守るべきモノ

神崎

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嫉妬

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 キスの仕方も、感触も、何もかもが違うのに離れたくない。倫子はそう思って政近の首に手を伸ばす。そのままベッドになだれ込みそうだと思うくらい激しく唇を重ねていた。
 唇が離れると、互いの顔が赤く染まっている。吐息が重なり、何もいわないまま政近は倫子の首筋に唇を当てた。そのとき、倫子はその体を押しのける。
「ちょっと……。」
「何だよ。ここまでしておいてお預けか?」
「跡が付くでしょう?」
 のこのここんなところに来た倫子も節操がないと言われれば仕方がない。だがここで政近と何かあっては本当に面目がないと思う。
「付けなかったらいいのか?」
「それでも……。」
 すると政近は立ち上がると、風呂場へ向かった。そして洗濯物があるかごを手にすると、ベランダへ出ていった。
「何……。」
 ピッピッという音がしたあと水が出る音がした。洗濯機を回しているようだ。
「お前が着てたのも洗ってやるよ。」
 そう言ってベランダから部屋に戻ってくる。
「洗ったら、帰れないわ。」
 今着ているものは、政近が用意してくれたシャツと倫子に合わせたら大きめのジャージのハーフパンツだった。下着はさすがに倫子がシャワーを浴びている間に、近所のコンビニで政近が買ってきたものだったが。
「帰るなって事だよ。」
「何を言っているの?帰らないと……。」
「帰るなって。」
 政近はそう言ってまた床に腰掛ける。
「あんな家に帰る必要ないだろ。」
「私の家よ。」
「同居人はもうちょっと選べよ。友達だって言うの俺には口だけに聞こえたし、友達ごっこしているみたいだったから。」
「泉のことをバカにしないで。あなたこそ、家に連れ込んでただしたいだけじゃないの?」
 洗濯機が回っている音がする。アパートなのにこんな夜遅くに洗濯機を回していいのだろうか。だが政近は冷たい目で倫子に言う。
「セックスしたいだけなら、とっくにやってる。俺、サドみたいでさ、嫌がる女をするの好きなんだよ。泣いて懇願されると、ますますしたくなるし。」
 ぞっとした。倫子もそうされないとは言えなかったからだ。
「イヤよ。あなたとしたくないわ。」
「だったらすがってくるなよ。気を持たせて、このヤリ○ンが。都合の良いときだけ頼って、セックスはしたくないってたちが悪すぎるだろ。」
「……。」
「あいつもそれくらいだったんだよ。あいつだって奥さんのことしか見てねぇじゃん。」
「……。」
 言葉に詰まった。奥さんのことしか見ていないのは明確で、倫子はその次にもないのはわかっていたのに、いつの間にか勘違いをしていたのかもしれない。好きだという言葉は嘘だったのに。嘘から始まったことなのに自分が、すがってしまったのだ。
「俺にしておけよ。」
 倫子の方へ近づくと、それでも倫子はそれを避けるように後ろへ下がっていく。
「倫子。」
「ここであなたにすがったら、本当に弱くなってしまう。一人で生きていくって決めたのに……。出来損ないの欠陥品だから……せめて自立しないといけないって思ってたの。」
「……お前は出来損ないなんかじゃないって。」
 首を横に振る。しかし政近は立ち上がると、棚から一冊の本を取りだした。
「初版でも何でもない本だ。」
 白と赤の表装。それはまだ駆け出しだった伊織が表装した倫子のデビュー作「白夜」だった。
「この本を読んで、確かに文章の表現の稚拙さは、否めないと思った。でも……この本には希望があったと思う。」
「夜が来なければいいと犯人は思ったのよ。希望なんか無いわ。」
「いいや。希望がなければ俺はこの本を「極夜」にする。太陽が上がらなければいいと思うだろうから。」
「……。」
「夜が来ない朝はねぇよ。」
 政近はそう言って倫子の方へ近づいていく。だが倫子はまだ後ろに下がっていった。それを逃がさないようにどんどんと近づいていく政近を見ながら、ついに倫子は壁に背中が当たる。そして政近が目の前にいた。倫子に近寄り、政近はそのまま唇を重ねる。
「ま……。」
 さっきと違う。求めているわけではない。政近の肩に手を置かれて、離そうとしているようだ。だが政近は唇を重ねながらその両手を握り、腕も壁に押しつける。
 唇を離すとそのまま首元に唇をはわせ、首筋を舌で舐めあげた。その感触が倫子を高ぶらせる。顔が赤くなり、その感触に耐えているようだった。だがつっと舌を顔の方へあげ、耳たぶを軽く噛むとさすがに声を上げる。
「あっ……。」
 耳が弱い。また一つ、倫子が良いところをを見つけた。そして政近は倫子の両手を片手でつかみあげると、片手でシャツ越しに胸に触れる。思った以上に胸が大きい。男だったらこういう体を好きにするのは、たまらないだろう。そしてこの体を春樹も好きにしたのだ。そう思うと、胸に触れる手に力が入る。
「シャツからでもわかるな。ほら……ここが好きなんだろう?」
 乳首が立っていて、シャツ越しに摘むと堅さを増していく。
「や……。」
 指でコリコリとそこを弾くように当たり、ぎゅっと摘むとまた声を上げた。
「引っ張らないで……んっ……。」
「こんだけで、超いい反応だな。」
 こんなに感じていれば勘違いをする。倫子だけじゃない。春樹もズブズブに倫子にはまっていたのだ。
「あっ……。あ……。」
 これだけ感じているのだ。手を離しても抵抗しないかもしれない。
 握る手を離して、シャツに手をかける。そのとき、倫子の手が政近の肩に置かれた。
「やだって言っているでしょう?」
「そんだけ赤い顔をされて、やだって言っても説得力がねぇよ。それに見せろよ。」
「何を?」
「火傷。どれだけ付いてんだよ。」
 その言葉に一瞬倫子の動きが止まった。それを見逃さなかった政近は、一気にシャツをまくり上げた。
「ちょっと。」
 背中に手を伸ばすと、下着を取られた。胸をさらされて、倫子は恥ずかしそうに横を向いてその胸を手で隠す。
「何隠してんだよ。」
 手を離すと、たまらずその胸に触れた。柔らかくて温かいその胸は、誰よりも愛しいと思う。こんな感情になるのは初めてだった。
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