手錠から始まった

神崎

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エメラルド

交渉の決裂

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 雨は昼夜を問わず三日三晩降り続いた。ひどい雨で、近くの小川も氾濫しかけたようだ。
 雨がやんだ次の日の夜。銀色の髪を持つ男が、いつもの黒いスーツ姿で廃墟の町にいた。少し離れたところに車があり、そこには自分の部下が数人待機している。
 これから行う交渉に余計な血を流す必要はないが、不意の事故で血を流すかもしれない。そう言って彼は、腕利きの部下を置いておいたのだ。
「まだ来ないね。」
 金色の髪を持つ胸を大きく露出させた女が口を開く。
 車の中には女を含め3人。アジトにはあと2人いる。以上の6人が最近この辺を席巻している盗賊集団「Crow」だった。
 盗賊集団と名をうってはいるが盗むためなら殺人、放火を率先してしてやっている。そうすることで「Crow」がしたという証拠は何一つ残さないのだ。
 盗んだブツは、先ほどから廃墟の町に立っている「Crow」のボスであるノアの手によって「あるべき場所」に報酬と共に返される。学術的な立場の学者や貴族らからは、「義賊」であるという言葉すら出てくる始末だ。
 しかしそれはあくまで一部であり、殺人、放火の罪は何があっても許されることではない。
「来たな。」
 運転席にいた男が煙草を消して、そちらをみる。
 ノアの前に黒い車が、まるで彼をひき殺そうというくらいのスピードでつっこんできた。しかしノアは動かない。
 車は彼の前でピタリと停まり、エンジン音が止まる。そして後部座席から二人の男が出てきた。
 年の頃はノアの父ほどの年齢だろうか。初老の男。口ひげを蓄えて、その髭にも白髪が混ざっている。
 もう一人の男は、ノアもよく知っている男だった。何せ何年か前までは「Crow」の一員だった男「ジョネス」だったのだから。
「お初にお目にかかるか。」
 顔のしわ。手のしわ。すべてが老人だと言うことがわかる。しかし目の鋭さは、まるで20代の若者だ。
「「shadow」のボス「ヨナ」か。」
「いかにも。この間はうちの若いモノが世話になったようだったが。」
 少し前に行った殺人犯が使った銃とサバイバルナイフを奪ったことを言っているのか。
「…あれはうちの仕事だ。」
「いい金になっただろう。だが研究所やポリスに渡したところでその金は半分にもみたんと思うがね。」
「うちは少数精鋭でね。そんなに多くの金が必要ではないんだ。それに依頼は腐るほどある。その中にはあんたのところで保管しているお宝も含まれているから覚悟しているがいい。」
 今度はあんたのところのを狙う。そう宣言したはずなのに、ヨナは何も感じていないのか、大きく欠伸をした。
「失礼。最近、夜がめっきり弱くなってね。」
 相手にもしていない。そう言うことか。
 その態度に気が付いた車の中の男が、剣に手を伸ばそうとした。しかしそれを女が止める。
「ではさっさと本題に入ればいい。そんな雑談のために呼んだのではないのだろう。」
 後ろに控えているジョネスも、形だけでもとこちらをみているようだった。あまりノアとヨナの話には興味がないのかもしれない。
「儂たちと手を組まないか。」
「手を?」
「合併の話だよ。あんたのところの少数精鋭の兵士たち。その一人で何百人分の兵力になると噂だ。この間から儂たちの手で余る仕事に手を着けてな。「Crow」の手を借りたいと思っている。」
 そう言ってヨナは手のひらをこちらに向けた。
「報酬は等分だ。」
「…。」
「悪い話ではないと思うのだがね。」
 するとノアはその話にこらえきれず笑いを浮かべる。
「ははっ。失礼。」
 笑いをこらえきれないようにうつむいていたのかと思った。しかし彼は目だけをこちらに向ける。
「吸収合併したいというコトだろう。」
「いかにも。」
「…俺たちもなめられたものだ。」
 そう言ってノアは一歩前に進み、背の低いヨナを見下げた。その行動に、ついジョネスは胸元にあるナイフにてが延びる。
「あんたたちのしていることはすべて知っている。汚い盗賊団だ。そんな奴らと手を組むつもりはない。」
 その言葉にヨナもついムキになる。
「義賊を語るつもりか。「Crow」など一捻りでつぶしてやるわ。」
 しかしその言葉が裏目に出た。
 ノアの目がヨナをとらえ、その目はまるで血に飢えた獣のようだった。静かな怒りが込められ、ヨナはただ立ち尽くすだけだった。
 しかしそれを側で見ていたジョナスだけが、心の中で喚起に喜んでいる。
「俺たちがあんたたちの兵士にかなうと思っているのか。これに懲りたら、人質など取らないことだ。」
 そう言ってノアは振り向いて、その場を去った。

 良いね。ノア。

 怒り浸透のヨナとは対照的に、ジョナスは喜びにうち震えていた。そして心の中で誓う。

 あんたは僕が殺してあげる。

 車の後部座席に乗り込んだノアは、仲間たちにコトのすべてを伝えた。すると女と運転している男が口々に文句を言いだした。
「手をくめですって?絶対イヤよ。」
「あんな犯罪者たちと手を組むなんてなぁ。」
 俺らも似たようなものだと、ノアは暢気に思っていた。しかしその彼の隣に座っていた黒ずくめの男だけは、沈黙を守っていた。
「ハン。」
 声をかけると、こちらを向かずに彼は声だけ返す。
「何だ。」
「アイネスとミケルは反対らしい。お前は賛成なのか。」
 すると彼はため息をついてこちらを見ようともしなかった。
「どうでも良い。」
 すべてがどうでも良かった。あの女が彼の側を離れてから、ハンはずっと無気力だったのだ。
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