触れられない距離

神崎

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チゲ鍋

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 街はイルミネーションに彩られていたが、今日は更にきらびやかだ。なんせ今日はクリスマスイブで、恋人達が愛を語らうのだろう。そんな風習はここの国だけで、他の国は家族と一緒に過ごすのが一般的なのだが。
 そんなことは沙夜や「二藍」のメンツにはあまり関係ない。しかも今日では無いとスタジオが取れなかったので、生放送のテレビ番組に出演する前に撮るようにしていた。
 それぞれに髪型を整えて、メイク、髪のセットなんかを指定賞に着替えてもらい写真に収まってもらう。ある程度のジャケットの案はあったので、その通りに撮ってもらうのだ。
 撮り終えた写真をパソコンに入れてこれから細かい修正をするのだが、その前に撮ってもらった写真をデザイナーとカメラマンと沙夜がソロってチェックする。
「ジャケットは絵で、こんな感じです。それで写真は中表紙と歌詞カードに組み込んで、それから裏にこれを載せる予定です。」
 デザイナーは若い男だった。評判のいい男で、見た目は少し日焼けした肌だったり、茶色い髪がチャラそうに見えるが真面目な男だった。それに見た目よりも歳を取っているらしい。左手の薬指には結婚指輪のような指輪がある。それもまた沙夜が信用する要因なのだろう。
「良いですね。このジャケットの絵も凄くセンスが良い。」
「アルバムの曲を聴かせてもらって想像を膨らませたんですよ。」
 こういうところが信用出来るということなのだ。デザイナーの中には「二藍」のイメージで作ってくれる人もいるが、今回のアルバムに至っては今までのモノとは少し様相が違う。変に受けを狙ったような曲が入っていないからだ。
「それにしても、「二藍」のメンツは変わりましたねぇ。」
 カメラマンが写真を見ながらそう言うと、沙夜は不思議そうにカメラマンを見た。
「変わってます?去年のアルバムと違いますかね。」
「うーん……。「二藍」の人達の話を聞くと、あまりこう……性差みたいなモノってのを嫌っている感じがしたのでわざと男らしいとかというのを削いだ感じで撮っていたんですよ。」
「はぁ……。」
 カメラマンはずっと「二藍」のCDのジャケットやソフトなんかのジャケットを撮ってくれている人で、この三人の中では一番年配になる。それでも感覚は若く、ただ単に肉体的な衰えがあると言うだけだったようだ。
「でもみんな色気が出てきていて難しいですよ。」
「ただ単に歳を取ったというわけでは無いんですか。」
 沙夜はそう言うとデザイナーの男も手を振ってそれを否定する。
「いやぁ。そんな単純なことじゃないですよ。歳を取ったっていったら、色気っていうのは無くなってくるモノですから。」
「富岡さんなんかは、若いときはモテてたでしょ?」
 デザイナーの男をからかうようにカメラマンがいうと、富岡と呼ばれた男は手を振って言う。
「俺なんかそこまで。しかも俺、ゲイの噂も立ったし。」
「ゲイ?」
「そんなことは無いんですけどね。今は妻も子もいますから。」
「知ってますよ。奥様はお元気ですか。」
「相変わらずです。本の虫みたいになってて、息子がそれに習って図書館ばかり行ってますよ。クリスマスプレゼントは本が良いと言っていてですね。」
「珍しい。今はゲームとかじゃ無いのか。」
「うちの子供達は全く興味を示さなくて。俺が家で仕事をしてると、目が悪くなるって口やかましくなりましたよ。」
「ははっ。」
 良い家族なようだ。そして一馬の家もそんな感じの家族だったのに、いつの間にかいびつな関係になってしまった。だが今日ばかりは家に帰らせてやりたいと思う。沙夜も今日は大人しく帰って荷造りをしようと思う。芹が来る可能性は無いのだから。
「それはともかくとして、色気が見えますか?この五人に。」
 沙夜はそう言うと、カメラマンが頷いた。
「俺は昔ですけど、AVのジャケット写真を撮ったりすることもあったんですよ。」
「え?そうだったんですか。」
 するとカメラマンは頷いた。
「今はそこまで抵抗がないのかもしれないけれど、女性用のAVと言うモノのジャケットも撮ってました。」
「女性用?」
「アイドルみたいな顔立ちをした男が女とセックスをするようなモノから、ゲイ向けのものも女性用と言って売られていることもあるんですよ。そのジャケットを撮ってました。」
「はぁ……。」
 他人がセックスをするのを見て何が面白いのだろうと沙夜は昔沙菜に言ったことがある。すると沙菜はそれはそれで沙夜には需要は無いのかもしれないが、一定数の需要はあると言っていた。
「その人達のジャケット写真になりそうでしたよ。ほら……これなんかね。」
 いくつかあるファイルの中の一つをクリックする。するとそこには、一馬の写真が映し出された。一馬は元々濃い顔立ちで、人によっては怖いと言われることもある。若い頃にはヤクザに間違えられていたこともあるらしい。人を寄せ付けないような雰囲気が合ったからだろう。だが今はその角が少し取れて丸くなっているように思えた。良い写真だと思う。
「どこか問題が?」
「良い体をしてますね。ジャケット一枚脱ぐだけでもわかりますよ。」
 デザイナーがそう言って沙夜ははっと気が付いた。この写真を撮ったあとに一馬にジャケットを着てもらったのだ。それはそんな意味があるとは思っても無かったから。女性が見るのと男性が見るのとは違うのだろうか。
「あぁ。そう言う意味で。」
「泉さんは本当にそういう目で見てないんですね。俺なんか見すぎたかなぁ。過敏になっちゃって。」
 カメラマンがそう言うと、沙夜は首を横に振って言う。
「私なんかは「二藍」に会うことが多くて、少し麻痺しているところがあるのかもしれません。その時には教えていただけるとありがたいのですが。」
「もちろんです。名義は「二藍」ですし、「二藍」のメンツの意にそぐわない作品は本人達も出したくないでしょうから。」
 デザイナーはそう言うと、沙夜はほっとしたように胸をなで下ろした。こういう意人達がいるから信用が出来るのだ。
「沙夜さん。写真って俺も見れる?」
 着替え終わった遥人がスタジオに入ってきた。その様子に沙夜は首をかしげて遥人を見る。
「栗山さん。他のメンツはどうしたの?」
「純がヘアスタイリストに編み込み聞いてたよ。残りのメンツは楽器をチェックしてた。」
「あぁ。そうだったの。あなたは?歌詞は大丈夫?」
「俺は大丈夫。今日はほら、テレビだけだし。」
「余裕ね。まぁ良いけど。」
「それよりも写真写りが気になるよ。富岡さんだっけ。修正ってする?」
「最小限にしますけどね。」
「わかった。」
 遥人は少し意地になっているところがあるのだろう。モデルとしても活躍しているのに、外国でウェディングのモデルをしたのは一馬だったのだから。体格の差だと思うが、それでもモデルの仕事まで取られたと思っているのだろう。
「栗山さん。あまり気にしなくても良いのよ。」
「え?」
「ボーカルなんだから嫌でも目立つわ。」
「そうだけどさぁ……。」
「大丈夫だよ。栗山さんはモデルでもまだ需要があるようだしさ。」
 カメラマンの男がそう言うと、遥人は納得したようにその写真をまた見ていた。だが目に映るのは一馬の姿。慌ててジャケットを着てもらったようだが、その理由はわかる。良い体をしているのに、更に磨きがかかっているようだったから。シャツ一枚で立っていればどこのAV男優だろうと思うくらいだ。
 その理由は何となくわかる。沙夜もまた同じように色気が出てきているようだった。こんなにあらか様に去年と違うと、隠したいことも隠れないような気がする。だから一度写真を見たいと思ったのだ。
「候補はこの写真と、この写真ですね。あと個人の写真と。それから外国で売られているモノはジャケットも変えるんですよね?」
「えぇ。なのでそちらも写真を変えます。それからストリーミングの方は……。」
 あらかたの打ち合わせが終わり、あとのことはメッセージや電話での打ち合わせになる。対面の打ち合わせはあと一二度あるくらいだろう。カメラマンとはあとは雑誌の撮影なんかでまた会うかもしれないが、デザイナーとは作品が出ない限りは繋がりが無い。
 だが良いデザイナーだと思った。沙夜はそう思いながら、デザインしてくれたジャケットの絵に視線を移す。
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