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交際
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風呂に入ったあと、泉は伊織の部屋にいた。普段はお互いの部屋を行き来することはないが、どうしても春樹が誤魔化していたことに納得がいかなかったのだ。
しかし伊織は呆れたように泉に言う。
「何で亜美さんを引き合いに出して、別れさせようと思ったの?もっと単純にストレートに言えばいいのに。」
「だってさ……倫子だって不倫なんかイヤだって思ってたみたいなのに、それでも続けてるのは春樹さんが押し切ったからじゃないかと思ったのよ。だから、ちょっと脅そうと思ったんだけど。」
「通じるわけがないって。それに……本当に春樹さんが押し切っただけなの?」
「えっ?」
ふすま一枚仕切っただけの部屋で、お互いの声が漏れていると思う。だから少し声を抑えていたのだが、思わず泉の声が大きくなった。
「……静かに。」
「ごめん。」
「倫子も望んでたって言うの?」
「かもしれないってこと。」
するとその言葉に泉の手が震える。それが一番耐えれないことだったからだ。そのとき、隣の部屋のドアが開く音がした。それはおそらく春樹が部屋から出ていった音だろう。
「倫子の所へ行くのかしら。」
「かもしれないね。」
その言葉に泉は立ち上がって、ドアをそっとのぞく。するとやはり春樹は倫子の部屋の方向へ向かっていくようだ。
「行こう。」
「付けるの?」
「だってさぁ……本当に倫子が望んでいたって言うんだったら耐えれない。確かに倫子は家主だけど、同居人を無視して不倫をしてるなんてあり得る?」
確かに言っていることは正論だ。そう思いながら、伊織も立ち上がると泉と一緒に部屋を出ていく。
春樹と伊織の部屋はふすまで仕切られているだけだが、倫子の部屋は独立していて他の部屋よりは広い。それでも資料や書籍が沢山あって、あまり広く感じないが。
思った通り、春樹は倫子の部屋の前で足を止める。そして声をかけた。
「倫子さん。」
声をかけながらドアを開けると、春樹はすぐに部屋に入っていった。それを泉と伊織が顔を見合わせる。そしてすぐにその部屋の前にたって聞き耳を立てた。
「「淫靡小説」の読み切りだけど、プロットもう少し詳しくたててくれないかな。」
「濡れ場を?」
「うん。体位とかよりも、もっと感情的なこと。」
「……難しいわね。」
「夏川編集長が言う感じだよ。こう……ぶわっと何か出てきそうなイメージ。」
「精液でしょ?」
「じゃなくてさ。」
「わかってるわ。感情ね。せっかく遊女と男衆のことだもの。本来なら許されることじゃないものね。そこまでのリスクを犯してまで繋がったもの。もっと感情を出せってことでしょ?」
「その通り。」
笑い声が聞こえるが、普通に仕事のことを話しているようだ。男と女の関係には聞こえない。伊織と泉は顔を見合わせる。本当に何かあった二人なのだろうかと思っているのだ。
しばらくして廊下が軋む音がした。この家は古いのもあるが、わざと廊下は軋んでいるように作られているらしい。そうやって防犯をしていたのだろう。
春樹はそっとドアに近づいて、廊下をみる。もう誰も居ないようだ。
「……居なくなったね。」
泉が不倫を嫌がって、春樹と別れさせようとしているのはわかる。春樹からその話を聞いていたのだ。
「泉が言うのもわかるわ。不倫は一時の感情の迷いだって。私もそう思うから。」
倫子はそう言って煙草に火をつける。このもやもやした感情も、きっと一時的なものだ。冷めてしまえば、きっと春樹はこの家からも出て行くだろう。
「君はきっと始めから終わりまで君はシミュレーションをして今まで過ごしていたんだね。」
その言葉に倫子の手が止まる。
「何の話?」
「恋人が出来たときだよ。」
その言葉に倫子は手を止めた。そして春樹を見上げる。
「だったら何なの?あなたとは恋人でも何でもないわ。強いて言うなら、愛人でしょ?」
「……今はね。」
さっきから倫子は不機嫌そうだ。資料整理が進まないのもあるが、やはり仕事を積めすぎたのかもしれない。
「倫子。うちの連載を一号休む?」
「え?」
「作者急病で。」
「イヤよ。「淫靡小説」に書いたから、そっちを休むなんて言いたくないもの。」
ファンにとっては嬉しいかもしれない。一挙に二話の話を載せるようなものなのだから。だが、その分負担は大きいだろう。
「倫子。」
「ったく……春樹。いったい何しに来たのよ。邪魔をするんなら、さっさと部屋に戻ったら?」
すると春樹は座り込んでいる倫子を立ち上がらせると、その体を急に抱きしめた。
「何……。今そんな気分じゃ……。」
「良いから黙って。」
春樹はそう言って倫子の頬に手を添える。そしてそのまま唇を重ね、額を合わせる。
「どう?少し落ち着いた?」
「……あなたが落ち着いただけでしょ?」
「……何日部屋を出てないの?」
「今日出たわ。」
「資料のためだろう?少し歩こうか。そこの公園、あまり探索は出来ていないんだ。」
ふらっと散歩などどれくらいしていないだろう。確かに春樹の言うこともわかる。だが春樹と一緒ではもっと気が散ってしまう。
「一人で行く。」
「駄目。俺も一緒じゃないと行かせられない。」
「何で?」
「ナンパされに行くようなものだよ。君はそれでいいのかもしれないけれど、俺はイヤだから。」
きっと倫子のことだから、男に声をかけられても断らない。自分ではない違う人とセックスをするのなんか耐えられないのだ。
しかし伊織は呆れたように泉に言う。
「何で亜美さんを引き合いに出して、別れさせようと思ったの?もっと単純にストレートに言えばいいのに。」
「だってさ……倫子だって不倫なんかイヤだって思ってたみたいなのに、それでも続けてるのは春樹さんが押し切ったからじゃないかと思ったのよ。だから、ちょっと脅そうと思ったんだけど。」
「通じるわけがないって。それに……本当に春樹さんが押し切っただけなの?」
「えっ?」
ふすま一枚仕切っただけの部屋で、お互いの声が漏れていると思う。だから少し声を抑えていたのだが、思わず泉の声が大きくなった。
「……静かに。」
「ごめん。」
「倫子も望んでたって言うの?」
「かもしれないってこと。」
するとその言葉に泉の手が震える。それが一番耐えれないことだったからだ。そのとき、隣の部屋のドアが開く音がした。それはおそらく春樹が部屋から出ていった音だろう。
「倫子の所へ行くのかしら。」
「かもしれないね。」
その言葉に泉は立ち上がって、ドアをそっとのぞく。するとやはり春樹は倫子の部屋の方向へ向かっていくようだ。
「行こう。」
「付けるの?」
「だってさぁ……本当に倫子が望んでいたって言うんだったら耐えれない。確かに倫子は家主だけど、同居人を無視して不倫をしてるなんてあり得る?」
確かに言っていることは正論だ。そう思いながら、伊織も立ち上がると泉と一緒に部屋を出ていく。
春樹と伊織の部屋はふすまで仕切られているだけだが、倫子の部屋は独立していて他の部屋よりは広い。それでも資料や書籍が沢山あって、あまり広く感じないが。
思った通り、春樹は倫子の部屋の前で足を止める。そして声をかけた。
「倫子さん。」
声をかけながらドアを開けると、春樹はすぐに部屋に入っていった。それを泉と伊織が顔を見合わせる。そしてすぐにその部屋の前にたって聞き耳を立てた。
「「淫靡小説」の読み切りだけど、プロットもう少し詳しくたててくれないかな。」
「濡れ場を?」
「うん。体位とかよりも、もっと感情的なこと。」
「……難しいわね。」
「夏川編集長が言う感じだよ。こう……ぶわっと何か出てきそうなイメージ。」
「精液でしょ?」
「じゃなくてさ。」
「わかってるわ。感情ね。せっかく遊女と男衆のことだもの。本来なら許されることじゃないものね。そこまでのリスクを犯してまで繋がったもの。もっと感情を出せってことでしょ?」
「その通り。」
笑い声が聞こえるが、普通に仕事のことを話しているようだ。男と女の関係には聞こえない。伊織と泉は顔を見合わせる。本当に何かあった二人なのだろうかと思っているのだ。
しばらくして廊下が軋む音がした。この家は古いのもあるが、わざと廊下は軋んでいるように作られているらしい。そうやって防犯をしていたのだろう。
春樹はそっとドアに近づいて、廊下をみる。もう誰も居ないようだ。
「……居なくなったね。」
泉が不倫を嫌がって、春樹と別れさせようとしているのはわかる。春樹からその話を聞いていたのだ。
「泉が言うのもわかるわ。不倫は一時の感情の迷いだって。私もそう思うから。」
倫子はそう言って煙草に火をつける。このもやもやした感情も、きっと一時的なものだ。冷めてしまえば、きっと春樹はこの家からも出て行くだろう。
「君はきっと始めから終わりまで君はシミュレーションをして今まで過ごしていたんだね。」
その言葉に倫子の手が止まる。
「何の話?」
「恋人が出来たときだよ。」
その言葉に倫子は手を止めた。そして春樹を見上げる。
「だったら何なの?あなたとは恋人でも何でもないわ。強いて言うなら、愛人でしょ?」
「……今はね。」
さっきから倫子は不機嫌そうだ。資料整理が進まないのもあるが、やはり仕事を積めすぎたのかもしれない。
「倫子。うちの連載を一号休む?」
「え?」
「作者急病で。」
「イヤよ。「淫靡小説」に書いたから、そっちを休むなんて言いたくないもの。」
ファンにとっては嬉しいかもしれない。一挙に二話の話を載せるようなものなのだから。だが、その分負担は大きいだろう。
「倫子。」
「ったく……春樹。いったい何しに来たのよ。邪魔をするんなら、さっさと部屋に戻ったら?」
すると春樹は座り込んでいる倫子を立ち上がらせると、その体を急に抱きしめた。
「何……。今そんな気分じゃ……。」
「良いから黙って。」
春樹はそう言って倫子の頬に手を添える。そしてそのまま唇を重ね、額を合わせる。
「どう?少し落ち着いた?」
「……あなたが落ち着いただけでしょ?」
「……何日部屋を出てないの?」
「今日出たわ。」
「資料のためだろう?少し歩こうか。そこの公園、あまり探索は出来ていないんだ。」
ふらっと散歩などどれくらいしていないだろう。確かに春樹の言うこともわかる。だが春樹と一緒ではもっと気が散ってしまう。
「一人で行く。」
「駄目。俺も一緒じゃないと行かせられない。」
「何で?」
「ナンパされに行くようなものだよ。君はそれでいいのかもしれないけれど、俺はイヤだから。」
きっと倫子のことだから、男に声をかけられても断らない。自分ではない違う人とセックスをするのなんか耐えられないのだ。
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