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和室
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夜に帰ってきたとき、玄関に見慣れない男もものの靴があるのに驚いたが、倫子はたまにはこういうこともあるのだから別に気にしない。そう思っていたのに朝起きて、朝食を作っていると誰かが台所に入ってきた。
「あ、阿川さん?」
聞き慣れた声に、思わず泉は振り返った。そこには春樹の姿があったからだ。
「藤枝さん?どうして?」
「一晩お世話になったんだよ。」
一晩一つ屋根の下にいたのだ。恥ずかしくて顔から火が出そうだと思う。
「何か手伝おうか?」
「いいえ。あの……もう少しで終わるし……。」
「食台を拭こうか。」
「あ……じゃあ……。」
布巾を手渡すと、春樹はそれを手にして居間に戻る。どうして春樹がここにいるのだろう。わからないが、ときめきそうだ。
「お。おはよう。富岡君。」
「おはようございます。」
二人も男が居たのか。驚いて、早く倫子のところに行きたいところだったが、魚が焼けそうで手が放せない。
「小泉さんはまだ起きてこないのかな。」
「起こしに行った方がいいんですかね。食事できるんでしょ?」
「あぁ。阿川さんが作ってる。」
「あぁ。同居してるっていう女の人ですか?どんな人なんだろう。」
「俺、起こしに行ってくるよ。君は阿川さんに挨拶しに行って。」
「はい。」
そんな声が聞こえてくる。もう一人の男というのも聞き覚えのある声だ。
「あ、同居の女性の方ですか?」
「初めまして……じゃない。」
「あぁ。「book cafe」の店員さんか。」
「うん。阿川泉です。」
「改めて、富岡伊織です。」
「富岡さん?」
「伊織で良いよ。」
「伊織さんですか。」
「うん……まぁそうだね。」
そのころ倫子の部屋の前で、春樹はため息をついていた。女性の部屋に行くのは妻が一人暮らしをしていたとき以来だ。だが作家の部屋というのは、たいがい一緒だろう。そう思いながら部屋のドアを開ける。すぐに煙草の匂いがした。そして資料が乱雑に積みあがり、棚には溢れるほどの本がある。昔、六畳一間の部屋に住んでいたときも倫子の部屋はこんな感じだった。やはり作家というのは男でも女でもこんな感じになるのだろう。
ベッドではなく布団の上で横になっている。だがタンクトップの隙間から、胸が見えそうだ。思わず視線をそらせたが、起こさないわけにはいかないだろう。
「先生。小泉先生。」
すると寝返りを打つ。ますます胸のあたりがきわどい。せめてそれだけでも隠そうかと、しゃがみ込んで体に触れようとした。そのとき、倫子の目が少し開く。
「あ……。寝てたんだ……。」
春樹の姿に気がついて、倫子は辛そうに体を起こす。そしてぼんやり春樹の方を見ていた。
「起きてますか?」
「うん……。」
あくびを一つするが、あまり起きていないように見えた。もしかしたら、夕べは遅くまで資料の整理をしていたのかもしれない。だが肩に掛かっているタンクトップの紐が肩から落ちそうで、胸が本当に見えそうだ。
「先生。とりあえず胸だけは隠しましょうか。」
「胸?」
そう言ってそのずれかけているタンクトップの紐を肩に掛ける。すると倫子は、春樹を見上げた。そして何も言わずにその首に手を回す。
「何……。」
そしてそのままその首もとに顔を埋めてきた。まるで抱きしめられているようだ。
「あの……先生……。」
女は久しぶりだった。柔らかさも温かさもすべてが五年ぶりだと思う。
「んー?」
だがしっかりしないと。自分とは十個も違う、年上だし、自分には妻が居るし、流されないようにしなければ。そう思って体を引き離す。
「先生。」
すると今度は倫子は目が半分開いている状態で、春樹の頬に手をかけてきた。
「だ……駄目ですよ。」
だが倫子は止めない。手をかけて、その唇に軽くキスをした。
「先生。」
ちゅっと軽い音がした。その唇の柔らかさも久し振りすぎて、顔が赤くなる。そして倫子はさらに近づいてきた。唇を割り、舌を絡めてくる。水の音が耳を触り、じっくりとその舌か春樹の舌を舐め上げていた。その感覚が少し心地いいと思う。思わずその後ろ頭に手が伸びそうになった。
だが流されてはいけない。唇を離されると、倫子は力つきたようにまた布団に横になった。やはり寝ぼけているだけだったのだろう。春樹はため息をついて、起こすのを諦めて外に出る。ドアを開けていたわけではないので、誰も見ていなかっただろうが罪悪感は拭いきれない。
妻以外の人とこんなことをすることはなかったからだ。つきあいで風俗へ行こうと誘われてもそんな気になれなかったし、妻のことを話せば無理には誘われなかったからだ。
そっと唇に触れる。こんな感覚は久しぶりだった。まるで初めてキスをしたときのように思える。だが居間へ行けば、伊織も泉もいるのだ。冷静にならなければいけない。
そう思って居間の方へ足を進めた。
「あれ?小泉先生は?」
食事を並べようとしていた伊織が、春樹に聞く。
「どうしても起きなかったよ。」
するとお盆の上にご飯を載せた泉が、少し笑っていう。
「倫子は起こされて起きる人じゃないんです。ちょっと待ってください。」
そう言って泉がお盆を置いて台所に戻っていく。しばらくすると、コーヒーのいい香りが居間まで漂ってきた。
「いい香りですね。」
しばらくするとサーバーにコーヒーを淹れた泉が居間に戻ってくる。するとその居間に、ぼさぼさの髪をかきあげた倫子がふらふらとやってくる。
「おはようございます。」
すると倫子は少し笑っていった。
「おはようございます。夕べは寝れましたか?」
「小泉先生は、あまり寝れなかったんですか?」
「四時までは覚えていたんですけどね。」
さっきキスをしたことなど覚えていないのかもしれない。それくらい倫子の態度は普通通りだった。
「あ、阿川さん?」
聞き慣れた声に、思わず泉は振り返った。そこには春樹の姿があったからだ。
「藤枝さん?どうして?」
「一晩お世話になったんだよ。」
一晩一つ屋根の下にいたのだ。恥ずかしくて顔から火が出そうだと思う。
「何か手伝おうか?」
「いいえ。あの……もう少しで終わるし……。」
「食台を拭こうか。」
「あ……じゃあ……。」
布巾を手渡すと、春樹はそれを手にして居間に戻る。どうして春樹がここにいるのだろう。わからないが、ときめきそうだ。
「お。おはよう。富岡君。」
「おはようございます。」
二人も男が居たのか。驚いて、早く倫子のところに行きたいところだったが、魚が焼けそうで手が放せない。
「小泉さんはまだ起きてこないのかな。」
「起こしに行った方がいいんですかね。食事できるんでしょ?」
「あぁ。阿川さんが作ってる。」
「あぁ。同居してるっていう女の人ですか?どんな人なんだろう。」
「俺、起こしに行ってくるよ。君は阿川さんに挨拶しに行って。」
「はい。」
そんな声が聞こえてくる。もう一人の男というのも聞き覚えのある声だ。
「あ、同居の女性の方ですか?」
「初めまして……じゃない。」
「あぁ。「book cafe」の店員さんか。」
「うん。阿川泉です。」
「改めて、富岡伊織です。」
「富岡さん?」
「伊織で良いよ。」
「伊織さんですか。」
「うん……まぁそうだね。」
そのころ倫子の部屋の前で、春樹はため息をついていた。女性の部屋に行くのは妻が一人暮らしをしていたとき以来だ。だが作家の部屋というのは、たいがい一緒だろう。そう思いながら部屋のドアを開ける。すぐに煙草の匂いがした。そして資料が乱雑に積みあがり、棚には溢れるほどの本がある。昔、六畳一間の部屋に住んでいたときも倫子の部屋はこんな感じだった。やはり作家というのは男でも女でもこんな感じになるのだろう。
ベッドではなく布団の上で横になっている。だがタンクトップの隙間から、胸が見えそうだ。思わず視線をそらせたが、起こさないわけにはいかないだろう。
「先生。小泉先生。」
すると寝返りを打つ。ますます胸のあたりがきわどい。せめてそれだけでも隠そうかと、しゃがみ込んで体に触れようとした。そのとき、倫子の目が少し開く。
「あ……。寝てたんだ……。」
春樹の姿に気がついて、倫子は辛そうに体を起こす。そしてぼんやり春樹の方を見ていた。
「起きてますか?」
「うん……。」
あくびを一つするが、あまり起きていないように見えた。もしかしたら、夕べは遅くまで資料の整理をしていたのかもしれない。だが肩に掛かっているタンクトップの紐が肩から落ちそうで、胸が本当に見えそうだ。
「先生。とりあえず胸だけは隠しましょうか。」
「胸?」
そう言ってそのずれかけているタンクトップの紐を肩に掛ける。すると倫子は、春樹を見上げた。そして何も言わずにその首に手を回す。
「何……。」
そしてそのままその首もとに顔を埋めてきた。まるで抱きしめられているようだ。
「あの……先生……。」
女は久しぶりだった。柔らかさも温かさもすべてが五年ぶりだと思う。
「んー?」
だがしっかりしないと。自分とは十個も違う、年上だし、自分には妻が居るし、流されないようにしなければ。そう思って体を引き離す。
「先生。」
すると今度は倫子は目が半分開いている状態で、春樹の頬に手をかけてきた。
「だ……駄目ですよ。」
だが倫子は止めない。手をかけて、その唇に軽くキスをした。
「先生。」
ちゅっと軽い音がした。その唇の柔らかさも久し振りすぎて、顔が赤くなる。そして倫子はさらに近づいてきた。唇を割り、舌を絡めてくる。水の音が耳を触り、じっくりとその舌か春樹の舌を舐め上げていた。その感覚が少し心地いいと思う。思わずその後ろ頭に手が伸びそうになった。
だが流されてはいけない。唇を離されると、倫子は力つきたようにまた布団に横になった。やはり寝ぼけているだけだったのだろう。春樹はため息をついて、起こすのを諦めて外に出る。ドアを開けていたわけではないので、誰も見ていなかっただろうが罪悪感は拭いきれない。
妻以外の人とこんなことをすることはなかったからだ。つきあいで風俗へ行こうと誘われてもそんな気になれなかったし、妻のことを話せば無理には誘われなかったからだ。
そっと唇に触れる。こんな感覚は久しぶりだった。まるで初めてキスをしたときのように思える。だが居間へ行けば、伊織も泉もいるのだ。冷静にならなければいけない。
そう思って居間の方へ足を進めた。
「あれ?小泉先生は?」
食事を並べようとしていた伊織が、春樹に聞く。
「どうしても起きなかったよ。」
するとお盆の上にご飯を載せた泉が、少し笑っていう。
「倫子は起こされて起きる人じゃないんです。ちょっと待ってください。」
そう言って泉がお盆を置いて台所に戻っていく。しばらくすると、コーヒーのいい香りが居間まで漂ってきた。
「いい香りですね。」
しばらくするとサーバーにコーヒーを淹れた泉が居間に戻ってくる。するとその居間に、ぼさぼさの髪をかきあげた倫子がふらふらとやってくる。
「おはようございます。」
すると倫子は少し笑っていった。
「おはようございます。夕べは寝れましたか?」
「小泉先生は、あまり寝れなかったんですか?」
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