守るべきモノ

神崎

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緊縛

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 取られた下着をまた身につけるとまた上着を着た倫子は、春樹を見上げる。そして初めて春樹に会ったときのことを思い出していた。背が高くがっちりした体型ででも優しそうな人だと思ったが、実際仕事をしてみると容赦なくリジェクトしてくる。笑顔で駄目と言える人なのだ。
 春樹が編集長になって担当を降りた人も多かったが、倫子はもうそのころは人気がある作家になっていたし、わがままだという噂は一人歩きしていたので、ほかの編集者が二の足を踏んでいたのだという。だから春樹がずっとまた担当を続けていた。
 それからずっとつきあいがあり、そしてずっと左の薬指には指輪がしてあった。
 隣に座ってきた春樹のその左手に触れる。そして指輪をなぞった。
「きっと……私があなたを好きだと思っても、あなたは私に振り向かない。奥様が亡くなっても、あなたはずっと奥様だけを想っているから。」
「倫子……。」
「私は奥様をひっくるめて好きになんかなれない。誰も……好きになんかならない。」
 倫子はそう言ってその手を引っ込めた。すると今度は春樹が倫子の手に触れた。そこには蛇の入れ墨がある。そしてそれに紛れるように火傷の跡があった。
「妻がどう思うかわからない。でも……俺は本心で好きだと思う。」
「違う。」
 そう言って倫子は手を引っ込めた。
「あなたは違う。あなたは……。」
「倫子。」
 すると春樹はその手を握り、倫子を引き寄せた。だがすぐに体を離される。
「息を吸って。落ち着いて。」
 呼吸が荒くなってきている。自分でもわからないのだ。だからパニックになりかけている。落ち着かせるように、春樹は両手を握った。
「……これを言うのはどうかと思ったけれど……君には知っておいてほしい。」
「……。」
「俺もかつては君のような考えを持っていたんだ。愛だの恋だのがわからなくて、それなりに遊んだ人たちだってただの遊びだ。」
 大学の時、本屋でバイトをしていた。そこで客だの、同じ転院だのから声をかけられることもあった。何度か寝て、つきあって、しかし大学やバイトの方が楽しかった。
「奥様も?」
「妻は子供が欲しいと言っていた。都合が良いと思ったよ。ある程度年を取れば身を固めろと言われることも多いし、子供が欲しいだけなら別にかまわない。割り切れると思ってた。」
 だが妻が寝たきりになり、どこか心が空虚だった。あんなにうっとうしいと思っていた手が握り返されることもなく、愛の言葉をささやいていた唇が動くこともない。そう思うと、急激に妻が可愛そうに思えてきたのだ。
「妻に抱いていたのは、情だけだ。愛はない。」
「可愛そうね。」
 春樹がそんな気持ちでいたなど未来は知っていたのだろうか。
「でも結婚するとそうなるものだ。しょっちゅう愛しているだの、好きだなど言わないし、居て当たり前になってくる。結婚したときに愛情を持っていると思うけれど、徐々に情しか無くなっていくものだから。」
「……。」
「心から欲しいと思ったのは君が初めてかもしれない。」
「春樹……。」
「君は俺じゃなくても良いかもしれないけれど、俺は誰にも取られたくないと思ってる。」
 すると倫子は首を横に振った。そして春樹を見ずに言う。
「嫉妬してたわ。」
「嫉妬?」
「奥様の前に立つと……口調も、表情も、別人みたいだったから。」
「そうかな。」
「……でも好きにはならない。この嫉妬はきっとお気に入りのおもちゃを取られた子供の感情と一緒だから。」
「独占欲?」
「……だと思う。」
 握られた手の力が急に強くなった。倫子は少し驚いて春樹を見る。
「何?」
「だったら、俺が君だけを見ているという証拠をつけようか。」
「……何をする気なの?」
 春樹はそう言ってその手を離すと、持ってきたバッグの中からネクタイを解りだした。
「え……。」
 すると春樹は、倫子の手を握ると後ろに体を回した。そしてその量手首を後ろ手で縛る。
「ちょっと……何……。」
 そのまま上着を脱がせて、背中に手を回す。そして下着をそのままずらした。
「こんなことをされたことないだろう?」
「……無いこともないわ。でもされたくない。」
「そう?触る前から乳首が立ってる。」
 胸をさらされて、そこに指を這わせる。指がゴリゴリとそこを摘んだ。
「ん……。」
 倫子と居ると自分がこんなにサディストだったかと思う。体をベッドの上に上げて、下着を取ると触る前からもう濡れている。
「あっ……。待って……あっ……。」
 倫子の声が甘い。言葉は嫌がっているのに、徐々に体は赤みを差している。
「いつもより感じてる。縛られているのがいいのか。」
 息を切らせて、倫子は春樹を見る。軽く触れられただけなのにもう絶頂に達してしまったのだ。それでも春樹は全く手をゆるめることはなくその中に指を入れたとき、倫子は声を抑えきれなかった。
「あーーーー!」
「ここが好きなんだろう?ほら、中までこんなに濡れてる。」
 指をぐっと入れてその中をかき回す。倫子は涙目になりながら、その衝撃に耐えていた。だがその外側と内側と一気に攻められて、倫子は思わず腰を浮かせた。
「あっ駄目!出る!出ちゃうから!」
 指がぐっと押された気がした。そこから指を離すと、倫子のそこから生温かい汁が吹き出る。
「や……見ないで。」
 だがそれを止める気はない。その濡れてまたグチョグチョになったその性器に、また指を入れる。
「春樹……もう……やめて……。」
「どうして?こんなに物欲しそうなのに。」
 すると倫子は唇を尖らせて言った。
「気が狂いそう……。」
 こんなことをしてはいけないという理性と、気持ちいいからもっとして欲しいという本能と、未来に対する罪悪感と、いろんなものが倫子を縛っている。
「春樹……。」
「ん?」
「入れて欲しい。」
 顔を背けて倫子はそう言うと、春樹は頬に手を添えてキスをする。そして倫子の目を見て聞いた。
「言って。」
「……意地悪。それに……こんな時に言うのは嘘でしょう?」
「だったら倫子は誰とでもこんなことが出来るの?」
「いいえ。あなただから……。」
 すると春樹は少し笑って言う。
「素直になって。」
 その言葉に、倫子は絶頂を迎えたときよりも赤い顔で言う。
「好き。」
 すると春樹はその体に手を伸ばした。そして手首を縛っているネクタイを解く。
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