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燃焼
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泉が寝てしまい、伊織と春樹だけが居間に残った。春樹は飲み過ぎたのだと思いながら水を口に含む。水で酒が薄まるとは思えないが、それで何とかなるだろう。
「藤枝さん。」
「何だろうか。」
「昼間に聞きそびれたけど、やっぱり倫子と何かあったんでしょう?」
すると春樹は少しため息を付くと、伊織を見る。
「作家と編集者の関係は、そんなに生々しいものじゃない。作家がプロットを考えてOK出して、いざ書いてもらって使えないと思えばリジェクトすることもある。」
「……。」
「結構小泉先生にはきつく当たっているつもりだよ。仕事面ではね。だから、協力できることは何でもしようと思う。」
「協力?」
「それが妻の意志でもあるから。」
春樹はそういって、水を口に入れる。わざわざセックスをしたなどと言わなくても、これでわかると思う。
「奥さんを待っていると言っていたのに。」
「実はね……。妻の実家からは、別れてもかまわないと言われているんだ。何せ、結婚式をして新婚旅行へ行った帰りの道での事故だったんだから。新婚生活は病院の中で五年もそうしているのに、妻の実家からは面目がないと言われている。」
いつか倫子の兄という人に会ったことがある。あれほどきつくはなかったが、やはり未来の実家も「女は子供を産まなければ、意味がない」という考えがあるようだ。
「でも……俺はやっぱり、奥さんに悪いんじゃないかって思います。俺なら耐えられない。」
「恋人に浮気でもされた?」
「……まぁ……そういうこともありました。」
「したことは?」
「俺はないんですけど……あまりその話は泉の前ではしない方が良いです。」
「阿川さんの前で?」
「泉の母親は、浮気相手と心中したから。」
その言葉に、春樹は頭をかく。そして煙草を取り出した。
「そうか……。」
「だから泉は相当嫌がってるんです。浮気とか。不倫とか。」
自分を放ってまで、浮気をしたいのだろうか。それくらい自分の存在は軽かったのだろうか。ずっとそれは泉の中で自問自答することだった。
「だから今日は我慢してください。」
「するわけ無いだろう。君らがいるんだから。」
「どうだか。」
するとシャツとショートパンツをはいた倫子が居間に戻ってきた。
「どちらか入ってしまって。」
「藤枝さん。入ってください。」
ここで倫子と二人にすれば、何をするかわからない。そう思って伊織は風呂を進めた。
「ありがとう。じゃあ、先にいただくよ。」
取り出した煙草をまたしまうと、春樹は立ち上がる。そして自分の部屋へ戻ろうとしたときだった。
「藤枝さん。ちょっと待って。」
倫子は慌てて奥にある脱衣所に入っていった。下着がかごの中に置きっぱなしだったのだ。それをシャツの下に隠して、倫子は待っている春樹に声をかけた。
「すいません。」
「いいや。女性はいろいろ大変ですね。」
すると出て行こうとした倫子の手を、春樹が握る。そして脱衣所に連れ込むと、その壁に倫子を押しつけた。そして唇を軽く重ねる。
「良い匂いだね。シャンプーかな。」
「……春樹。あの……ここじゃ……。」
「飲んでるし、キスだけだよ。時間をとると変に思われるから。」
そういって春樹はまた唇を重ねた。
居間に戻ってくると、伊織がまだそこにいて携帯電話を当たっているようだった。
「まだ寝ないの?」
「ワインが少し残ってるからね。倫子、飲まない?」
「コルク栓だったわね。飲まないと保存が利かないし、仕方ないわね。」
そういってまた倫子は座ると、ワインをグラスに注いだ。そして、残っているワインを伊織のグラスに入れる。
「嬉しそうだ。」
「そうね。ワインって久しぶり。あまり飲み慣れてないからかな。今日は、すぐ寝るかも。仕事したかったのに。」
「普段は日本酒?」
「焼酎とか。亜美のところではウィスキーとか飲むこともあるけど、詳しいお酒の味とかはわからない。」
「煙草を吸うからね。」
「そうね。」
そういって倫子はワインに口を付ける。
「さっき、藤枝さんからいろんな話を聞いたよ。倫子のためにやれることはやってるって。」
どこまで話したのだろう。グラスを置いて、伊織を見る。すると伊織もまたワインに口を付けた。
「担当者としてね。」
奥さんがいることは当初から知っている。だからセックスをしたなどと聞いたら、軽蔑されるに違いない。
「倫子。藤枝さんのことが好きなの?」
すると倫子は首を横に振る。
「……恋人がいたこともあるわ。でも……どうしても愛だの恋だのはわからないの。」
「……。」
「小説や映画を見たこともあるわ。でもそんな気分になれない。誰かと一緒にいても、私の頭の中にはどうしても仕事のことがよぎるの。仕事を置いてでも、その人のところへいきたいと思うのが恋なんでしょう?」
微妙に違う。それを恋だと思っているのは知識だけを詰め込んだからだろうか。
「本を作りたい。それだけなの。」
本が沢山あるそこにいるだけで幸せだった。そんな気分にみんななればいいと思う。
「倫子。無理をして恋愛小説を描くことはないと思う。官能小説を書きたいと言っていたけれど……それも無理をしないで良いと思う。」
「性欲は自分に一番正直になれると思う。だから……面白いと思う。読んでいて、感情を高ぶらせるような……。」
「自分の感情が高ぶらないのに、それは書けない。」
自分を忘れるくらい尽くすくらい、そんな感情にならないと無理だ。伊織にもそんなときがあった。だがそれははかなく崩れた。手をさしのべることも出来なかったのだ。
「でもしようと思って出来ることじゃない。」
「他の人を見たらいい。自分より大事だと思う人が出てくるんじゃないのかな。」
「……伊織にはいたの?」
その言葉に伊織は少しうつむいた。あの暑い国を思い出したからだ。顔色が少し悪くなっている伊織に、倫子はグラスを置いて伊織に近づく。
「変なことを聞いたわ。ごめん。」
昼間に聞いた女性のことを思い出させたのだろうか。倫子は伊織の背中に手を置いた。
「藤枝さん。」
「何だろうか。」
「昼間に聞きそびれたけど、やっぱり倫子と何かあったんでしょう?」
すると春樹は少しため息を付くと、伊織を見る。
「作家と編集者の関係は、そんなに生々しいものじゃない。作家がプロットを考えてOK出して、いざ書いてもらって使えないと思えばリジェクトすることもある。」
「……。」
「結構小泉先生にはきつく当たっているつもりだよ。仕事面ではね。だから、協力できることは何でもしようと思う。」
「協力?」
「それが妻の意志でもあるから。」
春樹はそういって、水を口に入れる。わざわざセックスをしたなどと言わなくても、これでわかると思う。
「奥さんを待っていると言っていたのに。」
「実はね……。妻の実家からは、別れてもかまわないと言われているんだ。何せ、結婚式をして新婚旅行へ行った帰りの道での事故だったんだから。新婚生活は病院の中で五年もそうしているのに、妻の実家からは面目がないと言われている。」
いつか倫子の兄という人に会ったことがある。あれほどきつくはなかったが、やはり未来の実家も「女は子供を産まなければ、意味がない」という考えがあるようだ。
「でも……俺はやっぱり、奥さんに悪いんじゃないかって思います。俺なら耐えられない。」
「恋人に浮気でもされた?」
「……まぁ……そういうこともありました。」
「したことは?」
「俺はないんですけど……あまりその話は泉の前ではしない方が良いです。」
「阿川さんの前で?」
「泉の母親は、浮気相手と心中したから。」
その言葉に、春樹は頭をかく。そして煙草を取り出した。
「そうか……。」
「だから泉は相当嫌がってるんです。浮気とか。不倫とか。」
自分を放ってまで、浮気をしたいのだろうか。それくらい自分の存在は軽かったのだろうか。ずっとそれは泉の中で自問自答することだった。
「だから今日は我慢してください。」
「するわけ無いだろう。君らがいるんだから。」
「どうだか。」
するとシャツとショートパンツをはいた倫子が居間に戻ってきた。
「どちらか入ってしまって。」
「藤枝さん。入ってください。」
ここで倫子と二人にすれば、何をするかわからない。そう思って伊織は風呂を進めた。
「ありがとう。じゃあ、先にいただくよ。」
取り出した煙草をまたしまうと、春樹は立ち上がる。そして自分の部屋へ戻ろうとしたときだった。
「藤枝さん。ちょっと待って。」
倫子は慌てて奥にある脱衣所に入っていった。下着がかごの中に置きっぱなしだったのだ。それをシャツの下に隠して、倫子は待っている春樹に声をかけた。
「すいません。」
「いいや。女性はいろいろ大変ですね。」
すると出て行こうとした倫子の手を、春樹が握る。そして脱衣所に連れ込むと、その壁に倫子を押しつけた。そして唇を軽く重ねる。
「良い匂いだね。シャンプーかな。」
「……春樹。あの……ここじゃ……。」
「飲んでるし、キスだけだよ。時間をとると変に思われるから。」
そういって春樹はまた唇を重ねた。
居間に戻ってくると、伊織がまだそこにいて携帯電話を当たっているようだった。
「まだ寝ないの?」
「ワインが少し残ってるからね。倫子、飲まない?」
「コルク栓だったわね。飲まないと保存が利かないし、仕方ないわね。」
そういってまた倫子は座ると、ワインをグラスに注いだ。そして、残っているワインを伊織のグラスに入れる。
「嬉しそうだ。」
「そうね。ワインって久しぶり。あまり飲み慣れてないからかな。今日は、すぐ寝るかも。仕事したかったのに。」
「普段は日本酒?」
「焼酎とか。亜美のところではウィスキーとか飲むこともあるけど、詳しいお酒の味とかはわからない。」
「煙草を吸うからね。」
「そうね。」
そういって倫子はワインに口を付ける。
「さっき、藤枝さんからいろんな話を聞いたよ。倫子のためにやれることはやってるって。」
どこまで話したのだろう。グラスを置いて、伊織を見る。すると伊織もまたワインに口を付けた。
「担当者としてね。」
奥さんがいることは当初から知っている。だからセックスをしたなどと聞いたら、軽蔑されるに違いない。
「倫子。藤枝さんのことが好きなの?」
すると倫子は首を横に振る。
「……恋人がいたこともあるわ。でも……どうしても愛だの恋だのはわからないの。」
「……。」
「小説や映画を見たこともあるわ。でもそんな気分になれない。誰かと一緒にいても、私の頭の中にはどうしても仕事のことがよぎるの。仕事を置いてでも、その人のところへいきたいと思うのが恋なんでしょう?」
微妙に違う。それを恋だと思っているのは知識だけを詰め込んだからだろうか。
「本を作りたい。それだけなの。」
本が沢山あるそこにいるだけで幸せだった。そんな気分にみんななればいいと思う。
「倫子。無理をして恋愛小説を描くことはないと思う。官能小説を書きたいと言っていたけれど……それも無理をしないで良いと思う。」
「性欲は自分に一番正直になれると思う。だから……面白いと思う。読んでいて、感情を高ぶらせるような……。」
「自分の感情が高ぶらないのに、それは書けない。」
自分を忘れるくらい尽くすくらい、そんな感情にならないと無理だ。伊織にもそんなときがあった。だがそれははかなく崩れた。手をさしのべることも出来なかったのだ。
「でもしようと思って出来ることじゃない。」
「他の人を見たらいい。自分より大事だと思う人が出てくるんじゃないのかな。」
「……伊織にはいたの?」
その言葉に伊織は少しうつむいた。あの暑い国を思い出したからだ。顔色が少し悪くなっている伊織に、倫子はグラスを置いて伊織に近づく。
「変なことを聞いたわ。ごめん。」
昼間に聞いた女性のことを思い出させたのだろうか。倫子は伊織の背中に手を置いた。
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