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銀色
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新店舗であるカフェに携わるのは五人。店長になるのは、若い男だった。製菓の学校へ行ってそのままヨーロッパへ留学をしたらしい。高柳鈴音と変わらない年頃で、常々カフェをしたらいいのではないかと言っていた。
「あまり大きな店舗ではないけど、キッチンは広め。ここである程度のケーキを仕込めるように。それから、簡単な食事も取れるようにする。」
鈴音は姿で売っているところもある。ヨーロッパで勉強して本格的なスイーツを売っていると言っても、そんなところはごろごろあるのだ。だから自分が広告塔になり、少しでも目立つように自分を着飾っている。だが今の鈴音は真剣だった。そんな様子はいっさい見えない。
この人の元で仕事をすれば、自分がもっと高められるかもしれない。泉はそう思っていた。
「コーヒーは、どこから仕入れるんですか。」
「「ヒジカタコーヒー」かな。良い豆を売っているし、焙煎もここでした方がいい?」
泉にそう聞くと、泉はうなづいた。
「「ヒジカタコーヒー」でも焙煎された豆は売っています。でも焙煎されたモノは、ある程度時間が経っています。時間が経てばそれだけコーヒーの味も落ちますから。」
「コーヒーに負けないようなデザートを作らないといけないな。」
「テイクアウトも出来るんでしょう。コーヒーに合わせるとどんな状況で食べるかわからないのに。」
店長になる男は、そういってそれを止めた。どうやらコーヒーに合わせてスイーツを作るなんてと思っているらしい。そして泉を淹れるのを反対している節がある。だが鈴音はそれを狙っているのだ。
「デザートを食べるのに、飲み物を飲まない人はあまりいない。ケーキもコーヒーセットで売り出そうとしているし、飲み物にもこだわりたい。」
「珈琲屋じゃないんですよ。ケーキ屋です。」
どうも意見が割れているな。泉はそう思いながら資料を見ていた。店長になるものと、オーナーの意見はもっと話し合ってやって欲しいと思う。
「「book cafe」はどう?」
「え?」
「ケーキを単体で食べる人っている?」
「あまりいないですね。コーヒー単体、紅茶だけという人は多いですが。そもそもうちの店はあまりフードに力を入れていないんですけどね。」
その割にはこの男の力を借りて昨年の年末はケーキが売れた。それに気をよくして、これからはデザートに力を入れるのかもしれない。
「隣の本屋は提携しているわけではないし、普通のカフェでも……。」
「普通のカフェでは生き残れない。森だってそう思っているだろう。」
森と言われた男はぐっと黙ってしまった。雨後の竹の子のように、カフェが出来てはつぶれ、またカフェが出来ているのだ。街中から離れているところに作る予定だし、普通のカフェではすぐつぶれてしまうのが目に見えているのだ。だから鈴音も必死なのだろう。
出店するというのは金銭的にも相当負担になる。失敗は許されないのだ。
意見が割れたまま、今日の話し合いは終わる。明日は店を開店するのだ。あまり遅くなってはいけないと、後日また話し合いをすると言うことで今日は終わった。
本当にこんなところで仕事が出来るのだろうか。泉はそう思いながら、飲んでいたコップを片づける。話し合いは終わってしまったので、みんな帰ってしまったがここに入るのだったら泉は一番下っ端だ。そう思ってみんなが飲んだコップを洗う。
すると鈴音が隣の部屋からやってきた。
「あぁ。片づけなんかいいのに。」
「気が収まりませんから。」
こういう女性だからいいのだ。鈴音はそう思う。
見た目は本当に男の子なのか女の子なのかわからない。なのにその内面は誰よりも女性らしいと思う。進んでみんなの分のコーヒーを淹れたり、車輪でもないのにこういう場に呼んでくれたと控えめな意見を言う。だがお世辞はなく駄目なのものは「駄目」とはっきり言える。鈴音は影響力が強いので、さっきの店長になる「森」という男しか意見を言わなかったのだ。
こういう人たちと切磋琢磨して、作り上げた芋のあるのに。
「コーヒー豆も持ってきてくれたんだっけ。」
「いいえ。豆はさすがに持ってこなかったので、ここのを使いましたが。」
「え?そうなの?ずいぶん美味しいと思っていたのに。」
「淹れ方ですかね。」
コップを洗い終わって、食洗機の中に入れるとスイッチを入れて乾燥させる。
「高柳さん。」
対面式のキッチンで、泉は手を拭きながらカウンターに座った鈴音をみる。
「ん?」
「うちの店と何かしらつきあいがあるんですよね。前も思ったんですけど、クリスマスの限定スイーツなんかをプロデュースしていたりしていたし。」
「うん。あちらのコーヒーの淹れ方を指導している女性がいるだろう。」
「会ったことはないんですけど、うちの店長なら会ったことがあると言っていました。」
「その女性の師匠は二人いてね。そのうちの一人は、俺が懇意にしている男だ。その人の紹介で、「ヒジカタコーヒー」にデザートを考えてくれないかって言われた。」
コーヒー豆の種類も、焙煎も、全てその土地の水に合わせたもので作っている。当然、「ヒジカタコーヒー」で一番多く売り上げるブレンドに合わせてデザートを作った。
それは店舗ごとによって微妙に味が違う。だから、限定にして多く作れなかったのだ。
「飲み物に合わせてデザートを作るって言うのは、確かにどちらを主体にするのかって森には厳しい考えかもしれない。だけどそれで実際「ヒジカタコーヒー」は成功しているんだ。」
鈴音が自ら頭を悩ませて作ったものだ。だから売れているという話を聞いたとき、とても嬉しかった。
「でしたら、その新店舗は「ヒジカタコーヒー」と提携すればいいのではないんですか。」
すると鈴音は首を横に振る。それはあり得ないと思っているのだろう。
「「ヒジカタ」さんとは、提携はしない。どうもね……つきあってみてわかったよ。あそこは……どうやら坂本組と繋がりがあるね。」
「坂本組?」
「ヤクザだよ。大きな企業であればそういうのと繋がりを持たないといけないだろう。うちの店だってそうだ。でもそういうところとは付かず離れず位の距離で接さないといけない。なのに、あそこはおそらくズブズブに繋がっている。」
「どうしてそんなことが?」
「……脅してきたからね。」
資料をカウンターテーブルに置いて、鈴音はため息をついた。
「君が欲しいと言ったのを、おそらく店長がエリアマネージャーに報告したんだろう。数日して、うちに連絡が入ったから。」
礼二がエリアマネージャーに報告するのは当たり前だろう。
「それが脅されたことですか。」
「……邪魔をすれば、出店自体も危うくなるとね。」
「……そんなことを……。」
すると鈴音はため息をついていった。
「君を入れたいとは思うけど……そのためにはいろんなところに話をしないといけないかもね。」
「そんなことをしてまで……あの……私そんな、大したことはしてませんけど。」
焦ったように泉は言う。だが鈴音は少し笑っていった。
「大したことをしていたんだよ。だって、俺が入れたいと思ったのは、あのクリスマスのデザートを一緒に作ったときだ。俺はね、ずっとワンマンでしないといけなかった。他のスタッフに意見があっても、結局言い負かされて何も言わなくなる奴ばかりだ。森くらい何だよ。正面から意見を言うのは。君はそんなことを全部払拭してくれる。」
泉はその言葉に首を横に振った。
「私は……。」
「君が欲しい。」
それは恋愛感情なんかではない。ただ泉の能力だけを見て、欲しいと言っているのだ。それが嬉しかった。なのに礼二がちらついた。
まさか礼二が足かせになるとは思っていなかった。
「あまり大きな店舗ではないけど、キッチンは広め。ここである程度のケーキを仕込めるように。それから、簡単な食事も取れるようにする。」
鈴音は姿で売っているところもある。ヨーロッパで勉強して本格的なスイーツを売っていると言っても、そんなところはごろごろあるのだ。だから自分が広告塔になり、少しでも目立つように自分を着飾っている。だが今の鈴音は真剣だった。そんな様子はいっさい見えない。
この人の元で仕事をすれば、自分がもっと高められるかもしれない。泉はそう思っていた。
「コーヒーは、どこから仕入れるんですか。」
「「ヒジカタコーヒー」かな。良い豆を売っているし、焙煎もここでした方がいい?」
泉にそう聞くと、泉はうなづいた。
「「ヒジカタコーヒー」でも焙煎された豆は売っています。でも焙煎されたモノは、ある程度時間が経っています。時間が経てばそれだけコーヒーの味も落ちますから。」
「コーヒーに負けないようなデザートを作らないといけないな。」
「テイクアウトも出来るんでしょう。コーヒーに合わせるとどんな状況で食べるかわからないのに。」
店長になる男は、そういってそれを止めた。どうやらコーヒーに合わせてスイーツを作るなんてと思っているらしい。そして泉を淹れるのを反対している節がある。だが鈴音はそれを狙っているのだ。
「デザートを食べるのに、飲み物を飲まない人はあまりいない。ケーキもコーヒーセットで売り出そうとしているし、飲み物にもこだわりたい。」
「珈琲屋じゃないんですよ。ケーキ屋です。」
どうも意見が割れているな。泉はそう思いながら資料を見ていた。店長になるものと、オーナーの意見はもっと話し合ってやって欲しいと思う。
「「book cafe」はどう?」
「え?」
「ケーキを単体で食べる人っている?」
「あまりいないですね。コーヒー単体、紅茶だけという人は多いですが。そもそもうちの店はあまりフードに力を入れていないんですけどね。」
その割にはこの男の力を借りて昨年の年末はケーキが売れた。それに気をよくして、これからはデザートに力を入れるのかもしれない。
「隣の本屋は提携しているわけではないし、普通のカフェでも……。」
「普通のカフェでは生き残れない。森だってそう思っているだろう。」
森と言われた男はぐっと黙ってしまった。雨後の竹の子のように、カフェが出来てはつぶれ、またカフェが出来ているのだ。街中から離れているところに作る予定だし、普通のカフェではすぐつぶれてしまうのが目に見えているのだ。だから鈴音も必死なのだろう。
出店するというのは金銭的にも相当負担になる。失敗は許されないのだ。
意見が割れたまま、今日の話し合いは終わる。明日は店を開店するのだ。あまり遅くなってはいけないと、後日また話し合いをすると言うことで今日は終わった。
本当にこんなところで仕事が出来るのだろうか。泉はそう思いながら、飲んでいたコップを片づける。話し合いは終わってしまったので、みんな帰ってしまったがここに入るのだったら泉は一番下っ端だ。そう思ってみんなが飲んだコップを洗う。
すると鈴音が隣の部屋からやってきた。
「あぁ。片づけなんかいいのに。」
「気が収まりませんから。」
こういう女性だからいいのだ。鈴音はそう思う。
見た目は本当に男の子なのか女の子なのかわからない。なのにその内面は誰よりも女性らしいと思う。進んでみんなの分のコーヒーを淹れたり、車輪でもないのにこういう場に呼んでくれたと控えめな意見を言う。だがお世辞はなく駄目なのものは「駄目」とはっきり言える。鈴音は影響力が強いので、さっきの店長になる「森」という男しか意見を言わなかったのだ。
こういう人たちと切磋琢磨して、作り上げた芋のあるのに。
「コーヒー豆も持ってきてくれたんだっけ。」
「いいえ。豆はさすがに持ってこなかったので、ここのを使いましたが。」
「え?そうなの?ずいぶん美味しいと思っていたのに。」
「淹れ方ですかね。」
コップを洗い終わって、食洗機の中に入れるとスイッチを入れて乾燥させる。
「高柳さん。」
対面式のキッチンで、泉は手を拭きながらカウンターに座った鈴音をみる。
「ん?」
「うちの店と何かしらつきあいがあるんですよね。前も思ったんですけど、クリスマスの限定スイーツなんかをプロデュースしていたりしていたし。」
「うん。あちらのコーヒーの淹れ方を指導している女性がいるだろう。」
「会ったことはないんですけど、うちの店長なら会ったことがあると言っていました。」
「その女性の師匠は二人いてね。そのうちの一人は、俺が懇意にしている男だ。その人の紹介で、「ヒジカタコーヒー」にデザートを考えてくれないかって言われた。」
コーヒー豆の種類も、焙煎も、全てその土地の水に合わせたもので作っている。当然、「ヒジカタコーヒー」で一番多く売り上げるブレンドに合わせてデザートを作った。
それは店舗ごとによって微妙に味が違う。だから、限定にして多く作れなかったのだ。
「飲み物に合わせてデザートを作るって言うのは、確かにどちらを主体にするのかって森には厳しい考えかもしれない。だけどそれで実際「ヒジカタコーヒー」は成功しているんだ。」
鈴音が自ら頭を悩ませて作ったものだ。だから売れているという話を聞いたとき、とても嬉しかった。
「でしたら、その新店舗は「ヒジカタコーヒー」と提携すればいいのではないんですか。」
すると鈴音は首を横に振る。それはあり得ないと思っているのだろう。
「「ヒジカタ」さんとは、提携はしない。どうもね……つきあってみてわかったよ。あそこは……どうやら坂本組と繋がりがあるね。」
「坂本組?」
「ヤクザだよ。大きな企業であればそういうのと繋がりを持たないといけないだろう。うちの店だってそうだ。でもそういうところとは付かず離れず位の距離で接さないといけない。なのに、あそこはおそらくズブズブに繋がっている。」
「どうしてそんなことが?」
「……脅してきたからね。」
資料をカウンターテーブルに置いて、鈴音はため息をついた。
「君が欲しいと言ったのを、おそらく店長がエリアマネージャーに報告したんだろう。数日して、うちに連絡が入ったから。」
礼二がエリアマネージャーに報告するのは当たり前だろう。
「それが脅されたことですか。」
「……邪魔をすれば、出店自体も危うくなるとね。」
「……そんなことを……。」
すると鈴音はため息をついていった。
「君を入れたいとは思うけど……そのためにはいろんなところに話をしないといけないかもね。」
「そんなことをしてまで……あの……私そんな、大したことはしてませんけど。」
焦ったように泉は言う。だが鈴音は少し笑っていった。
「大したことをしていたんだよ。だって、俺が入れたいと思ったのは、あのクリスマスのデザートを一緒に作ったときだ。俺はね、ずっとワンマンでしないといけなかった。他のスタッフに意見があっても、結局言い負かされて何も言わなくなる奴ばかりだ。森くらい何だよ。正面から意見を言うのは。君はそんなことを全部払拭してくれる。」
泉はその言葉に首を横に振った。
「私は……。」
「君が欲しい。」
それは恋愛感情なんかではない。ただ泉の能力だけを見て、欲しいと言っているのだ。それが嬉しかった。なのに礼二がちらついた。
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