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血縁
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病院をでた春樹と靖は、倫子に連絡を入れる。倫子は資料集めをしに少し離れたところにいたのだが、待ち合わせていると慶大にはすぐにやってきた。
「お待たせ。」
朝にあったときはあこがれていた作家と言うこともあり、まじまじと見れなかったが普通にしていても美人だと思う。こんなタイプは田舎ではあまりみない。
「あまり待っていないよ。資料はあった?」
「えぇ。あの図書館は、とても蔵書が多くて良かったわ。」
図書館と聞いて、少し気後れした。真矢がいるところなのだ。もしかしたら倫子と真矢はもう会っているのかもしれない。だが会ったところで何だというのだ。ただの高校の同級生と、今の恋人だ。春樹は考えを払拭させる。
「春樹さん。あとで相談したいことがあるの。」
「何かな。」
「んー。帰ってからで良いかな。」
おそらく連載中の作品のことだろう。資料を集めているうちに、変更したいとかそんなところだ。ただの読者である靖の前で言いたくないらしい。
「帰って部屋で聞くよ。とりあえず食事に行こうか。靖君。何が食べたい?」
「あー……。うん。何が良いかなぁ。」
「和食か洋食、中華も良いわね。」
「んー……。」
出来れば、こんな街に来たのだ。田舎にはないモノが食べてみたいと思うが、こんな事をいったら恥ずかしいと思うだろうか。それがとても田舎者のようで嫌だ。
「何でも良いけど。」
「好き嫌いはないの?」
「別にないですね。母さんはうちでご飯を食べなさいっていつも言うけど……。」
「真理子は料理が出来るようになって良かったな。」
「え?」
「実家にいたときは皿一つ洗わなかったのに、今は何でもこなしているんだろう。変わるものだな。」
驚いたように靖はその会話を聞いていた。母親の真理子は、みんなを学校なり仕事なりに行かせたあと、パートで魚の加工会社にいる。おかげでどんな魚でもさばいて料理していると思っていたが、全くしていなかったとは思わなかった。
「春樹さん。俺、ファーストフード食べてみたい。」
「え?」
意外な言葉だった。そんな安いものでいいのだろうか。
「あの街にはないし、家族で街にでればそんなところに行かないし。部活の遠征だって、色々栄養バランスが云々とか言われて食べれないし。」
「そっか……。わかった。じゃあ、そこで良い?」
駅のそばにあるファーストフードの店がある。そこはずっと気になっていたのだ。
「良いわね。たまには。あまり食べないのよね。私も。」
笑顔の倫子とは裏腹に、春樹は少し不満だった。靖がいるとはいえ、少しデートの気分を味わいたかったから定食屋とかではなく洋食の店などを考えていたのだ。
だが自分もそうだった。あの田舎にはそんな店はないので、春樹もファーストフードを口にしたのは大学になってからだったのだ。それを考えると靖の気持ちもわからなくもない。
倫子は靖の隣で少し笑顔になりながらヒールをならして歩いていく。すでに靖は倫子よりも背が高い。とても絵になるようだった。
ランチの時間は過ぎているので、あまり店内は混んでいない。窓側の席に座って、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクを目の前にする。
「結構塩辛い。」
ポテトを口にして靖はそう口にする。
「ドリンクがすぐになくなるわね。」
倫子もそういってポテトに口を付ける。サラダという選択もあったが、「こんなところのサラダなんか」といって選ばなかったのだ。
「足はどうだったの?」
すると靖は少し笑っていった。
「紹介状を書いてもらえました。ここは少し離れているけれど、うちの街から電車で一時間くらいの所に病院があって、そこの先生にリハビリを受けたり徐々に慣らしていけば元のように走れるかもしれないって。」
「そう……手術まではしなくてもいいの?」
「した方が早いかもしれない。だけど、それで完治しますとも言えないらしいんだ。だったら徐々にリハビリをして長い期間をかけた方が、直る可能性が高いってことらしい。」
「選手にならなくてもいいの?」
するとドリンクを飲んで、靖は言った。
「選手とか気にしてないんです。走れればいいんで。俺、長距離なんですよ。」
「マラソン?」
「駅伝とか、そんな感じですけど……。走っていると無心になるから。」
「苦しくないの?」
「苦しいです。でも辞められないんです。病気ですかね。」
外の音なんか聞こえない。聞こえるのは自分の心音と、息づかい。風を感じて走っていく。その感覚を忘れられない。
「俺も泳いでいたときはそんな感じだったな。」
「水泳をしていたといっていたわね。」
「俺も長距離だったから。」
スポーツとは無縁だった。だが少し興味は出てきた。
「良いわね。」
倫子はそういってハンバーガーを包んでいる紙を取った。そのときだった。
「倫子。」
声をかけられて思わず見上げた。そこには田島政近の姿がある。
「政近。」
政近の手にもトレーが握られている。昼食をとろうと思っていたのだろう。
「珍しいな。こんなところで。ん?あぁ。藤枝さん。こんにちは。」
「お疲れさまです。」
「隣良い?」
倫子は向かいに座っている春樹を見る。そして春樹は靖をみた。靖はいきなり現れたピアスや入れ墨だらけの男に、少し気後れしているように見える。田舎にはいないタイプだ。
「何だよ。悪いのか。」
「良い?靖君。」
「小泉先生の知り合いだったら、別に……。」
「誰?藤枝さんの隠し子?」
すると春樹は驚いたようにドリンクを吹き出しそうになった。
「何を言っているの。バカじゃない。」
せき込んだあと、春樹は靖を紹介した。
「甥っ子。妹の子供ですよ。」
「ふーん。ま、いいや。座らせてもらうよ。」
図々しく政近は倫子の隣に座ると、ストローを出してドリンクの蓋に刺す。
「でけぇな。身長どれくらいあんの?」
「百八十です。」
「高校か?」
「中学生です。」
「もっとでかくなるな。スポーツしてんの?」
「陸上で、長距離をしていたんです。」
「してた?」
「怪我をして。」
「……ふーん。で、田舎からこっちの病院にきたのか。」
「はい。」
ポテトを口に入れて、納得したように靖を見ていた。だが違和感がある。
「十四か十五?」
「十四です。」
「だとしたら計算があわねぇな。藤枝さんの妹の子供だろ?」
その言葉に春樹の顔がひきつった。そして気にしたように靖を見る。だが靖は平然としていた。
「お待たせ。」
朝にあったときはあこがれていた作家と言うこともあり、まじまじと見れなかったが普通にしていても美人だと思う。こんなタイプは田舎ではあまりみない。
「あまり待っていないよ。資料はあった?」
「えぇ。あの図書館は、とても蔵書が多くて良かったわ。」
図書館と聞いて、少し気後れした。真矢がいるところなのだ。もしかしたら倫子と真矢はもう会っているのかもしれない。だが会ったところで何だというのだ。ただの高校の同級生と、今の恋人だ。春樹は考えを払拭させる。
「春樹さん。あとで相談したいことがあるの。」
「何かな。」
「んー。帰ってからで良いかな。」
おそらく連載中の作品のことだろう。資料を集めているうちに、変更したいとかそんなところだ。ただの読者である靖の前で言いたくないらしい。
「帰って部屋で聞くよ。とりあえず食事に行こうか。靖君。何が食べたい?」
「あー……。うん。何が良いかなぁ。」
「和食か洋食、中華も良いわね。」
「んー……。」
出来れば、こんな街に来たのだ。田舎にはないモノが食べてみたいと思うが、こんな事をいったら恥ずかしいと思うだろうか。それがとても田舎者のようで嫌だ。
「何でも良いけど。」
「好き嫌いはないの?」
「別にないですね。母さんはうちでご飯を食べなさいっていつも言うけど……。」
「真理子は料理が出来るようになって良かったな。」
「え?」
「実家にいたときは皿一つ洗わなかったのに、今は何でもこなしているんだろう。変わるものだな。」
驚いたように靖はその会話を聞いていた。母親の真理子は、みんなを学校なり仕事なりに行かせたあと、パートで魚の加工会社にいる。おかげでどんな魚でもさばいて料理していると思っていたが、全くしていなかったとは思わなかった。
「春樹さん。俺、ファーストフード食べてみたい。」
「え?」
意外な言葉だった。そんな安いものでいいのだろうか。
「あの街にはないし、家族で街にでればそんなところに行かないし。部活の遠征だって、色々栄養バランスが云々とか言われて食べれないし。」
「そっか……。わかった。じゃあ、そこで良い?」
駅のそばにあるファーストフードの店がある。そこはずっと気になっていたのだ。
「良いわね。たまには。あまり食べないのよね。私も。」
笑顔の倫子とは裏腹に、春樹は少し不満だった。靖がいるとはいえ、少しデートの気分を味わいたかったから定食屋とかではなく洋食の店などを考えていたのだ。
だが自分もそうだった。あの田舎にはそんな店はないので、春樹もファーストフードを口にしたのは大学になってからだったのだ。それを考えると靖の気持ちもわからなくもない。
倫子は靖の隣で少し笑顔になりながらヒールをならして歩いていく。すでに靖は倫子よりも背が高い。とても絵になるようだった。
ランチの時間は過ぎているので、あまり店内は混んでいない。窓側の席に座って、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクを目の前にする。
「結構塩辛い。」
ポテトを口にして靖はそう口にする。
「ドリンクがすぐになくなるわね。」
倫子もそういってポテトに口を付ける。サラダという選択もあったが、「こんなところのサラダなんか」といって選ばなかったのだ。
「足はどうだったの?」
すると靖は少し笑っていった。
「紹介状を書いてもらえました。ここは少し離れているけれど、うちの街から電車で一時間くらいの所に病院があって、そこの先生にリハビリを受けたり徐々に慣らしていけば元のように走れるかもしれないって。」
「そう……手術まではしなくてもいいの?」
「した方が早いかもしれない。だけど、それで完治しますとも言えないらしいんだ。だったら徐々にリハビリをして長い期間をかけた方が、直る可能性が高いってことらしい。」
「選手にならなくてもいいの?」
するとドリンクを飲んで、靖は言った。
「選手とか気にしてないんです。走れればいいんで。俺、長距離なんですよ。」
「マラソン?」
「駅伝とか、そんな感じですけど……。走っていると無心になるから。」
「苦しくないの?」
「苦しいです。でも辞められないんです。病気ですかね。」
外の音なんか聞こえない。聞こえるのは自分の心音と、息づかい。風を感じて走っていく。その感覚を忘れられない。
「俺も泳いでいたときはそんな感じだったな。」
「水泳をしていたといっていたわね。」
「俺も長距離だったから。」
スポーツとは無縁だった。だが少し興味は出てきた。
「良いわね。」
倫子はそういってハンバーガーを包んでいる紙を取った。そのときだった。
「倫子。」
声をかけられて思わず見上げた。そこには田島政近の姿がある。
「政近。」
政近の手にもトレーが握られている。昼食をとろうと思っていたのだろう。
「珍しいな。こんなところで。ん?あぁ。藤枝さん。こんにちは。」
「お疲れさまです。」
「隣良い?」
倫子は向かいに座っている春樹を見る。そして春樹は靖をみた。靖はいきなり現れたピアスや入れ墨だらけの男に、少し気後れしているように見える。田舎にはいないタイプだ。
「何だよ。悪いのか。」
「良い?靖君。」
「小泉先生の知り合いだったら、別に……。」
「誰?藤枝さんの隠し子?」
すると春樹は驚いたようにドリンクを吹き出しそうになった。
「何を言っているの。バカじゃない。」
せき込んだあと、春樹は靖を紹介した。
「甥っ子。妹の子供ですよ。」
「ふーん。ま、いいや。座らせてもらうよ。」
図々しく政近は倫子の隣に座ると、ストローを出してドリンクの蓋に刺す。
「でけぇな。身長どれくらいあんの?」
「百八十です。」
「高校か?」
「中学生です。」
「もっとでかくなるな。スポーツしてんの?」
「陸上で、長距離をしていたんです。」
「してた?」
「怪我をして。」
「……ふーん。で、田舎からこっちの病院にきたのか。」
「はい。」
ポテトを口に入れて、納得したように靖を見ていた。だが違和感がある。
「十四か十五?」
「十四です。」
「だとしたら計算があわねぇな。藤枝さんの妹の子供だろ?」
その言葉に春樹の顔がひきつった。そして気にしたように靖を見る。だが靖は平然としていた。
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