守るべきモノ

神崎

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同居

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 対談をしたいと言いだしたのは荒田夕からだった。倫子はこの容姿のせいで、あまり写真に写りたがらない。だから少し噂が先走っているところがある。
 だから荒田夕が対談をしたいと申し出たとき、もしも倫子が渋るなら春樹が何とか説得しようと思っていたのだ。だがそれは取り越し苦労だった。倫子の方が荒田夕に興味があるらしい。
「荒田先生はどんなイメージ?」
 文字のチェックが一段落ついて倫子もパソコンから離れると、畳の上に座った。
「んー。キザな人なのかなと思うけど。ほら、町中で見たわ。パソコンのポスター。芸能人みたい。」
「その通りだよ。今度秋からはテレビのキャスターをするらしい。」
「忙しい人ね。」
 倫子なりの嫌みだったのかもしれない。だが興味があるというのには変わりはない。
「荒田先生は君と対談をしたいと申し出てきたのは、どうしてだと思う?」
「ただ単に興味があったからでしょう?平気で人を殺すような文章を書く女性がどんな人なのかって。」
 やはりその程度にしか思っていない。男を何だと思っているのだろう。
「俺が守ってやれればいいんだけど。」
「守る?」
 その言葉に倫子はいぶかしげに春樹を見た。そして少し笑う。
「そうね……。でもこんな女に手を出すかしら。見た目はビッチじゃない?」
「せめて下着を付けて出てきてくれよ。」
「外に出るときはするわ。三人の前だからこんな格好なのよ。」
「伊織君の前でも?」
「もう家族みたいなものじゃない。」
 倫子の中では春樹との夜は、過去のことなのかもしれない。最近はこうして二人で話すこともないのだから。
「倫子。外に出ないか?」
「外?」
「ここだと……二人がいるし。」
 その意味がわかって倫子はまた笑う。
「今日はもう少し仕事をしたいわ。」
「一日中してたんだろう?」
「何?溜まってるの?オ○ニーして寝たら?」
 そう言って倫子は立ち上がると、仕事机に置いてあった煙草を手にする。だがどうやらその中身は無かった。ストックがあるかと思って、バッグに手を伸ばすがそこにもない。
「煙草が切れたわ。買いに行こう。」
「俺も行くよ。」
「何で?すぐそこよ。」
「もう十二時過ぎてるんだから。そこから何か羽織って。」
 そう言って床に置かれていたカーディガンを手渡す。倫子は少しため息を付くと、それを羽織った。そして携帯電話を手にして、春樹も立ち上がったのを見てから電気を消す。すると急に二の腕を引かれた。
「ちょ……。」
 春樹は何も言わないまま、倫子の体を抱き寄せる。そして頬を持ち上げるとその唇にキスをした。
「んっ……。」
 最初から舌を入れられた。その動きがとても倫子の体を熱くさせる。携帯電話が畳に落ちて、倫子はその首に手を回した。
「……欲しいな。」
「……今日はイヤ。」
「……。」
「とりあえずコンビニ行くわ。」
 倫子はそう言って体を離した。

 コンビニでお互い煙草を買い、二人で並んで歩く。だが手をつなぐこともないのだ。それは恋人ではないから。だが繋がり合ったこともある。倫子はどう思っているのかわからないが、春樹はまたあってもいいと思う。と言うか、作家小泉倫子のためだけではなく、自分の感情からかもしれないと最近思うようになっていた。
 だから最近、妻の前で心苦しい。
「明日から校了だって言ってたね。」
「あぁ。」
「帰れる?」
「どうだろうな。最近は順調だけど……終電がないから会社に泊まって、朝方帰って、シャワーだけ浴びてまた出社って事もあるけど。」
「……私も三日したら、少し時間がとれるの。校了もそれくらい?」
「そうだね。」
 倫子は携帯電話を取り出すと、隣で歩いている春樹にその画面を見せた。
「ここへ行かない?」
 その画面にはある島が写っている。それは昔は有人島だったが、今は無人で、廃墟の家があるらしい。夏真っ盛りの時は、海の家なんかが構えてビーチになっているらしいが、もう夏というには遅い時期だ。あまり客はいないだろう。
「泳ぐつもり?」
「まさか。取材に行きたいの。ゲームのヤツ。ちょっと煮詰めたいと思ったから。」
 仕事か。倫子ならそれくらい一人ですぐ行きそうだがと思っていたが、どうして誘ってきたのだろう。
「俺が一緒に?」
「えぇ。校了の後って休みでしょう?」
「そうだけど……。」
 校了の時はどうしても残業になる。だから終われば、そこの部署はみんなで代休を取ることになるのだ。それは編集長でも一日はとれる。
「どうして俺と?」
「伊織と行ってもいいの?」
 倫子はそういって足を止めると、春樹を見上げた。そうだ。誘われているのだ。春樹は思わず倫子の手を握る。
「行くよ。」
「船を予約しないといけないの。シーズンなら、定期的に船が出ているみたいだけど、もう夏は終わりだものね。海の家も終わってるみたい。」
 思わずこのまま抱きしめたいと思った。だがこんな路上で抱きしめれば、倫子がもっと嫌がるだろう。気分を損ねて、やっぱり一人で行くと言い出しかねない。
「天気がいいといいね。」
「えぇ。」
「水着でも持って行く?」
「泳がないわ。」
「え?」
「私、金槌なのよ。」
 何でもこなしそうだったのに意外な言葉だった。その言葉に春樹は思わず笑う。
「だったら泳ぐのを教えようか?」
「勘弁して。人が水に浮くなんて、死体の時だけで十分よ。」
 倫子らしい言葉だった。春樹はそう思いながら、家に帰り着く。
「まだ仕事をする?」
「もう少しね。」
「無理しないで。」
 玄関を開けると、二人はまた別々の部屋に戻る。このままお互いの部屋へ行きたいとお互い思っていたが、それはこの状況でできない。
 三日後。誰も知らないところで、恋人の気分を味わいたいと思っていた。
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