守るべきモノ

神崎

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逢引

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 時間ぎりぎりまでセックスをしてやっと春樹が射精したときには、倫子は息も絶え絶えだった。ただでさえ感じやすいのに、何度も絶頂して頭がおかしくなるようだった。それは春樹も一緒で、倫子の体がこんなにも夢中になると思っていなかった。
 お腹の奥がとても熱い。倫子は薄く目を開けて、春樹の方をみる。すると春樹も倫子の方をみた。
「倫子……。」
 頬に手を当てて、流れている涙を拭う。そして軽くキスをするとそのまま倫子の中から出て行った。そしてその後を追うように、その性器の中から白いものが溢れる。
「……ごめん。我慢できなかった。」
「え?」
「中で……。」
 妻は子供を欲しがっていた。だからコンドームをつけるのは、妻の意識があったときもそんなに付けることはなかったのだ。だが倫子とだと事情が違う。
 妻はまだ生きていて、本来なら倫子とこんな関係になってはいけないのに、倫子に子供でも出来たら洒落にならない。
「ピル……飲んでるから、心配しないで。」
 倫子はそういってゆっくり体を起こす。そして時計をみた。
「あまり時間無いかしら。シャワーを浴びたかったんだけど。」
 体がべたべたする。いろんなところを舐められたからだ。
「三時間だったから、まだ時間はあるよ。」
「だったらさっと浴びてくるわ。」
 そういって倫子はベッドから降りようとした。その後を春樹が追う。
「何?」
「一緒に浴びようか。」
「……。」
 そんな仲ではない。そう言いたかったが、この部屋の中では恋人であってもいいのかもしれない。倫子はそう思って春樹の手を引く。
「どうしたの?すごい素直だね。」
「恋人ならそうするだろうと思ったの。」
「帰ったらいつも通りかな。」
「えぇ。」
 広めの風呂場は、倫子の家の倍はありそうだ。二人ではいるのを想定しているのだろう。シャワーにしてお湯をひねると、ぬるいお湯が出てくる。
「洗おうか?」
「あなたが?」
 それはさすがに気が引ける。だが倫子が答える前に、春樹はボディーソープを泡立てて倫子の体に泡を乗せる。白い肌に入れ墨の部分だけが黒くなっている。
「手つきがイヤらしいわ。」
「また興奮している?」
 ボディーソープのぬるっとした感触が胸に触れて、思わず声を漏らす。
「んっ……。そんなにいじらないで。」
 赤くなる顔、敏感に反応する体。これを他の誰にも見せたくない。伊織にも、誰にも。
「洗ってるだけだよ。」
「嘘。そんなにいじる必要ないでしょう?」
 そう言って倫子もボディーソープを手にすると、泡立てて春樹の体に乗せた。
「灼けたわね。」
「あぁ。すごく歩いた。今日はぐっすり寝れそうだ。」
 本当なら倫子を抱きしめながら寝たい。なのに別々の部屋だろう。一つ屋根の下にいるのに、触れることも出来ないのだ。その分、力が入りそうになる。
「立ってきてるわ。若いわね。」
 そう言って倫子は春樹の下半身に手を伸ばす。すると春樹も手を伸ばした。
「お湯じゃないね。倫子のここ。俺が出したのも出てくるかな。」
 シャワーから出てくるお湯の音と混ざって、水の音がする。二人はボディーソープの泡を流すと、また舌を絡めてキスをする。

 倫子の書いた再来月号に載せる原稿を読みながら、春樹は少し笑っていた。この辺から濡れ場があるようだが、その表現が少しリアリティを帯びてきたのだ。それは自分の影響かもしれない。
 時代物で、遊郭で、あまりとり立たされるジャンルではない。だがこれは売れるかもしれないな。春樹はそう思いながら、もしこれが本になるのだったら、どんな表紙になるだろうと思っていた。
「編集長。」
 隣にいる絵里子が声をかけてきた。
「何?」
「その原稿、そんなに良いですか?」
「小泉先生の原稿。濡れ場がぐっと良くなった。何かあったのかな。」
「え?」
 あくまで知らないふりをする。本当は自分の影響かもしれない。だが知られてはいけないのだ。形はどうあれ、不倫なのだから。
「この辺で、男衆と新造との恋愛が発覚するんだけど、その表現がとても良くてね。」
「はぁ……。」
「官能小説、いけるかもね。」
「夏川編集長に話します?」
「……どうだろうね。小泉先生が、夏川編集長をとても嫌がっていたから。」
 一度書いた官能小説は、リジェクトされた。表現の仕方であれば書き直すが話そのものに問題があると言われていたので、全てを一から書き直さないといけない。だから倫子はそれを嫌がってもう書かないと言っていたのだ。
「夏川編集長がイヤなら、別の人に頼めばいいのに。」
「その辺は話をしてみよう。」
 すると向こうからバッグを持った男が春樹に近づいてくる。
「編集長。そろそろ行きましょう。」
「あぁ。そうだね。そんな時間か。」
 パソコンの片隅にある時計を見て、春樹はパソコンをスリープ状態にする。
「あぁ、今日でしたっけ。小泉先生と、荒田先生の対談。」
「田丸にも声をかけてます。話が終わったらスタジオで合流するつもりですから。」
「小泉先生は写真は嫌がるんだけどねぇ。」
「それこそわがままですよ。荒田先生は撮られるの嫌がってませんし。」
「むしろ撮って欲しいと思ってますよね。」
「ナルシストっぽいから。」
 テレビや雑誌に載るとそんなものなのだろうか。春樹はそう思いながら、資料をバッグに入れる。
「それにしてもどんな対談になるのか、ちょっと楽しみですね。」
 絵里子はそう言って少し笑う。人の感情表現を全面に出して涙を誘うような文章を書く荒田夕と、容赦なく人を殺して感情を押さえ込んだ文章を書く小泉倫子は正反対に見える。きっと姿も、話も、性格さえ真逆なのだろう。
「小泉先生の作品って、外国の作家の……ほら、多重人格をモチーフにした作家の作品っぽいですよね。」
 エレベーターへ向かいながら、男はそう言う。確かに感情を全面に出して書く手法を取っていない倫子の作品は、そう言われることも多い。倫子の作品の犯人は、いつも血が通っていないように見える。
「そうだね。そう言う作風が好きなんだろう。」
「涙するってことは無さそう。何かぞっとする感じ。」
 それを狙って倫子はいつも書いている。どんな対談になるのか楽しみだった。
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