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一人飯
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スタジオで録音を済ませて、少し時間が空いた。なので一度沙夜の所へ行ってみようと思う。一馬はそう思いながら、スタジオを出るとメッセージを開く。沙夜が借りたウィークリーは、ここから少し行った所にある通りから少し入った所。
そこまで離れているわけでは無いが居酒屋の裏にあり、近くにはスーパーもあるが沙夜が好きそうな商店街もそこにはあった。昔ながらの町並みは、少し芹の地元を思い出すだろうか。そう思いながらその建物の前に立つ。少し離れた所に駐車場があるようで、その駐車場をみたとき見覚えのある車が停まっていると思いながら一馬はその建物の中に入っていった。
そして二階にある沙夜の部屋のチャイムを鳴らす。
「はい。」
ドアを開けると、そこには沙夜の姿があった。一馬の姿に少し沙夜は笑いながら家の中に入れる。するとそこには治の姿があった。
「よう。」
「来ていたのか。」
「車が必要だと思ったからな。俺もこれから少し離れたスタジオへ行こうと思ってたし。ついでで。」
「助かるわ。なんだかんだで沢山必要なモノがあるし。」
トイレットペーパーもタオルも無い。なのでホームセンターにでも行こうと思っていたのだろう。
「まだ行っていなかったのか。」
「純が来るらしいんだよ。翔の家に行って冬物を持ってくるって言ってたから。」
「あぁ。確かにな。」
向こうの国へ行っていたときにはあまり感じなかったが、やはり冬が来ている。スーツだけでは寒かっただろうと一馬は思っていた。
「しかし結構充実しているな。家具家電付きと言っていたが。」
キッチンの棚を開けると食器まで入っている。おそらく100円で買えるような安い食器に見えるが、一人で暮らす分には気にならないだろう。
冷えた部屋ではエアコンが付けられていて暖かい。暖房器具はこれくらいしか無いのだろう。
「でも一時的なモノだろう?ホテルなんかでも良かったんじゃ無い?」
治はそう言うと、沙夜は首を横に振った。
「ホテルだと料理が出来ないでしょう?」
「まぁ。そうだよな。」
料理は沙夜の唯一の息抜きなのだ。それを奪われるのはさすがに耐えきれなかったのだろうか。
「翔にはこの場所は言っているのか。」
一馬は棚を閉めて沙夜にそう聞くと、沙夜は首を横に振った。
「だから純に荷物を取りに行かせたんだろう。」
「なるほどな。」
翔に伝わったら芹に話がいくだろう。それなら離れて暮らしている意味が無い。
「しかしなんでこの街なんだ。会社に近い所とかの方が良いんじゃ無い?」
治はそう言うと沙夜は首を横に振った。
「会社に近いと望月さんが来ることも考えられるし。」
「あぁ。そうか。」
だがこの街に決めたのは奏太がいるからとかという理由では無い。一馬のスタジオが近いからだ。だがそれを治には言えない。
「それにこの街って少し面白いわ。古いモノもあるけれど、新しい店も結構あるのよ。中古のレコード屋さんなんかもあるんだから。」
「へぇ。あとで俺も行きたいけど、俺、夕方には今日は帰らないといけなくて。」
「帰ってきたばかりだものね。」
沙夜はそう言うと治は頷いた。
「少しあってないだけで子供ってのは大きくなるんだよな。ずっと離れていたし、娘と一緒に居たくてさ。」
「そうね。」
それに少し奥さんを休ませてやりたいと思う。帰ってきたら疲れた顔をしていたからだ。子供が二人居なかっただけでも良かったのかもしれないが、その分娘の世話はずっとしていたのだろう。妹だってそこまで付いていられないのだ。だとしたらやはり治が手を差し伸べるべきで、少し休ませてやりたい。
育児書なんかは全然役に立たないというのは、もう治でも気が付いていることだ。むしろ男の子と女の子で全く性質が違うのだろう。今度のこともはどんな感じだろうとウキウキした気持ちにもなる。
「女の子というのはやはり良いモノか。」
一馬はそう聞くと、治は頷いた。
「男の子とは全く違うな。泣き方も控えめだし。」
その言葉を聞いて一馬は少し複雑な気分になる。妻との間に子供が欲しかったのだが、やはりその希望は持てない。
「一馬。奥さんどうだった?」
治はそう聞くと、一馬はため息を付いて言う。
「引っ越しをしていてな。」
「あぁ。そう言っていたか。」
「……洋菓子店がある駅の近くでな。すぐ側にオーナーの住んでいるマンションがあった。」
あの街は洋菓子店を過ぎ、奥へ行くと工場なんかが建ち並んでいる。つまりマンションやアパートもそうだが一戸建ても多い。住宅街なのだ。
「オーナーの?」
「従業員が住んでいるのも近い。それに……真二郎もその近くに引っ越したらしくてな。」
その言葉に治と沙夜は思わず顔を見合わせた。確かにそちらの方が家を空けがちな一馬にとっても、響子にとっても良いに決まっている。何かしらのことがあったときにみんなが駆けつけられるからだ。
だがその分一馬は複雑だろう。必要とされているのかとずっと悩んでいたのだから。その結果が沙夜とこんな関係になったのだ。きっと一馬はここへ来ることも多くなるかもしれない。
「一馬さ。それで良いのか。」
「あいつが望んでいるなら仕方ないだろう。大体俺は家を選ぶときも引っ越しも手伝えなかったわけだし。」
「けど仕事があったし、ここの国すら居なかったんだからさ。俺だって子供を産むまで妻の側に居なかったんだからこのざまなんだし。」
「そういえば、治の所は大丈夫なのか。」
「俺の所なぁ……。」
しばらくこの国に二人の子供は居なかった。治も居なかったので心配していたが、沢村功太郎弁護士の腕で接近禁止令が向こうの家に出たらしい。自分の息子の子供なのに会えないなどと文句を言っていたようだが、沢村はそれに対しても高柳の家に文書を送ったという。
もしこの接近禁止令を破ることがあれば、高柳玲二がした過去の犯罪を訴えることが出来る。本人はもう亡くなっているようだが玲二に泣かされている女性は数多くいて、丁寧にもレイプされている映像が売り買いされているのだ。それが証拠になり、その女性が訴えれば高柳の家に請求することが可能なのだと。
金だけであれば資産家の家なのだ。何としてでも示談は出来ると思う。だがそんな息子が居たというのは世間に公表されるだろう。そうなった時いくら資産家であっても、人の口に蓋をすることは出来ない。
ずっと後ろ指を指される存在になるのだ。それを覚悟して息子達に近づけば良いと少し脅すようなことを言ったらしい。すると文句は言っていたが、それ以上は何も言えなかった。高柳の家は、それからどうなったのかわからない。
「息子達はどうしてる?」
「今日一日は休んでるよ。時差ぼけがあるみたいでさ。」
「今回は治は時差ぼけは無かったな。」
「アイマスクが良かったみたいだ。沙夜さん。ありがとう。」
「いいえ。前もそうだったし、必要だろうなと思っただけだから。」
子供達にはそれが理解出来なかっただろう。飛行機の中でもほとんど眠っていなかったのだから。
その時玄関のチャイムが鳴り、沙夜は玄関の方へ向かう。するとその間、一馬はその部屋を見渡していた。ずっとここに居るわけでは無いだろうが、壁は薄そうだ。やはりここではセックスは出来ないだろう。するならスタジオだ。スタジオであればいくら声を上げようと、誰も何も気にしないのだから。
「一馬さ。家に居づらいんじゃ無いのか。」
治の言葉に一馬は複雑そうに頷いた。確かにそうだと思っていたから。
「けど離婚するまでは夫婦なんだよ。大体、洋菓子店の奴らが居るのは承知で結婚したんだろう。真二郎さんだってそうだけど。」
「まぁ。そうだが……。」
「それを承知で結婚したんだったら、文句は言えないんじゃ無いのか。」
治だって高柳玲二の影があるとわかっていても奥さんと結婚したのだ。もっとも奥さんには玲二の方を全く見ていなかったが。
だが響子だって、真二郎の方を全く見ていない。それは同じ条件かも知れないが、海斗が真二郎にあれだけ懐いているというのは事情が違う。
水川有佐が一馬のことを種馬だと言っていた。それが一馬にとって少しずつ重くのしかかっているような気がする。そしてその逃げ道として沙夜が居るような気がしてまた自己嫌悪に陥りそうだった。
そこまで離れているわけでは無いが居酒屋の裏にあり、近くにはスーパーもあるが沙夜が好きそうな商店街もそこにはあった。昔ながらの町並みは、少し芹の地元を思い出すだろうか。そう思いながらその建物の前に立つ。少し離れた所に駐車場があるようで、その駐車場をみたとき見覚えのある車が停まっていると思いながら一馬はその建物の中に入っていった。
そして二階にある沙夜の部屋のチャイムを鳴らす。
「はい。」
ドアを開けると、そこには沙夜の姿があった。一馬の姿に少し沙夜は笑いながら家の中に入れる。するとそこには治の姿があった。
「よう。」
「来ていたのか。」
「車が必要だと思ったからな。俺もこれから少し離れたスタジオへ行こうと思ってたし。ついでで。」
「助かるわ。なんだかんだで沢山必要なモノがあるし。」
トイレットペーパーもタオルも無い。なのでホームセンターにでも行こうと思っていたのだろう。
「まだ行っていなかったのか。」
「純が来るらしいんだよ。翔の家に行って冬物を持ってくるって言ってたから。」
「あぁ。確かにな。」
向こうの国へ行っていたときにはあまり感じなかったが、やはり冬が来ている。スーツだけでは寒かっただろうと一馬は思っていた。
「しかし結構充実しているな。家具家電付きと言っていたが。」
キッチンの棚を開けると食器まで入っている。おそらく100円で買えるような安い食器に見えるが、一人で暮らす分には気にならないだろう。
冷えた部屋ではエアコンが付けられていて暖かい。暖房器具はこれくらいしか無いのだろう。
「でも一時的なモノだろう?ホテルなんかでも良かったんじゃ無い?」
治はそう言うと、沙夜は首を横に振った。
「ホテルだと料理が出来ないでしょう?」
「まぁ。そうだよな。」
料理は沙夜の唯一の息抜きなのだ。それを奪われるのはさすがに耐えきれなかったのだろうか。
「翔にはこの場所は言っているのか。」
一馬は棚を閉めて沙夜にそう聞くと、沙夜は首を横に振った。
「だから純に荷物を取りに行かせたんだろう。」
「なるほどな。」
翔に伝わったら芹に話がいくだろう。それなら離れて暮らしている意味が無い。
「しかしなんでこの街なんだ。会社に近い所とかの方が良いんじゃ無い?」
治はそう言うと沙夜は首を横に振った。
「会社に近いと望月さんが来ることも考えられるし。」
「あぁ。そうか。」
だがこの街に決めたのは奏太がいるからとかという理由では無い。一馬のスタジオが近いからだ。だがそれを治には言えない。
「それにこの街って少し面白いわ。古いモノもあるけれど、新しい店も結構あるのよ。中古のレコード屋さんなんかもあるんだから。」
「へぇ。あとで俺も行きたいけど、俺、夕方には今日は帰らないといけなくて。」
「帰ってきたばかりだものね。」
沙夜はそう言うと治は頷いた。
「少しあってないだけで子供ってのは大きくなるんだよな。ずっと離れていたし、娘と一緒に居たくてさ。」
「そうね。」
それに少し奥さんを休ませてやりたいと思う。帰ってきたら疲れた顔をしていたからだ。子供が二人居なかっただけでも良かったのかもしれないが、その分娘の世話はずっとしていたのだろう。妹だってそこまで付いていられないのだ。だとしたらやはり治が手を差し伸べるべきで、少し休ませてやりたい。
育児書なんかは全然役に立たないというのは、もう治でも気が付いていることだ。むしろ男の子と女の子で全く性質が違うのだろう。今度のこともはどんな感じだろうとウキウキした気持ちにもなる。
「女の子というのはやはり良いモノか。」
一馬はそう聞くと、治は頷いた。
「男の子とは全く違うな。泣き方も控えめだし。」
その言葉を聞いて一馬は少し複雑な気分になる。妻との間に子供が欲しかったのだが、やはりその希望は持てない。
「一馬。奥さんどうだった?」
治はそう聞くと、一馬はため息を付いて言う。
「引っ越しをしていてな。」
「あぁ。そう言っていたか。」
「……洋菓子店がある駅の近くでな。すぐ側にオーナーの住んでいるマンションがあった。」
あの街は洋菓子店を過ぎ、奥へ行くと工場なんかが建ち並んでいる。つまりマンションやアパートもそうだが一戸建ても多い。住宅街なのだ。
「オーナーの?」
「従業員が住んでいるのも近い。それに……真二郎もその近くに引っ越したらしくてな。」
その言葉に治と沙夜は思わず顔を見合わせた。確かにそちらの方が家を空けがちな一馬にとっても、響子にとっても良いに決まっている。何かしらのことがあったときにみんなが駆けつけられるからだ。
だがその分一馬は複雑だろう。必要とされているのかとずっと悩んでいたのだから。その結果が沙夜とこんな関係になったのだ。きっと一馬はここへ来ることも多くなるかもしれない。
「一馬さ。それで良いのか。」
「あいつが望んでいるなら仕方ないだろう。大体俺は家を選ぶときも引っ越しも手伝えなかったわけだし。」
「けど仕事があったし、ここの国すら居なかったんだからさ。俺だって子供を産むまで妻の側に居なかったんだからこのざまなんだし。」
「そういえば、治の所は大丈夫なのか。」
「俺の所なぁ……。」
しばらくこの国に二人の子供は居なかった。治も居なかったので心配していたが、沢村功太郎弁護士の腕で接近禁止令が向こうの家に出たらしい。自分の息子の子供なのに会えないなどと文句を言っていたようだが、沢村はそれに対しても高柳の家に文書を送ったという。
もしこの接近禁止令を破ることがあれば、高柳玲二がした過去の犯罪を訴えることが出来る。本人はもう亡くなっているようだが玲二に泣かされている女性は数多くいて、丁寧にもレイプされている映像が売り買いされているのだ。それが証拠になり、その女性が訴えれば高柳の家に請求することが可能なのだと。
金だけであれば資産家の家なのだ。何としてでも示談は出来ると思う。だがそんな息子が居たというのは世間に公表されるだろう。そうなった時いくら資産家であっても、人の口に蓋をすることは出来ない。
ずっと後ろ指を指される存在になるのだ。それを覚悟して息子達に近づけば良いと少し脅すようなことを言ったらしい。すると文句は言っていたが、それ以上は何も言えなかった。高柳の家は、それからどうなったのかわからない。
「息子達はどうしてる?」
「今日一日は休んでるよ。時差ぼけがあるみたいでさ。」
「今回は治は時差ぼけは無かったな。」
「アイマスクが良かったみたいだ。沙夜さん。ありがとう。」
「いいえ。前もそうだったし、必要だろうなと思っただけだから。」
子供達にはそれが理解出来なかっただろう。飛行機の中でもほとんど眠っていなかったのだから。
その時玄関のチャイムが鳴り、沙夜は玄関の方へ向かう。するとその間、一馬はその部屋を見渡していた。ずっとここに居るわけでは無いだろうが、壁は薄そうだ。やはりここではセックスは出来ないだろう。するならスタジオだ。スタジオであればいくら声を上げようと、誰も何も気にしないのだから。
「一馬さ。家に居づらいんじゃ無いのか。」
治の言葉に一馬は複雑そうに頷いた。確かにそうだと思っていたから。
「けど離婚するまでは夫婦なんだよ。大体、洋菓子店の奴らが居るのは承知で結婚したんだろう。真二郎さんだってそうだけど。」
「まぁ。そうだが……。」
「それを承知で結婚したんだったら、文句は言えないんじゃ無いのか。」
治だって高柳玲二の影があるとわかっていても奥さんと結婚したのだ。もっとも奥さんには玲二の方を全く見ていなかったが。
だが響子だって、真二郎の方を全く見ていない。それは同じ条件かも知れないが、海斗が真二郎にあれだけ懐いているというのは事情が違う。
水川有佐が一馬のことを種馬だと言っていた。それが一馬にとって少しずつ重くのしかかっているような気がする。そしてその逃げ道として沙夜が居るような気がしてまた自己嫌悪に陥りそうだった。
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