523 / 665
ドーナツ
522
しおりを挟む
スタジオへ戻ってきた二人はどことなくすっきりとした顔をしていた。画像を送った人がわかったのだろう。ソフィアのところは一人のスタッフが去り、新しいデザイナーを急遽探すことになったらしい。そういうつてはソフィアくらいのつてがあれば難しくないかもしれないのだ。
だが「二藍」にとっては肝心なところはわからないことだらけなのだ。
リーとマイケルも交えて、録音ブースでそれを沙夜達は伝えた。リーはソフィアからその話を聞いていたのだろうが、マイケルにとっては寝耳に水の話だったのかもしれない。
「まさか……あの人がな。」
マイケルはそう言ってため息を付くと、治がマイケルに言う。
「マイケルはあまりそういう経験が無いのか。」
「無いこともないが……。あの人は父親の店にも子供を連れてやってきたりして、常連だったんだ。」
「まぁ、まさかあの人がって言うのは、どの仕事でもあることなんだよ。若いからそういう事はあまりなかったかもしれないけど。」
一馬や沙夜だけでは無い。それぞれが裏切られたり、傷つけられて人間不信になってきていたのだ。だから「二藍」のメンバー同士だけでも裏切られたくないと思っていたし、その中には沙夜もいる。だから六人には絶対的な信頼があったのだ。
「リーもあるだろう?」
するとリーはその言葉を聞いて頷いた。若いバンドにこんな話をするかというと少し戸惑うところがあるが、一週間ほど過ごしてリーもまたこの六人に可愛がるような要素があったのだ。
「リーがバンドを組んでいたときというのは、もっとひどかった時代だろう?」
遥人はそう聞くとリーは頷いた。
「酷かった?」
「うちの父親に言わせると今はダブ屋とかいないし、ライブをするのも変なヤツがいたりしないだろう?」
「あぁ……ヤクザとか?」
「父親がまだ若かった頃は、ヤクザにみかじめ料を払わないと興行させてくれなかったりしたみたいだ。その分、他の組のヤツなんかが因縁を付けてきたらすぐに追い払ってくれたりしてたみたいだけど。」
「へぇ……。そういうの映画の中だけだと思ってたな。」
おそらくこちらの国でも似たようなモノだっただろう。それに露骨だったに違いない。
「こっちの方が酷そうだけどな。銃を持ってくる奴とかいそうだし。」
治が言うとマイケルが驚いたように五人に言う。
「お前ら……知らないのか。」
「え?」
英訳してないからリーには伝わっていない。安心しテリーは胸をなで下ろす。
「リーの前でそれを言うな。」
すると純は思いだしたように治に言う。
「治。リーの前で銃の話は駄目だ。」
「え?何……。」
するとリーがその空気を読んだのだろう。そしてマイケルに気を遣わせてしまったと、ため息を付く。そして立ち上がると一枚のパンフレットを棚から取り出して六人に見せる。
「リー。良いのか?」
マイケルの言葉にリーは頭を掻いて頷いた。この六人には知って欲しい。音楽だけをしていたからこの地位があるのでは無く、音楽と共に常にマスコミとの戦いもあったのだから。
「……このイベントってこの年で最後だったわね。」
沙夜はそう言うと、一馬も頷いた。
「俺はニュースでしか知らなかったが、大きな騒ぎだったようだな。」
すると純が頷いた。
「俺、テレビで見たよ。衛星中継してたんだ。このライブ。」
「衛星中継?」
「バイトとバンドの練習の合間でたまたま見た電気屋のテレビで写ってた。でもすぐにみんなが足を止めたし、中継が止まったんだ。」
まるで映画のワンシーンのように思えた。だがそれは現実だったと、思い知らされる。次の日には詳細が伝えられたからだ。
ステージに人が乗り込んでくることは、小さなライブハウスでは良くあることだと思う。だがこの大規模なフェスで客が上がり込んでくると思ってなかった。
そして上がり込んできた男は、銃を乱射しステージにいたメンバーを一人一人射殺していったのだ。
客はパニックになり、その場から逃げようとする人で多くなった。リーはその次の出番だったので、その様子を誰よりも間近で見ていた。
「そんな事があったのか。」
一馬はそう聞くと、純は頷いた。
「俺はたまたま足を止めただけだけど、でもあれって結構大きな事件みたいにどこも報道していたような気がしたけどな。一馬は何で知らなかったんだ。」
すると一馬は少し考えていたようだが、思い出せない。ただ、あの時期には路上でジャズバンドのライブをしていたのだが、警察が一時的に厳しくなっていたのを覚えている。今考えると海外のフェスだが同じようなことが起こって欲しくないと思っていたのだろうか。
「次の日からリー達のバンドはマスコミから追いかけられてな。というのも……犯人は殺したバンドのメンバーが狙いでは無かったから。」
つまり人間違いで銃を乱射したのだ。本当だったら死んだのはリー達だったからかもしれない。だがリー達はその犯人に見覚えが無かった。なので何も応えられなかったのだ。
しかしそれを面白くないと想っている人がいる。それはマスコミだった。
「マスコミ……。」
本人達だけでは無く周りの人にも話を聞き、ちょっとした言葉尻を捕まえては話を膨らませる。だから「二藍」には本当にマスコミなんかには気をつけて欲しいと思っているのだ。
なのでソフィアが頼んで撮ってもらったであろう画像が、外に出ることをリーは本当に恐れている。特に今は画像の加工は本当に進んでいて根も葉もないことをでっち上げられる可能性があるのだ。
「その辺はうちの上司が何とかしてくれると言っていましたし……。」
それでもリーは首を横に振る。信用はしてはいけないと思っているのだろう。
「リーは本当に痛い目に遭ったんだな。」
遥人はそう言うと、リーは頷いた。そしてマイケルが言葉を発する。
「リーのバンドのメンバーはそれで再起不能になったんだ。」
「え?」
「真面目な男だったのに、あること無いことを書かれて精神を病んだんだ。その果てに自殺をした。」
「……。」
「あんたらもそうならないとは限らない。だからリーは気をつけろとといっていたんだ。」
この中で一番不安定なのは沙夜かもしれない。そう思うと一馬はやはり守ってやりたいと思っていた。
「こっちの国でもゴシップ誌ってあるけどさ。あまり書くと名誉毀損とかで訴えられないのかな。」
遥人はそう聞くと沙夜は首を横に振った。
「訴えられない事は無いと思うの。でも……例えばだけどウェディングドレスの姿が流出したとき、それがモデルとして仕方なく着ただけという証拠は無いわ。そういう契約をしていれば良かったんだけど。」
「なるほどね。書類がものを言うって事だ。」
遥人もそうしていた。だから遥人のゴシップ記事というのはほとんど無い。写真を一つ載せるのにも、事務所の許可が必要なのだから。
「確かに部長が言うと入っていたけれど……どこまでしてくれるかはわからないわね。あぁ……やっぱり少し軽率だったかしら。」
沙夜はそう言うが、後悔を全てしているわけでは無かった。一馬とこんな格好をするのが嬉しく思っていたから。だがそれもまた後悔しそうになってしまう。こんなことが芹の耳に届けば、芹だって良い気分はしないだろうから。そして響子だって良い気分はしないだろう。
「あのさリー……。」
遥人が直接リーに話をする。その内容は四人にはわからない。だがマイケルはその内容がわかったかのように驚いて二人を見ていた。
「遥人。何でその名前を知っている。」
しかし遥人はマイケルの声に首を横に振った。そしてやはりそうだったのかと拳を握る。
「何の名前だ。」
一馬がそう言うと、遥人は一馬に聞いた。
「一馬さ。ここに来る前、一件仕事をして来たって言ってたじゃん。」
「あぁ。佐久間さんの所か。」
「佐久間さんは何か言ってなかったか。」
「別に……。あ、いや。佐久間さん自体からは言われなかったが、その……マネージャーからリーのところへ来るんだったら、沙夜は気をつけた方が良いとか。」
その言葉に遥人はやはりかとため息を付いた。
それもまた遥人が昔から嫌がっていた男の策略だと思ったから。
だが「二藍」にとっては肝心なところはわからないことだらけなのだ。
リーとマイケルも交えて、録音ブースでそれを沙夜達は伝えた。リーはソフィアからその話を聞いていたのだろうが、マイケルにとっては寝耳に水の話だったのかもしれない。
「まさか……あの人がな。」
マイケルはそう言ってため息を付くと、治がマイケルに言う。
「マイケルはあまりそういう経験が無いのか。」
「無いこともないが……。あの人は父親の店にも子供を連れてやってきたりして、常連だったんだ。」
「まぁ、まさかあの人がって言うのは、どの仕事でもあることなんだよ。若いからそういう事はあまりなかったかもしれないけど。」
一馬や沙夜だけでは無い。それぞれが裏切られたり、傷つけられて人間不信になってきていたのだ。だから「二藍」のメンバー同士だけでも裏切られたくないと思っていたし、その中には沙夜もいる。だから六人には絶対的な信頼があったのだ。
「リーもあるだろう?」
するとリーはその言葉を聞いて頷いた。若いバンドにこんな話をするかというと少し戸惑うところがあるが、一週間ほど過ごしてリーもまたこの六人に可愛がるような要素があったのだ。
「リーがバンドを組んでいたときというのは、もっとひどかった時代だろう?」
遥人はそう聞くとリーは頷いた。
「酷かった?」
「うちの父親に言わせると今はダブ屋とかいないし、ライブをするのも変なヤツがいたりしないだろう?」
「あぁ……ヤクザとか?」
「父親がまだ若かった頃は、ヤクザにみかじめ料を払わないと興行させてくれなかったりしたみたいだ。その分、他の組のヤツなんかが因縁を付けてきたらすぐに追い払ってくれたりしてたみたいだけど。」
「へぇ……。そういうの映画の中だけだと思ってたな。」
おそらくこちらの国でも似たようなモノだっただろう。それに露骨だったに違いない。
「こっちの方が酷そうだけどな。銃を持ってくる奴とかいそうだし。」
治が言うとマイケルが驚いたように五人に言う。
「お前ら……知らないのか。」
「え?」
英訳してないからリーには伝わっていない。安心しテリーは胸をなで下ろす。
「リーの前でそれを言うな。」
すると純は思いだしたように治に言う。
「治。リーの前で銃の話は駄目だ。」
「え?何……。」
するとリーがその空気を読んだのだろう。そしてマイケルに気を遣わせてしまったと、ため息を付く。そして立ち上がると一枚のパンフレットを棚から取り出して六人に見せる。
「リー。良いのか?」
マイケルの言葉にリーは頭を掻いて頷いた。この六人には知って欲しい。音楽だけをしていたからこの地位があるのでは無く、音楽と共に常にマスコミとの戦いもあったのだから。
「……このイベントってこの年で最後だったわね。」
沙夜はそう言うと、一馬も頷いた。
「俺はニュースでしか知らなかったが、大きな騒ぎだったようだな。」
すると純が頷いた。
「俺、テレビで見たよ。衛星中継してたんだ。このライブ。」
「衛星中継?」
「バイトとバンドの練習の合間でたまたま見た電気屋のテレビで写ってた。でもすぐにみんなが足を止めたし、中継が止まったんだ。」
まるで映画のワンシーンのように思えた。だがそれは現実だったと、思い知らされる。次の日には詳細が伝えられたからだ。
ステージに人が乗り込んでくることは、小さなライブハウスでは良くあることだと思う。だがこの大規模なフェスで客が上がり込んでくると思ってなかった。
そして上がり込んできた男は、銃を乱射しステージにいたメンバーを一人一人射殺していったのだ。
客はパニックになり、その場から逃げようとする人で多くなった。リーはその次の出番だったので、その様子を誰よりも間近で見ていた。
「そんな事があったのか。」
一馬はそう聞くと、純は頷いた。
「俺はたまたま足を止めただけだけど、でもあれって結構大きな事件みたいにどこも報道していたような気がしたけどな。一馬は何で知らなかったんだ。」
すると一馬は少し考えていたようだが、思い出せない。ただ、あの時期には路上でジャズバンドのライブをしていたのだが、警察が一時的に厳しくなっていたのを覚えている。今考えると海外のフェスだが同じようなことが起こって欲しくないと思っていたのだろうか。
「次の日からリー達のバンドはマスコミから追いかけられてな。というのも……犯人は殺したバンドのメンバーが狙いでは無かったから。」
つまり人間違いで銃を乱射したのだ。本当だったら死んだのはリー達だったからかもしれない。だがリー達はその犯人に見覚えが無かった。なので何も応えられなかったのだ。
しかしそれを面白くないと想っている人がいる。それはマスコミだった。
「マスコミ……。」
本人達だけでは無く周りの人にも話を聞き、ちょっとした言葉尻を捕まえては話を膨らませる。だから「二藍」には本当にマスコミなんかには気をつけて欲しいと思っているのだ。
なのでソフィアが頼んで撮ってもらったであろう画像が、外に出ることをリーは本当に恐れている。特に今は画像の加工は本当に進んでいて根も葉もないことをでっち上げられる可能性があるのだ。
「その辺はうちの上司が何とかしてくれると言っていましたし……。」
それでもリーは首を横に振る。信用はしてはいけないと思っているのだろう。
「リーは本当に痛い目に遭ったんだな。」
遥人はそう言うと、リーは頷いた。そしてマイケルが言葉を発する。
「リーのバンドのメンバーはそれで再起不能になったんだ。」
「え?」
「真面目な男だったのに、あること無いことを書かれて精神を病んだんだ。その果てに自殺をした。」
「……。」
「あんたらもそうならないとは限らない。だからリーは気をつけろとといっていたんだ。」
この中で一番不安定なのは沙夜かもしれない。そう思うと一馬はやはり守ってやりたいと思っていた。
「こっちの国でもゴシップ誌ってあるけどさ。あまり書くと名誉毀損とかで訴えられないのかな。」
遥人はそう聞くと沙夜は首を横に振った。
「訴えられない事は無いと思うの。でも……例えばだけどウェディングドレスの姿が流出したとき、それがモデルとして仕方なく着ただけという証拠は無いわ。そういう契約をしていれば良かったんだけど。」
「なるほどね。書類がものを言うって事だ。」
遥人もそうしていた。だから遥人のゴシップ記事というのはほとんど無い。写真を一つ載せるのにも、事務所の許可が必要なのだから。
「確かに部長が言うと入っていたけれど……どこまでしてくれるかはわからないわね。あぁ……やっぱり少し軽率だったかしら。」
沙夜はそう言うが、後悔を全てしているわけでは無かった。一馬とこんな格好をするのが嬉しく思っていたから。だがそれもまた後悔しそうになってしまう。こんなことが芹の耳に届けば、芹だって良い気分はしないだろうから。そして響子だって良い気分はしないだろう。
「あのさリー……。」
遥人が直接リーに話をする。その内容は四人にはわからない。だがマイケルはその内容がわかったかのように驚いて二人を見ていた。
「遥人。何でその名前を知っている。」
しかし遥人はマイケルの声に首を横に振った。そしてやはりそうだったのかと拳を握る。
「何の名前だ。」
一馬がそう言うと、遥人は一馬に聞いた。
「一馬さ。ここに来る前、一件仕事をして来たって言ってたじゃん。」
「あぁ。佐久間さんの所か。」
「佐久間さんは何か言ってなかったか。」
「別に……。あ、いや。佐久間さん自体からは言われなかったが、その……マネージャーからリーのところへ来るんだったら、沙夜は気をつけた方が良いとか。」
その言葉に遥人はやはりかとため息を付いた。
それもまた遥人が昔から嫌がっていた男の策略だと思ったから。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる