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少し暗い気持ちで泉は駅に降りた。今日、礼二は休みを利用して引っ越しをしたのだという。春樹と伊織が休みだったので、二人はその引っ越しを手伝ったのだという。特に伊織は居てくれて良かったと礼二はメッセージをくれた。礼二は仕事でパソコン何かを使うこともあるが、機械関係は相当疎い。なので伊織や春樹が配線をしたのだろう。
駅前にある居酒屋は今日も人が多いようだ。そう思いながら泉は、その店に入っていく。炭火の煙が外の外気と相まって、とても暖かく感じる。その中で、座席にいるのが倫子や春樹、礼二、伊織がいる。その席に近づいていくと、倫子がすぐに気が付いた。
「泉。お帰り。」
「ただいま。」
倫子の笑顔を見るだけでほっとする。暗い気持ちを払拭させるようだ。
「こっちに座って。」
伊織は席を譲るように、礼二の隣に泉を座らせる。通路側に避けたのだ。
「今日は忙しかった?」
礼二が聞いてくる。すると泉は首を傾げた。
「んー……。まぁ、忙しかったですね。結局、書店の方からヘルプは来なかったし。」
「あぁ。書店も今はてんやわんやだからね。」
「淫靡小説」の増刷が落ち着いたと思ったら、今度は月刊の青年マンガ雑誌が品切れしているのだという。倫子と政近の合作が掲載されて、インターネットの世界でも大騒ぎだ。
「「美咲」のキャラクターは面白かったね。」
「礼二、あまり本は読まないんじゃなかったの?」
「マンガはそれほどってくらいで、施設にいたときからずっと本ばかり読んでたよ。」
そういうことくらいしか娯楽がなかったのだ。イヤでも好きになるだろう。
「連載されても出すって言っていたね。」
担当している浜田が移動する。その移動で他の雑誌での連載が決まった。そしてその「美咲」のキャラクターはレギュラーメンバーになるのだ。
「そんなに出さないつもりなんだけど……世の中の動きを見ていたらそうでもないのかなぁって思うわ。」
「主人公の妹の方が人気が出ると思ったけどね。」
女子高生のキャラクターは、少し幼い感じに仕上げている。それが人気が出ると思っていたのに、春樹のねらいははずれ注目されたのは「美咲」だったのだ。
「うまくいかないものだな。」
春樹はそういってビールに口を付ける。
「私もよ。キャラクター先行で人気が出るのなんかまっぴら。内容を見て欲しいのに。」
倫子らしい言葉に、春樹も少し笑っていた。キャラクター先行になったのは、政近の画力によるものだ。
「泉。今日は平気だったのか。」
「ん……。」
ウーロン茶を頼んで、泉はため息を付く。
「何かあったの?」
倫子はいぶかしげに泉をみる。すると泉は首を横に振った。
「何でもないのよ。」
「何でもないわけ無いわ。言ったでしょう?あなたは自分のせいにすることばかりなんだから。あなたが悪い事なんか今まで無かったのよ。」
「……そう思わせたのも悪いのよ。」
「またそんなことを言って。」
呆れたように倫子はビールを飲み干す。空のグラスを春樹は避けて、倫子に聞いた。
「次は何を飲む?」
「えっと……何にしようかな。」
ドリンクのメニューを差し出して、それに目をやった倫子を見ると春樹は泉の方をみる。
「移動の話?」
「うん……。そろそろ返事を言わないといけなくて。」
それが泉の表情を暗くしている理由だろうか。伊織も心配そうに泉をみる。
「どっちに転んでも言いと思うけど……どっちを選んでも礼二さんと離れないといけないよね。」
勢いでつきあっているのだ。泉が居なければ、礼二は他の女に流れるかもしれない。それも危惧するところだった。
「俺が信用できない?」
礼二もビールを飲み干して、泉に聞いた。
「ってわけじゃないのよ。」
信用できないと言えるわけがない。礼二だって気にしているのだ。
「信用できないでしょ?」
注文して、倫子は礼二の方をみる。
「女に言い寄られたらすぐについて行くじゃない。自分がそんなにモテるとでも思ってるの?」
「んー……。」
気まずい。だが倫子の言うのが真実で、結婚をしていてもちょくちょく女と遊んでいたこともあるのだ。
「もう無いよ。三十六のおっさんだし。藤枝さんもそうでしょ?」
すると春樹は少し笑って言う。
「俺、結婚してたときはほとんど病院と本屋と会社くらいしか行かなかったからなぁ。あと、ジムとか。」
「ストイックすぎる……。」
頭を抱えた。そうだ。この男は真面目で、遊ぶことを知らないのだ。一晩限りの関係など、あり得ないのかもしれない。
「独身の時は遊んでいたくせに。」
倫子がそういうと、春樹は思わずビールを吹きかけた。
「倫子。」
「自分が綺麗だと思わないで。若いときの過ちなんか、笑い話にしておかないとね。泉もそうよ。どこにいても離れていても、とりあえず信じておいたらいいじゃない。」
泉に言いながら自分に言っているようだった。政近に流されかけた。心が痛くて、隣にいる春樹にもきっと今日はぎこちないと思われているはずだ。
「そうね……。」
「泉のしたいようにすればいいと思うよ。俺のことは考えなくても良いから。」
「礼二のこと?」
「んー……まぁ、高柳さんのところに泉が行ったら、俺にも責任があるんじゃないかってエリアマネージャーがね。」
ウーロン茶を持ってきた店員に、倫子は焼酎のロックを頼んだ。そして泉が好きなものを頼む。つまり焼おにぎりなのだ。
「そのエリアマネージャーもずいぶんだね。」
「本社にいたんだけど……まぁ……何かあってマネージャーに格下げした人だからね。そういう人なんだろう。」
泉も礼二もあまりいい印象ではない。大事なことを丸投げするような人だからだ。
「どちらを選んでも泉は家を出ないわよね?」
「うん。大丈夫。」
「だったら好きな方を選べばいいわ。高柳さんのところも見て判断すれば?」
「そうだね。どちらが良いかってのは最終的に自分で決めることだから。」
その話を聞いて、伊織は少し違和感を感じた。倫子はあの家に泉を置くことを前提にしている。離したくないと言っているようだ。
そうだ。ずっと思っていた。倫子は泉に依存している節がある。そして泉も倫子に依存している。それはどうしてだろう。ただの大学の動機だからと言う理由だけでは無い気がした。
駅前にある居酒屋は今日も人が多いようだ。そう思いながら泉は、その店に入っていく。炭火の煙が外の外気と相まって、とても暖かく感じる。その中で、座席にいるのが倫子や春樹、礼二、伊織がいる。その席に近づいていくと、倫子がすぐに気が付いた。
「泉。お帰り。」
「ただいま。」
倫子の笑顔を見るだけでほっとする。暗い気持ちを払拭させるようだ。
「こっちに座って。」
伊織は席を譲るように、礼二の隣に泉を座らせる。通路側に避けたのだ。
「今日は忙しかった?」
礼二が聞いてくる。すると泉は首を傾げた。
「んー……。まぁ、忙しかったですね。結局、書店の方からヘルプは来なかったし。」
「あぁ。書店も今はてんやわんやだからね。」
「淫靡小説」の増刷が落ち着いたと思ったら、今度は月刊の青年マンガ雑誌が品切れしているのだという。倫子と政近の合作が掲載されて、インターネットの世界でも大騒ぎだ。
「「美咲」のキャラクターは面白かったね。」
「礼二、あまり本は読まないんじゃなかったの?」
「マンガはそれほどってくらいで、施設にいたときからずっと本ばかり読んでたよ。」
そういうことくらいしか娯楽がなかったのだ。イヤでも好きになるだろう。
「連載されても出すって言っていたね。」
担当している浜田が移動する。その移動で他の雑誌での連載が決まった。そしてその「美咲」のキャラクターはレギュラーメンバーになるのだ。
「そんなに出さないつもりなんだけど……世の中の動きを見ていたらそうでもないのかなぁって思うわ。」
「主人公の妹の方が人気が出ると思ったけどね。」
女子高生のキャラクターは、少し幼い感じに仕上げている。それが人気が出ると思っていたのに、春樹のねらいははずれ注目されたのは「美咲」だったのだ。
「うまくいかないものだな。」
春樹はそういってビールに口を付ける。
「私もよ。キャラクター先行で人気が出るのなんかまっぴら。内容を見て欲しいのに。」
倫子らしい言葉に、春樹も少し笑っていた。キャラクター先行になったのは、政近の画力によるものだ。
「泉。今日は平気だったのか。」
「ん……。」
ウーロン茶を頼んで、泉はため息を付く。
「何かあったの?」
倫子はいぶかしげに泉をみる。すると泉は首を横に振った。
「何でもないのよ。」
「何でもないわけ無いわ。言ったでしょう?あなたは自分のせいにすることばかりなんだから。あなたが悪い事なんか今まで無かったのよ。」
「……そう思わせたのも悪いのよ。」
「またそんなことを言って。」
呆れたように倫子はビールを飲み干す。空のグラスを春樹は避けて、倫子に聞いた。
「次は何を飲む?」
「えっと……何にしようかな。」
ドリンクのメニューを差し出して、それに目をやった倫子を見ると春樹は泉の方をみる。
「移動の話?」
「うん……。そろそろ返事を言わないといけなくて。」
それが泉の表情を暗くしている理由だろうか。伊織も心配そうに泉をみる。
「どっちに転んでも言いと思うけど……どっちを選んでも礼二さんと離れないといけないよね。」
勢いでつきあっているのだ。泉が居なければ、礼二は他の女に流れるかもしれない。それも危惧するところだった。
「俺が信用できない?」
礼二もビールを飲み干して、泉に聞いた。
「ってわけじゃないのよ。」
信用できないと言えるわけがない。礼二だって気にしているのだ。
「信用できないでしょ?」
注文して、倫子は礼二の方をみる。
「女に言い寄られたらすぐについて行くじゃない。自分がそんなにモテるとでも思ってるの?」
「んー……。」
気まずい。だが倫子の言うのが真実で、結婚をしていてもちょくちょく女と遊んでいたこともあるのだ。
「もう無いよ。三十六のおっさんだし。藤枝さんもそうでしょ?」
すると春樹は少し笑って言う。
「俺、結婚してたときはほとんど病院と本屋と会社くらいしか行かなかったからなぁ。あと、ジムとか。」
「ストイックすぎる……。」
頭を抱えた。そうだ。この男は真面目で、遊ぶことを知らないのだ。一晩限りの関係など、あり得ないのかもしれない。
「独身の時は遊んでいたくせに。」
倫子がそういうと、春樹は思わずビールを吹きかけた。
「倫子。」
「自分が綺麗だと思わないで。若いときの過ちなんか、笑い話にしておかないとね。泉もそうよ。どこにいても離れていても、とりあえず信じておいたらいいじゃない。」
泉に言いながら自分に言っているようだった。政近に流されかけた。心が痛くて、隣にいる春樹にもきっと今日はぎこちないと思われているはずだ。
「そうね……。」
「泉のしたいようにすればいいと思うよ。俺のことは考えなくても良いから。」
「礼二のこと?」
「んー……まぁ、高柳さんのところに泉が行ったら、俺にも責任があるんじゃないかってエリアマネージャーがね。」
ウーロン茶を持ってきた店員に、倫子は焼酎のロックを頼んだ。そして泉が好きなものを頼む。つまり焼おにぎりなのだ。
「そのエリアマネージャーもずいぶんだね。」
「本社にいたんだけど……まぁ……何かあってマネージャーに格下げした人だからね。そういう人なんだろう。」
泉も礼二もあまりいい印象ではない。大事なことを丸投げするような人だからだ。
「どちらを選んでも泉は家を出ないわよね?」
「うん。大丈夫。」
「だったら好きな方を選べばいいわ。高柳さんのところも見て判断すれば?」
「そうだね。どちらが良いかってのは最終的に自分で決めることだから。」
その話を聞いて、伊織は少し違和感を感じた。倫子はあの家に泉を置くことを前提にしている。離したくないと言っているようだ。
そうだ。ずっと思っていた。倫子は泉に依存している節がある。そして泉も倫子に依存している。それはどうしてだろう。ただの大学の動機だからと言う理由だけでは無い気がした。
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