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バーベキュー
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サロンへ食事を運び、二次会のような雰囲気になった。するとまだ残っている料理と共に、ソフィアはケーキを出してくれた。不器用に飾り付けられているのは、おそらくソフィアが作ったモノでは無い。見えづらい視力で必死に作ったのはライリーだという。ソフィアはサポートをしただけだった。
「あとで頂くわね。まだあまり食事が出来ていなくて。」
沙夜はライリーにそう言うと、ライリーは少し笑う。そして目が良くなったら、いすれ沙夜達の国へ留学をしたいと申し出てきた。ライリーも最初は「二藍」を初めとしたサブカルチャーからこの国のことが気になっていたのかも知れない。だが徐々にその国の文化も気になるようになってきたのだ。
「その時には、声をかけて欲しい。」
ここまで世話になったのだ。ライリーが来るのであれば同じように接したいと思っているのだろう。
「まだ飲んでいるのか。」
マイケルはお茶を飲みながら呆れたように沙夜に言う。すると沙夜は少し笑って言った。
「あまり食べれていなかったし。美味しいわね。お肉。普段は魚が好きなんだけど、大きく焼くとこんなに違うのね。家では無理だわ。」
「オーブンは無いのか。」
「無いこともないけれど……。」
ウィークリーマンションにしばらく身を隠すことになるだろう。そして芹には会えないかも知れないのだ。それが沙夜を暗くさせる。
「しばらくウィークリーマンションだと言っていたな。」
「えぇ。そこにオーブンがあるのかというとね。」
オーブンどころか料理をする機会が減るかも知れない。料理が息抜きだというのに、それが出来ないかもしれないとなると辛いモノがある。
「そうか。そういえば強制して料理をしているのでは無いと言っていたな。」
「えぇ。」
「……。」
一度くらいは沙夜の手料理を食べれば良かったと思う。だが沙夜との関係がこれで切れるわけでは無いのだ。自分が一時的に沙夜達の国へ行くこともあるかもしれないし、沙夜達がまたここへ来ることだって考えられるのだ。その時にご馳走になれば良い。
「沙夜。少し来てくれないか。」
遥人からそう言われて、沙夜はビールを片手に遥人の所へ向かう。子供達はケーキを食べていて、こちらにはあまり関心が無さそうに見えた。ソフィアがこれを食べたら二人とも風呂に入らせると言っていたのだ。外でバーベキューをするのは、体中が煙で燻されているような気がするのを気にしているのだろう。
「どうしたの?」
「リーが話をしたいことがあるって。」
その言葉にマイケルも少し驚いてリーを見る。するとリーは手に持っているパンフレットを沙夜に手渡した。そのイベントは沙夜も知っている。
有名な音楽フェスだった。三日間、街全体が音楽に包まれる。それもロックだけでは無く、クラシックやジャズ、ボサノバやレゲエまで様々な音楽が街のあちこちで演奏されるのだ。町を挙げての音楽フェスのようなモノだろう。
「この年のこのイベントって……。」
ぽつりと言ってマイケルもそのパンフレットをのぞき見た。まだリーがバンドを組んでいたときの年のモノで、リーは参加者だったのだ。そしてマイケルもその年のイベントはニュースなんかで知っている。
「確かステージが銃撃されたんだ。」
この国は銃を規制していない所もある。許可を得れば自己防衛という名目で銃を所持することが認められているのだ。持っていなければ自分の身が危ないと言うことなのだろう。
リーのバンドは銃撃されたバンドとは仲が良かったらしい。それだけにリーもショックだった。だがショックだったのはそのあとなのだ。
マスコミがリーのバンドを初め、出演したバンドのメンバーにつきまとうようになったのだ。犯人はステージ上で自殺をしたために詳しい話を聞けなかったし、どんな恨みがあるのかというのを聞きたかったのだろう。だがリー達にとってはこっちが聞きたいくらいだ。
「こっちのマスコミというのは今は大人しくなった方だ。昔はもっとひどくてな。プライベートまでずかずかと踏み込んでくるのが当たり前だった。それに文句を言うと、やましいことがあるから文句を言うのでは無いかとまた言われてな。」
「ろくでもないわね。」
「しかしそれが昔は普通だったんだ。」
もし沙夜がその時代に居たなら、すぐに身元を割り出されただろう。そして沙菜のことも表に出され、もっとひどいことを書かれていたかもしれない。
「中でも東洋人の男がしつこくて、リーでは無いがメンバーがその男を怪我させてしまってな。」
「東洋人?」
それに違和感を持った。そして向こうで食事をずっとしている一馬に視線を送る。すると一馬も気が付いてそこへやってきた。
「どうした。」
「ここでも東洋人のマスコミが迷惑をかけていたみたいなのよ。」
「東洋人か。まさか宮村じゃないのか。」
その名前にマイケルが通訳をしなくてもわかったようで、リーは頷いた。
「何?まさか一馬、宮村に目を付けられているのか。」
遥人は驚いたように一馬を見る。すると一馬は首を横に振った。
「そうじゃ無いが……。」
すると沙夜がばつが悪そうに言う。
「詳しくは部長が知ってると思うんだけど……。ごめんなさい。私にはその人が関係をしているから、家に帰らない方が良いと言うことくらいしかわからなくて。」
マイケルがいることを気にして詳しいことは言わないのだろう。すると遥人はため息を付いて言う。
「そいつ外国でやらかしたんだよな。それでこの国には入国出来ないはずだ。」
「え?」
「リーのバンドのメンバーが叩いたとか暴力だとか言っていたけれど、実際はそういう風に仕向けていたのは宮村ってヤツの方だった。つまりそこまでしてハードロックをしているヤツは乱暴だとか、柄が悪いとかって言うイメージを付けさせたかったみたいなんだよ。」
「だからといって入国禁止まではならないんじゃ無いのか。」
マイケルはそう言うと、遥人は首を振って言う。
「それだけじゃ無いんだ。家に不法侵入したり、証言を買収したりしていたみたいだからさ。」
「買収?」
その言葉に一馬もいぶかしげな顔をした。それは響子の事件の時とよく似たやり方だと思ったからだ。
「沙夜さん。そいつには関わらない方が良いよ。俺の両親も相当な目に遭ってるんだから。」
「お父さんが?」
「まぁ……父親は相当脅したからもう近づくことは無いと思うんだけどさ。どちらにしても良い評判がある人じゃ無いし。」
「……。」
「沙夜さんが目を付けられてるとしたら「夜」のことかな。」
それがリーにとっても一番やるせないことだった。そんな男に全てをさらけ出され、沙夜がまた姿を消すのを一番嫌がっているのだから。
「私ではないの……目を付けられているのは。その……妹が。」
「妹?」
マイケルが驚いたように沙夜に言う。妹が居たというのだろうか。
「私は双子なのよ。妹が居て……その……ポルノ女優なのよ。」
「ポルノ?」
驚いたようにマイケルは聞くと、リーは少し笑って言う。双子だとしたら、沙夜によく似ているだろう。そして沙夜は地味な格好をしているが誰が見ても良い体をしているのだ。もちろん、それだけではそういう女優にはなれないだろうが。
「妹とは同居しているモノだから……私が居ると知ったら宮村って人がついて回るんじゃ無いのかと思って。そうなると「二藍」にも迷惑がかかるわ。」
マイケルはその言葉にそこまでするモノなのだろうかと思っていた。だが沙夜には不透明な所が多い。そしてそれは「二藍」にも言えることだ。そういうモノを晒したいと思うのがマスコミなのだろう。
そしてそれだけでは無いと思っていたのが遥人だった。おそらくそれだけでは無いのだが、まだマイケルやリーの前で全てを言えないのだ。そう思って黙っていた。
「沙夜。」
リーは思わぬ提案をする。良かったら、沙夜だけでもこの国に留まらないかと言うことだった。マスコミというのは情報が新鮮な方へ向く傾向がある。なのでしばらく国からも距離を取れば、飽きてくれるのでは無いかと思っているのだ。他のメンツには仕事があるだろう。だが沙夜は今でもそうだが、この国にいても仕事が出来ないことは無いのだ。
その申し出に沙夜は首を横に振る。
「良いの。ありがとう。リー。気を遣ってくれて。でも……こういうことも慣れて乗り越えないと担当なんかなれないわ。」
その言葉にリーは笑う。沙夜らしいと思ったからだ。
「あとで頂くわね。まだあまり食事が出来ていなくて。」
沙夜はライリーにそう言うと、ライリーは少し笑う。そして目が良くなったら、いすれ沙夜達の国へ留学をしたいと申し出てきた。ライリーも最初は「二藍」を初めとしたサブカルチャーからこの国のことが気になっていたのかも知れない。だが徐々にその国の文化も気になるようになってきたのだ。
「その時には、声をかけて欲しい。」
ここまで世話になったのだ。ライリーが来るのであれば同じように接したいと思っているのだろう。
「まだ飲んでいるのか。」
マイケルはお茶を飲みながら呆れたように沙夜に言う。すると沙夜は少し笑って言った。
「あまり食べれていなかったし。美味しいわね。お肉。普段は魚が好きなんだけど、大きく焼くとこんなに違うのね。家では無理だわ。」
「オーブンは無いのか。」
「無いこともないけれど……。」
ウィークリーマンションにしばらく身を隠すことになるだろう。そして芹には会えないかも知れないのだ。それが沙夜を暗くさせる。
「しばらくウィークリーマンションだと言っていたな。」
「えぇ。そこにオーブンがあるのかというとね。」
オーブンどころか料理をする機会が減るかも知れない。料理が息抜きだというのに、それが出来ないかもしれないとなると辛いモノがある。
「そうか。そういえば強制して料理をしているのでは無いと言っていたな。」
「えぇ。」
「……。」
一度くらいは沙夜の手料理を食べれば良かったと思う。だが沙夜との関係がこれで切れるわけでは無いのだ。自分が一時的に沙夜達の国へ行くこともあるかもしれないし、沙夜達がまたここへ来ることだって考えられるのだ。その時にご馳走になれば良い。
「沙夜。少し来てくれないか。」
遥人からそう言われて、沙夜はビールを片手に遥人の所へ向かう。子供達はケーキを食べていて、こちらにはあまり関心が無さそうに見えた。ソフィアがこれを食べたら二人とも風呂に入らせると言っていたのだ。外でバーベキューをするのは、体中が煙で燻されているような気がするのを気にしているのだろう。
「どうしたの?」
「リーが話をしたいことがあるって。」
その言葉にマイケルも少し驚いてリーを見る。するとリーは手に持っているパンフレットを沙夜に手渡した。そのイベントは沙夜も知っている。
有名な音楽フェスだった。三日間、街全体が音楽に包まれる。それもロックだけでは無く、クラシックやジャズ、ボサノバやレゲエまで様々な音楽が街のあちこちで演奏されるのだ。町を挙げての音楽フェスのようなモノだろう。
「この年のこのイベントって……。」
ぽつりと言ってマイケルもそのパンフレットをのぞき見た。まだリーがバンドを組んでいたときの年のモノで、リーは参加者だったのだ。そしてマイケルもその年のイベントはニュースなんかで知っている。
「確かステージが銃撃されたんだ。」
この国は銃を規制していない所もある。許可を得れば自己防衛という名目で銃を所持することが認められているのだ。持っていなければ自分の身が危ないと言うことなのだろう。
リーのバンドは銃撃されたバンドとは仲が良かったらしい。それだけにリーもショックだった。だがショックだったのはそのあとなのだ。
マスコミがリーのバンドを初め、出演したバンドのメンバーにつきまとうようになったのだ。犯人はステージ上で自殺をしたために詳しい話を聞けなかったし、どんな恨みがあるのかというのを聞きたかったのだろう。だがリー達にとってはこっちが聞きたいくらいだ。
「こっちのマスコミというのは今は大人しくなった方だ。昔はもっとひどくてな。プライベートまでずかずかと踏み込んでくるのが当たり前だった。それに文句を言うと、やましいことがあるから文句を言うのでは無いかとまた言われてな。」
「ろくでもないわね。」
「しかしそれが昔は普通だったんだ。」
もし沙夜がその時代に居たなら、すぐに身元を割り出されただろう。そして沙菜のことも表に出され、もっとひどいことを書かれていたかもしれない。
「中でも東洋人の男がしつこくて、リーでは無いがメンバーがその男を怪我させてしまってな。」
「東洋人?」
それに違和感を持った。そして向こうで食事をずっとしている一馬に視線を送る。すると一馬も気が付いてそこへやってきた。
「どうした。」
「ここでも東洋人のマスコミが迷惑をかけていたみたいなのよ。」
「東洋人か。まさか宮村じゃないのか。」
その名前にマイケルが通訳をしなくてもわかったようで、リーは頷いた。
「何?まさか一馬、宮村に目を付けられているのか。」
遥人は驚いたように一馬を見る。すると一馬は首を横に振った。
「そうじゃ無いが……。」
すると沙夜がばつが悪そうに言う。
「詳しくは部長が知ってると思うんだけど……。ごめんなさい。私にはその人が関係をしているから、家に帰らない方が良いと言うことくらいしかわからなくて。」
マイケルがいることを気にして詳しいことは言わないのだろう。すると遥人はため息を付いて言う。
「そいつ外国でやらかしたんだよな。それでこの国には入国出来ないはずだ。」
「え?」
「リーのバンドのメンバーが叩いたとか暴力だとか言っていたけれど、実際はそういう風に仕向けていたのは宮村ってヤツの方だった。つまりそこまでしてハードロックをしているヤツは乱暴だとか、柄が悪いとかって言うイメージを付けさせたかったみたいなんだよ。」
「だからといって入国禁止まではならないんじゃ無いのか。」
マイケルはそう言うと、遥人は首を振って言う。
「それだけじゃ無いんだ。家に不法侵入したり、証言を買収したりしていたみたいだからさ。」
「買収?」
その言葉に一馬もいぶかしげな顔をした。それは響子の事件の時とよく似たやり方だと思ったからだ。
「沙夜さん。そいつには関わらない方が良いよ。俺の両親も相当な目に遭ってるんだから。」
「お父さんが?」
「まぁ……父親は相当脅したからもう近づくことは無いと思うんだけどさ。どちらにしても良い評判がある人じゃ無いし。」
「……。」
「沙夜さんが目を付けられてるとしたら「夜」のことかな。」
それがリーにとっても一番やるせないことだった。そんな男に全てをさらけ出され、沙夜がまた姿を消すのを一番嫌がっているのだから。
「私ではないの……目を付けられているのは。その……妹が。」
「妹?」
マイケルが驚いたように沙夜に言う。妹が居たというのだろうか。
「私は双子なのよ。妹が居て……その……ポルノ女優なのよ。」
「ポルノ?」
驚いたようにマイケルは聞くと、リーは少し笑って言う。双子だとしたら、沙夜によく似ているだろう。そして沙夜は地味な格好をしているが誰が見ても良い体をしているのだ。もちろん、それだけではそういう女優にはなれないだろうが。
「妹とは同居しているモノだから……私が居ると知ったら宮村って人がついて回るんじゃ無いのかと思って。そうなると「二藍」にも迷惑がかかるわ。」
マイケルはその言葉にそこまでするモノなのだろうかと思っていた。だが沙夜には不透明な所が多い。そしてそれは「二藍」にも言えることだ。そういうモノを晒したいと思うのがマスコミなのだろう。
そしてそれだけでは無いと思っていたのが遥人だった。おそらくそれだけでは無いのだが、まだマイケルやリーの前で全てを言えないのだ。そう思って黙っていた。
「沙夜。」
リーは思わぬ提案をする。良かったら、沙夜だけでもこの国に留まらないかと言うことだった。マスコミというのは情報が新鮮な方へ向く傾向がある。なのでしばらく国からも距離を取れば、飽きてくれるのでは無いかと思っているのだ。他のメンツには仕事があるだろう。だが沙夜は今でもそうだが、この国にいても仕事が出来ないことは無いのだ。
その申し出に沙夜は首を横に振る。
「良いの。ありがとう。リー。気を遣ってくれて。でも……こういうことも慣れて乗り越えないと担当なんかなれないわ。」
その言葉にリーは笑う。沙夜らしいと思ったからだ。
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