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交際
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牛丼屋に入っても朝食メニューと言えば、牛皿が出るわけではない。ご飯と味噌汁、納豆や生卵というメニューが出てくるのだ。だが味噌汁はインスタントに毛が生えたようなものだし、いつも倫子たちが口にして入るものとは雲泥の差だ。
それでも倫子と春樹は並んで食事をしている。こんなところで朝食を食べている人はそう多くない。中にはホストらしい男やホステス、ソープ嬢なんかもいるようだ。
そのとき店に入ってきた人に倫子の箸が止まった。
「春樹さんと倫子。」
それは伊織と泉だった。二人とも並んでカウンター席に座る。
「おはよう。二人とも外泊させて悪かったわね。」
「良いよ。たまにはこう言うのも悪くなかった。」
伊織は自然と泉を座らせて、その隣に伊織が座る。その様子に春樹は少し首を傾げた。
「朝食って四種類もあるの?鯖食べたいな。」
「いいんじゃない?俺、このAってヤツで良いわ。」
それは一番軽いメニューだった。その指さしたものに、泉は少し笑う。
「どうしたの?」
「昨日ラーメン食べたの。重いんですって。今朝まで胃もたれするって言ってたから。」
「若くないなぁ。」
春樹はそう言うと少し笑った。
「だってさ、ラーメンって言ってもすごいてんこ盛りなんだから。しかも超濃厚で。何で泉がそれにライス食べられるのか不思議だよ。」
「若いもん。あ、すいません。このC定食ください。」
「俺、Aで。」
倫子と春樹が食べた定食屋も結構ボリュームはあったが、本来倫子はそんなに食べる人ではない。なので軽いものしか口にしていなかった。
「倫子。これから警察?」
「警察には昼から。今は、証拠品の裏付けをしているみたい。」
「本格的。本当に事件みたいだね。」
「事件なんだよ。盗撮、盗聴は犯罪だから。」
春樹はそう言って味噌汁を飲む。
「確かにね、気持ちは分からないでもない。筆の遅い作家先生は、本当に仕事をしているのかなって思うこともあるし、盗撮器でも盗聴器でも付けて監視をしたいと思うよ。でも本当にしたらいけない。法に触れるようなことはしてはいけないのは、社会人のルールだから。」
すると泉が少し笑った。
「やだ。春樹さん。急に真面目になったみたい。」
「普段から真面目なつもりだけどね。」
「そう?」
倫子はそう言って少し笑った。そのとき店員が伊織と泉の前に定食の乗ったトレーを置く。そして伝票を置いた。
「伊織。その伝票、こっちにくれる?」
「え?」
そう言って倫子はその伝票と自分たちの伝票をまとめた。
「一応家主だし、こちらの事情でほかに泊まらせてしまった。だから、これはこっちが払うわ。それからホテル代もね。あとで明細と領収をもらえる?」
「良いよ。そっちは。」
手を合わせて食事に手を着ける。
「え?」
「怪我の功名だったから。」
伊織はそう言ってお浸しに箸を付けた。
「何なの?」
怪訝そうに倫子が聞くと、春樹は少し笑った。
「そうか。やっぱりね。」
「え?」
泉は少し頬を染めて、倫子に言う。
「あのね、付き合うことになったの。」
「は?」
いつの間にそんな話になったのだろう。倫子は驚いたように二人をみた。
「なんか娘を嫁にやる気分ってこう言うのかな。」
「春樹さん。」
倫子が抗議するように言う。だが泉は箸を置いて倫子に向かい合うと、言葉を続けた。
「家の中でこんなことになるって悪いと思うの。でも……止められなかったから。」
その気持ちはわからないでもない。男と女なのだ。何があってもおかしくないだろう。
「……泉。いいの?」
「いいの。」
「あなた、男嫌いじゃなかったの?」
「伊織は別。」
確かに男か女かわからないようなフェミニンな雰囲気を醸し出している。泉には付き合いやすいタイプなのかもしれない。だが内心は複雑だ。
「倫子さん。いつまでも君だけの友人ってわけにはならないよ。いずれ、こうなるってわかってただろう?」
「わかってるけど……。」
もやもやする。こう言うときは酒でも飲みたい気分だが、こんな朝から酒など飲めないだろう。ましてや今から仕事や警察の元へいかないといけない。
「ところで、今日は家に帰れる?」
「えぇ。大丈夫。いろいろ終わったら、私は家の片づけをするから。」
「じゃあ、今日は食事を用意できるね。今日は何が安いかな。」
そう言って伊織は携帯電話のチラシのアプリを起動させた。その様子に、泉が少し笑う。
「主婦みたい。」
「良いじゃん。あ、卵が安いな。オムライスを作ろうか。あ、でもタイムセールか。」
「私が行くわ。」
倫子はそう言うとお茶を口に入れる。だが不機嫌そうに見えた。その様子に春樹は心の中でため息をつく。
春樹と伊織はそのまま会社へ向かった。まだ時間がある泉と倫子は、近くの公園でコーヒーを買ってベンチに座る。
「それにしても伊織とねぇ。」
ブラックのコーヒーを飲んでいる倫子は、まだ不機嫌が止まらないようだ。
「倫子はイヤなの?」
「イヤって言うか……。」
伊織が軽いタイプに見える。だから倫子に軽くキスをしたり、泉を抱きしめたりするのだ。
「伊織はそんなタイプじゃないわ。」
「つきあいたてだと相手の悪いところなんか見えないのね。」
「そうじゃないわ。」
せめて嫌みの一つでもいいたい。そう思って倫子は手帳を取り出した。
「……小説のネタには使えそう。」
「自分のことはしないのに。」
「え?」
泉は少しため息をついて倫子に言う。
「昨日、どこに泊まってたの?」
思わず手帳を落としそうになった。
「……春樹さんが予約してくれた部屋に……。」
「シングル二つ?」
「そうね。」
「違うと思う。たぶん、私が知らないけれど男の人のところにいたでしょう?」
そう言って泉は倫子の手首を指さした。そこには春樹が縛った跡が残っている。
それでも倫子と春樹は並んで食事をしている。こんなところで朝食を食べている人はそう多くない。中にはホストらしい男やホステス、ソープ嬢なんかもいるようだ。
そのとき店に入ってきた人に倫子の箸が止まった。
「春樹さんと倫子。」
それは伊織と泉だった。二人とも並んでカウンター席に座る。
「おはよう。二人とも外泊させて悪かったわね。」
「良いよ。たまにはこう言うのも悪くなかった。」
伊織は自然と泉を座らせて、その隣に伊織が座る。その様子に春樹は少し首を傾げた。
「朝食って四種類もあるの?鯖食べたいな。」
「いいんじゃない?俺、このAってヤツで良いわ。」
それは一番軽いメニューだった。その指さしたものに、泉は少し笑う。
「どうしたの?」
「昨日ラーメン食べたの。重いんですって。今朝まで胃もたれするって言ってたから。」
「若くないなぁ。」
春樹はそう言うと少し笑った。
「だってさ、ラーメンって言ってもすごいてんこ盛りなんだから。しかも超濃厚で。何で泉がそれにライス食べられるのか不思議だよ。」
「若いもん。あ、すいません。このC定食ください。」
「俺、Aで。」
倫子と春樹が食べた定食屋も結構ボリュームはあったが、本来倫子はそんなに食べる人ではない。なので軽いものしか口にしていなかった。
「倫子。これから警察?」
「警察には昼から。今は、証拠品の裏付けをしているみたい。」
「本格的。本当に事件みたいだね。」
「事件なんだよ。盗撮、盗聴は犯罪だから。」
春樹はそう言って味噌汁を飲む。
「確かにね、気持ちは分からないでもない。筆の遅い作家先生は、本当に仕事をしているのかなって思うこともあるし、盗撮器でも盗聴器でも付けて監視をしたいと思うよ。でも本当にしたらいけない。法に触れるようなことはしてはいけないのは、社会人のルールだから。」
すると泉が少し笑った。
「やだ。春樹さん。急に真面目になったみたい。」
「普段から真面目なつもりだけどね。」
「そう?」
倫子はそう言って少し笑った。そのとき店員が伊織と泉の前に定食の乗ったトレーを置く。そして伝票を置いた。
「伊織。その伝票、こっちにくれる?」
「え?」
そう言って倫子はその伝票と自分たちの伝票をまとめた。
「一応家主だし、こちらの事情でほかに泊まらせてしまった。だから、これはこっちが払うわ。それからホテル代もね。あとで明細と領収をもらえる?」
「良いよ。そっちは。」
手を合わせて食事に手を着ける。
「え?」
「怪我の功名だったから。」
伊織はそう言ってお浸しに箸を付けた。
「何なの?」
怪訝そうに倫子が聞くと、春樹は少し笑った。
「そうか。やっぱりね。」
「え?」
泉は少し頬を染めて、倫子に言う。
「あのね、付き合うことになったの。」
「は?」
いつの間にそんな話になったのだろう。倫子は驚いたように二人をみた。
「なんか娘を嫁にやる気分ってこう言うのかな。」
「春樹さん。」
倫子が抗議するように言う。だが泉は箸を置いて倫子に向かい合うと、言葉を続けた。
「家の中でこんなことになるって悪いと思うの。でも……止められなかったから。」
その気持ちはわからないでもない。男と女なのだ。何があってもおかしくないだろう。
「……泉。いいの?」
「いいの。」
「あなた、男嫌いじゃなかったの?」
「伊織は別。」
確かに男か女かわからないようなフェミニンな雰囲気を醸し出している。泉には付き合いやすいタイプなのかもしれない。だが内心は複雑だ。
「倫子さん。いつまでも君だけの友人ってわけにはならないよ。いずれ、こうなるってわかってただろう?」
「わかってるけど……。」
もやもやする。こう言うときは酒でも飲みたい気分だが、こんな朝から酒など飲めないだろう。ましてや今から仕事や警察の元へいかないといけない。
「ところで、今日は家に帰れる?」
「えぇ。大丈夫。いろいろ終わったら、私は家の片づけをするから。」
「じゃあ、今日は食事を用意できるね。今日は何が安いかな。」
そう言って伊織は携帯電話のチラシのアプリを起動させた。その様子に、泉が少し笑う。
「主婦みたい。」
「良いじゃん。あ、卵が安いな。オムライスを作ろうか。あ、でもタイムセールか。」
「私が行くわ。」
倫子はそう言うとお茶を口に入れる。だが不機嫌そうに見えた。その様子に春樹は心の中でため息をつく。
春樹と伊織はそのまま会社へ向かった。まだ時間がある泉と倫子は、近くの公園でコーヒーを買ってベンチに座る。
「それにしても伊織とねぇ。」
ブラックのコーヒーを飲んでいる倫子は、まだ不機嫌が止まらないようだ。
「倫子はイヤなの?」
「イヤって言うか……。」
伊織が軽いタイプに見える。だから倫子に軽くキスをしたり、泉を抱きしめたりするのだ。
「伊織はそんなタイプじゃないわ。」
「つきあいたてだと相手の悪いところなんか見えないのね。」
「そうじゃないわ。」
せめて嫌みの一つでもいいたい。そう思って倫子は手帳を取り出した。
「……小説のネタには使えそう。」
「自分のことはしないのに。」
「え?」
泉は少しため息をついて倫子に言う。
「昨日、どこに泊まってたの?」
思わず手帳を落としそうになった。
「……春樹さんが予約してくれた部屋に……。」
「シングル二つ?」
「そうね。」
「違うと思う。たぶん、私が知らないけれど男の人のところにいたでしょう?」
そう言って泉は倫子の手首を指さした。そこには春樹が縛った跡が残っている。
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