守るべきモノ

神崎

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嫉妬

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 入れ墨に紛れているが、火傷の跡は広範囲だった。特に酷いのは、腕のあたりだった。点々とした火傷の跡が無数にある。蛇の柄に紛れて、目立たないようにしてあるが入れ墨がなければ火傷の跡が相当目立っていたはずだ。
 政近はその火傷の跡すら唇をはわせる。そして自分もシャツを脱ぐと、肩の入れ墨がさらされた。それは黒一色の月に見える。三日月のデザインは、自分が不完全であることを意味している。政近もまた、有能な弟と比べられて、劣等感の中で生きてきたのだ。
 倫子の目が合い、政近はそのまま唇を重ねる。弱みにつけ込んだなんて思われたくない。このわき上がる感情を恋心だと信じたくない。ただ欲しいから。倫子だってそのはずだ。あの男を忘れたいからしているだけだ。
「きつくないの?」
「何が?」
 唇を離して、倫子が聞く。
「下。」
「あぁ。まだガン立ちはしてねぇよ。」
「脱げば?」
「んだよ。急に積極的になって。」
 ただ自分がもう全裸なのに、政近は脱いでいないのが腹が立つだけだ。そう思いながら、倫子は政近がジャージを脱いでいるところを見る。そしてお互いが全裸の状態のまま、政近がベッドに乗り上げる。
 そしてキスをしたあと、さっきも触れた胸に手をはわせた。もうすでにピンク色に染まってきたその胸の先にある乳首が立ってきている。
「あっ……。」
 この火傷のあとは守りたいものがあったから付いたものだ。自分の命を捨ててでも守りたいものがあったことに、政近は少しうらやましく思っていた。そしていつからか、自分も大切に思って欲しいと思っていたのかもしれない。
 いつもならこのまま手を縛って、ローター責めをする。ローターで乳首を責めれば、何もしなくても女が濡れるから。だが倫子の表情を見ているとそんな気になれない。優しく丁寧に触れたいと思う。壊れそうで、不安定な倫子を支えたい。
「乳首、こんなに立ってたら痛くねぇ?」
「痛いわ……でも……。」
「もっとして欲しい?」
 すると倫子は顔を赤くさせながら、少しうなづいた。マゾヒストなのだ。そう思って政近はその乳首に舌をはわせる。そして歯で少し刺激を与えた。
「あっ……。」
 その反応を見るだけで立ってくる。だが倫子はこれだけで絶頂を迎えそうなのかもしれない。音を立ててそこを舐めあげる。すると倫子は声を上げて、ぐったりとしたまま枕に顔を埋めた。
「イった?」
 何も考えられない。ただ快感だけが頭の中を征服する。
 そして政近は胸から舌を離し、倫子の足を持ち上げた。膝を立てさせて、指でそこに触れる。すると漏らしているのではないかというくらいの水の音がした。
「すごい、ぐちゃぐちゃだな。こんだけでこんなに濡れてんじゃねぇよ。シーツまで垂れてんじゃねぇか。超スケベだな。お前のマ○コ。」
「何……んっ……。」
 言葉で言えば、もっと濡れてくる。確かにこれは、癖になりそうだ。そう思いながら、そこを広げた。
「何人した?」
「え……。」
「このピンク色のマ○コに何人入れたんだよ。ほら。言えよ。」
「そんなのわかんない。」
「わかんないほどしたのかよ。」
「感情なんか無いわ。ネタのためだもの。」
 確かに本を読む限り、愛情の一つも感じない文章だと思った。濡れ場であればそれがさらに露骨に感じる。それは愛情がなかったからだ。
 だが最近の文章は違う。濡れ場のシーンも少しずつ変わってきている気がする。その理由は春樹なのだ。そう思うと自分が今している行為も、春樹がしている行為とは違う。愛情なんか無いのだ。そう思うと悔しくなった。
 指を入れたり、舐めたりする度に倫子は確かに声を上げ、絶頂に達する。だがそれは体だけだ。感情なんか無い。そう思うと嫉妬しそうになる。
 コンドームを取り出して、それをつけ、倫子の中に入ってもその感情は空虚だった。そう思えば思うほど、ムキになって打ち付けてしまう。
「あっあっ……。」
 目を閉じられて、政近の方を見ようともしない。これはただの行為だと言われているようだった。
「倫子……。」
 倫子の体を起こして、膝の上に載せる。そして顔にかかっている髪を手で避けた。
「こっち見ろよ。」
「……。」
 薄く目を開ける。すると政近はそっとキスをしてその中に深く入れ込んだ。
「あっ……。」
 また目を閉じてしまう。頬をなでて、政近は倫子の目を見ていった。
「俺を見ろよ。」
「政……。」
「名前呼んで。倫子。お前を抱いてんの、俺だから。あいつに重ねんなよ。俺だから。」
 すると倫子は譫言のように政近の名前を呼ぶ。
「政近……。」
 その言葉に、政近は下から思いっきり倫子を突き上げた。もう容赦なんか出来ない。壊したい。自分しか考えられないくらい倫子を抱きたい。
「倫子……。もう駄目。激しくするから。」
 背中に手を伸ばして、倫子を抱きしめた。そしてそのまま下から突き上げる。すると倫子も腰を振ってきた。
「あっ……あっ……。んっ……。駄目ぇ……またイくから……。」
「何回もイけよ。俺しか考えられないくらいぐちゃぐちゃになれよ。」
「政近……あっ……。」
「あっ……駄目だ……。出る……出るから……。」
「ああああ!イく!イっちゃう!」
 ひときわびくびくと体を震わせて、倫子は政近の体を抱き寄せた。そして政近もその中で果ててしまった。
「……あー……。すげぇ気持ちいい……。倫子の中、超いい。」
 びくびくと中に注がれて、倫子も息を切らせていた。
「一緒にイったみたい……。」
「あぁ……。」
 まだ倫子の中に入っている。だがまだこうしていたい。政近はそう思いながら、倫子の体に手を伸ばす。
「離して。」
「何で?」
「何ででも。」
 倫子はそう言って無理矢理政近の体から離れる。すると政近の性器の先に付いていたコンドームに白いものが溜まっていた。
「最近抜いてなかったしなぁ。」
 そう言ってコンドームを取ると、ティッシュでそこを拭く。そして煙草を手にした。
「お前も吸う?」
「そうね。」
 倫子はそう言ってベッドから降りると、灰皿を用意した。
「一瞬でも忘れられたか?」
「……そうね。一瞬だけ。」
 セックスをしているときは政近のことしか考えられなかった。だが残っているものは空しさだけなのかもしれない。
 春樹に顔向けが出来ない。そう思いながらなじみのない煙草をくわえた。
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