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逢引
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カマスの一夜干しを焼いたものや、ピーマンとシーチキンを塩昆布であえたものなどがあり、和食が好きな倫子が作ったものだとわかる。泉はそう思いながら、それに箸をつけた。向かいには伊織がいて、伊織もそれを食べている。だがその表情は少し浮かない。
「一夜干し美味しいね。」
「うん。塩味がきいてる。」
伊織は箸を止めると、泉にずっと気になっていることをきいた。
「泉。聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「いつだったか……倫子が朝帰りをしててさ。」
「あぁ。たまにあるよ。今日も行ってるのかな。」
「たまにあるの?」
「うん。相手はわからないけれど、ほら、倫子はずっと官能小説を書きたいって言ってたし、そういうことも資料の一部なのかなって思ってたけど。」
いつもの光景なのだ。だがやるせない。
「さっき、泉は女は貞淑であるのが良いって言っていたのに、そういうことはいいんだね。」
「お母さんの考え。私はそう思わないわ。」
「え?」
「私には経験がないけれど、それで愛情がわかるんでしょう?」
「……んー。」
セックスに何の幻想を持っているのだろう。経験がないとこんなものなのだろうか。
「伊織は彼女がいたことがあるんでしょう?」
「あるけど……。」
「そう思わなかった?」
「男と女で少し感覚が違うのかも。」
手慣れた女が苦手だった。それは昔を思い出すから。
「でも……倫子は、ずっと恋人は作ってなかったの。連絡を取るのが面倒だからとかそういうことばかり言っていたけれど、本当は違うの。」
「え?」
泉は少しため息をついて言う。
「倫子とセックスした人って、絶対二度目はないから。」
「どうして?」
「……わからない?倫子の周りを見てて。」
その言葉に、伊織は箸を止める。
まだ夜十二時になっていないので、休憩で時間がとれる。平日の今日は特に安いらしい。部屋に倫子と春樹が入っていくと、荷物を置いてすぐに抱きしめ合った。
「キスさせて。」
春樹はそういうと、顔を上げた倫子の唇にキスをする。夕方もキスをしたのだが、それよりも離れるのが惜しい。春樹はそう思いながら、倫子のシャツの背中から手を入れる。
「もうするの?」
「沢山したいから。」
「がっつかないでよ。年上でしょう?」
そういって倫子は春樹から体を離す。そして部屋を見渡した。場末のラブホテルとは言っても、普通のホテルのようだ。ダブルベッドの枕元にはコンドームが二つ置いてあった。そしてその上には電気で動くマッサージ機が置いてある。
「電マかぁ。」
古本屋をしている上野敬太郎の店で、何度か見たことがある。それもまた小説のネタだ。
「シャワーを浴びる?」
「あとでで良いわ。」
春樹もベッドの上に乗ると、倫子を引き寄せた。
「……ここに来る人ってみんなセックスしてるのかしら。」
「そうかもね。」
「じゃあ、ここに来る人はみんな盛ってるのかな。」
「イヤね。私たちもその一人だと思われるの。」
「俺はずっと盛ってたけどね。」
そういって春樹は倫子の首元に唇を当てた。
「吸わないで。んっ……。」
「一緒に住んでても、手を出せないんだ。生殺しだよ。」
「春樹……。」
そういって倫子は顔を上げてきた春樹の唇に唇を重ねた。そして春樹のシャツに手をかける。
「……え?俺が?」
「あなたが喘ぐのみたかったの。だから……仕掛けたんだけど……。」
だから舐めたりしたのか。春樹は少し納得すると、倫子のシャツにも手をかけた。
「すごい気持ちよかった。だから……今度は君が喘ぐ番だから。」
「やられっぱなしはイヤよ。」
「負けず嫌いだね。そういうところも好きだよ。」
シャツを脱がして、唇にキスをする。その間にも倫子の背中に手を伸ばして下着を取った。
大きい手が胸に触れる。手が熱い。その暑さが心まで熱くさせそうだ。
「んっ……。」
倫子はそのまま手を伸ばすと春樹の体を抱き寄せて、その首筋に唇を寄せた。
「あっ……。」
思わず春樹も声を漏らした。
「気持ちいいの?」
「うん……倫子は?ここ。」
乳首をぎゅっと摘むと、思わず倫子も声を上げた。
「あっ……。」
「もうこんなに立ってる。嫌らしい乳首だね。」
倫子はたまらず春樹の首に捕まる。すると春樹はそのまま倫子をベッドに寝かせた。そしてはいているショートパンツを脱がせて、下着をとる。自分もズボンと下着を脱ぐと、再び倫子の上に乗り上げた。
「こうしたかった。ずっと……。」
「自分の意志から?」
「うん……逃げている訳じゃない。ただ……君が俺を利用するように、俺も君を利用している。こうしていれば、忘れられるから。」
奥さんのことだろう。先が見えない奥さんをずっと支え続けているのだ。倫子はその言葉に少しうなづいた。
「時間まで……ね。」
「全ては嘘だよ。」
春樹は倫子の唇にキスをすると、耳元で囁く。
「好き。」
「私も……好きよ。」
この行為は逃げているだけだ。そういわれればそうかもしれない。だが、逃げたかった。全てから目をそらせて、この関係を公に出来なくても、これをやめたくなかった。
「倫子。」
春樹はそういって、倫子の体をまた抱きしめる。
「お願い。もっとぎゅっと抱きしめて。」
「倫子……。」
「今だけ……そう思わせて。」
そういった倫子の目の端から涙がこぼれた。
「一夜干し美味しいね。」
「うん。塩味がきいてる。」
伊織は箸を止めると、泉にずっと気になっていることをきいた。
「泉。聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「いつだったか……倫子が朝帰りをしててさ。」
「あぁ。たまにあるよ。今日も行ってるのかな。」
「たまにあるの?」
「うん。相手はわからないけれど、ほら、倫子はずっと官能小説を書きたいって言ってたし、そういうことも資料の一部なのかなって思ってたけど。」
いつもの光景なのだ。だがやるせない。
「さっき、泉は女は貞淑であるのが良いって言っていたのに、そういうことはいいんだね。」
「お母さんの考え。私はそう思わないわ。」
「え?」
「私には経験がないけれど、それで愛情がわかるんでしょう?」
「……んー。」
セックスに何の幻想を持っているのだろう。経験がないとこんなものなのだろうか。
「伊織は彼女がいたことがあるんでしょう?」
「あるけど……。」
「そう思わなかった?」
「男と女で少し感覚が違うのかも。」
手慣れた女が苦手だった。それは昔を思い出すから。
「でも……倫子は、ずっと恋人は作ってなかったの。連絡を取るのが面倒だからとかそういうことばかり言っていたけれど、本当は違うの。」
「え?」
泉は少しため息をついて言う。
「倫子とセックスした人って、絶対二度目はないから。」
「どうして?」
「……わからない?倫子の周りを見てて。」
その言葉に、伊織は箸を止める。
まだ夜十二時になっていないので、休憩で時間がとれる。平日の今日は特に安いらしい。部屋に倫子と春樹が入っていくと、荷物を置いてすぐに抱きしめ合った。
「キスさせて。」
春樹はそういうと、顔を上げた倫子の唇にキスをする。夕方もキスをしたのだが、それよりも離れるのが惜しい。春樹はそう思いながら、倫子のシャツの背中から手を入れる。
「もうするの?」
「沢山したいから。」
「がっつかないでよ。年上でしょう?」
そういって倫子は春樹から体を離す。そして部屋を見渡した。場末のラブホテルとは言っても、普通のホテルのようだ。ダブルベッドの枕元にはコンドームが二つ置いてあった。そしてその上には電気で動くマッサージ機が置いてある。
「電マかぁ。」
古本屋をしている上野敬太郎の店で、何度か見たことがある。それもまた小説のネタだ。
「シャワーを浴びる?」
「あとでで良いわ。」
春樹もベッドの上に乗ると、倫子を引き寄せた。
「……ここに来る人ってみんなセックスしてるのかしら。」
「そうかもね。」
「じゃあ、ここに来る人はみんな盛ってるのかな。」
「イヤね。私たちもその一人だと思われるの。」
「俺はずっと盛ってたけどね。」
そういって春樹は倫子の首元に唇を当てた。
「吸わないで。んっ……。」
「一緒に住んでても、手を出せないんだ。生殺しだよ。」
「春樹……。」
そういって倫子は顔を上げてきた春樹の唇に唇を重ねた。そして春樹のシャツに手をかける。
「……え?俺が?」
「あなたが喘ぐのみたかったの。だから……仕掛けたんだけど……。」
だから舐めたりしたのか。春樹は少し納得すると、倫子のシャツにも手をかけた。
「すごい気持ちよかった。だから……今度は君が喘ぐ番だから。」
「やられっぱなしはイヤよ。」
「負けず嫌いだね。そういうところも好きだよ。」
シャツを脱がして、唇にキスをする。その間にも倫子の背中に手を伸ばして下着を取った。
大きい手が胸に触れる。手が熱い。その暑さが心まで熱くさせそうだ。
「んっ……。」
倫子はそのまま手を伸ばすと春樹の体を抱き寄せて、その首筋に唇を寄せた。
「あっ……。」
思わず春樹も声を漏らした。
「気持ちいいの?」
「うん……倫子は?ここ。」
乳首をぎゅっと摘むと、思わず倫子も声を上げた。
「あっ……。」
「もうこんなに立ってる。嫌らしい乳首だね。」
倫子はたまらず春樹の首に捕まる。すると春樹はそのまま倫子をベッドに寝かせた。そしてはいているショートパンツを脱がせて、下着をとる。自分もズボンと下着を脱ぐと、再び倫子の上に乗り上げた。
「こうしたかった。ずっと……。」
「自分の意志から?」
「うん……逃げている訳じゃない。ただ……君が俺を利用するように、俺も君を利用している。こうしていれば、忘れられるから。」
奥さんのことだろう。先が見えない奥さんをずっと支え続けているのだ。倫子はその言葉に少しうなづいた。
「時間まで……ね。」
「全ては嘘だよ。」
春樹は倫子の唇にキスをすると、耳元で囁く。
「好き。」
「私も……好きよ。」
この行為は逃げているだけだ。そういわれればそうかもしれない。だが、逃げたかった。全てから目をそらせて、この関係を公に出来なくても、これをやめたくなかった。
「倫子。」
春樹はそういって、倫子の体をまた抱きしめる。
「お願い。もっとぎゅっと抱きしめて。」
「倫子……。」
「今だけ……そう思わせて。」
そういった倫子の目の端から涙がこぼれた。
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