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秘密
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ここへくる途中で下着なんかを買っていて良かった。政近はそう思いながら、春樹に風呂場に案内された。
「タオルはここです。ドライヤー使いたかったら、そっちにあるんで好きに使ってください。」
「ありがとうございます。」
まるで自分の家のようだと思いながら、政近は春樹の言葉を聞いていた。春樹もここに住んでいるのだという。住んでいた家が駄目になったので一時的な仮宿としてすんでいるのだろうと思っていたが、どうやら事情は違うらしい。
古い古民家とは言っても、右から左にぽんと買えるような家ではない。そのローンの返済もあって、倫子もここに住まわせているのだというし、春樹もそれで満足をしているのだという。
「本当にここに泊まるつもりですか?」
「さぁ。もしかしたら寝ないでプロットをたてたいと言い出すかもしれませんし、寝たいときは勝手に寝ますよ。」
「倫子さんは部屋に帰してくださいね。」
その様子に政近は少し違和感を持った。まるで恋人を心配するように見えたからだ。
「男と女って言いたいんですか。」
「えぇ。」
「その心配はしないでください。」
案外冷たく言うものだな。本当に手を出すつもりはないのだろう。
「何で?」
「好みじゃないんで。」
政近はそういって指にはめられている指輪をとった。だがその言い方が春樹は気に入らない。
「好みじゃない?」
「俺、サディストなんであんな女に責められると頭に血が上りそうになる。」
やはり外見だけでものを言っている。倫子は確かに見た目だけではサディストに見えるが、その根底はマゾヒストなのだ。それがまだ政近にはわかっていない。
「そうでしたか。」
「……藤枝さん。あれですね。」
「何?」
「倫子さんの恋人みたいだ。」
その言葉に春樹はドキッとする。気づかれないように浜田の前でも政近の前でも接していたつもりだったが、ついそういう態度にでてしまったのかもしれない。
「一応、ずっと俺が担当してたんで、心配は心配ですよ。周りが見えなくなることもあるし。」
「ふーん。でもまぁ……どうでも良いですよ。恋人だろうと不倫してようと本人の自由だし。」
他人に興味がない。それが倫子によく似ていると思った。それだけに、倫子があって二回くらいで家に泊まらせるくらい気に入ったのもわかる。
「なんかあったら呼んでください。俺、部屋は風呂場の隣なんで。」
そういって脱衣所を出ようとした春樹に、政近が声をかける。
「あ、設定とか藤枝さんも見て欲しいと思ってたんですけど。」
「残念。もう俺は眠くて。歳ですからね。朝にでも見ますよ。」
若く見えるが三十五だという。編集者などをしていたら、時間は関係ないと思っていたのにそうではないらしい。無理はしないのは、作家にとっても同じだ。
「わかりました。」
ピアスをはずしているのを見て、春樹はそのまま脱衣所をあとにした。そして居間へ向かう。
「倫子さん。」
ドアの前で声をかけると、倫子の声がすぐに聞こえた。
「どうぞ。」
ドアを開けると、倫子はまだスケッチブックを見ている。キャラクターと舞台をまた考えているらしい。
「倫子。部屋には呼ばないでよ。」
「部屋?うるさかったりしたら部屋に行った方がいいと思っていたけれど。」
倫子は政近を何とも思っていないらしい。だから部屋へ呼んでも別にかまわないと思っていたのだ。
「部屋まで行くと、何をされるかわからないよ。」
サディストだと自分で言っていた。もし倫子の根底にあるものに気がついたら、はまっていくのは目に見えている。
「男と女だって事は関係なくつき合えると思っていたけれど、そうじゃないの?」
その言葉に、春樹はドアを閉めて倫子の隣へ足を進める。その視線に、倫子はやっと気がついた。春樹がずっと嫉妬していたのだと言うことを。
そして春樹は倫子のその手に手を伸ばす。自分だって求めていたのだ。
「今日、抱けると思ったのに。」
「本当に高校生みたいね。」
少し笑うと、倫子もまたその手を握る。そして春樹を見上げると、その唇に軽くキスをする。
「明日の昼、ここに来るから。」
「そちらの会社のヤツは何もないと思ったんだけど。」
官能小説はまだ執筆中で、まだ見せられるものではない。
「他の先生のところにいく用事があるんだ。そのついでに官能小説の方の進み具合を見に来るから。」
「それだけ?」
「違うけどね。」
そういって春樹はまた倫子の頬に手を当てると、唇を重ねた。唇を舌で割ると、倫子もまたその舌を絡ませてくる。そして首に手を回してそれに答えた。それが合図のように、倫子の胸元に手を下げた。
「春樹……今ここでそんなことをしたら……。」
「何?」
服越しに指に触れた。そこからでも乳首が立ち始めているのがわかる。
「駄目って……政近さんが戻ってくるから。」
「だから少しだけ。」
春樹はそういってまたそこに指を這わせた。
倫子も風呂に入ってあがってくると、思った以上に色気があると思った。湯上がりで頬をピンクに染めて、髪をいつもは下ろしているのに結ぶだけでうなじが見える。それがさらに色気を増していた。
「どこまでしたかしら。」
倫子はそういって台所からカップを二つ持ってくる。お茶が入っているらしい。
「あ……うん。人物はあらかた決まっているから、設定だな。」
思い直して、政近はスケッチブックに目を落とす。
「最初なんだから、クローズド・サークルが良いわね。」
「島?」
「島はこの間、ゲームで使っちゃったのよね。二番煎じって思われるわ。雪山が良いかしらね。」
「発売されるのは冬だからそれも良いな。」
島にしたくなかったのは、春樹のことを思い出すから。春樹を連れ回して無人島を歩き回った。それも悪くないが、春樹のことを思えばもう少し恋人気分を味わいたかっただろうと思う。
「どうした。ぼんやりして。」
「いいえ。何でもないわ。」
「あんた、出身は海辺か?」
「違う。山の方よ。温泉が出るの。」
「ふーん。田舎だな。そんな田舎ならその容姿は目立つだろう?」
入れ墨のことを言っているのだろう。確かに地元に帰れば目立ってしまう。
「滅多に帰らないわ。あなたはどこなの?」
「俺は……まぁ、遠くはない。」
「そう……。」
あまり人のことには興味がなさそうなのに、初めて自分のことを聞かれたと思った。まぁいい。必要以上のことは話したくない。
「話が逸れたわね。舞台は雪山のペンションにする?」
「んー。それも使い古されているな……。」
「だったら何かしら。年齢も性別もバラバラで、集まることって何かしら。」
「……同窓会。」
「学校?」
「そこで事件が起きる。」
「いいわね。それ。ちょっと資料をとってくるわ。」
「キャラクターの設定も変えよう。となると外見も変わってくる。」
倫子は居間を出ると、自分の部屋へ戻る。そして資料を探っていたところに、政近が部屋に入ってきた。
「ちょっと、勝手に……。」
「ごそごそしてたら、他のヤツが起きるだろ?こっちでしよう。」
もう部屋に入ってきているのを見て、倫子は諦めたように資料をテーブルに置いた。
「タオルはここです。ドライヤー使いたかったら、そっちにあるんで好きに使ってください。」
「ありがとうございます。」
まるで自分の家のようだと思いながら、政近は春樹の言葉を聞いていた。春樹もここに住んでいるのだという。住んでいた家が駄目になったので一時的な仮宿としてすんでいるのだろうと思っていたが、どうやら事情は違うらしい。
古い古民家とは言っても、右から左にぽんと買えるような家ではない。そのローンの返済もあって、倫子もここに住まわせているのだというし、春樹もそれで満足をしているのだという。
「本当にここに泊まるつもりですか?」
「さぁ。もしかしたら寝ないでプロットをたてたいと言い出すかもしれませんし、寝たいときは勝手に寝ますよ。」
「倫子さんは部屋に帰してくださいね。」
その様子に政近は少し違和感を持った。まるで恋人を心配するように見えたからだ。
「男と女って言いたいんですか。」
「えぇ。」
「その心配はしないでください。」
案外冷たく言うものだな。本当に手を出すつもりはないのだろう。
「何で?」
「好みじゃないんで。」
政近はそういって指にはめられている指輪をとった。だがその言い方が春樹は気に入らない。
「好みじゃない?」
「俺、サディストなんであんな女に責められると頭に血が上りそうになる。」
やはり外見だけでものを言っている。倫子は確かに見た目だけではサディストに見えるが、その根底はマゾヒストなのだ。それがまだ政近にはわかっていない。
「そうでしたか。」
「……藤枝さん。あれですね。」
「何?」
「倫子さんの恋人みたいだ。」
その言葉に春樹はドキッとする。気づかれないように浜田の前でも政近の前でも接していたつもりだったが、ついそういう態度にでてしまったのかもしれない。
「一応、ずっと俺が担当してたんで、心配は心配ですよ。周りが見えなくなることもあるし。」
「ふーん。でもまぁ……どうでも良いですよ。恋人だろうと不倫してようと本人の自由だし。」
他人に興味がない。それが倫子によく似ていると思った。それだけに、倫子があって二回くらいで家に泊まらせるくらい気に入ったのもわかる。
「なんかあったら呼んでください。俺、部屋は風呂場の隣なんで。」
そういって脱衣所を出ようとした春樹に、政近が声をかける。
「あ、設定とか藤枝さんも見て欲しいと思ってたんですけど。」
「残念。もう俺は眠くて。歳ですからね。朝にでも見ますよ。」
若く見えるが三十五だという。編集者などをしていたら、時間は関係ないと思っていたのにそうではないらしい。無理はしないのは、作家にとっても同じだ。
「わかりました。」
ピアスをはずしているのを見て、春樹はそのまま脱衣所をあとにした。そして居間へ向かう。
「倫子さん。」
ドアの前で声をかけると、倫子の声がすぐに聞こえた。
「どうぞ。」
ドアを開けると、倫子はまだスケッチブックを見ている。キャラクターと舞台をまた考えているらしい。
「倫子。部屋には呼ばないでよ。」
「部屋?うるさかったりしたら部屋に行った方がいいと思っていたけれど。」
倫子は政近を何とも思っていないらしい。だから部屋へ呼んでも別にかまわないと思っていたのだ。
「部屋まで行くと、何をされるかわからないよ。」
サディストだと自分で言っていた。もし倫子の根底にあるものに気がついたら、はまっていくのは目に見えている。
「男と女だって事は関係なくつき合えると思っていたけれど、そうじゃないの?」
その言葉に、春樹はドアを閉めて倫子の隣へ足を進める。その視線に、倫子はやっと気がついた。春樹がずっと嫉妬していたのだと言うことを。
そして春樹は倫子のその手に手を伸ばす。自分だって求めていたのだ。
「今日、抱けると思ったのに。」
「本当に高校生みたいね。」
少し笑うと、倫子もまたその手を握る。そして春樹を見上げると、その唇に軽くキスをする。
「明日の昼、ここに来るから。」
「そちらの会社のヤツは何もないと思ったんだけど。」
官能小説はまだ執筆中で、まだ見せられるものではない。
「他の先生のところにいく用事があるんだ。そのついでに官能小説の方の進み具合を見に来るから。」
「それだけ?」
「違うけどね。」
そういって春樹はまた倫子の頬に手を当てると、唇を重ねた。唇を舌で割ると、倫子もまたその舌を絡ませてくる。そして首に手を回してそれに答えた。それが合図のように、倫子の胸元に手を下げた。
「春樹……今ここでそんなことをしたら……。」
「何?」
服越しに指に触れた。そこからでも乳首が立ち始めているのがわかる。
「駄目って……政近さんが戻ってくるから。」
「だから少しだけ。」
春樹はそういってまたそこに指を這わせた。
倫子も風呂に入ってあがってくると、思った以上に色気があると思った。湯上がりで頬をピンクに染めて、髪をいつもは下ろしているのに結ぶだけでうなじが見える。それがさらに色気を増していた。
「どこまでしたかしら。」
倫子はそういって台所からカップを二つ持ってくる。お茶が入っているらしい。
「あ……うん。人物はあらかた決まっているから、設定だな。」
思い直して、政近はスケッチブックに目を落とす。
「最初なんだから、クローズド・サークルが良いわね。」
「島?」
「島はこの間、ゲームで使っちゃったのよね。二番煎じって思われるわ。雪山が良いかしらね。」
「発売されるのは冬だからそれも良いな。」
島にしたくなかったのは、春樹のことを思い出すから。春樹を連れ回して無人島を歩き回った。それも悪くないが、春樹のことを思えばもう少し恋人気分を味わいたかっただろうと思う。
「どうした。ぼんやりして。」
「いいえ。何でもないわ。」
「あんた、出身は海辺か?」
「違う。山の方よ。温泉が出るの。」
「ふーん。田舎だな。そんな田舎ならその容姿は目立つだろう?」
入れ墨のことを言っているのだろう。確かに地元に帰れば目立ってしまう。
「滅多に帰らないわ。あなたはどこなの?」
「俺は……まぁ、遠くはない。」
「そう……。」
あまり人のことには興味がなさそうなのに、初めて自分のことを聞かれたと思った。まぁいい。必要以上のことは話したくない。
「話が逸れたわね。舞台は雪山のペンションにする?」
「んー。それも使い古されているな……。」
「だったら何かしら。年齢も性別もバラバラで、集まることって何かしら。」
「……同窓会。」
「学校?」
「そこで事件が起きる。」
「いいわね。それ。ちょっと資料をとってくるわ。」
「キャラクターの設定も変えよう。となると外見も変わってくる。」
倫子は居間を出ると、自分の部屋へ戻る。そして資料を探っていたところに、政近が部屋に入ってきた。
「ちょっと、勝手に……。」
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