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取材
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クリスマスに合わせたデザートの写真を見て、泉は少しため息をついた。「book cafe」で出すデザートはあまり力を入れていない。コーヒーゼリーやパウンドケーキ、マフィンなど、あまりデザートには力を入れていないはずなのに、目の前にあるそのデザートの概要を見て、ため息をついた。それは一緒に働く店長の川村礼二も同意見のようだった。
チョコレートを全面に出したフォンダンショコラ。生クリームとナッツ、フルーツをちりばめて、生クリームでデコレーションしている。そして仕上げに粉砂糖を蒔く。
「……クリスマスっぽいっちゃ、クリスマスっぽいけどなぁ。」
「味はどうなんでしょうね。」
「チョコレートとコーヒーは良く合うから、悪くないと思うけど……うちの店のテイストに合ってるのかなぁ。それにうちは手作りで作ってるデザートがメインなのに、このフォンダンショコラは冷凍で来るのかな。」
「皿に載せてワッカを乗せる。レンジで二十秒。」
「だったら冷凍か……。売れるんだろうかこれ。」
本社の指示であれば、逆らうことは出来ない。売れようが売れまいが、売らないといけないのだから。
「高柳鈴音の名前だけで売れるのかな。」
そう言って礼二は、片隅にある雑誌を手にした。そこには高柳鈴音が新規オープンした洋菓子店の為に、写真に写っている。整った顔立ちで、若い主婦層から人気があるらしい。
「実際の大きさがどれくらいなんでしょうね。結構価格が高めだし。コーヒーセットで八百円。」
「安いところならランチを食べれるね。」
そのとき階下から、足音がした。お客様だろう。泉はトレーを持ってそちらをみる。するとそこには、春樹ともう一人似たような若い男。そしてその後ろには、泉でも見たことがある男である作家の荒田夕。そして一番後ろには不機嫌そうな倫子がいた。夏は過ぎても昼間は暑いが、相変わらず露出は激しい。入れ墨をわざと見せることで、人を近づけないようにしているのだろう。
「いらっしゃいませ。」
「奥の席良いかな。」
「はい。どうぞ。」
おそらく対談か、取材か、そんなところだろう。そういうことにもここは使われるのだから。
一番奥の席に四人は座る。倫子の隣には春樹がいて、そして向かいには荒田夕がいる。相変わらず男か女かわからないほど細身で、高柳鈴音のように綺麗な顔をしている。
「何でも好きなものを頼んでください。」
春樹はそういったが、倫子はメニューを見ずにぼんやりと壁に貼られているポスターを見ているようだった。少し先にはなるが、秋に祭りがある。その御輿を見ているようだった。
「小泉先生は何を飲まれますか?」
「コーヒー。ブレンドで。」
「いいんですか?どうせ経費で落ちるから、別のものでも良いですよ。」
「いいえ。コーヒーで結構です。」
倫子は酒を飲むので、あまり甘いものを好んでいない。それはイメージ通りだと夕は思っていた。
「じゃあ、ブレンドが二つとミックスジュース、それからダージリンですね。」
頼んだものが運ばれるまで、少し雑談でもするかと夕は思っていた。だが相変わらず倫子は夕に興味が無さそうに、ぼんやりとしている。これで仕事をしにきたとでも思っているのだろうか。
「小泉先生は、大学は文学部ですか。」
「えぇ。荒田先生は?」
「俺、医学部なんですよ。」
その言葉に倫子は驚いたように夕をみた。理系が文系にきたというのは珍しいパターンだと思ったからだ。
「お医者さんになろうと?」
「えぇ。うちは母が、双極性障害でしてね。そこから精神科医になろうと思ってました。」
鬱病なのだろう。心理学でも学んだから、人の心理はお得意なのだ。
「それがどうして作家に?」
「……藤枝さん。まだ録音はしてませんよね。」
「えぇ。」
「口外しないで欲しいんですけど、母は自殺したんです。」
「そうでしたか。」
そのことを行っても倫子の表情は変わらない。作品のように人の死に興味がないのだ。
「驚かないんですね。」
「珍しくありませんから。」
この話題を避けたい。泉にどう聞こえているのかわからないから。
泉の母親も自殺をしたのだ。その心を思えば、この話題を続けられないだろう。
「そういえばこの間の取材は良かったですか?」
その言葉に春樹が水を噴きそうになった。そういえばこの男に倫子と出掛けたのを見られていたのだ。
「えぇ。大変参考になりました。」
「どっか、田舎の方を舞台に書くんですか?こちらの出版社で。」
その言葉に夕の隣にいた同僚が眉をひそめる。倫子の出す本で、そんなものを作る予定はないからだ。
「ネタですよ。」
「ネタ?」
「いずれ書ければいいくらいの取材です。」
「でも……藤枝さんも行ってましたよね。」
編集者と作家が出掛けるのだったら、それはその出版社のための取材だろう。まさか取材とかこつけてデートをしていたわけではないだろうに。
「同じ路線でしたけど、俺は別のところへ。」
「え?」
「ちょっと用事があったんですよ。たまたま、小泉先生と一緒の電車に乗ってましたけどね。」
苦しいいいわけだったかもしれないが、やはり倫子と出掛けるのはリスクが大きすぎる。今後は注意しないといけないだろう。
「お待たせいたしました。」
泉がトレーにコーヒーや紅茶を乗せて、持ってくる。先ほどの会話を聞いていたのだろうか。倫子は不安になりながら、泉を見上げる。
「泉。」
コーヒーを置かれて、倫子は泉の方を見上げた。
「どうしたの?」
「今日は出掛ける前に、カレーを仕込んでおいたの。だから今日はそれを食べましょう。」
「わぁ。倫子のカレー美味しいから好きよ。」
「今は良いわね。火を入れて、放置すれば出来るものがあるんだから。」
倫子はそういってコーヒーに口を付ける。
「何?この店員さんと何?」
「一緒に住んでるんですよ。」
「間借りさせてもらっているというか。」
「つきあいも長いから、そういうのもありですよ。荒田先生は、同居されている方はいらっしゃらないんですか?」
これで夕の担当者の男は誤解をした。倫子は女性の恋人がいて、春樹とは本当に何もないと思わせたのだ。
頭の良い女だ。夕はそう思いながら、目の前のミックスジュースに口を付ける。
チョコレートを全面に出したフォンダンショコラ。生クリームとナッツ、フルーツをちりばめて、生クリームでデコレーションしている。そして仕上げに粉砂糖を蒔く。
「……クリスマスっぽいっちゃ、クリスマスっぽいけどなぁ。」
「味はどうなんでしょうね。」
「チョコレートとコーヒーは良く合うから、悪くないと思うけど……うちの店のテイストに合ってるのかなぁ。それにうちは手作りで作ってるデザートがメインなのに、このフォンダンショコラは冷凍で来るのかな。」
「皿に載せてワッカを乗せる。レンジで二十秒。」
「だったら冷凍か……。売れるんだろうかこれ。」
本社の指示であれば、逆らうことは出来ない。売れようが売れまいが、売らないといけないのだから。
「高柳鈴音の名前だけで売れるのかな。」
そう言って礼二は、片隅にある雑誌を手にした。そこには高柳鈴音が新規オープンした洋菓子店の為に、写真に写っている。整った顔立ちで、若い主婦層から人気があるらしい。
「実際の大きさがどれくらいなんでしょうね。結構価格が高めだし。コーヒーセットで八百円。」
「安いところならランチを食べれるね。」
そのとき階下から、足音がした。お客様だろう。泉はトレーを持ってそちらをみる。するとそこには、春樹ともう一人似たような若い男。そしてその後ろには、泉でも見たことがある男である作家の荒田夕。そして一番後ろには不機嫌そうな倫子がいた。夏は過ぎても昼間は暑いが、相変わらず露出は激しい。入れ墨をわざと見せることで、人を近づけないようにしているのだろう。
「いらっしゃいませ。」
「奥の席良いかな。」
「はい。どうぞ。」
おそらく対談か、取材か、そんなところだろう。そういうことにもここは使われるのだから。
一番奥の席に四人は座る。倫子の隣には春樹がいて、そして向かいには荒田夕がいる。相変わらず男か女かわからないほど細身で、高柳鈴音のように綺麗な顔をしている。
「何でも好きなものを頼んでください。」
春樹はそういったが、倫子はメニューを見ずにぼんやりと壁に貼られているポスターを見ているようだった。少し先にはなるが、秋に祭りがある。その御輿を見ているようだった。
「小泉先生は何を飲まれますか?」
「コーヒー。ブレンドで。」
「いいんですか?どうせ経費で落ちるから、別のものでも良いですよ。」
「いいえ。コーヒーで結構です。」
倫子は酒を飲むので、あまり甘いものを好んでいない。それはイメージ通りだと夕は思っていた。
「じゃあ、ブレンドが二つとミックスジュース、それからダージリンですね。」
頼んだものが運ばれるまで、少し雑談でもするかと夕は思っていた。だが相変わらず倫子は夕に興味が無さそうに、ぼんやりとしている。これで仕事をしにきたとでも思っているのだろうか。
「小泉先生は、大学は文学部ですか。」
「えぇ。荒田先生は?」
「俺、医学部なんですよ。」
その言葉に倫子は驚いたように夕をみた。理系が文系にきたというのは珍しいパターンだと思ったからだ。
「お医者さんになろうと?」
「えぇ。うちは母が、双極性障害でしてね。そこから精神科医になろうと思ってました。」
鬱病なのだろう。心理学でも学んだから、人の心理はお得意なのだ。
「それがどうして作家に?」
「……藤枝さん。まだ録音はしてませんよね。」
「えぇ。」
「口外しないで欲しいんですけど、母は自殺したんです。」
「そうでしたか。」
そのことを行っても倫子の表情は変わらない。作品のように人の死に興味がないのだ。
「驚かないんですね。」
「珍しくありませんから。」
この話題を避けたい。泉にどう聞こえているのかわからないから。
泉の母親も自殺をしたのだ。その心を思えば、この話題を続けられないだろう。
「そういえばこの間の取材は良かったですか?」
その言葉に春樹が水を噴きそうになった。そういえばこの男に倫子と出掛けたのを見られていたのだ。
「えぇ。大変参考になりました。」
「どっか、田舎の方を舞台に書くんですか?こちらの出版社で。」
その言葉に夕の隣にいた同僚が眉をひそめる。倫子の出す本で、そんなものを作る予定はないからだ。
「ネタですよ。」
「ネタ?」
「いずれ書ければいいくらいの取材です。」
「でも……藤枝さんも行ってましたよね。」
編集者と作家が出掛けるのだったら、それはその出版社のための取材だろう。まさか取材とかこつけてデートをしていたわけではないだろうに。
「同じ路線でしたけど、俺は別のところへ。」
「え?」
「ちょっと用事があったんですよ。たまたま、小泉先生と一緒の電車に乗ってましたけどね。」
苦しいいいわけだったかもしれないが、やはり倫子と出掛けるのはリスクが大きすぎる。今後は注意しないといけないだろう。
「お待たせいたしました。」
泉がトレーにコーヒーや紅茶を乗せて、持ってくる。先ほどの会話を聞いていたのだろうか。倫子は不安になりながら、泉を見上げる。
「泉。」
コーヒーを置かれて、倫子は泉の方を見上げた。
「どうしたの?」
「今日は出掛ける前に、カレーを仕込んでおいたの。だから今日はそれを食べましょう。」
「わぁ。倫子のカレー美味しいから好きよ。」
「今は良いわね。火を入れて、放置すれば出来るものがあるんだから。」
倫子はそういってコーヒーに口を付ける。
「何?この店員さんと何?」
「一緒に住んでるんですよ。」
「間借りさせてもらっているというか。」
「つきあいも長いから、そういうのもありですよ。荒田先生は、同居されている方はいらっしゃらないんですか?」
これで夕の担当者の男は誤解をした。倫子は女性の恋人がいて、春樹とは本当に何もないと思わせたのだ。
頭の良い女だ。夕はそう思いながら、目の前のミックスジュースに口を付ける。
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