄関の方に足を進める。今日はきっとしているはずだ。あれだけ春樹に喧嘩を売ったのだから。
「田島。」
「お前も気になるんなら来ればいいじゃん。」
あまり気にしていないのか。倫子がほかの男に抱かれているところを見て、気持ちがいいわけがないだろう。なのに伊織は止めようとしながらも、政近の後ろを歩いていく。
倫子の部屋は居間の隣。引き戸になっている。そのドアはガラス戸ではなく普通の戸であり、影なんかが映ることはない。
耳を澄ませる。すると何か音がした。水の音だ。そして肉がはじける音。それと混じって、女のうめくような声がする。その声を知っている。倫子の声だ。
「苦しそうだね。タオルどけようか?」
春樹は倫子の奥に入り込むと、タオルを避けようとした。とても顔が赤くて、失神しそうだったと思う。だが倫子は首を横に振った。
「やだ……。声を漏らしたくない。」
「押さえきれないだろう?それか塞ごうか?」
仰向けになっている倫子を抱き上げると、膝に載せた。そして唇を重ねながら腰を打ち付けていく。そのたびに太股が濡れる。
「あんっ……。んっ……。」
「もっと……しがみついて良いよ。倫子……好き。」
「私も……好きよ。春樹……あっ……イク。イッ……。」
すると春樹は声を塞ぐようにキスをする。すると声を少し漏らしながら、倫子はがくがくと体を震わせた。
姿は見えなくても、伊織はため息をついた。そして何を政近が思っているのかわからない。だが政近も首を横に振って振り返る。
わかってる。邪魔なのは自分で、倫子は春樹のモノだ。倫子だってそれを強制されたわけでもない。本心から春樹を求めている。
何も言わずに伊織は自分の部屋に帰ると、布団の上に体を横たえた。この布団の上で倫子が求めてきたのを忘れられなかったが、あんなに「好き」と言われると、複雑だった。自分の時には伊織を見ようとしなかった。目を閉じて、春樹を思い出そうとしていたのかもしれない。そうではないと泣き崩れてしまうかもしれないと思ったのだ。
伊織はそのまま体を起こして、電気を消す。そして半纏を脱ぐと布団をかぶった。
それでも倫子がこの布団で乱れていたのを忘れることは出来ない。
思わず自分のモノが大きくなっていたのに気がついた。あの声だけで反応してしまったのだろうか。
落ち着け。落ち着いて……目をつぶればいい。なのに手がそろそろとズボンの中にはいる。
「ん……。」
倫子が撫でてくれたことがある。そして伊織も倫子のモノをいじっていた。いじればいじるほど倫子のモノは濡れてきて、手の平を濡らすくらい濡れるのだ。
「はっ……。」
サディストに見えて、マゾヒストなのだ。あおると濡れてくる。それはおそらく綾子もそうだった。
綾子を抱いたとき、綾子の手首には自傷のあとがあった。恋人を亡くして、自分で傷を付けたのだ。そして今は自分を傷つけて、椿の墨がある。
あのころよりも髪が短くなった。あのころよりも大人びた。だが精神が不安定なのはいつも通りだった。よく自殺をしなかったと思う。綾子もまた何かを狙って、やくざに肩入れしているのだ。危険だと思っても、やらないわけにはいかないのだろう。
「んっ……。」
伊織は枕元においていたティッシュを手にすると、出てきたそれをティッシュで受け止める。
「はっ……。」
どうして倫子ではなく綾子が浮かんだのだろう。もう十年近く前の話なのに、今でも気になるというのだろうか。
ばかばかしい。そう思いながら、伊織はそのまま眠りについた。
目を覚ますと倫子が隣で眠っている。お互い裸のままだった。夕べ久しぶりに倫子を抱いた感じがして満足感がある。そしておそらく夕べは聞き耳を立てていたはずだ。
春樹は少し笑って倫子の額にキスをする。それくらいでは倫子は起きないのはわかっているが、したかったのだ。
どっちがのぞきに来たのだろう。政近なのか、伊織なのか。それともどちらともかもしれない。だとしたらきっと政近は朝から換気をしているかもしれない。臭いは気になるだろう。
倫子がふと寝返りを打った。こちらを向いたのだ。
白い肌に目立つ入れ墨と火傷のあと。こんなモノは恨みしかない。そして恨みは自分も不幸になる。春樹はそう思って、体を少し倫子に寄せた。そして胸のあたりに跡を付ける。痛みがあるはずだ。なのに倫子は起きない。
唇を離すと、首の下、ちょうど火傷の横に跡が残った。
それでも倫子は起きなかった。自分が幸せなうちに、跡が残るのはまた気がつけば幸せになると思う。
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